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1 ハービィ伯爵夫人はエリが憎い
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「このような簡単な問題も解けないのかい? 語学もまだまだだね。もっと気を引き締めて頑張りなさい! エリザベートのぶんも勉強するのよ。お前の知識がエリザベートの役に立つのだから。マナーも完璧に! なにかあったらお前がベールをかぶって代役をするのよ! これから頼む家庭教師達にもあんたにはとても厳しくするように言っておいたからねっ!」
ハービィ伯爵夫人はそう言い含めながらエリの腕や足を金属製の定規で叩いた。
しかもエリはたまに鞭で背中を叩かれることもあったのだ。なにも悪いことはしていない。ただ夫人の機嫌が悪いから、それだけの理由であった。
「あんたは旦那様がメイドに産ませた子なんだよ。だから奥様はあんたが憎いのさ」
使用人達はエリにそう言って気の毒がるが助けてくれるわけではない。気性の荒いハービィ伯爵夫人に意見できる使用人など一人もいないのである。
さらにエリの美しさは年齢とともに際立つようになり、ハービィ伯爵夫人はそれも不愉快でならないのだった。夫のハービィ伯爵は平凡な顔立ちであるが、銀髪にターコイズブルーの瞳はとても美しい。それをそっくり受け継ぎさらには母親ロザンヌの端正な顔立ちも加われば、エリは誰が見ても美少女なのである。
「腹立たしい! 私の娘より遙かに美しいなんて!」
ハービィ伯爵夫人は忌々しげに呟きエリの部屋の鏡を歪んだ写りの悪い鏡に取り替え、エリに毎日のように言って聞かせた。
「お前はとても醜いわ。皆が気絶するくらいね。だから常にこれからはベールをつけていなさい。前髪は顔が隠れるよう伸ばしなさい。その汚い顔を誰にも見せてはいけませんよ!」
エリはその言葉を信じいつもベールをつけ、まさにエリザベートの影のように暮らしたのだった。産まれてからこれが当たり前だったエリにはそれがおかしいとも悲しいとも思わなかった。
ただ、この世に産まれてきたことがとても申し訳なくて消えてしまいたいと、そう思うだけだった。
エリザベートとエリの身長は同じくらいなのに体のバランスは圧倒的にエリが美しい。だがそれを疎ましく思うハービィ伯爵夫人はわざとサイズの小さなドレスを着させた。
「手足が長過ぎなのよ。なんて不格好なの! それにその醜い顔!目が腐るわね。早くあっちに行って! お前は勉強だけしっかりしていればいいのよ。ダンスもマスターしなさいよ。最近は仮面舞踏会が流行っているから難しい複雑なダンスはエリザベートの代わりに踊ってもらうかもしれないしね。常にエリザベートが褒め称えられるようにあんたが努力するのよ!」
ハービィ伯爵夫人のむちゃくちゃな発言に使用人達は心の底では呆れていたが、もちろん誰も異論は唱えないのである。
かくしてエリザベートはとことんなにも努力しない怠け者になり面倒なことは全てエリに任せ、叱られるのも鞭でうたれるのもエリだけに集中することになるのだった。
「淫乱女の子供はきっと淫乱だからその瞳を常に伏せていなさいな。お前などずっと下を向いて暮らせばいいのよ! 産まれてはいけない私生児なんだから!」
ハービィ伯爵夫人のこの台詞はほぼ毎日繰り返される。エリは自分にはなにも価値がない、と信じ込まされるほどに頻繁に……
ハービィ伯爵夫人はそう言い含めながらエリの腕や足を金属製の定規で叩いた。
しかもエリはたまに鞭で背中を叩かれることもあったのだ。なにも悪いことはしていない。ただ夫人の機嫌が悪いから、それだけの理由であった。
「あんたは旦那様がメイドに産ませた子なんだよ。だから奥様はあんたが憎いのさ」
使用人達はエリにそう言って気の毒がるが助けてくれるわけではない。気性の荒いハービィ伯爵夫人に意見できる使用人など一人もいないのである。
さらにエリの美しさは年齢とともに際立つようになり、ハービィ伯爵夫人はそれも不愉快でならないのだった。夫のハービィ伯爵は平凡な顔立ちであるが、銀髪にターコイズブルーの瞳はとても美しい。それをそっくり受け継ぎさらには母親ロザンヌの端正な顔立ちも加われば、エリは誰が見ても美少女なのである。
「腹立たしい! 私の娘より遙かに美しいなんて!」
ハービィ伯爵夫人は忌々しげに呟きエリの部屋の鏡を歪んだ写りの悪い鏡に取り替え、エリに毎日のように言って聞かせた。
「お前はとても醜いわ。皆が気絶するくらいね。だから常にこれからはベールをつけていなさい。前髪は顔が隠れるよう伸ばしなさい。その汚い顔を誰にも見せてはいけませんよ!」
エリはその言葉を信じいつもベールをつけ、まさにエリザベートの影のように暮らしたのだった。産まれてからこれが当たり前だったエリにはそれがおかしいとも悲しいとも思わなかった。
ただ、この世に産まれてきたことがとても申し訳なくて消えてしまいたいと、そう思うだけだった。
エリザベートとエリの身長は同じくらいなのに体のバランスは圧倒的にエリが美しい。だがそれを疎ましく思うハービィ伯爵夫人はわざとサイズの小さなドレスを着させた。
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「淫乱女の子供はきっと淫乱だからその瞳を常に伏せていなさいな。お前などずっと下を向いて暮らせばいいのよ! 産まれてはいけない私生児なんだから!」
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