1 / 12
1
わたくしはマーリン。アーネル伯爵の妻だ。わたくしと夫との間には子供が二人いる。どちらも女の子で、それはもう可愛い子供達。でも、夫が声をかけるのは長女のテオドーラだけだ。
「なぜ、次女のアンネリにも話しかけてくださらないのですか? 同じくオリヤン様の子供ではありませんか?」
「同じではないよ。長女は女の子として必要な子供だった。でも女の子は一人で充分だ。直系の男子しか爵位を継げないのは君も知っているよな? 女の子では意味がないんだよ」
「申し訳ありません。ですが、それではアンネリが可哀想すぎませんか?」
「は? わたしの方がよほど可哀想だろう? まだ跡継ぎにも恵まれず、女しか産めない妻を持つ可哀想な男と、笑い者になっている」
「笑い者などに、なぜなるのですか? もし、男子が産まれなかったとしても、オリヤン様の弟バート様には男子が二人もいますわ。娘の婿養子にして、継いでいただければそれでよろしいのでは?」
「バカなことを抜かすな! わたしはバートの子ではなく、自分の息子に跡継ぎになって欲しいのだ。いいか? 次に妊娠したら絶対に男子を産むのだ」
わたくしはその迫力に怖じ気づき、しばらくは声を出すこともできない。娘二人はまだ幼いながら、オリヤンに好かれていないことを感じ取っていた。
「わたし達が男の子に産まれなかったから、お父様はかわいがってくださらないのですね?」
テオドーラは唇を噛みしめた。
「おかーしゃま、ごめんね。あたち、おとこのこじゃなくて」
アンネリはまだ幼くて、よくわからないのにわたくしに謝る。
子供にこのようなことを言わせるわたくしが情けない。わたくしの実家はローセンブラード男爵家で両親はすでに他界している為、夫に侮られることが多かったのだ。
お茶会を週に一度、仲の良い夫人数人に声をかけて開いていた。
「そう言えば、ペータル・ラーネリード侯爵は奥様に男子が生まれなくて、結局ご自分の甥を養子にして跡継ぎにするそうよ」
「まぁ、そうなの? でも、よくあることよね。マーリン様のところも安心ですわね。アーネル伯爵の弟バート様にはとても優秀な二人の男の子がいるから、どちらかをアーリン様の娘と結婚させればいいのですわ」
「でも、夫は自分の息子を跡継ぎにしたいと言うの。今度こそ夫の為に産んであげたいけれど・・・・・・どうしたら男子が産めるのかしら」
「こればっかりは神のみぞ知る、というやつよ。もし、産む子供の性別がわかって変えることができたら奇跡ですもの」
「そんなに思い詰めることはないわ。だって、マーリン様はまだ若いし大丈夫よ。これからきっと男の子を授かるわ」
「えぇ、ありがとう」
わたくしはどうしても男の子が産みたい。
「いいかい? おぼえているよね? 今度こそ男子を産んでくれ!」
また妊娠したわたくしに夫は強い口調で言った。
「この役立たずが! 女ばかり産む女などに用はない。わたしには幸い愛人がいる。ちょうど妊娠がわかったところだったのだ。ここから出て行き、アーネル伯爵夫人の座を譲れ」
夫の希望を叶えられずに、わたくしはまた女の子を産み罵倒された。産後まもなく体調も回復しないままに、屋敷を追い出されてしまう。
幼子二人と乳飲み子を抱え、実家のローセンブラード男爵家を訪ねた。幼い頃から仕えてくれた家令がわたくしを出迎え、義理の姉サーラ様を呼びに行く。
(どうしよう。しばらく疎遠にしていたくせに、いきなり訪ねてきて迷惑だと思われたら・・・・・・)
3人の子供の母親だというのに、泣きそうになったわたくしはとても弱い女だ。
「まぁ、マーリン様じゃないの。あらあら、おチビちゃん達も久しぶりね。ずいぶん大きくなったこと。あら、それにまたもう一人赤ちゃん? 女の子なのね? 可愛いこと! あたくしが抱っこしてあげましょうね。さぁ、お入りなさい。今、ちょうどお茶をいただこうとしていたところよ。おチビちゃん達には焼きたてマフィンを食べさせてあげましょうね」
サーラ様に赤ちゃんを抱いてもらい、久しぶりにかけられた優しい言葉に、わたくしはつい涙腺が緩み泣き出してしまうのだった。
