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2 エリは悲しい気持ちすら起きないほど傷ついている / エリザベートに興味を持ったローマン・スタンレー辺境伯
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ハービィ伯爵の領主としての能力は愚鈍でお粗末なものだったので、それほど使えるお金は多くはない。ところがハービィ伯爵夫人とエリザベートは贅沢三昧、身の丈に合った生活を少しもしないのだった。
ハービィ伯爵はそれを注意するどころか自分も率先してお金を使いまくる。それは外に囲う愛人の為であったり自分の見栄であったり……
「困ったな。いよいよ破産だ……どうしてこうなったかな」
恐ろしいほど愚かな当主に古参の有能であった執事も逃げ出す有様である。
ある日の夕食時、ハービィ伯爵は美しく成長したエリザベートを眺め、いいことを思いついたとばかりに自分の考えを口にした。
「そういえばスタンレー辺境伯と以前、狩りであ会いしたことがあったなぁ。大金持ちだが顔の半分を数年前に大やけどした気の毒な青年さ。あの顔では無理もないが、まだ独身でいらっしゃるようだ。エリザベートを嫁がせたらどうだろう?」
可愛がっているはずの娘も金の為に嫁がせようとするハービィ伯爵。
「そんな醜い男などエリザベートが可哀想ですわ。エリザベートが辛い思いをするのは納得できませんわ」
「そうよ! 嫌です! 絶対に嫌よ! そんな醜い男性の妻になどなりたくありませんわ!」
ハービィ伯爵夫人もエリザベートも猛反対。
「ふむ。しかしこのままではハービィ伯爵家に債権者が押し寄せる。貴族でいることも難しいかもわからん」
ハービィ伯爵は人ごとのように呟く。自分が領地経営を頑張りなんとかしようなどとは少しも思わないのだった。
「平民になるのだけは嫌よ! でも醜い男もごめんだわ。あぁ、いい考えがあるわ。お姉様を行かせればいいのよ」
エリザベートはにんまりと笑った。こちらも嫌なことは人に押しつける娘である。二人は似たもの親子なのだ。
「それは無理だな。我がハービィ伯爵家には一人娘のエリザベートしかいないと戸籍上ではなっておる。例えばエリをエリザベートの代わりに嫁がせたらお前はエリザベートではいられないんだぞ。ハービィ伯爵家の娘と名乗れず、偽名でこそこそ隠れて生きていく一生になるのだぞ? それに耐えられるか?」
「ひっ! 嫌よ! そんなのごめんだわ! このままハービィ伯爵家の娘として豪華な暮らしを続けたいし、結婚して贅沢もしたい。でも醜い男の相手はできないわ」
エリザベートの我が儘すぎる思いを聞きハービィ伯爵夫人はとてもゲスなアイディアを思いつく。
「夜のお勤めは影であるエリにやらせればいいわ。朝方そっと入れ替われば怪しまれないでしょう? エリに子供ができたら面倒だからこの避妊薬を飲み続けなさい。あなたが夜だけエリザベートの代わりをするのよっ! こんなときの為になんの価値もない者を育ててやったのよ? ほら、私たちに恩返しする時がきたことを感謝しなさいよ!」
「それはいい案ね、お母様! 醜い男の相手はエリにさせて、贅沢三昧の生活は私が満喫する。なんて秩序がある正しい法則かしら?」
エリザベートは楽しげにコロコロと笑ったのだった。
エリは拒絶も肯定もしない。エリの意思などないも同じだ。これは命令で決定事項なのだから。
ベールに覆われたエリの美し過ぎる顔はなんの表情も映さなかった。
悲しいと思う気持ちまで奪われたエリだったのである。
ーローマン・スタンレー辺境伯邸にてー
一方、婚姻の申し込みをハービィ伯爵家から受けたローマン・スタンレー辺境伯は迷惑気に顔を歪めた。
「ずいぶんと物好きだな。この顔の半分焼けた男の妻に娘を差し出すとは……しかし、その娘もこの顔を見ればすぐに逃げ出すだろう。まぁ、暇つぶしに結婚してみるかな。花嫁が何日で逃げだすか賭けよう!」
「ローマン様、不謹慎ですよ。まぁ、そろそろご結婚されてもいい時期ですからね。どのような娘が来るか楽しみですねぇ。まぁ、期待はしない方がいいでしょう。少しハービィ伯爵家を調べてみますね」
スタンレー辺境伯家の執事が笑いながらそう言うと静かに下がって行く。
後日、スタンレー辺境伯家の執事は眉根に皺を寄せてハービィ伯爵家の内情を語った。
「ハービィ伯爵家のエリザベート様は高慢で贅沢好きの我が儘娘らしいです。大方、父親に言われてしぶしぶやって来るのでしょうね。ハービィ伯爵家の財政は火の車ですよ」
「やはり金目当てか。そんな女はいらん。断れ!」
「はい、かしこまりました。ですが、このエリザベート様は興味深い人物ですな。高慢で贅沢三昧な我が儘お嬢様であるという情報の一方で、ほんの少数ですが清楚で優しく思いやりのあるお嬢様と評する者もいます。不思議ですな」
