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1 オリーブの初恋
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私はオリーブ・ハーパー。貴族ではないがお父様は大きな商会を経営しており、頻繁にハーパー邸でパーティを催していた。
そこに必ず両親と出席する銀髪アメジストの瞳の男の子。その美しさと子供ながらに洗練された物腰は、ひときわ目立ち私は思わず見とれた。けれど引っ込み思案の私は挨拶を交わすだけで精一杯。到底自分から話しかけることなどできない。
招待客はお父様の取引先の商人達と貴族の方々が半々だった。貴族達はいつもお父様にしつこくまとわりついて、しきりに話しかけている。
「昔と違って今は貴族でもふんぞり返っているだけでは生活できないからね。事業経営で利益を出していかないと領地からの税収だけではきついのさ。だからハーパー家に取り入りたい。家柄や血筋だけを強みに、それだけで生きていける時代はもうすぐ終わる」
お兄様は私にそう教えてくださった。
★*☆*
やがてお兄様はノヴォトニー学園に留学した。この学園は各国から特に優秀な男子だけが通うことを許される名門校だった。いつも私を守ってくれていたお兄様がいなくなると、私はたちまち招待客である貴族の令嬢達に意地悪をされてしまう。
彼女達はお父様やお母様の前では私にとても愛想がいい。けれど、大人達がいなくなると途端に私に冷たい言葉をぶつけてくるのだ。
「貴族でもない商人の娘が私達と同格だと思わないでよね! 私達貴族には青い血が流れているのよ」
蔑むような眼差しで庭園にいた私に近づいてきた女の子達。彼女達は私よりも少しだけ背が高く大人びていたので、私はすっかり怖じ気づいてしまった。
「青い血?」
「そうよ! あなたはそんなに日焼けをしていて、下品で恥ずかしいことだと思わないの?」
「日焼け・・・・・・お母様が子供はお外でたくさん遊びなさい、とおっしゃったから・・・・・・」
「あなたのお母様もお父様も平民だから貴族の常識を知らないのよね? 女の子が日焼けをするなんてあり得ないのよ! ハーパー夫人も、まるで洗濯女みたいに日焼けしているわ。下品で卑しい母娘ねぇ。ハーパー家は金儲けだけが上手い成り上がり者だって、お母様が言ってたわよ。青い血が流れていないくせに偉そうにばかりしているって!」
「・・・・・・私のお母様は下品なんかじゃない・・・・・・うっ、ふぇっ・・・・・・偉そうになんかしてないわ」
悔しくて悲しくて唇を噛みしめるけれど、涙は我慢できずに頬をつたう。
「スカーレット! こんなところでなにをやっているのさ。弱い者いじめは感心しないなぁ」
その声に振り返ると、あの男の子がこちらに向かって歩いてくるところだった。
「あら、これは違うわ。いじめてなんかいないのよ。誤解よ」
「ふーーん。ところでさ、その青い血は、不健康だということは知っていたかい? 静脈の青が透けて見えるほど肌が白いってことは遺伝もあるけれど、その多くは部屋に引きこもって太陽の光を浴びないからさ。医学の進んだ隣国バートランドでは日光浴はとても大事だという論文が発表されている。色が白いことだけを自慢する時代は終わったんだよ」
「そう、それはすごいわね。でも、もうそんな話はどうでもいいわよ。一緒に大広間に戻りましょう」
「君達だけで戻れば良い。僕はこの子としばらくここにいるよ」
「そんな子、放っておけばいいわよ」
リーダー格らしいスカーレットと呼ばれた子が私を睨み付ける。
「スカーレット、君はその性格を直した方がいいよ。僕はここに残る」
彼は私に微笑みかけてそっと私の手にハンカチをのせた。スカーレットは不満げに顔をゆがめてその場を去って行った。
「もう泣かないで。そのハンカチを使っていいからね。そんなに泣くとせっかくのかわいい顔が台無しだよ」
