無能と蔑まれた七男、前世は史上最強の魔法使いだった!?

青空一夏

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11 カイルを婿に迎えたい人々

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 ーー冒険者ギルド本部から派遣されたエリックとホアンが乗る馬車の中ーー 


 筆記試験の監察官を務めたエリック・ヒンスとホアン・エアトンは、王都への帰路につく馬車の中で極秘の会話を交わしていた。

「ホアンよ。あのカイルという少年は、いずれこの世界を掌握するほどの力を持つと思わんか?」
 エリックはホアンの耳に口を近づけてヒソヒソと話しかけた。御者や護衛の者たちに聞かれることを恐れたからだ。

「全く同感だ。あの魔法の腕前に加え、筆記試験の解答用紙には驚かされたぞ。魔獣や魔人の特性を図式化までして解説するとは、あれは教本にそのまま転用できる精密さだった」
 ホアンが答える。

「私も同じ考えだ。まるで伝説の大魔法使いアーサー様が解説してくれたように、完璧な仕上がりだった。彼の才能は宮廷魔術師どころか、世界の頂点に立つべき資質を秘めているかもしれない。私たちがついているのは、あの少年がそれを自覚していないということだ。もし彼がそれを望めばたちまち手の届かない存在になってしまうぞ。つまり、私たちの孫娘が相手にされる余地などなくなる。今のうちに何としてでも引き合わせたいものだな」
 
「そうだな。伝説の大魔法使いアーサー様がひとりの女性に一途であった例は稀だ。ほとんどの英雄や勇者、偉大なる魔法使いが多くの妻を娶るのは、この国では当たり前のこと。我らの孫娘たちをあの少年の許嫁にしておけば、これほど心強いことはない」

 この世界では、優れた男性と結婚することが女性の幸せとされていた。女性が就ける職業は限られており、多くの女性が夫の経済力に依存していたため、大富豪や権力者に一夫多妻制が認められている社会だった。財力、地位、名声が伴う者には、複数の妻を迎える権利が与えられる。それがこの国の常識であった。

 エリックとホアンは冒険者ギルド本部所属の試験監督官という立場にあったが、貴族ではなく特に財産家というわけでもない。従って、孫娘の結婚相手となる男性も、平凡なありきたりの男性になってしまう可能性が高い。

 カイルのようなその常識を凌駕する存在――唯一無二のESランク冒険者など、到底望めない立場なのだ。ESランクのカイルがこの先大活躍した後に釣り合う相手は、高位貴族の令嬢や王族である。だからこそ、エリックとホアンは、まだ自分の価値に気づいてもいないカイルを孫娘たちと引き合わせようと、馬車の中で躍起になって考えを巡らせていたのだった。




 ◆◇◆



 ーー王都冒険者ギルド本部にてーー

 王都の冒険者ギルド本部に到着した二人は、本部ギルドマスターのビショップに今回の試験結果を報告する。ここはビショップの執務室であり、重要な機密が扱われる場だ。室内には特殊な魔法が施されており、壁や空間そのものが音を吸収し、外部へ一切漏れることはない。

「今回の筆記試験で、前例のない優秀な成績を残した者がおります。さらに模擬戦闘でもSSランクを超える実力を見せ、尋常ではない魔力と技を持ちESランクと認定されました。しかし、この少年は欲が無く、宮廷魔術師になることを希望しておりません」

 ホアンが切り出すと、ビショップが眉を上げた。

「ほう、それでその者の名は?」

「カイルという少年です。彼の解答用紙は魔獣や魔人の詳細な図解を含み、教本として利用可能なレベルでした」

「ESランク……伝説のアーサー様以来か……そんな少年が現れたとあっては、国王陛下に報告せねばなるまいが、宮廷魔術師を望んでいないとなると厄介だな。陛下は我らに連れてこいと強要しかねぬし、無理やり王都に引っ張ってくるわけにもいかない」

 ビショップの言葉に、エリックは静かに頷きながらも、話を控えめに進めた。

「冒険者ギルド本部としては、カイルを慎重に支援し、国王陛下への報告はもうしばらく見送るのが得策かと存じます。陛下より叱責を受けることがあったとしても、彼はまだ若く、あまりに早く注目を集めすぎるのは時期尚早であると判断したと弁明すれば、どうにかなるでしょう。実際、彼の技量には未熟な部分も見受けられ、その実力は、いまだ大魔法使いアーサー様には遠く及びません」

 ここでエリックは、一つの嘘を紡いだ。実際のところ、カイルの魔法は伝説の魔法使いアーサーに比肩するほどの威力を誇り、その制御も完璧な域に達していた。しかし、そうであるがゆえに、このままではビショップが即座に国王陛下へ報告してしまうことは避けられない。エリックは、少しでも時間を稼ぐため、あえてカイルを過小評価する言葉を口にしたのだった。

