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2 妊娠していたなんて……喜びと怒り
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「ライアン、お祖母様の屋敷に三日ほど行ってきますわ」
「うん、わかったよ。それはいつなんだい?」
「あとでお知らせしますわ」
私達はカールストン男爵家の本邸の奥に、夫婦だけの別邸を構えてそこで暮している。
「新婚当初は二人っきりで過ごしたいだろう? ライアン様にも気兼ねなく過ごしていただく為に、別邸を建ててあげよう」
この別邸は、私のお父様がライアン様の為に用意したようなものだ。私は男爵家の事業を引き継ぐ為に父のもとで修行中なので、本邸で過ごす時間がとても多いのだから。
別邸用に雇う侍女や侍従もライアン様に選ばせ、カールストン男爵家はライアンを婿として大事に扱っていた。しかもライアンの仕事は経理課の責任者という役職ではあったが、簡単な数字のチェックで最終的な判断はお父様にあったし、それは二重にも三重にもチェックされていたのだった。
要するに、ライアンがたいした仕事をしないで豪華な別邸の建物に住み、贅沢三昧ができるのはカールストン男爵家のお陰なのだ。
それなのに……他の女性がいるなんて……私はあの手紙の内容を一字一句、覚えているわ。実際、手帖に書き写したしね。
オーガスト侯爵家の為に、卑しいカールストン男爵家に身売りした愛しいライアンへ
愛しているわ……私達の愛は真実の愛よ。田舎男爵家の芋女なんかと結婚させてごめんね……
あぁ、思い出すだけで吐き気がしそうだった。そして、実際……吐いて倒れた。本邸にいて、お母様も側にいたのですぐに医者が呼ばれた。お父様も心配して慌てて執務室から出てきた。
「おめでとうございます! ご懐妊ですね」
死刑の宣告かと思ったぐらい動揺した。……女って大事な愛する夫のためなら子供を喜んで産めるけれど、こんな手紙を上着のポケットに入れてる男の為になんか産めっこない!
私が悲壮な顔をしていると、お母様が心配そうに眉尻を下げた。
「お母様、不倫を匂わす手紙をライアンの上着のポケットから見つけましたわ。」
「えぇーー! 不倫の手紙ですって? ……カールストン男爵家を踏みにじる真似をして……我が家は男爵で爵位は低いものの、この国のどんな貴族よりも大金持ちですよ。お金が正義と言うつもりはありませんが、なければなにもできないのも現実です」
「なんて奴だ! ライアンめ!」
私の両親は私の懐妊を喜ぶ一方で、婿に対する怒りで身を震わせたのだった。
「それで、女は誰だかわかっているのかね?」
お父様の問いかけに、私は自信をもって答えた。
「まもなくライアンがみずから、うっかり白状してくれますわ」
「うん、わかったよ。それはいつなんだい?」
「あとでお知らせしますわ」
私達はカールストン男爵家の本邸の奥に、夫婦だけの別邸を構えてそこで暮している。
「新婚当初は二人っきりで過ごしたいだろう? ライアン様にも気兼ねなく過ごしていただく為に、別邸を建ててあげよう」
この別邸は、私のお父様がライアン様の為に用意したようなものだ。私は男爵家の事業を引き継ぐ為に父のもとで修行中なので、本邸で過ごす時間がとても多いのだから。
別邸用に雇う侍女や侍従もライアン様に選ばせ、カールストン男爵家はライアンを婿として大事に扱っていた。しかもライアンの仕事は経理課の責任者という役職ではあったが、簡単な数字のチェックで最終的な判断はお父様にあったし、それは二重にも三重にもチェックされていたのだった。
要するに、ライアンがたいした仕事をしないで豪華な別邸の建物に住み、贅沢三昧ができるのはカールストン男爵家のお陰なのだ。
それなのに……他の女性がいるなんて……私はあの手紙の内容を一字一句、覚えているわ。実際、手帖に書き写したしね。
オーガスト侯爵家の為に、卑しいカールストン男爵家に身売りした愛しいライアンへ
愛しているわ……私達の愛は真実の愛よ。田舎男爵家の芋女なんかと結婚させてごめんね……
あぁ、思い出すだけで吐き気がしそうだった。そして、実際……吐いて倒れた。本邸にいて、お母様も側にいたのですぐに医者が呼ばれた。お父様も心配して慌てて執務室から出てきた。
「おめでとうございます! ご懐妊ですね」
死刑の宣告かと思ったぐらい動揺した。……女って大事な愛する夫のためなら子供を喜んで産めるけれど、こんな手紙を上着のポケットに入れてる男の為になんか産めっこない!
私が悲壮な顔をしていると、お母様が心配そうに眉尻を下げた。
「お母様、不倫を匂わす手紙をライアンの上着のポケットから見つけましたわ。」
「えぇーー! 不倫の手紙ですって? ……カールストン男爵家を踏みにじる真似をして……我が家は男爵で爵位は低いものの、この国のどんな貴族よりも大金持ちですよ。お金が正義と言うつもりはありませんが、なければなにもできないのも現実です」
「なんて奴だ! ライアンめ!」
私の両親は私の懐妊を喜ぶ一方で、婿に対する怒りで身を震わせたのだった。
「それで、女は誰だかわかっているのかね?」
お父様の問いかけに、私は自信をもって答えた。
「まもなくライアンがみずから、うっかり白状してくれますわ」
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