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仲が良すぎるふたり
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放課後の静けさが漂う学園の庭園で、エレノアはふと、噴水前のベンチに座るふたつの影に目を留めた。遠くからは誰かまでは分からなかったが、親密そうに寄り添う姿にエレノアは眉をひそめる。学園内でこんなふうに無遠慮に振る舞う生徒たちを許してはいけない。エレノアは毅然とした足取りでその二人に近づいていった。
しかし、距離が縮まるにつれ、エレノアの歩みは次第に鈍り胸がざわつく。影のひとつに見覚えがあったのだ。黒髪にほんのりと色気を漂わせた甘い表情――それは、デラノだった。心臓が不規則に跳ねる。何かの間違いではないかと、エレノアは思いたかった。だが、相手の女生徒の顔を見た瞬間、エレノアの目が確信に変わる。デラノが手を握っていたのは、クロネリー男爵令嬢のキャリーだったのだ。
クロネリー男爵令嬢は、大きな琥珀色の瞳と桃色の髪が印象的な少女で、男子生徒たちからの人気を集めていた。彼女は貴族の令嬢とは思えない自由な行動を取ることが多く、婚約者のいる男子生徒に気安く声をかけたり、マナーを欠いた振る舞いをしたりするため、エレノアは彼女を問題行動の多い同級生として警戒していた。
だからこそ……一瞬、驚きがエレノアを支配する。血の気が引き、胸に冷たい不安が押し寄せた。
(まさか、あの純朴だったデラノ様が、私を裏切っているの? そんなはずないわよね……だって、私こんなに尽くしているのよ……)
考えられないことだった。エレノアにとってデラノのイメージは、あのかつての姿のまま、謙虚で純粋な存在である。外見が変わったとしても、その心は変わらないと信じていた。冷静さを装いながらも、足を震わせて静かに二人に近づいていく。デラノはエレノアの顔を見るなり、慌てた様子で言い訳を始めた。
「エ、エレノア様、誤解しないでほしい。これは、キャリー様を慰めていただけなんだよ。彼女は家庭の事情で苦しんでいて、どうにか助けてあげたかったんだ」
エレノアは無言でデラノを見つめた。彼の黒い瞳は真剣に見えたし、嘘をついているようには思えない。キャリーは悲しげな顔をして、デラノの言葉にうなずく。
「デラノ様はただ私の辛い立場に同情してくださっただけなんです。エレノア様、こんなに優しいデラノ様を責めないであげてください」
「継母に虐められているんだって……。僕は、彼女がそんな目に遭っているなんて知らなくて……つい気の毒だと思う気持ちが勝って、手を握りしめてしまったんだ」
キャリーから聞かされた身の上話を通じて、エレノアは彼女の貴族令嬢らしからぬ態度に納得した。平民の母親のもとで育てられ、学園入学前にクロネリー男爵家へ引き取られたのなら、貴族としてのマナーが身についていないのもうなずける。
「お気の毒に。キャリー様がそんな状況にあるなんて、私も何かお手伝いしたいわ。ほんの一瞬でも、ふたりの仲を疑ってしまったことが恥ずかしいわ」
エレノアは申し訳なさそうにデラノを見つめた。途端に元気を取り戻したデラノは自信に満ちた表情へと変わり、エレノアに向かってこう言った。
「僕を疑うなんてひどいよ。キャリー様の境遇を知った以上、僕たちで救わなきゃ。エレノア様だって、公爵令嬢なんだから、困っている人を助けるのが当然だろう?」
「ええ、もちろん。その通りだわ。すぐにクロネリー男爵家を訪ねて、キャリー様の待遇改善を求めましょう。お母様にも同行してもらうわ。きっと、直接話せば解決できるはずよ」
エレノアは優雅に微笑みながら、キャリーに手を差し伸べた。その瞬間、キャリーの顔はみるみる青ざめていった。
「お義母様に抗議していただくのはありがたいのですが、きっとその後で私は報復されます」
「そうだよ! エレノア様、もう少し考えた方がいいよ。虐めている相手に直接やめろと言ったところで、聞くわけないだろう? やっぱり公爵令嬢だけあって、世間知らずなんだな」
エレノアはデラノの嫌味じみた言葉にも、穏やかに微笑んでいた。それほどまでに、エレノアはデラノを好きだったのだ。
「エレノア様には間接的に助けていただけると、ありがたいです。たとえば、エレノア様が着なくなったドレスをいただけると助かるのですが……」
キャリーは継母からドレスを買ってもらえず、お茶会に招待されても着ていくドレスがないと涙を流す。
「わかったわ。とても辛い思いをしているのね」
エレノアは貴族としてのマナーもキャリーに教えつつ、親身になって世話をした。着なくなったドレスとはいえ、公爵令嬢のドレスはとても高価だ。それを惜しげもなく、キャリーに与えた。
デラノは次第にキャリーと過ごす時間が増え、まるで彼女の精神的な支えであるかのようだった。エレノアはそんな優しいデラノに感心し、ますます彼に尽くすようになっていった。
しかし、エレノアの視界には、いつものようにデラノとキャリーの姿が映る。二人は楽しげに笑い合い、エレノアの存在をまるで意識していない。その様子は、まるで仲睦まじい恋人同士にしか見えなかった。
(デラノ様はただキャリー様の相談に乗っているだけよ……)
エレノアはそう自分に言い聞かせるが、日に日に二人の親しさが増しているように感じていた。
そして、ある日――教室でデラノがキャリーと談笑しながら、ふと彼女の結った髪の後れ毛に手を伸ばし、さりげなく整えている場面を廊下にいたエレノアは目にしてしまった。
