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灰色に染まった髪と二度と戻らない幸せな家族の風景
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愛人のリリィは平民の娘だという。黒髪黒目のふっくらした頬に浮かぶえくぼが愛らしい。リリィはレイラ準男爵家に来た当初から遠慮がちだった。私にも、しきりに謝っていた。
「すみません。お部屋を奪ってしまって。伯爵家のお嬢様だったなんて凄いですね。どうか、仲良くしてください。ほんとにすみません」
謝罪の言葉をしきりに口にする。
「リリィさん。そんな女に謝ることはないよ。跡継ぎを産むリリィさんの方が偉いのだからね」
「で、でも、グレイス様が私を睨んでいるものですから・・・・・・怖くて」
「なんですって。グレイスの性格の悪さにも困ったものだわ」
リリィを睨んだ覚えなどまるでない私は、ただ俯いてこの会話が終わるのを待つしかなかった。
私の朝は早い。すっかり雑用女になった私は井戸から水をくんでくると火を起こし、料理の準備をするのだ。掃除をしながら食事の支度を調え、やっとリリィ達が起きてくる頃に一仕事終えた私は、雑用女の部屋でパンをかじる。
夫とリリィやお姑様、お舅様の和やかな笑い声が食堂から聞こえてくる。ほんの少しのハムと、スープを自室に持ち込んで、一人ぼっちで食べる食事にも慣れてきた。
*:.。 。.:*・゚✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*
リリィのお腹が少しづつ膨らみ出す。それにつれて、お姑様はリリィをますます甘やかすようになっていった。
「リリィさん。なにか食べたい物はある? グレイスに作らせるわ。この女は元高位貴族のわりに、お料理が上手なのよ。グレイス、リリィさんのために果物でも剥きなさいよ。気が利かないわね」
「は、はい」
私は、リンゴを剥いてお出しする。
「私が言わなくても、リリィの為になにができるか常に考えて行動しなさい。リリィはお前の代わりに子供を産んでくれるんだから。役立たずの嫁だね。無駄に美しいのも余計に憎らしいわ! その金髪も見たくないよ! 灰色にでも染めて目立たないようにしておくれ!リリィさんが可哀想じゃないか」
お姑様は私の頭に灰色の染料をかけた。リリィは、気の毒そうな表情を作り夫は私を見てもいない。リリィのお腹を撫でて話しかけるのに忙しいからだ。
私は、髪を洗い直し鏡を見た。美しかった金髪はまだらな灰色になり、ところどころは金髪が残り、不気味にさえ見える色合いになっていた。この髪では、どこにも外出はできない。この世界では髪は女の命とさえも言われている大切なものだから・・・・・・
子供ができないことは、申し訳ないことだと思う。けれど、それは私の罪なのだろうか? 女はそれだけの価値しかないの? 子供を産むことだけが全てじゃないはずなのに・・・・・・
私は、お父様もお母様もお元気だった頃を思い出す。あの頃のカリブ伯爵家の食卓は、季節のフルーツが盛られ、コックが焼いた肉や魚はどれも美味しかった。贅沢なドレスや傅く侍女達。それを当たり前だと思っていた。なにより、食卓には笑いが溢れ、お母様は私に優しく話しかけお父様は他愛もない冗談を言ったあの暖かい光景。それが戻ることは決してない。
それがどんなに幸せなことだったのかは失って初めて気がつくものね。・・・・・・あの暖かい家族はもういない・・・・・・
翌日、お姑様は顔を輝かせておっしゃったのだった。
「有名な冒険者様と勇者様がこの町に来るらしいよ。なんて素晴らしいことだろう。その頃には子供も産まれていそうだ。ぜひ、祝福していただかないとね! 勇者様に抱っこしてもらうと、強運の持ち主になるというしね」
「すみません。お部屋を奪ってしまって。伯爵家のお嬢様だったなんて凄いですね。どうか、仲良くしてください。ほんとにすみません」
謝罪の言葉をしきりに口にする。
「リリィさん。そんな女に謝ることはないよ。跡継ぎを産むリリィさんの方が偉いのだからね」
「で、でも、グレイス様が私を睨んでいるものですから・・・・・・怖くて」
「なんですって。グレイスの性格の悪さにも困ったものだわ」
リリィを睨んだ覚えなどまるでない私は、ただ俯いてこの会話が終わるのを待つしかなかった。
私の朝は早い。すっかり雑用女になった私は井戸から水をくんでくると火を起こし、料理の準備をするのだ。掃除をしながら食事の支度を調え、やっとリリィ達が起きてくる頃に一仕事終えた私は、雑用女の部屋でパンをかじる。
夫とリリィやお姑様、お舅様の和やかな笑い声が食堂から聞こえてくる。ほんの少しのハムと、スープを自室に持ち込んで、一人ぼっちで食べる食事にも慣れてきた。
*:.。 。.:*・゚✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*
リリィのお腹が少しづつ膨らみ出す。それにつれて、お姑様はリリィをますます甘やかすようになっていった。
「リリィさん。なにか食べたい物はある? グレイスに作らせるわ。この女は元高位貴族のわりに、お料理が上手なのよ。グレイス、リリィさんのために果物でも剥きなさいよ。気が利かないわね」
「は、はい」
私は、リンゴを剥いてお出しする。
「私が言わなくても、リリィの為になにができるか常に考えて行動しなさい。リリィはお前の代わりに子供を産んでくれるんだから。役立たずの嫁だね。無駄に美しいのも余計に憎らしいわ! その金髪も見たくないよ! 灰色にでも染めて目立たないようにしておくれ!リリィさんが可哀想じゃないか」
お姑様は私の頭に灰色の染料をかけた。リリィは、気の毒そうな表情を作り夫は私を見てもいない。リリィのお腹を撫でて話しかけるのに忙しいからだ。
私は、髪を洗い直し鏡を見た。美しかった金髪はまだらな灰色になり、ところどころは金髪が残り、不気味にさえ見える色合いになっていた。この髪では、どこにも外出はできない。この世界では髪は女の命とさえも言われている大切なものだから・・・・・・
子供ができないことは、申し訳ないことだと思う。けれど、それは私の罪なのだろうか? 女はそれだけの価値しかないの? 子供を産むことだけが全てじゃないはずなのに・・・・・・
私は、お父様もお母様もお元気だった頃を思い出す。あの頃のカリブ伯爵家の食卓は、季節のフルーツが盛られ、コックが焼いた肉や魚はどれも美味しかった。贅沢なドレスや傅く侍女達。それを当たり前だと思っていた。なにより、食卓には笑いが溢れ、お母様は私に優しく話しかけお父様は他愛もない冗談を言ったあの暖かい光景。それが戻ることは決してない。
それがどんなに幸せなことだったのかは失って初めて気がつくものね。・・・・・・あの暖かい家族はもういない・・・・・・
翌日、お姑様は顔を輝かせておっしゃったのだった。
「有名な冒険者様と勇者様がこの町に来るらしいよ。なんて素晴らしいことだろう。その頃には子供も産まれていそうだ。ぜひ、祝福していただかないとね! 勇者様に抱っこしてもらうと、強運の持ち主になるというしね」
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