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5 エミリー・エズラ伯爵令嬢side
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エミリー・エズラ伯爵令嬢視点
あれは教会でのバザーを手伝っていた時で、今から2年ほど前のことだった。私の持論として、慈善事業を貴族の子女が率先してやることが尊いことだとされているのは、本当に賛成できない考え方だと思う。貴族は楽しいことだけしていればいいと思うし、恵まれない人達の為につまらない仕事なんてする必要はないのよ。
だから私は手伝っているふりをしながら、少しづつ体をずらし教会の中から出ようとしたのである。
「エミリー、どうしたの? どこに行こうとしているのですか?」
シスターの一人に尋ねられて咄嗟に仮病を使ったのは言うまでもない。
「少し気分が悪くて・・・・・・外の風に当たってくれば直る気がしますわ」
弱々しく微笑み足下をわざとふらつかせた。
「まぁ、大変! そうね、外の空気を吸ってしばらく休んでくるといいわ。ここは気にしないで大丈夫よ」
子供を疑うことを知らない優しいシスターは、心から私を心配してくれたようだった。あんまりにもチョロくてウケる。
ポカポカと暖かい日だまりに私は気分よく包まれて、外のベンチで鼻歌を歌い始めた。こんな天気の良い日に教会の中で黙々とボランティア活動なんて人生における時間の無駄遣いだ。
「人間には寿命があるのよ。時間は無制限ではないの。もちろんまだまだ死ぬつもりはないけれど、どんどん私の時間は減っていくのよ。だったら好きなことばかりをしなければ損じゃないよっ!」
私はいつも思っていることを口にした。
「うん、同感だよ。俺もそれには賛成だよ。なんで大人達ってつまらないことばかりさせるんだろうな。努力とか我慢とかいろいろ俺たちに強いるけれど、天気の良い日に勉強ばかりさせたり、慈善活動を教会でさせるとかってナンセンスだよ。今日のこの素晴らしい天気は今日だけのもので、同じ日は二度と巡っては来ないのに!」
まさに真理を紡いでいくその男の子はとても素敵だったわ。
「まぁ、なんて気が合うの! そうなのよ、私もそう思っていたわ。こんな日はお花畑を駆け回ってもふもふな動物を愛でたり、お日様を浴びながら氷菓子を食べるのが最高なのよ」
私は満面の笑みでそう応えた。
「あっはは、そうさ! それって最高、最高! めんどうな義務とか責任とかって最悪最低!」
鼻の頭に皺を寄せて嬉しそうに笑った彼はルーカスと名乗ると、私とずっとおしゃべりをした。午後の日差しが傾いてくるころには、バラノ侯爵家の紋章の入った馬車が彼を迎えに来て、それに乗り込んで帰っていった。
(同じ貴族かと思っていたけれどまさか侯爵家の子だとは思わなかった! ラッキーだわ。バラノ侯爵家は由緒ある高位貴族だもん)
屋敷に帰ってルーカスのことをお父様に聞くと、
「あぁ、それは多分バラノ侯爵家の嫡男の子供だろうなぁ」と教えてくれた。
「やった!! だったらあの子が次期バラノ侯爵なのね?」
「それは違うよ。爵位はその子の叔父が継いだからね。さて、この話はおしまいだ。格上の侯爵家の噂話はよくないよ。口は災いの元だからね」
それっきりお父様はバラノ侯爵家について教えてはくれなかった。
それから何度かルーカスと教会で会う機会があって、私はその際に彼の側にいる熊みたいにでかくて髭だらけの大男を見たのである。それがアシュリー・バラノ侯爵と知り私は確信したわ・・・・・・あの人がルーカスのお父様を追い出したのに決まっているわ。
だってあれほど屈強な体つきで怖そうな男性って私は見たことがなかったし、騎士団長様ということを聞いてからは余計に恐ろしさに手が震えた。騎士って剣で人を刺し殺すのが仕事でしょう? その最高責任者だったらきっと殺人なんてなんとも思わない残酷な人に違いないもん。
私はルーカスに定期的に会えるように偶然を装って彼の行く先々にいるように頑張ったわ。
それで可哀想なルーカスにいろいろと教えてあげた。だってあの子ってば、なにも知らなかったから。
「あなたのお父様は絶対アシュリー・バラノ侯爵から追い出されたのに決まっているわ。それからきっとルーカスのお母様は身分を隠した隣国の王女様とかだと思うの」
「え! やっぱりそう思うか? 俺も母上は身分の高い女性に違いないと思っていたんだよ。叔父に聞いても言いにくそうにしているからね。なにか秘密があって言うに言えないほど高貴な血筋なんだって」
「うんうん。実は私も本当はどこかの国のお姫様の子供だと思うわ。だってお母様にあまり似てなくて可愛いからね・・・・・うん、きっとそう。絶対そうだわ」
「本当に? じゃぁ俺たちって最高に高貴な血筋の貴族ってことだよね。気も合うしとてもお似合いだと思うよな」
「もちろんよ。私達は会うべくして会えた運命の相手だわ。これってデスティニーよ、真実の愛! あぁ、なんてロマンチックなのぉーー」
