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「イルヤ様。ユーイン様ってば、私以外の女性とデートをしていたのですよ。酷いと思いませんか?」

 ここはシーグ侯爵家のパーティホールだ。今日は我が家主催の夜会が行われており、たくさんの貴族達が出席していたわ。そして、私のもとにはいつものようにユーインに惚れ込んでいる女性が相談にやって来る。

「今度はマリッサ様ですか? ユーインとはどの程度付き合っているのかしら?」

「いいえ、お付き合いはしておりません。でも、一緒に食事をしてくださいました。市井でも評判のレストランに連れて行ってくださったのですわ。だから私、相思相愛になれると思って・・・・・・」

「そう。後でユーインをとっちめてあげますわ」





 私はシーグ侯爵家の一人娘のイルヤ。ユーイン・メーレンベルフ侯爵令息は私の幼なじみよ。1歳下の彼は私にとっては弟のような存在で、なんでも話しあえる親友とも言える。

「なぜ、ユーインは浮気ばかりするのよ? 女性を泣かせたらいけないわ」

 ユーインは、自分は誰とも付き合っていないから浮気ではない、と言った。食事には誘われたから行っただけだ、と。
 好きでもない子に期待させるユーインは罪な男だわ。

「ユーイン、あなたは本当に愛せる女性を早く見つけるべきね。でないとそのうち背中を刺されると思うわ。一途な女の子の心を弄ぶなんて間違っているのよ。気が無いなら初めからデートはしないで。脈があると思って期待した女性達の、好いた異性に相手にされない悲しみを少しはわかりなさいよ」

 ユーインは美しい顔で困ったように微笑んだ。綺麗すぎるのも考えものね。

「好いた異性に相手にされない悲しみね。充分、わかっているつもりだぞ」

 急に真面目な顔をするけれど、このモテすぎるユーインにそんな悩みは無縁だと思う。

「全くあなたときたら、容姿が良くて王族の近衛騎士だからっていい気になりすぎですわ。それに比べて私の婚約者のビドは、異国の地で天文学の勉強をなさっているのよ? 学者になりたい、という崇高な志をお持ちなの。素晴らしい男性でしょう?」

「はいはい。お金儲けにも疎く愛想もなく腕力もないのならそうなるしかないですね。まぁ、いいと思います。イルヤが彼を好きなのなら」

「えぇ、ビドは毎日のようにお手紙をくださるの。愛されている、という実感がありますわ。ユーインのように女ったらしでなくて良かったこと!」

 ユーインは肩をすくめて逃げてしまった。本当に反省してほしいものだわ。

 








 別な日。ここはシーグ侯爵家の執務室で、私はお父様のお仕事のお手伝いをしている。

「ビド君はイルヤの誕生日祝いにも帰ってこないのかい? ちょっと無神経ではないか?」

「いいえ、お父様。ほら、このようにお手紙は毎日届いておりますわ。ですからビドの心は私とともにあるのです。研究熱心のあまり周りが見えなくなる純粋な方なのです。ですから、私が自らあちらに行ってみようかと思います」

「ふむ、気をつけて行きなさい。あちらの国は治安が良いが、一応護衛騎士を連れて行きなさい」

「ありがとうございます、お父様。ビドを驚かせたいのでナイショであちらに向かいますね」

 私の気持ちは久しぶりに婚約者に会える喜びで弾んでいた。きっと私がサプライズであちらに行けば、嬉しさで抱きしめてくださるわね!

(うふふ、楽しみだわ)
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