(完)身代わりの花嫁ーーお姉様、夜だけ入れ替わっていただけませんか?

青空一夏

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4 ハービィ伯爵夫妻sideー因果応報の末路 ※残酷注意 R15

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「エリザベートが妊娠したんですって! エリに夜のお相手をさせればいいとは言ったけれどたまにはエリザベートも努力するようにと言い含めておいて良かったわ。子供ができてしまえばもう心配はないわ」

ハービィ伯爵夫人はエリザベートからの妊娠の知らせを大歓迎したのだった。もちろんハービィ伯爵もこれには大喜びだった。これによってハービィ伯爵家への援助の額も増えるし、なにより孫が将来のスタンレー辺境伯になればお金に不自由することはないはずだからだ。

そう、ハービィ伯爵は早速孫にたかろうとほくそ笑んでいたのである。
(将来が楽しみだ。せいぜい長生きしてやろうじゃないか……)
ハービィ伯爵はそのように思い満足げに頷いた。






ーースタンレー辺境伯の屋敷での祝いの席にてーー

たくさんの招待客に囲まれてベールをかぶったエリザベート(中身はエリ)はぴったりとローマンの腕に手を添え仲睦まじい夫婦の様子が微笑ましい。

「おめでとう、エリザベート」
ハービィ伯爵夫人が駆け寄ると自然な形でエリザベート(中身はエリ)が抱擁に応じた。

「えぇ、ありがとう! お母様!」

「なぜ、あなたはベールをかぶっているの?」

「妊娠の影響で顔色が優れなくて、しかも少し吹き出物ができてしまって顔を見せるのが恥ずかしいのですわ! お母様にはコンディションが悪い顔を人目にさらしたくない女心がわかるわよね?」
風邪も少し引いているというエリザベートの声はいつもと少しだけ違う気もしたが、ハービィ伯爵夫妻はエリザベートらしいその口の利き方にそれがエリだとは少しも気がつかなかったのである。

「ところでエリザベートの侍女が気が狂ったようで、俺の妻だとずっと言い張るので困っているんですよ。連れて帰ってくれませんか? 」
ローマン・スタンレー辺境伯が人の良い笑みを浮かべてそう提案した。



お祝いのパーティが終わると早速、火傷で変形した顔の侍女服姿の女がハービィ伯爵夫妻の前に連れてこられ叫び出した。
「私が本物のエリザベートよ! 騙されないで! 私が本物だってば!」

ハービィ伯爵夫人は傍らにいるエリザベート(中身はエリ)の手を取り中指にホクロがないのを確かめた。エリの手の中指にはホクロがあったのだ。顔の腫れ上がった醜い女にはホクロ(落ちにくい染料で描かれていた)がある。ということは顔の膨れ上がった女がエリだ。

「この嘘つきな女を連れて帰ってくれますよね?」
ローマンの問いかけに、即座に応じるハービィ伯爵夫人であった。
「この性悪な女は私が責任をもって矯正しますわ」

エリザベート(中身はエリ)は入念にコンシーラを塗った中指のホクロがその存在をすっかり隠せたことに安堵したのだった。ハービィ伯爵夫人がこのホクロに思い入れがあることをエリは知っていた。これは母親のロザンヌと同じ位置にあるホクロであったからだ。









ーーハービィ伯爵家の屋敷にてーー

「お母様! 私ですよ。私がエリザベートです! お願い、信じて」
毎日のように繰り返されるその言葉にハービィ伯爵夫人は鞭で応じた。

「この嘘つきめ! エリザベートはもっとふっくらしていて可愛らしい体型だった。娘の特徴ぐらい母親の私が間違えるものか! 私を騙そうなんて、なんて汚らわしい子なんだろう!」

「私が痩せたのはお母様が食事をくれないからよ! お願い、気がついてよ! 私がお母様の娘なのに……」

「あぁ、もう、うんざりだよ! お前などこの世からいなくなればいい」
ハービィ伯爵夫人は、とうとう毒を無理矢理エリ(中身はエリザベート)に飲ませるとやっと静かになったと笑った。

使用人に死体を運ばせる際に、もう一度その手を確認すると……くっきりとあったはずの中指のホクロが薄くなっていた。試しに強くその指を擦ると、ホクロは跡形もなく消えてしまう。

(まさか……そんなはずはない)

