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3 罠を仕掛けましょう
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「私のお祖母様が足をくじいてしまいましたの。4月1日から3日間ほどは隣国の国境にあるお祖母様の家に行きますわ」
私は、美人で有名なカサンドラ・マゼラン伯爵夫人のお茶会に招かれて、さりげなく言った。
「まぁ。それは大変だわ。どうして、そんな怪我を?」
「今流行のダンスを年がいもなく踊ったとかで……恥ずかしいのでここだけのお話ですが……」
「まぁ、あのダンスはとてもウエストを細くする効果があるらしいですわね! 私も就寝前にしていますよ」
「うふふ。今は皆があのダンスを踊っていますね」
「でも、新婚で3日間も離れるなんて寂しいのでは? ライアン様は、本当に素敵ですものねぇ?」
黒髪が艶々で緑の潤んだ瞳は、素晴らしく綺麗だ。カサンドラ様になら『芋女』呼ばわりされても諦めがつくぐらいの美女だった。
この方なのかなぁーー? でも、人の夫に手を出すような人には見えない。マゼラン伯爵ともすごく仲がいいし……おしどり夫婦と言われていた。
ꕤ୭*
「4月の4日から3日間、お祖母様の家に行く用事ができてしまいましたわ。お祖母様が手を怪我してしまって……」
「まぁ、大変ね! 大丈夫?」
「えぇ、たいした怪我ではありませんから……」
その帰りには魅力的なブロンドのヴァネッサ・エイジャ侯爵夫人に、自然な流れでそんな話を盛り込んだ。
「ふふっ、ライアン様も、もちろん一緒に?」
「いいえ。今回は私と両親で行こうと思いますわ」
「あら、あら! 一人で置いていかれるなんて可哀想に。ほほほ」
エイジャ夫人は、なまめかしく微笑んだ。この方なのかしら? すごく……色っぽいし、ブロンドの髪はキラキラと輝いている……今更ながらに自分の平凡な容姿に、悲しいため息がでたわ……
あの『芋女』の表現に、私はずっとひっかかっていた。私は美人ではないが不細工でもない。ごく平均的な容姿で、化粧を上手にすれば綺麗な部類の端っこには、いられるタイプだった。
そんな私をあそこまで悪し様に言える女は、圧倒的な美女の男爵家より家格が上の女に違いない。
ꕤ୭*
別の日のお茶会では、
可愛くて有名なエリザベス・アドルファ伯爵令嬢が7日から旅行に行くとおっしゃったので、
「まぁ、素敵! 私はあいにく4月7日から三日間、お祖母様が目を患ったのでお見舞いに行きますわ」
と、伝えた。
ライアン様と接点があり自分に自信のある綺麗な女性で、男爵より上の家格の10人ほどの女性に、それぞれ日にちをずらしてお祖母様の病名や怪我も変えて情報を流した。
ついでに、身内の可能性もあるので侍女達にも微妙に日にちをずらして伝えてみた。一番可能性の少ない一人にも……試さなければならないので……この女性には4月の15日から三日間、お祖母様は脊髄小脳変性症だと伝えた。
この人物にだけなぜ、こんな複雑な病名を言ったのかって? たまたま、それに関しての記事を雑誌で見て言ってみただけのことだ。
もちろん、周りの女性達に嘘をつくのは心苦しかったし罪悪感もあったが、それよりも相手をつきとめたい思いが勝っていた。
ꕤ୭*
そんな日々を過ごす一方、私と両親は妊娠の事実を公にはしなかった。もちろんライアン様にも知らせなかった。
「離婚は決定事項だ。愛娘を裏切った男は徹底的に潰す。ライアンのことがかたをついたら、おめでたい妊娠を発表しよう」
お父様は私に微笑んだ。
「そうよ。オダリス! 子供を授かったことはとてもおめでたいことなのよ。幸い、カールストン男爵家は潤沢な資産があります。父親などいなくても、全く問題ありませんよ」
お母様の言葉に、涙がでた。私は恵まれている……こんなふざけた真似をする夫なら、いない方がいい……私は世の中の夫に愛され大事に溺愛されながら子供を産める女を羨ましいと思いながらも、私は私だと割り切るしかなかった。
ꕤ୭*
ーー別邸にてーー
何も知らないライアン様は、私に、にっこり笑いながら、
「今日も、とても綺麗だね。私はオダリスと一緒にいれて嬉しいよ。ところで、オーガスト侯爵家の屋敷の噴水が故障してしまってね。修繕に莫大なお金がかかるんだ。カールストン男爵家が立て替えてもらえないかな? それから、私のお給料のことだが安すぎると思う」
「オーガスト侯爵家には、ライアン様が婿入りするときに3億バギーを援助金として、すでに渡してありますよね? それと、ライアン様のお給料は月に50万バギー。朝は10時から来て3時前には屋敷に帰っています。充分すぎると思いませんか?」」
「いや、思わないな。私の給料はオダリスの半分以下だろ? 夫である私がなんで妻よりお給料が少ないのかな?」
「それは……私がお父様の事業全体の副総責任者だからですわ」
「オダリスのお父様が引退したら、私がカールストン男爵家の事業の総責任者だろう? だから、来月からは4時までは事務所にいるつもりだ。そのときに、オダリスと同じ給料にしておいてね!」
ライアンは、素晴らしくいい笑顔で私に言ったのだった。
