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すれ違い
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学園からの帰りの馬車に強引に乗り込むベッカム。エレノアは迷惑そうに顔をしかめた。
「私たちの婚約のことなんだが、君はエジャートン公爵に、私とは婚約したくないと言ったのか?」
「えぇ、言ったわ。だって、あなたが言ったんじゃない? 『私はエジャートン公爵家の婿養子にはならないっ!』って」
「あれは……本気じゃなかったんだ。君の言い方が気に入らなくて。私は自分の可能性を信じたかったんだ。君の家の爵位だけもらって遊んで暮らすなんてごめんさ。そんなの立派な男と言えないよ。私は……」
エレノアはベッカムの言葉を途中で遮る。
「だったら、自分で道を切り開けばいいわよ。誰の支えもいらないあなたならできそうだわ。とても優秀だし、女の子たちにも大人気だものね。私は他に気になる人を見つけたから大丈夫よ」
ベッカムは大きなため息をついて、馬車を止めさせた。
「エレノアの気持ちはわかったよ。君の望むようにしたらいいさ」
ベッカムは馬車から降りながら、悲しげな顔をした。今更、なにを悲しげな顔をするのか、エレノアにはわけがわからない。
(バカみたい。今更、後悔したって遅いのよ。私の心はデラノ君を応援したい気持ちでいっぱいなんだからっ)
話は少し遡る。ベッカムは父親から執務室に呼ばれ、一通の手紙を渡された。それはエジャートン公爵からの手紙で、内容はベッカムとエレノアの婚約を白紙にしたい、という内容だった。
「身に覚えはあるのかね? ベッカムはエレノア嬢と仲が良いとばかり思っていたが」
「私が騎士科に行くことを反対したエレノアと少し口喧嘩をしました。私は自分の力である程度の実績をあげてから、エジャートン公爵家の婿になりたかったのです。好きな女性だからこそ、彼女の家の威光だけを頼りに暮らすなど、恥じるべきだと思ったのに」
「どうやら、その気持ちはまったくエレノア嬢に通じていなかったようだな。同じ学園なのだから、一度腹を割って話し合いなさい」
ベッカムは騎士科へ通い、頑張ってエレノアに相応しい男になろうとしたのだ。だからこそ、お互いの家で婚約は内定していても、プロポーズは自分からしたいと両家の親に我が儘を言った。
しかし、そのベッカムの決意をエレノアは知らない。学園でエレノアを無視していたのも、彼なりの理由があった。
エレノアと親しくすることで、どれほどのリスクを負うかに気づいてしまったからだ。伯爵家の次男という肩書はあっても、自分はまだ何者でもない。一介の騎士見習いにすぎない彼が、学園でエレノアのような公爵令嬢と親しくすることで、彼女にどんな危険が降りかかるかは想像に難くなかった。
エレノアに近づくことで、敵対心を持つ者たちに彼女を利用される可能性がある。そんなことを絶対に許してはならない――彼女を守るためには、自分との関係を表に出すべきではないと考えたのだ。
なぜなら、騎士科には貴族の次男や三男、四男など、爵位を継げない者が多く在籍していた。彼らは自らの腕だけを頼りに自活していかなければならず、そのため嫉妬や妬みが根深く蔓延っていた。
自分が頭角を現してきたことで、嫌がらせをする者も少なくなかった。エレノアを大切に思うがゆえに、学園では彼女に話しかけずにいたし、幼い頃からの付き合いがあるからこそ、言わなくても彼女は自分の気持ちを理解してくれるだろうと思っていた。
しかし、ベッカムはエレノアに馬車のなかで拒絶され、もうすでに手後れだと悟った。愛する女性の関心は別の男に移っていたのだ。
ベッカムは普通科のデラノを思い出す。少し太めで肌の荒れた男だった。それが最近ではかなり痩せ、容姿が別人のようになってきたと噂されていた。
(エレノアが幸せならそれで構わないか……)
そう思うようにしたが、エレノアはベッカムにとっても初恋だった。しばらくは落ち込み食事も喉を通らなかった。
やがて、エレノアがデラノと婚約したという噂が学園中に広がった。ベッカムはやるせない思いを抱きつつも、デラノがエレノアを大切にしてくれるのなら、それでも構わないと自分に言い聞かせるしかなかった。