(あんな仕草をただの友人にする? もしかしたら、やっぱりふたりは……)
「あの二人が気になるのかい?」
後ろから不意に声をかけられ、エレノアは反射的に振り返った。そこには、心配そうに紫水晶の瞳を向けてくるベッカムの姿があった。
しかし、距離が縮まるにつれ、エレノアの歩みは次第に鈍り胸がざわつく。影のひとつに見覚えがあったのだ。黒髪にほんのりと色気を漂わせた甘い表情――それは、デラノだった。心臓が不規則に跳ねる。何かの間違いではないかと、エレノアは思いたかった。だが、相手の女生徒の顔を見た瞬間、エレノアの目が確信に変わる。デラノが手を握っていたのは、クロネリー男爵令嬢のキャリーだったのだ。
クロネリー男爵令嬢は、大きな琥珀色の瞳と桃色の髪が印象的な少女で、男子生徒たちからの人気を集めていた。彼女は貴族の令嬢とは思えない自由な行動を取ることが多く、婚約者のいる男子生徒に気安く声をかけたり、マナーを欠いた振る舞いをしたりするため、エレノアは彼女を問題行動の多い同級生として警戒していた。
だからこそ……一瞬、驚きがエレノアを支配する。血の気が引き、胸に冷たい不安が押し寄せた。
(まさか、あの純朴だったデラノ様が、私を裏切っているの? そんなはずないわよね……だって、私こんなに尽くしているのよ……)
考えられないことだった。エレノアにとってデラノのイメージは、あのかつての姿のまま、謙虚で純粋な存在である。外見が変わったとしても、その心は変わらないと信じていた。冷静さを装いながらも、足を震わせて静かに二人に近づいていく。デラノはエレノアの顔を見るなり、慌てた様子で言い訳を始めた。
「エ、エレノア様、誤解しないでほしい。これは、キャリー様を慰めていただけなんだよ。彼女は家庭の事情で苦しんでいて、どうにか助けてあげたかったんだ」
エレノアは無言でデラノを見つめた。彼の黒い瞳は真剣に見えたし、嘘をついているようには思えない。キャリーは悲しげな顔をして、デラノの言葉にうなずく。
「デラノ様はただ私の辛い立場に同情してくださっただけなんです。エレノア様、こんなに優しいデラノ様を責めないであげてください」
「継母に虐められているんだって……。僕は、彼女がそんな目に遭っているなんて知らなくて……つい気の毒だと思う気持ちが勝って、手を握りしめてしまったんだ」
キャリーから聞かされた身の上話を通じて、エレノアは彼女の貴族令嬢らしからぬ態度に納得した。平民の母親のもとで育てられ、学園入学前にクロネリー男爵家へ引き取られたのなら、貴族としてのマナーが身についていないのもうなずける。
「お気の毒に。キャリー様がそんな状況にあるなんて、私も何かお手伝いしたいわ。ほんの一瞬でも、ふたりの仲を疑ってしまったことが恥ずかしいわ」
エレノアは申し訳なさそうにデラノを見つめた。途端に元気を取り戻したデラノは自信に満ちた表情へと変わり、エレノアに向かってこう言った。
「僕を疑うなんてひどいよ。キャリー様の境遇を知った以上、僕たちで救わなきゃ。エレノア様だって、公爵令嬢なんだから、困っている人を助けるのが当然だろう?」
「ええ、もちろん。その通りだわ。すぐにクロネリー男爵家を訪ねて、キャリー様の待遇改善を求めましょう。お母様にも同行してもらうわ。きっと、直接話せば解決できるはずよ」
エレノアは優雅に微笑みながら、キャリーに手を差し伸べた。その瞬間、キャリーの顔はみるみる青ざめていった。
「お義母様に抗議していただくのはありがたいのですが、きっとその後で私は報復されます」
「そうだよ! エレノア様、もう少し考えた方がいいよ。虐めている相手に直接やめろと言ったところで、聞くわけないだろう? やっぱり公爵令嬢だけあって、世間知らずなんだな」
エレノアはデラノの嫌味じみた言葉にも、穏やかに微笑んでいた。それほどまでに、エレノアはデラノを好きだったのだ。
「エレノア様には間接的に助けていただけると、ありがたいです。たとえば、エレノア様が着なくなったドレスをいただけると助かるのですが……」
キャリーは継母からドレスを買ってもらえず、お茶会に招待されても着ていくドレスがないと涙を流す。
「わかったわ。とても辛い思いをしているのね」
エレノアは貴族としてのマナーもキャリーに教えつつ、親身になって世話をした。着なくなったドレスとはいえ、公爵令嬢のドレスはとても高価だ。それを惜しげもなく、キャリーに与えた。
デラノは次第にキャリーと過ごす時間が増え、まるで彼女の精神的な支えであるかのようだった。エレノアはそんな優しいデラノに感心し、ますます彼に尽くすようになっていった。
しかし、エレノアの視界には、いつものようにデラノとキャリーの姿が映る。二人は楽しげに笑い合い、エレノアの存在をまるで意識していない。その様子は、まるで仲睦まじい恋人同士にしか見えなかった。
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エレノアはそう自分に言い聞かせるが、日に日に二人の親しさが増しているように感じていた。
そして、ある日――教室でデラノがキャリーと談笑しながら、ふと彼女の結った髪の後れ毛に手を伸ばし、さりげなく整えている場面を廊下にいたエレノアは目にしてしまった。
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