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わたくしはマーリン。アーネル伯爵の妻だ。わたくしと夫との間には子供が二人いる。どちらも女の子で、それはもう可愛い子供達。でも、夫が声をかけるのは長女のテオドーラだけだ。
「なぜ、次女のアンネリにも話しかけてくださらないのですか? 同じくオリヤン様の子供ではありませんか?」
「同じではないよ。長女は女の子として必要な子供だった。でも女の子は一人で充分だ。直系の男子しか爵位を継げないのは君も知っているよな? 女の子では意味がないんだよ」
「申し訳ありません。ですが、それではアンネリが可哀想すぎませんか?」
「は? わたしの方がよほど可哀想だろう? まだ跡継ぎにも恵まれず、女しか産めない妻を持つ可哀想な男と、笑い者になっている」
「笑い者などに、なぜなるのですか? もし、男子が産まれなかったとしても、オリヤン様の弟バート様には男子が二人もいますわ。娘の婿養子にして、継いでいただければそれでよろしいのでは?」
「バカなことを抜かすな! わたしはバートの子ではなく、自分の息子に跡継ぎになって欲しいのだ。いいか? 次に妊娠したら絶対に男子を産むのだ」
わたくしはその迫力に怖じ気づき、しばらくは声を出すこともできない。娘二人はまだ幼いながら、オリヤンに好かれていないことを感じ取っていた。
「わたし達が男の子に産まれなかったから、お父様はかわいがってくださらないのですね?」
テオドーラは唇を噛みしめた。
「おかーしゃま、ごめんね。あたち、おとこのこじゃなくて」
アンネリはまだ幼くて、よくわからないのにわたくしに謝る。
子供にこのようなことを言わせるわたくしが情けない。わたくしの実家はローセンブラード男爵家で両親はすでに他界している為、夫に侮られることが多かったのだ。
お茶会を週に一度、仲の良い夫人数人に声をかけて開いていた。
「そう言えば、ペータル・ラーネリード侯爵は奥様に男子が生まれなくて、結局ご自分の甥を養子にして跡継ぎにするそうよ」
「まぁ、そうなの? でも、よくあることよね。マーリン様のところも安心ですわね。アーネル伯爵の弟バート様にはとても優秀な二人の男の子がいるから、どちらかをアーリン様の娘と結婚させればいいのですわ」
「でも、夫は自分の息子を跡継ぎにしたいと言うの。今度こそ夫の為に産んであげたいけれど・・・・・・どうしたら男子が産めるのかしら」
「こればっかりは神のみぞ知る、というやつよ。もし、産む子供の性別がわかって変えることができたら奇跡ですもの」
「そんなに思い詰めることはないわ。だって、マーリン様はまだ若いし大丈夫よ。これからきっと男の子を授かるわ」
「えぇ、ありがとう」
わたくしはどうしても男の子が産みたい。
「いいかい? おぼえているよね? 今度こそ男子を産んでくれ!」
また妊娠したわたくしに夫は強い口調で言った。
「この役立たずが! 女ばかり産む女などに用はない。わたしには幸い愛人がいる。ちょうど妊娠がわかったところだったのだ。ここから出て行き、アーネル伯爵夫人の座を譲れ」
夫の希望を叶えられずに、わたくしはまた女の子を産み罵倒された。産後まもなく体調も回復しないままに、屋敷を追い出されてしまう。
幼子二人と乳飲み子を抱え、実家のローセンブラード男爵家を訪ねた。幼い頃から仕えてくれた家令がわたくしを出迎え、義理の姉サーラ様を呼びに行く。
(どうしよう。しばらく疎遠にしていたくせに、いきなり訪ねてきて迷惑だと思われたら・・・・・・)
3人の子供の母親だというのに、泣きそうになったわたくしはとても弱い女だ。
「まぁ、マーリン様じゃないの。あらあら、おチビちゃん達も久しぶりね。ずいぶん大きくなったこと。あら、それにまたもう一人赤ちゃん? 女の子なのね? 可愛いこと! あたくしが抱っこしてあげましょうね。さぁ、お入りなさい。今、ちょうどお茶をいただこうとしていたところよ。おチビちゃん達には焼きたてマフィンを食べさせてあげましょうね」