「なるほど。分かった。引き続き報告を頼む。ESランクか……楽しみな少年だな。そういえば、私の娘にはまだ許嫁がいない。どんな少年だ?」
 冒険者ギルド本部のマスターはビショップ・ニコル男爵という。彼には年頃のひとり娘、マリーがいる。ライバルが増えることを恐れたエリックとホアンはここでも盛大な嘘を吐く。

「えぇっと……見かけは全く平凡な男でして、とてもマスターの娘様のお相手ではないかと。どちらかといえば、醜いほうなのではないかと思います。なぁ、ホアン!」

「まぁ、そうですな。あれは醜い男の部類でしょう。なんというか、私たちでも孫娘の夫には迎えたくないほどでして……」
 ホアンがその醜さを必要以上に強調したため、ビショップにはかえって興味が湧いてしまった。

「そう言えば、写影石を持たせたよな? Sランク以上の者の顔はそれで記録して保管するのが常だ。どんな男か見たい。こっちに渡してくれ」

 そのことをすっかり忘れていた二人は、渋々と写影石をビショップに渡す。

「おや? 君たちの目は節穴かね? 醜いどころか、爽やかな少年ではないか! 髪も瞳もありふれた茶色ではあるが、均整の取れた身体と端正な顔立ちをしている。高位貴族の子弟と名乗られても疑う者はいないだろう。決めた! 我が娘と引き合わせよう。ESランクともなれば、もはや規格外の逸材だ。国王陛下の目に留まる前に、許嫁の候補に加えてもらわねば……よし、早速娘を伴い、ケアニー辺境伯爵領へ向かうとしよう!」

「お待ちください。カイルは私たちが最初に目をつけたんですよ。孫娘の婿に……」
「そうですとも。ビショップ卿は貴族なのですから、令嬢の婿には高位貴族の子息を狙えばよろしいでしょう?」
「何を言う? ESランクの若者なら、この国の高位貴族どころか、いずれは世界を束ねる大人物になるかもしれない。まさに我が娘に相応しいではないか。君たちはさきほど、孫娘の婿には迎えたくないと発言した。その言葉に二言はないな? 今更、私の娘のライバルになることは許さんぞ」

 エリックとホアンはカイルの情報を偽って報告したにもかかわらず、結局はビショップに魂胆を見抜かれ、釘をさされてしまうのだった。





 仕事を終えビショップが屋敷につくと、愛娘パールと愛妻ステファニーをサロンに呼び出した。パールは金髪で瞳は琥珀色の、愛らしさも兼ね備えた綺麗な少女だ。

「ケアニー辺境伯爵領にESランクの少年が現れた。これはかの有名な伝説の大魔法使いアーサー様以来のことなのだよ。そのような素晴らしい男は、パールの夫に相応しいと思うのだが、どうかな?」

 ビショップは娘と妻にそう提案する。ステファニーはニコニコと微笑みながら、夫に答える。

「その少年次第ですわね。その方をパールが気に入れば反対はしませんわ」

「ふふっ、私もお母様と同じような意見ですわ。つまり、その少年次第です。会ってみないことには何も判断できませんし、ESランクの魔法使いでも性格や素行が悪い人は嫌ですもの」

 一見すると癒やし系の容姿なのだが、きっちりと自分の意見を言い切るパールに、ビショップは誇らしい思いで娘を見つめた。

「確かに会ってみなければわからない。そうそう、ESランクバッジをケアニー辺境伯爵領まで届けねばいかん。その際には私が赴こう。もちろん、パールも伴ってな」

「まぁ、それは素敵。ちょっとした旅行気分が味わえますわね。ここからだとどのくらいかかりますか?」

「そうだな、魔道具付きの馬車なら片道三日ほどか。まぁ、いい気分転換にもなるだろう」

 ビショップはすでに、ケアニー辺境伯爵領へ向かう準備を整えていた。ESランクという希有な逸材を見過ごすことなど、到底できはしない。なぜなら、彼自身もかつてはSSランクの冒険者として名を馳せ、数々の偉業を成し遂げてきたもののーーその功績で一代男爵を国王から賜ったーーESランクにはついぞ手が届かなかったのだ。

 もしもカイルが、伝説の大魔法使いアーサーの再来であるのならば、そのような存在にただ遠くから畏敬の念を抱くのではなく、なんとしても近しい立場で関わりたい。ビショップにとって、ESランクとは到達できなかった理想であり、憧憬そのものであったのだ。そんなわけで期待で目をキラキラさせるビショップ。

 一方、娘のパールはふんわりとした微笑を浮かべながらも冷静な口調で呟いた。

「カイル様……どんな方なのかしら。楽しみだわ」

 にっこりと微笑んだパールは、母親の爵位を継ぎ次期ボールディング女侯爵となる立場であった。ビショップの妻はボールディング女侯爵であり、社交界でも多大な影響力を誇る女傑なのである。

 そしてその母親の遺伝子を見事に引き継いだパールは、癒やし系に見えながらも実は芯のしっかりとした肝の据わった少女なのだった。



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