一方、エレノアは……
「私たちの婚約のことなんだが、君はエジャートン公爵に、私とは婚約したくないと言ったのか?」
「えぇ、言ったわ。だって、あなたが言ったんじゃない? 『私はエジャートン公爵家の婿養子にはならないっ!』って」
「あれは……本気じゃなかったんだ。君の言い方が気に入らなくて。私は自分の可能性を信じたかったんだ。君の家の爵位だけもらって遊んで暮らすなんてごめんさ。そんなの立派な男と言えないよ。私は……」
エレノアはベッカムの言葉を途中で遮る。
「だったら、自分で道を切り開けばいいわよ。誰の支えもいらないあなたならできそうだわ。とても優秀だし、女の子たちにも大人気だものね。私は他に気になる人を見つけたから大丈夫よ」
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「エレノアの気持ちはわかったよ。君の望むようにしたらいいさ」
ベッカムは馬車から降りながら、悲しげな顔をした。今更、なにを悲しげな顔をするのか、エレノアにはわけがわからない。
(バカみたい。今更、後悔したって遅いのよ。私の心はデラノ君を応援したい気持ちでいっぱいなんだからっ)
話は少し遡る。ベッカムは父親から執務室に呼ばれ、一通の手紙を渡された。それはエジャートン公爵からの手紙で、内容はベッカムとエレノアの婚約を白紙にしたい、という内容だった。
「身に覚えはあるのかね? ベッカムはエレノア嬢と仲が良いとばかり思っていたが」
「私が騎士科に行くことを反対したエレノアと少し口喧嘩をしました。私は自分の力である程度の実績をあげてから、エジャートン公爵家の婿になりたかったのです。好きな女性だからこそ、彼女の家の威光だけを頼りに暮らすなど、恥じるべきだと思ったのに」
「どうやら、その気持ちはまったくエレノア嬢に通じていなかったようだな。同じ学園なのだから、一度腹を割って話し合いなさい」
ベッカムは騎士科へ通い、頑張ってエレノアに相応しい男になろうとしたのだ。だからこそ、お互いの家で婚約は内定していても、プロポーズは自分からしたいと両家の親に我が儘を言った。
しかし、そのベッカムの決意をエレノアは知らない。学園でエレノアを無視していたのも、彼なりの理由があった。
エレノアと親しくすることで、どれほどのリスクを負うかに気づいてしまったからだ。伯爵家の次男という肩書はあっても、自分はまだ何者でもない。一介の騎士見習いにすぎない彼が、学園でエレノアのような公爵令嬢と親しくすることで、彼女にどんな危険が降りかかるかは想像に難くなかった。
エレノアに近づくことで、敵対心を持つ者たちに彼女を利用される可能性がある。そんなことを絶対に許してはならない――彼女を守るためには、自分との関係を表に出すべきではないと考えたのだ。
なぜなら、騎士科には貴族の次男や三男、四男など、爵位を継げない者が多く在籍していた。彼らは自らの腕だけを頼りに自活していかなければならず、そのため嫉妬や妬みが根深く蔓延っていた。
自分が頭角を現してきたことで、嫌がらせをする者も少なくなかった。エレノアを大切に思うがゆえに、学園では彼女に話しかけずにいたし、幼い頃からの付き合いがあるからこそ、言わなくても彼女は自分の気持ちを理解してくれるだろうと思っていた。
しかし、ベッカムはエレノアに馬車のなかで拒絶され、もうすでに手後れだと悟った。愛する女性の関心は別の男に移っていたのだ。
ベッカムは普通科のデラノを思い出す。少し太めで肌の荒れた男だった。それが最近ではかなり痩せ、容姿が別人のようになってきたと噂されていた。
(エレノアが幸せならそれで構わないか……)
そう思うようにしたが、エレノアはベッカムにとっても初恋だった。しばらくは落ち込み食事も喉を通らなかった。
やがて、エレノアがデラノと婚約したという噂が学園中に広がった。ベッカムはやるせない思いを抱きつつも、デラノがエレノアを大切にしてくれるのなら、それでも構わないと自分に言い聞かせるしかなかった。
一方、エレノアは……
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