(完)夫の浮気相手は……でした

青空一夏

文字の大きさ
2 / 7

2 妊娠していたなんて……喜びと怒り

しおりを挟む
「ライアン、お祖母様の屋敷に三日ほど行ってきますわ」

「うん、わかったよ。それはいつなんだい?」

「あとでお知らせしますわ」

 私達はカールストン男爵家の本邸の奥に、夫婦だけの別邸を構えてそこで暮している。

「新婚当初は二人っきりで過ごしたいだろう? ライアン様にも気兼ねなく過ごしていただく為に、別邸を建ててあげよう」

 この別邸は、私のお父様がライアン様の為に用意したようなものだ。私は男爵家の事業を引き継ぐ為に父のもとで修行中なので、本邸で過ごす時間がとても多いのだから。

 別邸用に雇う侍女や侍従もライアン様に選ばせ、カールストン男爵家はライアンを婿として大事に扱っていた。しかもライアンの仕事は経理課の責任者という役職ではあったが、簡単な数字のチェックで最終的な判断はお父様にあったし、それは二重にも三重にもチェックされていたのだった。


 要するに、ライアンがたいした仕事をしないで豪華な別邸の建物に住み、贅沢三昧ができるのはカールストン男爵家のお陰なのだ。

 それなのに……他の女性がいるなんて……私はあの手紙の内容を一字一句、覚えているわ。実際、手帖に書き写したしね。


オーガスト侯爵家の為に、カールストン男爵家にした愛しいライアンへ
愛しているわ……私達の愛はよ。男爵家の女なんかと結婚させてごめんね……


 あぁ、思い出すだけで吐き気がしそうだった。そして、実際……吐いて倒れた。本邸にいて、お母様も側にいたのですぐに医者が呼ばれた。お父様も心配して慌てて執務室から出てきた。

「おめでとうございます! ご懐妊ですね」

 死刑の宣告かと思ったぐらい動揺した。……女って大事な愛する夫のためなら子供を喜んで産めるけれど、こんな手紙を上着のポケットに入れてる男の為になんか産めっこない! 

 私が悲壮な顔をしていると、お母様が心配そうに眉尻を下げた。

「お母様、不倫を匂わす手紙をライアンの上着のポケットから見つけましたわ。」

「えぇーー! 不倫の手紙ですって? ……カールストン男爵家を踏みにじる真似をして……我が家は男爵で爵位は低いものの、この国のどんな貴族よりも大金持ちですよ。お金が正義と言うつもりはありませんが、なければなにもできないのも現実です」

「なんて奴だ! ライアンめ!」


 私の両親は私の懐妊を喜ぶ一方で、婿に対する怒りで身を震わせたのだった。

「それで、女は誰だかわかっているのかね?」

 お父様の問いかけに、私は自信をもって答えた。

「まもなくライアンがみずから、うっかり白状してくれますわ」

 

 
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

ある国の王の後悔

黒木メイ
恋愛
ある国の王は後悔していた。 私は彼女を最後まで信じきれなかった。私は彼女を守れなかった。 小説家になろうに過去(2018)投稿した短編。 カクヨムにも掲載中。

元夫をはじめ私から色々なものを奪う妹が牢獄に行ってから一年が経ちましたので、私が今幸せになっている手紙でも送ろうかしら

つちのこうや
恋愛
牢獄の妹に向けた手紙を書いてみる話です。 すきま時間でお読みいただける長さです!

笑う令嬢は毒の杯を傾ける

無色
恋愛
 その笑顔は、甘い毒の味がした。  父親に虐げられ、義妹によって婚約者を奪われた令嬢は復讐のために毒を喰む。

最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる

椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。 その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。 ──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。 全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。 だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。 「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」 その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。 裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話

ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。 完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

婚約破棄された娘が彼氏が出来たことを報告する話

夢草 蝶
恋愛
 勢いしかない親子の会話。

処理中です...