「なぜ、次女のアンネリにも話しかけてくださらないのですか? 同じくオリヤン様の子供ではありませんか?」
「同じではないよ。長女は女の子として必要な子供だった。でも女の子は一人で充分だ。直系の男子しか爵位を継げないのは君も知っているよな? 女の子では意味がないんだよ」
「申し訳ありません。ですが、それではアンネリが可哀想すぎませんか?」
「は? わたしの方がよほど可哀想だろう? まだ跡継ぎにも恵まれず、女しか産めない妻を持つ可哀想な男と、笑い者になっている」
「笑い者などに、なぜなるのですか? もし、男子が産まれなかったとしても、オリヤン様の弟バート様には男子が二人もいますわ。娘の婿養子にして、継いでいただければそれでよろしいのでは?」
「バカなことを抜かすな! わたしはバートの子ではなく、自分の息子に跡継ぎになって欲しいのだ。いいか? 次に妊娠したら絶対に男子を産むのだ」
わたくしはその迫力に怖じ気づき、しばらくは声を出すこともできない。娘二人はまだ幼いながら、オリヤンに好かれていないことを感じ取っていた。
「わたし達が男の子に産まれなかったから、お父様はかわいがってくださらないのですね?」
テオドーラは唇を噛みしめた。
「おかーしゃま、ごめんね。あたち、おとこのこじゃなくて」
アンネリはまだ幼くて、よくわからないのにわたくしに謝る。
子供にこのようなことを言わせるわたくしが情けない。わたくしの実家はローセンブラード男爵家で両親はすでに他界している為、夫に侮られることが多かったのだ。
お茶会を週に一度、仲の良い夫人数人に声をかけて開いていた。
「そう言えば、ペータル・ラーネリード侯爵は奥様に男子が生まれなくて、結局ご自分の甥を養子にして跡継ぎにするそうよ」
「まぁ、そうなの? でも、よくあることよね。マーリン様のところも安心ですわね。アーネル伯爵の弟バート様にはとても優秀な二人の男の子がいるから、どちらかをアーリン様の娘と結婚させればいいのですわ」
「でも、夫は自分の息子を跡継ぎにしたいと言うの。今度こそ夫の為に産んであげたいけれど・・・・・・どうしたら男子が産めるのかしら」
「こればっかりは神のみぞ知る、というやつよ。もし、産む子供の性別がわかって変えることができたら奇跡ですもの」
「そんなに思い詰めることはないわ。だって、マーリン様はまだ若いし大丈夫よ。これからきっと男の子を授かるわ」
「えぇ、ありがとう」
わたくしはどうしても男の子が産みたい。
「いいかい? おぼえているよね? 今度こそ男子を産んでくれ!」
また妊娠したわたくしに夫は強い口調で言った。
「この役立たずが! 女ばかり産む女などに用はない。わたしには幸い愛人がいる。ちょうど妊娠がわかったところだったのだ。ここから出て行き、アーネル伯爵夫人の座を譲れ」
夫の希望を叶えられずに、わたくしはまた女の子を産み罵倒された。産後まもなく体調も回復しないままに、屋敷を追い出されてしまう。
幼子二人と乳飲み子を抱え、実家のローセンブラード男爵家を訪ねた。幼い頃から仕えてくれた家令がわたくしを出迎え、義理の姉サーラ様を呼びに行く。
(どうしよう。しばらく疎遠にしていたくせに、いきなり訪ねてきて迷惑だと思われたら・・・・・・)
3人の子供の母親だというのに、泣きそうになったわたくしはとても弱い女だ。
「まぁ、マーリン様じゃないの。あらあら、おチビちゃん達も久しぶりね。ずいぶん大きくなったこと。あら、それにまたもう一人赤ちゃん? 女の子なのね? 可愛いこと! あたくしが抱っこしてあげましょうね。さぁ、お入りなさい。今、ちょうどお茶をいただこうとしていたところよ。おチビちゃん達には焼きたてマフィンを食べさせてあげましょうね」
サーラ様に赤ちゃんを抱いてもらい、久しぶりにかけられた優しい言葉に、わたくしはつい涙腺が緩み泣き出してしまうのだった。
あなたにおすすめの小説
「退屈な女だ」と婚約破棄されたので去りましたが、翌日から国政が止まったそうです。え、私はもう存じませんけど?