サーラ様に赤ちゃんを抱いてもらい、久しぶりにかけられた優しい言葉に、わたくしはつい涙腺が緩み泣き出してしまうのだった。
「なぜ、次女のアンネリにも話しかけてくださらないのですか? 同じくオリヤン様の子供ではありませんか?」
「同じではないよ。長女は女の子として必要な子供だった。でも女の子は一人で充分だ。直系の男子しか爵位を継げないのは君も知っているよな? 女の子では意味がないんだよ」
「申し訳ありません。ですが、それではアンネリが可哀想すぎませんか?」
「は? わたしの方がよほど可哀想だろう? まだ跡継ぎにも恵まれず、女しか産めない妻を持つ可哀想な男と、笑い者になっている」
「笑い者などに、なぜなるのですか? もし、男子が産まれなかったとしても、オリヤン様の弟バート様には男子が二人もいますわ。娘の婿養子にして、継いでいただければそれでよろしいのでは?」
「バカなことを抜かすな! わたしはバートの子ではなく、自分の息子に跡継ぎになって欲しいのだ。いいか? 次に妊娠したら絶対に男子を産むのだ」
わたくしはその迫力に怖じ気づき、しばらくは声を出すこともできない。娘二人はまだ幼いながら、オリヤンに好かれていないことを感じ取っていた。
「わたし達が男の子に産まれなかったから、お父様はかわいがってくださらないのですね?」
テオドーラは唇を噛みしめた。
「おかーしゃま、ごめんね。あたち、おとこのこじゃなくて」
アンネリはまだ幼くて、よくわからないのにわたくしに謝る。
子供にこのようなことを言わせるわたくしが情けない。わたくしの実家はローセンブラード男爵家で両親はすでに他界している為、夫に侮られることが多かったのだ。
お茶会を週に一度、仲の良い夫人数人に声をかけて開いていた。
「そう言えば、ペータル・ラーネリード侯爵は奥様に男子が生まれなくて、結局ご自分の甥を養子にして跡継ぎにするそうよ」
「まぁ、そうなの? でも、よくあることよね。マーリン様のところも安心ですわね。アーネル伯爵の弟バート様にはとても優秀な二人の男の子がいるから、どちらかをアーリン様の娘と結婚させればいいのですわ」
「でも、夫は自分の息子を跡継ぎにしたいと言うの。今度こそ夫の為に産んであげたいけれど・・・・・・どうしたら男子が産めるのかしら」
「こればっかりは神のみぞ知る、というやつよ。もし、産む子供の性別がわかって変えることができたら奇跡ですもの」
「そんなに思い詰めることはないわ。だって、マーリン様はまだ若いし大丈夫よ。これからきっと男の子を授かるわ」
「えぇ、ありがとう」
わたくしはどうしても男の子が産みたい。
「いいかい? おぼえているよね? 今度こそ男子を産んでくれ!」
また妊娠したわたくしに夫は強い口調で言った。
「この役立たずが! 女ばかり産む女などに用はない。わたしには幸い愛人がいる。ちょうど妊娠がわかったところだったのだ。ここから出て行き、アーネル伯爵夫人の座を譲れ」
夫の希望を叶えられずに、わたくしはまた女の子を産み罵倒された。産後まもなく体調も回復しないままに、屋敷を追い出されてしまう。
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(どうしよう。しばらく疎遠にしていたくせに、いきなり訪ねてきて迷惑だと思われたら・・・・・・)
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「まぁ、マーリン様じゃないの。あらあら、おチビちゃん達も久しぶりね。ずいぶん大きくなったこと。あら、それにまたもう一人赤ちゃん? 女の子なのね? 可愛いこと! あたくしが抱っこしてあげましょうね。さぁ、お入りなさい。今、ちょうどお茶をいただこうとしていたところよ。おチビちゃん達には焼きたてマフィンを食べさせてあげましょうね」
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