(完)婚約破棄ですか? なぜ関係のない貴女がそれを言うのですか? それからそこの貴方は私の婚約者ではありません。

青空一夏

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4 ルーカスside

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ルーカス視点

「おい、そこのお前! 早くここから出せよ! 俺を誰だと思っているんだよ! ルーカス・バラノ侯爵家の息子だぞ。不敬にも程がある」
ここは白一色の病室の中、しかも特別室で監視の警備員が3人もついていた。

「こいつは絶対外に出してはならない。大商人リッチモンド家がすべてお金を払うと言っている。体の隅々まで検査をして悪いところがないか徹底的に調べる必要がある」
病院長らしき者が嬉しそうに警備員に命令していた。

(これじゃぁ、どこも悪いところがないのに病人に仕立て上げられてしまう!)

「おい、そこの偉そうな者! ここの病院長ならばすぐにバラノ侯爵家に連絡しろよ。俺がいなくなってきっと屋敷では大騒ぎしているはずだ」

「なんとまぁ。バラノ侯爵家の息子だと思い込んでいるのか……これは重傷だな。確かあそこは人情家の質実剛健なアシュリー・バラノ侯爵閣下が当主様だ。あの方は独身で息子がいるはずもない。騎士団長様で女っ気もない真面目な方だから隠し子というわけでもあるまい。いったいなにを間違ってそう思い込んだものかな。気の毒に・・・・・・」

「ちっ! 俺はアシュリー・バラノの息子なんかじゃないぞ。正当な跡継ぎだったアシュリー・バラノの兄の子供だ。俺の父上が継ぐはずだった爵位を叔父が汚い手で奪ったんだ。俺が正当な跡継ぎで次期侯爵だってばっ! 叔父は俺が成人するまでの繋ぎに過ぎない!」
俺はこの愚かな病院長にもわかるように事の経緯を詳細に話し始めようとしたが、そいつはそれを遮ってこんなことを言い出した。

「あぁーー、そう言えばアシュリー・バラノ侯爵閣下に兄がいたことは昔聞いたことがありますよ。ははぁーーん、なるほどねぇ。はい、はい。わかりました、わかりました。とても兄上で有名だったような気がしますからねぇ。やはり遺伝子の力は恐ろしい・・・・・・」
馬鹿にしたような笑みを貼り付けて俺にそう言ってきた病院長、こいつの顔つきはいつもこんな顔なのだろうか・・・・・・

「やっとわかってくれたか。そうなのだ。父上は立派であったから俺もこのように有能で利発に育ったというわけだ。ところでお前のその顔つきは人を小馬鹿にしたようで良くない。その目つきには気をつけろ! 尊敬している顔ができなくなっているぞ!」

「え? はははは。この顔は通常運転ですからこれでいいのです。まぁ、アレですな。うん、アレだ。とりあえずアシュリー・バラノ侯爵閣下には連絡しておきます。ですが精密検査はしてくださいね。リッチモンド家のご要望を叶えなくてはなりませんので」

「お前はばかだろう? リッチモンド家は平民だ。俺は侯爵家の人間だぞ。どっちを優先すべきかわかっているよな」

「もちろんリッチモンド家を優先しますね。年々、ブルジョワジーが台頭しており王族や貴族の力も以前よりは弱まっています。病院だって商売ですからね、診察代や治療費はきっちりお金のあるところから頂かねばなりません。今は貴族が威張り散らしてなんでも思い通りになる時代ではないのですよ。そんなことも学べていないのですか? これはどこが悪いのか調べなくても判明しましたなぁ。なんとも・・・・・・」

「愚か者め! この世はお金が全てではないぞ! この世で大事なのは愛だ。真実の愛とか、それから爵位と高貴な血筋も大事なのだ! リッチモンド家なんて俺が潰してやる。そうだ、あいつをわざと嫁にもらって刃向かったら殴ってやろう。身の程を教えてやろうぞ!」
俺はさっきのリッチモンド家の娘の高慢で綺麗な顔を思い出して嬉しくなってきた。あの顔に青黒い痣をつけて、手足にも腹にもつけてやるんだ。

(泣き叫んで許しを請うても絶対に許すもんか! 俺をコケにしやがって!)

想像するとすっかり楽しくなってニヤニヤと笑い出したら病院長が「頭の脳波を一番最初にとれ! 重点的に精密検査してさしあげろ!」
意味のわからない言葉を早口に言いながら、逃げるように出て行ったのだった。

(ふん! なんて愚かな病院長だ! お金より大事なものがこの世にはたくさんあるのに!)
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