「・・・・・・可愛い? 私、日焼けなんかして下品だって言われて・・・・・・うぇっ・・・・・・うっ、うっ」
「本当に酷いことを言うよね。僕は健康的な君の小麦色の肌はとても綺麗だと思う」
「・・・・・・ありがとう・・・・・・」
パーティが終わり招待客が皆帰っていったその後に、ハンカチを返すのを忘れていることに気がついた私。お母様にさきほどのことを話してハンカチを見せる。
「シュナイダー伯爵家の紋章ね。綺麗に洗って、またパーティでお会いした時にお返ししなさいな」
お母様はハンカチの刺繍を見ておっしゃった。
★*☆*
2週間後に行われたパーティでまた彼に会えた時は、嬉しくてドキドキしてハンカチを返す手が震えた。
「綺麗に洗って返してくれたんだね。シャボンの良い香りがする。それにこれはなにかな?」
「これはほんのお礼よ。私がお母様と一緒に作ったクッキーなの」
クッキーを受け取ってもらえなかったらどうしよう、と不安がこみ上げる。
拒絶されたら泣いちゃうかもしれない。
お願い、受け取って・・・・・・
「ありがとう! すごく嬉しいよ。甘い物は大好きなんだ。今、食べてもいい? 一緒に四阿で食べようよ」
彼は心から嬉しそうに微笑んでくれた。
手を差し出す彼。その手にそっと自分の手を重ねる私。しっかりと手を繋いで四阿に向かうなか、夢見心地でいつもの庭園が別世界のように輝く。
見慣れた花なのにいつもよりずっと綺麗に見えたし、肌を撫でる風もいつもよりふんわりと優しく感じられた。この気持ちはなぁに?
★*☆*
それからは、彼とパーティで会えることがとても楽しみになった。彼がいれば苦手なパーティも我慢できる。彼は物知りで本がとても好きだった。
私達はいつも庭園の四阿で読んだ本の内容を何時間でも語り合い、お互いの意見をかわした。彼は大人が読むような難しい論文などもスラスラと読めて、私に新しい知識をたくさん教えてくれた。もちろん、その年齢に相応しい冒険物の小説なども話してくれて・・・・・・私は彼の穏やかな口調と優しい眼差しが大好きになっていく。
彼と一緒にいるとなんて楽しいの!
ずっと一緒にいられたら良いのに。
私は彼が大好き!
そこに必ず両親と出席する銀髪アメジストの瞳の男の子。その美しさと子供ながらに洗練された物腰は、ひときわ目立ち私は思わず見とれた。けれど引っ込み思案の私は挨拶を交わすだけで精一杯。到底自分から話しかけることなどできない。
招待客はお父様の取引先の商人達と貴族の方々が半々だった。貴族達はいつもお父様にしつこくまとわりついて、しきりに話しかけている。
「昔と違って今は貴族でもふんぞり返っているだけでは生活できないからね。事業経営で利益を出していかないと領地からの税収だけではきついのさ。だからハーパー家に取り入りたい。家柄や血筋だけを強みに、それだけで生きていける時代はもうすぐ終わる」
お兄様は私にそう教えてくださった。
★*☆*
やがてお兄様はノヴォトニー学園に留学した。この学園は各国から特に優秀な男子だけが通うことを許される名門校だった。いつも私を守ってくれていたお兄様がいなくなると、私はたちまち招待客である貴族の令嬢達に意地悪をされてしまう。
彼女達はお父様やお母様の前では私にとても愛想がいい。けれど、大人達がいなくなると途端に私に冷たい言葉をぶつけてくるのだ。
「貴族でもない商人の娘が私達と同格だと思わないでよね! 私達貴族には青い血が流れているのよ」
蔑むような眼差しで庭園にいた私に近づいてきた女の子達。彼女達は私よりも少しだけ背が高く大人びていたので、私はすっかり怖じ気づいてしまった。
「青い血?」
「そうよ! あなたはそんなに日焼けをしていて、下品で恥ずかしいことだと思わないの?」
「日焼け・・・・・・お母様が子供はお外でたくさん遊びなさい、とおっしゃったから・・・・・・」