「ほぉ? ちょっと待て。俺はたった今、興味が湧いた。その話は喜んで受けよう! 承諾の返事を急ぎ書こう。俺はエリザベートを妻に迎える」
上機嫌で言うローマン・スタンレー辺境伯は火傷をしていない美しい半分の顔に楽しげな微笑みを浮かべたのだった。
ハービィ伯爵はそれを注意するどころか自分も率先してお金を使いまくる。それは外に囲う愛人の為であったり自分の見栄であったり……
「困ったな。いよいよ破産だ……どうしてこうなったかな」
恐ろしいほど愚かな当主に古参の有能であった執事も逃げ出す有様である。
ある日の夕食時、ハービィ伯爵は美しく成長したエリザベートを眺め、いいことを思いついたとばかりに自分の考えを口にした。
「そういえばスタンレー辺境伯と以前、狩りであ会いしたことがあったなぁ。大金持ちだが顔の半分を数年前に大やけどした気の毒な青年さ。あの顔では無理もないが、まだ独身でいらっしゃるようだ。エリザベートを嫁がせたらどうだろう?」
可愛がっているはずの娘も金の為に嫁がせようとするハービィ伯爵。
「そんな醜い男などエリザベートが可哀想ですわ。エリザベートが辛い思いをするのは納得できませんわ」
「そうよ! 嫌です! 絶対に嫌よ! そんな醜い男性の妻になどなりたくありませんわ!」
ハービィ伯爵夫人もエリザベートも猛反対。
「ふむ。しかしこのままではハービィ伯爵家に債権者が押し寄せる。貴族でいることも難しいかもわからん」
ハービィ伯爵は人ごとのように呟く。自分が領地経営を頑張りなんとかしようなどとは少しも思わないのだった。
「平民になるのだけは嫌よ! でも醜い男もごめんだわ。あぁ、いい考えがあるわ。お姉様を行かせればいいのよ」
エリザベートはにんまりと笑った。こちらも嫌なことは人に押しつける娘である。二人は似たもの親子なのだ。
「それは無理だな。我がハービィ伯爵家には一人娘のエリザベートしかいないと戸籍上ではなっておる。例えばエリをエリザベートの代わりに嫁がせたらお前はエリザベートではいられないんだぞ。ハービィ伯爵家の娘と名乗れず、偽名でこそこそ隠れて生きていく一生になるのだぞ? それに耐えられるか?」
「ひっ! 嫌よ! そんなのごめんだわ! このままハービィ伯爵家の娘として豪華な暮らしを続けたいし、結婚して贅沢もしたい。でも醜い男の相手はできないわ」
エリザベートの我が儘すぎる思いを聞きハービィ伯爵夫人はとてもゲスなアイディアを思いつく。
「夜のお勤めは影であるエリにやらせればいいわ。朝方そっと入れ替われば怪しまれないでしょう? エリに子供ができたら面倒だからこの避妊薬を飲み続けなさい。あなたが夜だけエリザベートの代わりをするのよっ! こんなときの為になんの価値もない者を育ててやったのよ? ほら、私たちに恩返しする時がきたことを感謝しなさいよ!」
「それはいい案ね、お母様! 醜い男の相手はエリにさせて、贅沢三昧の生活は私が満喫する。なんて秩序がある正しい法則かしら?」
エリザベートは楽しげにコロコロと笑ったのだった。
エリは拒絶も肯定もしない。エリの意思などないも同じだ。これは命令で決定事項なのだから。
ベールに覆われたエリの美し過ぎる顔はなんの表情も映さなかった。
悲しいと思う気持ちまで奪われたエリだったのである。
ーローマン・スタンレー辺境伯邸にてー
一方、婚姻の申し込みをハービィ伯爵家から受けたローマン・スタンレー辺境伯は迷惑気に顔を歪めた。
「ずいぶんと物好きだな。この顔の半分焼けた男の妻に娘を差し出すとは……しかし、その娘もこの顔を見ればすぐに逃げ出すだろう。まぁ、暇つぶしに結婚してみるかな。花嫁が何日で逃げだすか賭けよう!」
「ローマン様、不謹慎ですよ。まぁ、そろそろご結婚されてもいい時期ですからね。どのような娘が来るか楽しみですねぇ。まぁ、期待はしない方がいいでしょう。少しハービィ伯爵家を調べてみますね」
スタンレー辺境伯家の執事が笑いながらそう言うと静かに下がって行く。
後日、スタンレー辺境伯家の執事は眉根に皺を寄せてハービィ伯爵家の内情を語った。
「ハービィ伯爵家のエリザベート様は高慢で贅沢好きの我が儘娘らしいです。大方、父親に言われてしぶしぶやって来るのでしょうね。ハービィ伯爵家の財政は火の車ですよ」
「やはり金目当てか。そんな女はいらん。断れ!」
「はい、かしこまりました。ですが、このエリザベート様は興味深い人物ですな。高慢で贅沢三昧な我が儘お嬢様であるという情報の一方で、ほんの少数ですが清楚で優しく思いやりのあるお嬢様と評する者もいます。不思議ですな」
「ほぉ? ちょっと待て。俺はたった今、興味が湧いた。その話は喜んで受けよう! 承諾の返事を急ぎ書こう。俺はエリザベートを妻に迎える」
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