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1バギー=1円
私は、美人で有名なカサンドラ・マゼラン伯爵夫人のお茶会に招かれて、さりげなく言った。
「まぁ。それは大変だわ。どうして、そんな怪我を?」
「今流行のダンスを年がいもなく踊ったとかで……恥ずかしいのでここだけのお話ですが……」
「まぁ、あのダンスはとてもウエストを細くする効果があるらしいですわね! 私も就寝前にしていますよ」
「うふふ。今は皆があのダンスを踊っていますね」
「でも、新婚で3日間も離れるなんて寂しいのでは? ライアン様は、本当に素敵ですものねぇ?」
黒髪が艶々で緑の潤んだ瞳は、素晴らしく綺麗だ。カサンドラ様になら『芋女』呼ばわりされても諦めがつくぐらいの美女だった。
この方なのかなぁーー? でも、人の夫に手を出すような人には見えない。マゼラン伯爵ともすごく仲がいいし……おしどり夫婦と言われていた。
ꕤ୭*
「4月の4日から3日間、お祖母様の家に行く用事ができてしまいましたわ。お祖母様が手を怪我してしまって……」
「まぁ、大変ね! 大丈夫?」
「えぇ、たいした怪我ではありませんから……」
その帰りには魅力的なブロンドのヴァネッサ・エイジャ侯爵夫人に、自然な流れでそんな話を盛り込んだ。
「ふふっ、ライアン様も、もちろん一緒に?」
「いいえ。今回は私と両親で行こうと思いますわ」
「あら、あら! 一人で置いていかれるなんて可哀想に。ほほほ」
エイジャ夫人は、なまめかしく微笑んだ。この方なのかしら? すごく……色っぽいし、ブロンドの髪はキラキラと輝いている……今更ながらに自分の平凡な容姿に、悲しいため息がでたわ……
あの『芋女』の表現に、私はずっとひっかかっていた。私は美人ではないが不細工でもない。ごく平均的な容姿で、化粧を上手にすれば綺麗な部類の端っこには、いられるタイプだった。
そんな私をあそこまで悪し様に言える女は、圧倒的な美女の男爵家より家格が上の女に違いない。
ꕤ୭*
別の日のお茶会では、
可愛くて有名なエリザベス・アドルファ伯爵令嬢が7日から旅行に行くとおっしゃったので、
「まぁ、素敵! 私はあいにく4月7日から三日間、お祖母様が目を患ったのでお見舞いに行きますわ」
と、伝えた。
ライアン様と接点があり自分に自信のある綺麗な女性で、男爵より上の家格の10人ほどの女性に、それぞれ日にちをずらしてお祖母様の病名や怪我も変えて情報を流した。
ついでに、身内の可能性もあるので侍女達にも微妙に日にちをずらして伝えてみた。一番可能性の少ない一人にも……試さなければならないので……この女性には4月の15日から三日間、お祖母様は脊髄小脳変性症だと伝えた。
この人物にだけなぜ、こんな複雑な病名を言ったのかって? たまたま、それに関しての記事を雑誌で見て言ってみただけのことだ。
もちろん、周りの女性達に嘘をつくのは心苦しかったし罪悪感もあったが、それよりも相手をつきとめたい思いが勝っていた。
ꕤ୭*
そんな日々を過ごす一方、私と両親は妊娠の事実を公にはしなかった。もちろんライアン様にも知らせなかった。
「離婚は決定事項だ。愛娘を裏切った男は徹底的に潰す。ライアンのことがかたをついたら、おめでたい妊娠を発表しよう」
お父様は私に微笑んだ。
「そうよ。オダリス! 子供を授かったことはとてもおめでたいことなのよ。幸い、カールストン男爵家は潤沢な資産があります。父親などいなくても、全く問題ありませんよ」
お母様の言葉に、涙がでた。私は恵まれている……こんなふざけた真似をする夫なら、いない方がいい……私は世の中の夫に愛され大事に溺愛されながら子供を産める女を羨ましいと思いながらも、私は私だと割り切るしかなかった。
ꕤ୭*
ーー別邸にてーー
何も知らないライアン様は、私に、にっこり笑いながら、
「今日も、とても綺麗だね。私はオダリスと一緒にいれて嬉しいよ。ところで、オーガスト侯爵家の屋敷の噴水が故障してしまってね。修繕に莫大なお金がかかるんだ。カールストン男爵家が立て替えてもらえないかな? それから、私のお給料のことだが安すぎると思う」
「オーガスト侯爵家には、ライアン様が婿入りするときに3億バギーを援助金として、すでに渡してありますよね? それと、ライアン様のお給料は月に50万バギー。朝は10時から来て3時前には屋敷に帰っています。充分すぎると思いませんか?」」
「いや、思わないな。私の給料はオダリスの半分以下だろ? 夫である私がなんで妻よりお給料が少ないのかな?」
「それは……私がお父様の事業全体の副総責任者だからですわ」
「オダリスのお父様が引退したら、私がカールストン男爵家の事業の総責任者だろう? だから、来月からは4時までは事務所にいるつもりだ。そのときに、オダリスと同じ給料にしておいてね!」
ライアンは、素晴らしくいい笑顔で私に言ったのだった。
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1バギー=1円
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