(完結)魔王は人間の公爵令嬢を溺愛するーいささか過剰にー

青空一夏

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6 嘘つきと思われたアリアナ

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「魔王様。人間どもは、あの果実が大層気に入ったようです。食べるだけで美しさと若さが手に入る、と大喜びです」

「そうか。あれは一時的な効果しかないのだがな。まぁ、喜んでもらえたならいいだろう。今年で私は10万歳の誕生日を迎える。この節目になにか大きなことを成し遂げたい。例えば、今まで交流の一切なかった人間たちと、有益な関係を築き上げることだ」
 魔王は自分の10万歳の誕生日を迎えるにあたって、なにか特別なことをやり遂げたい思いでいた。人間との交流はそのひとつだった。そのため、あの魔法の果実を人間の国王に贈ってみたのだった。

「はい、有益な関係は望ましいことですが、少々やっかいなことが起こりました。なぜか人間から「魔王様の花嫁」に女性を寄こすと申し出てきています。その花嫁というのはアリアナ・クレスウエル公爵令嬢で、こうして肖像画も届いています」
 ゼイン魔王の参謀は苦笑しながら、肖像画を見せた。
 
「人間界では、魔族は相当嫌われているはずだろう? 公爵令嬢がよく魔界に来ることを承諾したものだ」
 魔王は不思議そうな表情で首をひねった。魔王は釈然としないまま、とりあえず迎えの黒いペガサスを向かわせた。ちょうどそのタイミングで、人間界の王宮を見張らせていた使い魔の鳥が戻って来た。その鳥の目は特に優れており、遠くの建物の内部まで見通すことができた。

「これから私の花嫁が来るというのだが、お前はこの女性を見たことがあるか? アリアナ・クレスウエル公爵令嬢だそうだ」

 魔王は王家から送られてきた小さな肖像画を見せながら聞く。その肖像画を見た鳥はうなずきながら、思いがけない情報をしゃべり出した。アリアナはずっと王太子の執務室で仕事をしていたという。ところが、数日前に謁見の間で多くの人間に囲まれた後、地下牢に入れられたというのだ。 

「なるほど。牢屋にぶち込まれた罪人というわけですね。ずいぶんと舐められたものです」
 リオン魔界の軍団長が、顔を真っ赤にして怒りだした。 肩まで届く茶色の髪に緑色の瞳のリオンは筋肉質の体格で、常に前向きなオーラを放っており、勇敢で正義感が強く、仲間を鼓舞するリーダーシップを持つ。その真っ直ぐな性格ゆえに、どんな嘘も憎み曲がったことが大嫌いなのだ。

「まったくだな。魔族への宣戦布告だろうか? こんなことはすぐにばれることなのにな。罪人を魔王様の花嫁にと送ってくるなど、ばかにしているのか?」

 ゼイン魔王の参謀は短めの金髪に鋭い青い瞳を持つ。整った顔立ちで、いつも落ち着いた表情をしているのだが、この時ばかりは不快感をあらわにしていた。


☆彡 ★彡


 到着した花嫁は肖像画どおりで、見事なブロンドの綺麗な女性だった。目の覚めるようなコバルトブルーの瞳が美しい。馬車から降りる際、魔王が優雅に手を差し出すと、アリアナはにっこりと微笑みながらその手を重ねた。

 アリアナは魔王が想像していたよりもずっと人間らしい形状をしていることにほっとし、安堵の笑みを浮かべた。彼女はもっと人間とかけ離れた怪物を想像していたのだった。

「とりあえず、侍女に君の部屋へ案内させよう。君の釣書が肖像画とともに王家から届いているが、王太子の婚約者エリナ・クレスウエル公爵令嬢の姉と書いてあった。エリナ嬢はずっと王太子を支え政務を手伝ってきた優秀な女性で次期王太子妃。その姉ならば魔王の花嫁に相応しい、と書いてあったが。本当に君はエリナ・クレスウエル公爵令嬢の姉なんだな? この釣書で間違っているところがあったら言ってくれ」

 魔王の声は甘美で深遠な響きを持ち、まるで柔らかいシルクが肌に触れるように心地良かった。長い黒髪にタンザナイトの瞳は神秘的で、レオナルドの何千倍も美しい。

「・・・・・・はい、姉です。釣書で・・・・・・間違っているところはありません」

 思わず見とれてしまったアリアナは、実は魔王の言葉の半分も頭に入っていなかった。

「ふん、嘘つきめ」

 リオンは吐き捨てるようにつぶやくと、足早に魔界軍の要塞へと去って行った。リオンが率いる軍団が生活する拠点は、魔王城を取り囲むような作りになっており『魔界軍の要塞』と呼ばれている。

「あなたのような方を『魔王様の花嫁』にするつもりはないですよ。失礼」
 ゼイン魔王の参謀もそう言いながら参謀室に消えて行く。

「私も歓迎はできない。とんだ厄介者がきた気分だな」
 カイル魔界警察の長は灰色の髪と瞳を持つのだが、彼も魔王の側近だ。彼は警察署長室に去って行った。

 アリアナは自分があまり歓迎されないことを想像していたので、特に落ち込むことはなかった。「嘘つき」と言われたことも、魔王の話をろくに聞いていなかったアリアナにはピンとこなかった。

(眠る時間はあるわよね?)

 当面、アリアナが気にしているのは、ただそれだけだったのだ。


 
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