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6 アシュリー・バラノ侯爵side
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アシュリー・バラノ侯爵視点
「旦那様、良くないお知らせがございます。ルーカス様のことで病院関係者の方々がお会いしたいそうです・・・・・・」
夕食が終わっても帰って来ないルーカスを心配していた私は、長年仕えてくれている老執事のその言葉にさらに不安を募らせた。
「まさか、事故にでも巻き込まれたか! どこか怪我をしたのだろうか? きっとそうだ。なんてことだ! すぐに会うからサロンにお通ししなさい」
あんなに不出来な甥でも血が繋がっているのだな、とつくづく思う。どうでもいい等とは思えないのだ。やはり帰って来なければ心配だし、怪我をしたと聞けば駆けつけたいと思うのだ。
騎士並の鍛えられた体躯の男性2人がサロンにやって来ると、病院の警備員の身分証明書を私に見せた。
「ほぉーー。警備員? 外部の不審者から患者さんの安全を守っているのですね? 大変なお仕事ですな」
私はその鍛えられた筋肉に感心してその二人の男性に声をかけた。
「えぇっと。外部の不審者というよりも内部の異常者から医療従事者を守っているという形ですかね。大変な仕事ではありますが、これも医師や看護師の安全の為ですから・・・・・・」
困ったように目を泳がせる警備員達。
「ん? ・・・・・・内部の異常者って? ・・・・・・すまんが少し状況がつかめないな。申し訳ないがそちらはどのような病院だろうか?」
なにか嫌な予感が私の頭に警鐘音を響かせた。
「大変侯爵閣下には申し上げにくいのですが、こちらのご子息と思われるルーカス様をお預かりしている病院は精神病院になります。凶暴性のある患者さんも多い病棟なので、我らは体を鍛える必要があるんですよ」
「!? いや、待ってくれ。あいつはバカだと思うが精神異常者ではないよ。ただの愚かな怠け者だとは思うがさすがに凶暴性などはないはずだ。ルーカスの父親の兄もだらしないクズではあったが人に暴力を働いたことはないんだ」
後から思えばさんざんな甥の貶し様だったが、つい本音が漏れてしまったことは反省したい。
「ですがリッチモンド家にいきなり乗り込み、そこのご令嬢グレイス様に婚約もしていないのに婚約破棄をつきつけたそうですからまともではないでしょう? さらには平民の商人風情が身の程知らずと罵ったようです。あの大富豪のリッチモンド家のご令嬢にですよ? あり得ますか?」
二人の男達は首を振りながら私に詳細を説明したのである。
(まさか・・・・・・もしかしたら頭の障害を負っていたのだろうか? だとしたら全てに説明がつくぞ。ろくに勉強をしないことや、約束したことが少しも守れないことなど。思い当たることがありすぎる!)
「まさか・・・・・・それはきっとなにかの勘違いなのだろうと思う。あぁ、もしかしたら私の縁談を自分のことと勘違いしたのだろう。うん、きっと単なる些細な誤解だと思う」
私はこのようなコメントをしたものの自信が全くもてなかった。だいたいそのような誤解を正常な脳の持ち主はしない気がしたからだ・・・・・・
「とにかく精密検査をリッチモンド家は希望されています。いたくルーカス様に同情されてなにかの病気だと思われたようです。診察費や治療費、クスリ代などはリッチモンド家が負担なさるとのことですので、こちらとしては徹底的に検査をしなんとかまともになられるように尽力していきたいと思っております」
「まともになるのなら私からもお願いしたい。ルーカスは本当にひとつのことが真面目にできない性質の子で・・・・・・しかしこれが病気というのなら今後は暖かい眼差しで見守ってやらねばならないなぁ」
私は自分の教育方針を反省し、今まで病院に連れていかなかったことをとても後悔したのだった。
「はぁーー。まぁ、脳の病気ではなくて単に怠け者の威張りんぼって思いますがねぇーー。アシュリー坊ちゃまのせいではありません! アシュリー坊ちゃまは精一杯やってきましたよ。」
老執事は私の悩む姿に元気づけるように微笑み、子供の頃の呼び方で私を元気づけてくれたのだった。
୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧
ご注意:この物語はそれぞれの視点から物語が展開していくスタイルです。
「旦那様、良くないお知らせがございます。ルーカス様のことで病院関係者の方々がお会いしたいそうです・・・・・・」
夕食が終わっても帰って来ないルーカスを心配していた私は、長年仕えてくれている老執事のその言葉にさらに不安を募らせた。
「まさか、事故にでも巻き込まれたか! どこか怪我をしたのだろうか? きっとそうだ。なんてことだ! すぐに会うからサロンにお通ししなさい」
あんなに不出来な甥でも血が繋がっているのだな、とつくづく思う。どうでもいい等とは思えないのだ。やはり帰って来なければ心配だし、怪我をしたと聞けば駆けつけたいと思うのだ。
騎士並の鍛えられた体躯の男性2人がサロンにやって来ると、病院の警備員の身分証明書を私に見せた。
「ほぉーー。警備員? 外部の不審者から患者さんの安全を守っているのですね? 大変なお仕事ですな」
私はその鍛えられた筋肉に感心してその二人の男性に声をかけた。
「えぇっと。外部の不審者というよりも内部の異常者から医療従事者を守っているという形ですかね。大変な仕事ではありますが、これも医師や看護師の安全の為ですから・・・・・・」
困ったように目を泳がせる警備員達。
「ん? ・・・・・・内部の異常者って? ・・・・・・すまんが少し状況がつかめないな。申し訳ないがそちらはどのような病院だろうか?」
なにか嫌な予感が私の頭に警鐘音を響かせた。
「大変侯爵閣下には申し上げにくいのですが、こちらのご子息と思われるルーカス様をお預かりしている病院は精神病院になります。凶暴性のある患者さんも多い病棟なので、我らは体を鍛える必要があるんですよ」
「!? いや、待ってくれ。あいつはバカだと思うが精神異常者ではないよ。ただの愚かな怠け者だとは思うがさすがに凶暴性などはないはずだ。ルーカスの父親の兄もだらしないクズではあったが人に暴力を働いたことはないんだ」
後から思えばさんざんな甥の貶し様だったが、つい本音が漏れてしまったことは反省したい。
「ですがリッチモンド家にいきなり乗り込み、そこのご令嬢グレイス様に婚約もしていないのに婚約破棄をつきつけたそうですからまともではないでしょう? さらには平民の商人風情が身の程知らずと罵ったようです。あの大富豪のリッチモンド家のご令嬢にですよ? あり得ますか?」
二人の男達は首を振りながら私に詳細を説明したのである。
(まさか・・・・・・もしかしたら頭の障害を負っていたのだろうか? だとしたら全てに説明がつくぞ。ろくに勉強をしないことや、約束したことが少しも守れないことなど。思い当たることがありすぎる!)
「まさか・・・・・・それはきっとなにかの勘違いなのだろうと思う。あぁ、もしかしたら私の縁談を自分のことと勘違いしたのだろう。うん、きっと単なる些細な誤解だと思う」
私はこのようなコメントをしたものの自信が全くもてなかった。だいたいそのような誤解を正常な脳の持ち主はしない気がしたからだ・・・・・・
「とにかく精密検査をリッチモンド家は希望されています。いたくルーカス様に同情されてなにかの病気だと思われたようです。診察費や治療費、クスリ代などはリッチモンド家が負担なさるとのことですので、こちらとしては徹底的に検査をしなんとかまともになられるように尽力していきたいと思っております」
「まともになるのなら私からもお願いしたい。ルーカスは本当にひとつのことが真面目にできない性質の子で・・・・・・しかしこれが病気というのなら今後は暖かい眼差しで見守ってやらねばならないなぁ」
私は自分の教育方針を反省し、今まで病院に連れていかなかったことをとても後悔したのだった。
「はぁーー。まぁ、脳の病気ではなくて単に怠け者の威張りんぼって思いますがねぇーー。アシュリー坊ちゃまのせいではありません! アシュリー坊ちゃまは精一杯やってきましたよ。」
老執事は私の悩む姿に元気づけるように微笑み、子供の頃の呼び方で私を元気づけてくれたのだった。
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ご注意:この物語はそれぞれの視点から物語が展開していくスタイルです。
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