焦るハービィ伯爵夫人は急いでスタンレー辺境伯に手紙を送った。




『この娘は本当に侍女のエリなのでしょうか? ローマン・スタンレー辺境伯のお側にいるローマン・スタンレー辺境伯夫人は本物のエリザベートで間違いないですか?』 




それに対して来た返事はとても簡単なものだった。




『俺の愛する妻は美しく努力家の賢い女性』




それ以来、ハービィ伯爵夫人は笑わなくなった。瞳は常にうつろで、呟く言葉は「許してちょうだい、エリザベート」だった。
愛娘を毒殺したことに耐えられず、この世界の住人でいることを止めたようだ。

娘の幻を常に追い求め、ふらふらと庭園を真夜中でも散歩する。やがて湖に身を投げた死体が浮かびあがると今度はハービィ伯爵が病み始めた。

こちらは亡くなったエリの母親の亡霊も勢揃い。
「悪かったロザンヌ。申し訳ない。エリザベートよ、そんな恐ろしい顔で睨むなよ。お前は幸せになったはずだよな? エリン(ハービィ伯爵夫人)か? なんでわしのところに来て恨み言を言うんだよ? 頼むよ、本当に悪かったよ。許してくれ」
ブツブツと呟きながらも時には大声で笑い出す。

このハービィ伯爵も正気を失い馬車の前に飛び出して亡くなった。




一方、エリの子供(娘)は無事に産まれてローマン・スタンレー辺境伯に母娘ともに溺愛されるようになった。

「私にこのような幸せが手に入るなんて思っていませんでした。だってずっと自分には価値がないと思ってきたから」

「君は俺の宝物だよ。ハービィ伯爵家の者は全て自滅した。これからは影でいなくていいしベール付きの帽子も必要ないな。なによりその美貌を隠すのはもったいないからね」

「……私、醜いですから……慰めていただかなくても……」

「ちょっと待って。そこから俺は正さなければならないのかい? いいか? 俺たちは美男美女のカップルだよ。あぁ、魔物の森の泉で顔でも洗うかな。この火傷跡も、もう必要ないか。昔はモテすぎて困っていたからね。今は妻子もいて女も近寄って来ないから助かる」

ローマン・スタンレー辺境伯は笑いながらそう言うと、次の週には綺麗さっぱり火傷跡は消えていたのだった。元から美男子すぎて女性にモテまくっていたローマンは、火傷跡をわざと治さないでいたのである。

「スタンレー辺境伯の魔物の森には魔法の泉があるんだ。実はこれくらいの傷なら元通りになるんだよ。あのエリザベートも改心すれば泉で傷を癒やしてやったかもしれないな。ハービィ伯爵夫人に引き渡す前に私の大事な君に謝罪のひとつもあれば考えてやったけれどね。結果として母親に殺されたのは自業自得さ。俺は少しも同情しないよ」
ローマンはきっぱりとハービィ伯爵家の末路を切り捨てた。




「ところでこの娘の名前をロザンヌとしていいですか? 亡くなったお母様の名前なんです」

「いいとも。亡くなった君の母親の為に一緒に毎日祈るよ。なんと言っても貴重な宝物の君をこの世に産んでくれた大恩人だからね」

ハービィ伯爵領では悪しき亡霊として語り継がれたロザンヌは、ローマン・スタンレー辺境伯領では慈愛溢れる女神としてまつられるのだった。その娘はエリザベート、愛称エリはローマン・スタンレー辺境伯の唯一無二の宝物になったのである。














୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧

当初に予定と少し違う感じの展開になってしまいました(•́ε•̀;ก)💦
すみません。
次はもう少し明るいコメディーを書いていこうと思います。
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感想 7

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みんなの感想(7件)

さごはちジュレ
ネタバレ含む
2025.04.07 青空一夏

感想ありがとうございます!

これ、共食いだったっけ💦
ほんと、申し訳ない(笑)

ですが、楽しんで頂けて
うれしいです。
お読みくださりありがとうございます!

解除
セリ
2022.05.05 セリ
ネタバレ含む
2022.05.06 青空一夏

セリ様

エリが幸せになってよかったとおっしゃっていただいてありがとうございます🤗
そうですね。
伯爵のところに化けて出てくるって、ある意味お利口さんですよねーw



  + +
 +     +
   ∧_∧ /
+  ( n ´ ∀ ` 感想ありがとうございました♪
  /  ノ \
 +(__)_)+

解除
penpen
2021.12.14 penpen

本当に恨み言言いに来てたんだろうなぁ( *´艸`)

2021.12.14 青空一夏

あっはははヾ(*´∀`*)ノキャッキャ
そうかもしれないですね。
幻じゃなくて……

怖いですね~~😣
感想꒰⑅ᵕᴗᵕ꒱˖♡ªʳⁱ૭ªᵗ°♡˖꒰ᵕᴗᵕ⑅꒱ゴザイマス

解除

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