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しおりを挟むヴァルナル? そういえばわたしの甥も同じ名前だが、まさかな。偶然だろうが、あまりいい気はしない。だが、その書類を読んでいくうちにわたしは倒れそうになる。まずは利息が法外なのだ。10日で5割の利子だと? あり得ない。借りた金額は5,000万ダラ(1ダラ=1円)で、すでに手渡し済みと記載してあった。
(手渡し済み? 待て、わたしは1ダラも受け取っていないぞ)
ロバートは、いなくなっただけではない。金を持ち逃げしたのだ。
(なんてことだ・・・・・・どうしたらいい? このヴァルナ・スピノージを訪ねて事情を話し、なんとか返済の猶予をもらわなくては)
慌ててスピノージ家に”訪問伺い”の使者を出す。あっさり断られ、訪問日を決めるやり取りが何回も続く。完全にわたしは見下されていた。
結局、訪問許可がおりたのは5日後だ。焦る気持ちで夜も眠れない日々が続く。
約束の日、スピノージ家に向かい、そのあまりの豪邸ぶりに圧倒された。庭園もアーネル伯爵家の3倍はあり、外国の珍しい花々が咲き乱れ、金がうなるほどあるのがわかる。それなのに10日で5割の利息を取るなんて、なんたるがめつさ!
広い応接室に通されたが、なぜか中央に衝立があり、やけに幼い声がわたしに呼びかける。
「アーネル伯爵。僕に要件とはなんですか?」
「実はお借りしたお金なのですが、間に入った男が持ち逃げしてしまい、わたしはお金を手にしていないのです」
「ふーーん。それで?」
「それでって・・・・・・ですから、わたしはあのロバートに騙されたわけで、あの契約を少し見直していただけませんか? 利息変更と返済期限の半年を10年に延長してください。返済期限までに全額返済に至らない場合は、屋敷と爵位を譲るというのもむちゃくちゃな条件だと思います。さらにその評価額が返済額に満たない場合は、強制労働所で働くとなっていました。わたしの足は動かないのですよ。働けるわけがない。わたしは被害者なんだ!」
「は? あなたが被害者ということが、この僕になんの関係がありますか? 騙されたのはそちらの事情だし、そんな男を代理人にしたあなたに責任がある。こちらになんの瑕疵もない限り、あの契約書の変更は一切認めないよ。強制労働所には、借金を背負った者が働く施設が複数あると聞いています。手さえ動けばできる作業もたくさんあるらしい。そこで朝から晩まで働いてください」
どう聞いても大人に聞こえない声音に首を傾げる。少年のような気がするし、この声には聞き覚えがある気がした。
「クスクス、かっこわるっーー」
「ふふふ。ばっかみたい」
二人の少女の声をわたしは明らかに知っている。
「その声はまさかテオドーラとアンネリか?」
衝立に近づき、それを乱暴に手でずらす。
そこにはやはり、わたしの娘のテオドーラと甥のヴァルナルが4人がけ用ソファに並んで座っていた。
左右の一人がけ用ソファには、弟のバートとスピノージ侯爵もいる。アンネリもクリストフェルと二人がけ用ソファに仲良く並んで座り、こちらを面白そうに見つめていた。
「どういうことだ、これは? なんでお前達がいるんだ」
「やれやれ。兄上はわたしになにも興味がなかったようですね? わたしの亡くなった妻は、ジェリカ・スピノージ侯爵令嬢でした。ここの一人娘ですよ。そういえば、兄上はわたしの結婚式にも来ませんでしたね」
「・・・・・・そんな・・・・・・。ということは跡継ぎは?」
「伯父上、僕がこのスピノージ侯爵家の跡取りです。こちらは僕のお祖父様のスピノージ侯爵ですよ。因みに僕とテオドーラは婚約します。だから、テオドーラを泣かせたお前は絶対に許さないからな」
ヴァルナルの瞳は少年というよりは、すでに大貴族の後継者に相応しい理知的で冷酷な輝きを放ち、圧倒的な支配者のオーラにわたしは愕然としたのだった。
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