私とルーカスは手を取り合って結婚を誓い合ったのだった。
あれは教会でのバザーを手伝っていた時で、今から2年ほど前のことだった。私の持論として、慈善事業を貴族の子女が率先してやることが尊いことだとされているのは、本当に賛成できない考え方だと思う。貴族は楽しいことだけしていればいいと思うし、恵まれない人達の為につまらない仕事なんてする必要はないのよ。
だから私は手伝っているふりをしながら、少しづつ体をずらし教会の中から出ようとしたのである。
「エミリー、どうしたの? どこに行こうとしているのですか?」
シスターの一人に尋ねられて咄嗟に仮病を使ったのは言うまでもない。
「少し気分が悪くて・・・・・・外の風に当たってくれば直る気がしますわ」
弱々しく微笑み足下をわざとふらつかせた。
「まぁ、大変! そうね、外の空気を吸ってしばらく休んでくるといいわ。ここは気にしないで大丈夫よ」
子供を疑うことを知らない優しいシスターは、心から私を心配してくれたようだった。あんまりにもチョロくてウケる。
ポカポカと暖かい日だまりに私は気分よく包まれて、外のベンチで鼻歌を歌い始めた。こんな天気の良い日に教会の中で黙々とボランティア活動なんて人生における時間の無駄遣いだ。
「人間には寿命があるのよ。時間は無制限ではないの。もちろんまだまだ死ぬつもりはないけれど、どんどん私の時間は減っていくのよ。だったら好きなことばかりをしなければ損じゃないよっ!」
私はいつも思っていることを口にした。
「うん、同感だよ。俺もそれには賛成だよ。なんで大人達ってつまらないことばかりさせるんだろうな。努力とか我慢とかいろいろ俺たちに強いるけれど、天気の良い日に勉強ばかりさせたり、慈善活動を教会でさせるとかってナンセンスだよ。今日のこの素晴らしい天気は今日だけのもので、同じ日は二度と巡っては来ないのに!」
まさに真理を紡いでいくその男の子はとても素敵だったわ。
「まぁ、なんて気が合うの! そうなのよ、私もそう思っていたわ。こんな日はお花畑を駆け回ってもふもふな動物を愛でたり、お日様を浴びながら氷菓子を食べるのが最高なのよ」
私は満面の笑みでそう応えた。
「あっはは、そうさ! それって最高、最高! めんどうな義務とか責任とかって最悪最低!」
鼻の頭に皺を寄せて嬉しそうに笑った彼はルーカスと名乗ると、私とずっとおしゃべりをした。午後の日差しが傾いてくるころには、バラノ侯爵家の紋章の入った馬車が彼を迎えに来て、それに乗り込んで帰っていった。
(同じ貴族かと思っていたけれどまさか侯爵家の子だとは思わなかった! ラッキーだわ。バラノ侯爵家は由緒ある高位貴族だもん)
屋敷に帰ってルーカスのことをお父様に聞くと、
「あぁ、それは多分バラノ侯爵家の嫡男の子供だろうなぁ」と教えてくれた。
「やった!! だったらあの子が次期バラノ侯爵なのね?」
「それは違うよ。爵位はその子の叔父が継いだからね。さて、この話はおしまいだ。格上の侯爵家の噂話はよくないよ。口は災いの元だからね」
それっきりお父様はバラノ侯爵家について教えてはくれなかった。
それから何度かルーカスと教会で会う機会があって、私はその際に彼の側にいる熊みたいにでかくて髭だらけの大男を見たのである。それがアシュリー・バラノ侯爵と知り私は確信したわ・・・・・・あの人がルーカスのお父様を追い出したのに決まっているわ。
だってあれほど屈強な体つきで怖そうな男性って私は見たことがなかったし、騎士団長様ということを聞いてからは余計に恐ろしさに手が震えた。騎士って剣で人を刺し殺すのが仕事でしょう? その最高責任者だったらきっと殺人なんてなんとも思わない残酷な人に違いないもん。
私はルーカスに定期的に会えるように偶然を装って彼の行く先々にいるように頑張ったわ。
それで可哀想なルーカスにいろいろと教えてあげた。だってあの子ってば、なにも知らなかったから。
「あなたのお父様は絶対アシュリー・バラノ侯爵から追い出されたのに決まっているわ。それからきっとルーカスのお母様は身分を隠した隣国の王女様とかだと思うの」
「え! やっぱりそう思うか? 俺も母上は身分の高い女性に違いないと思っていたんだよ。叔父に聞いても言いにくそうにしているからね。なにか秘密があって言うに言えないほど高貴な血筋なんだって」
「うんうん。実は私も本当はどこかの国のお姫様の子供だと思うわ。だってお母様にあまり似てなくて可愛いからね・・・・・うん、きっとそう。絶対そうだわ」
「本当に? じゃぁ俺たちって最高に高貴な血筋の貴族ってことだよね。気も合うしとてもお似合いだと思うよな」
「もちろんよ。私達は会うべくして会えた運命の相手だわ。これってデスティニーよ、真実の愛! あぁ、なんてロマンチックなのぉーー」
私とルーカスは手を取り合って結婚を誓い合ったのだった。
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