にたまご
恋愛
公爵令嬢クラーラは、ユリウス王太子殿下に婚約を破棄された。
「退屈な女だ」「何の取り柄もない」と。
否定はしない。
けれど殿下が知らないだけで、通商条約も予算案も外交書簡も、この国の政務の大半を六年間匿名で回していたのは──この「退屈な女」だ。
婚約破棄の翌朝、宰相補佐官のレオンが焼き菓子と四十二件の緊急報告を携えて公爵邸を訪れる。
「貴女がいなくなった王宮は、控えめに申し上げて、地獄です」
──存じません。私はもう、ただの無職ですので。
学園は悪役令嬢に乗っ取られた!
こもろう
恋愛
王立魔法学園。その学園祭の初日の開会式で、事件は起こった。
第一王子アレクシスとその側近たち、そして彼らにエスコートされた男爵令嬢が壇上に立ち、高々とアレクシス王子と侯爵令嬢ユーフェミアの婚約を破棄すると告げたのだ。ユーフェミアを断罪しはじめる彼ら。しかしユーフェミアの方が上手だった?
悪役にされた令嬢が、王子たちにひたすらざまあ返しをするイベントが、今始まる。
登場人物に真っ当な人間はなし。ご都合主義展開。
あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです
じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」
アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。
金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。
私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。
愛してくれないのなら愛しません。
火野村志紀
恋愛
子爵令嬢オデットは、レーヌ伯爵家の当主カミーユと結婚した。
二人の初対面は最悪でオデットは容姿端麗のカミーユに酷く罵倒された。
案の定結婚生活は冷え切ったものだった。二人の会話は殆どなく、カミーユはオデットに冷たい態度を取るばかり。
そんなある日、ついに事件が起こる。
オデットと仲の良いメイドがカミーユの逆鱗に触れ、屋敷に追い出されそうになったのだ。
どうにか許してもらったオデットだが、ついに我慢の限界を迎え、カミーユとの離婚を決意。
一方、妻の計画など知らずにカミーユは……。
【完結】親の理想は都合の良い令嬢~愛されることを諦めて毒親から逃げたら幸せになれました。後悔はしません。
涼石
恋愛
毒親の自覚がないオリスナ=クルード子爵とその妻マリア。
その長女アリシアは両親からの愛情に飢えていた。
親の都合に振り回され、親の決めた相手と結婚するが、これがクズな男で大失敗。
家族と離れて暮らすようになったアリシアの元に、死の間際だという父オリスナが書いた手紙が届く。
その手紙はアリシアを激怒させる。
書きたいものを心のままに書いた話です。
毒親に悩まされている人たちが、一日でも早く毒親と絶縁できますように。
本編終了しました。
本編に登場したエミリア視点で追加の話を書き終えました。
本編を補足した感じになってます。@全4話
【完結】そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして
Rohdea
恋愛
──婚約者の王太子殿下に暴言?を吐いた後、彼から逃げ出す事にしたのですが。
公爵令嬢のリスティは、幼い頃からこの国の王子、ルフェルウス殿下の婚約者となるに違いない。
周囲にそう期待されて育って来た。
だけど、当のリスティは王族に関するとある不満からそんなのは嫌だ! と常々思っていた。
そんなある日、
殿下の婚約者候補となる令嬢達を集めたお茶会で初めてルフェルウス殿下と出会うリスティ。
決して良い出会いでは無かったのに、リスティはそのまま婚約者に選ばれてしまう──
婚約後、殿下から向けられる態度や行動の意味が分からず困惑する日々を送っていたリスティは、どうにか殿下と婚約破棄は出来ないかと模索するも、気づけば婚約して1年が経っていた。
しかし、ちょうどその頃に入学した学園で、ピンク色の髪の毛が特徴の男爵令嬢が現れた事で、
リスティの気持ちも運命も大きく変わる事に……
※先日、完結した、
『そんなに嫌いなら婚約破棄して下さい! と口にした後、婚約者が記憶喪失になりまして』
に出て来た王太子殿下と、その婚約者のお話です。
お飾り妻は天井裏から覗いています。
七辻ゆゆ
恋愛
サヘルはお飾りの妻で、夫とは式で顔を合わせたきり。
何もさせてもらえず、退屈な彼女の趣味は、天井裏から夫と愛人の様子を覗くこと。そのうち、彼らの小説を書いてみようと思い立って……?