「あなたのお母様もお父様も平民だから貴族の常識を知らないのよね? 女の子が日焼けをするなんてあり得ないのよ! ハーパー夫人も、まるで洗濯女みたいに日焼けしているわ。下品で卑しい母娘ねぇ。ハーパー家は金儲けだけが上手い成り上がり者だって、お母様が言ってたわよ。青い血が流れていないくせに偉そうにばかりしているって!」
「・・・・・・私のお母様は下品なんかじゃない・・・・・・うっ、ふぇっ・・・・・・偉そうになんかしてないわ」
悔しくて悲しくて唇を噛みしめるけれど、涙は我慢できずに頬をつたう。
「スカーレット! こんなところでなにをやっているのさ。弱い者いじめは感心しないなぁ」
その声に振り返ると、あの男の子がこちらに向かって歩いてくるところだった。
「あら、これは違うわ。いじめてなんかいないのよ。誤解よ」
「ふーーん。ところでさ、その青い血は、不健康だということは知っていたかい? 静脈の青が透けて見えるほど肌が白いってことは遺伝もあるけれど、その多くは部屋に引きこもって太陽の光を浴びないからさ。医学の進んだ隣国バートランドでは日光浴はとても大事だという論文が発表されている。色が白いことだけを自慢する時代は終わったんだよ」
「そう、それはすごいわね。でも、もうそんな話はどうでもいいわよ。一緒に大広間に戻りましょう」
「君達だけで戻れば良い。僕はこの子としばらくここにいるよ」
「そんな子、放っておけばいいわよ」
リーダー格らしいスカーレットと呼ばれた子が私を睨み付ける。
「スカーレット、君はその性格を直した方がいいよ。僕はここに残る」
彼は私に微笑みかけてそっと私の手にハンカチをのせた。スカーレットは不満げに顔をゆがめてその場を去って行った。
「もう泣かないで。そのハンカチを使っていいからね。そんなに泣くとせっかくのかわいい顔が台無しだよ」
「・・・・・・可愛い? 私、日焼けなんかして下品だって言われて・・・・・・うぇっ・・・・・・うっ、うっ」
「本当に酷いことを言うよね。僕は健康的な君の小麦色の肌はとても綺麗だと思う」
「・・・・・・ありがとう・・・・・・」
パーティが終わり招待客が皆帰っていったその後に、ハンカチを返すのを忘れていることに気がついた私。お母様にさきほどのことを話してハンカチを見せる。
「シュナイダー伯爵家の紋章ね。綺麗に洗って、またパーティでお会いした時にお返ししなさいな」
お母様はハンカチの刺繍を見ておっしゃった。
★*☆*
2週間後に行われたパーティでまた彼に会えた時は、嬉しくてドキドキしてハンカチを返す手が震えた。
「綺麗に洗って返してくれたんだね。シャボンの良い香りがする。それにこれはなにかな?」
「これはほんのお礼よ。私がお母様と一緒に作ったクッキーなの」
クッキーを受け取ってもらえなかったらどうしよう、と不安がこみ上げる。
拒絶されたら泣いちゃうかもしれない。
お願い、受け取って・・・・・・
「ありがとう! すごく嬉しいよ。甘い物は大好きなんだ。今、食べてもいい? 一緒に四阿で食べようよ」
彼は心から嬉しそうに微笑んでくれた。
手を差し出す彼。その手にそっと自分の手を重ねる私。しっかりと手を繋いで四阿に向かうなか、夢見心地でいつもの庭園が別世界のように輝く。
見慣れた花なのにいつもよりずっと綺麗に見えたし、肌を撫でる風もいつもよりふんわりと優しく感じられた。この気持ちはなぁに?
★*☆*
それからは、彼とパーティで会えることがとても楽しみになった。彼がいれば苦手なパーティも我慢できる。彼は物知りで本がとても好きだった。
私達はいつも庭園の四阿で読んだ本の内容を何時間でも語り合い、お互いの意見をかわした。彼は大人が読むような難しい論文などもスラスラと読めて、私に新しい知識をたくさん教えてくれた。もちろん、その年齢に相応しい冒険物の小説なども話してくれて・・・・・・私は彼の穏やかな口調と優しい眼差しが大好きになっていく。
彼と一緒にいるとなんて楽しいの!
ずっと一緒にいられたら良いのに。
私は彼が大好き!
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