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16 祝宴に現れたライン
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アリッサとサミーの結婚式当日、アリッサは鏡の前に立ち、ダイヤだらけのドレスに身を包んだ自分を見つめていた。おめでたい日だというのに、胸の中に広がるのは深い悲しみと絶望だけだった。鏡に映るアリッサの顔に微笑みはなく、代わりに心の奥底に隠した涙が、アリッサの瞳を曇らせていた。
結婚式は王宮の大聖堂で行われた。それだけ、アリッサとサミーの家格が高いことを意味している。大聖堂の荘厳なアーチとステンドグラスが光を受け、神聖な雰囲気を漂わせている。
国王をはじめ、ほとんどの高位貴族たちが参列し豪華絢爛な結婚式となっていた。サミーとアリッサが歩むべき道は、光り輝く大理石の床へと続いている。だが、アリッサにとってそれは、地獄へと続くイバラだらけの道に見えていた。
サミーはアリッサの夫となる立場だというのに、アリッサを見つめることはほとんどない。彼は式が始まる前から令嬢たちに話しかけられると、その一人ひとりに丁寧すぎるほど優しい言葉を返していたからだ。その姿を見るたびに、アリッサの心は冷え切っていく。
(サミー卿はひとりの女性に束縛されない自由人なのよ。彼はこれからも、第二のセリーナ様のような女性をつくるのでしょうね。そして、私は一生、そのくだらない茶番劇に振り回されるのだわ)
「アリッサ、そのウェディングドレスの着心地をどうだい? ダイヤモンドに埋もれる快感を味わってもらっているかな? 最高の気分だろう? 私の妻になれて光栄だと思ってほしい」
サミーが微笑んでアリッサに言ったとき、アリッサは吐き気がするほどの嫌悪感を抱いた。サミーの笑顔が薄っぺらすぎて、誠実さの欠片もないことを知っているからだ。
結婚の誓いの言葉を交わす時も、アリッサの声は震えていた。誓いの言葉を口にするたびに、まるで自分がもう一人の他人のように感じられた。国王から祝福の言葉をいただいた時も、アリッサはただ黙って頭を下げただけだ。
(私は何を祝福されているの? 平気で私を裏切った男性と無理やり結婚させられて、いったい何を喜べばいいのか、わからないのよ……)
サミーが令嬢たちに笑顔を向けるたびに、アリッサはラインと比べずにはいられなかった。ラインがアリッサに向けてくれた真摯な眼差しは本物だった。サミーの水色の瞳は美しいだけで心がない偽物だ。
(ライン様・・・・・・助けて。私はあなたと結婚したかったのに・・・・・・)
声に出せない思いがどんどん胸に沈んでいき、窒息しそうなくらい息ができない。なんとか結婚式が終わるまで持ちこたえたアリッサは、王宮の大広間での祝宴の席に力なく座っていた。精神的苦痛で、体力を消耗してしまったのだ。
「これで、私たちは正式に夫婦だ。両家の繁栄のために、二人で力を合わせていこう」
アリッサの体調が悪いことに少しも気がつかないサミーは上機嫌だ。
「はい、承知しました。それより、あちらの令嬢たちがサミー卿をじっと見つめています。なにかお話しがあるみたいですね」
「あぁ、そう言えば私に相談したいことがあると言っていた令嬢たちだ。なにしろ、私は女性の悩み相談には、いつも的確な答えを導き出す天才だからね」
サミーは令嬢たちの席に向かいながらも、話を続けた。
「それにしても、アリッサ。夫をサミー卿と呼ぶなんて、みずくさいぞ。サミーと呼び捨てにしてもいいし、ダーリンでも構わないよ☆」
軽薄なウィンクをするサミーを、アリッサは無言で見送った。
サミーは少し離れたところで、令嬢たちとの話に盛り上がっている。夫婦として一緒に座るはずの席には、アリッサだけが座っていた。
それは異様な光景ではあったが、サミーが令嬢たちと親しく話をする様子は、出席している貴族たちにとっては見慣れたものだ。誰も不思議には思わなかったが、アリッサに同情の眼差しを向ける者たちも少なくなかった。
結婚式のその日に、花嫁を放って他の女性の相談に乗ることなど、通常であればありえないことなのだ。しかし、アリッサはサミーが隣にいないことでホッとしていた。
(このまま、ずっと他の女性と話していればいいのよ。どうか私のそばに来ないで……できるなら、今夜もこの先も、ずっとひとりでいたいわ)
アリッサは、心の底ではラインを愛している。だからこそ、サミーとの初夜を考えると恐ろしくてたまらなかった。
アリッサがやるせないため息をついた瞬間、突如大広間の大きな扉が勢いよく開かれた。人々の視線が一斉にその方向へ向けられると、ラインが堂々と入場してくる。その背後には先王と王太后の姿も見えた。彼らが一緒に現れたことで場内はざわめき立ち、空気が一気に張り詰める。
「ライン卿・・・・・・」
国王は彼の姿を見て一瞬驚きを隠せなかったが、すぐに冷静さを取り戻す。
「母上、父上、なぜここにいらっしゃったのですか? ライン卿も途中から姿を現すのなら、最初から式の参列者として出席するべきだったであろう?」
ラインはその言葉を無視するように進み出ると、広間にいる全ての者に向けて声をあげた。
「サミー卿とアリッサ嬢の結婚には断固、反対します。この結婚は無効であると主張したい。もし私の意見が通らない場合は、爵位を返上しこの国を去ることを宣言します」
その瞬間、祝宴の雰囲気は一変した。列席していた貴族たちは会話をやめ、緊張感があたりに漂い始める。次の瞬間、王太后がラインの言葉に続き、冷静だが力強い声で国王に話しかけたのだった。
結婚式は王宮の大聖堂で行われた。それだけ、アリッサとサミーの家格が高いことを意味している。大聖堂の荘厳なアーチとステンドグラスが光を受け、神聖な雰囲気を漂わせている。
国王をはじめ、ほとんどの高位貴族たちが参列し豪華絢爛な結婚式となっていた。サミーとアリッサが歩むべき道は、光り輝く大理石の床へと続いている。だが、アリッサにとってそれは、地獄へと続くイバラだらけの道に見えていた。
サミーはアリッサの夫となる立場だというのに、アリッサを見つめることはほとんどない。彼は式が始まる前から令嬢たちに話しかけられると、その一人ひとりに丁寧すぎるほど優しい言葉を返していたからだ。その姿を見るたびに、アリッサの心は冷え切っていく。
(サミー卿はひとりの女性に束縛されない自由人なのよ。彼はこれからも、第二のセリーナ様のような女性をつくるのでしょうね。そして、私は一生、そのくだらない茶番劇に振り回されるのだわ)
「アリッサ、そのウェディングドレスの着心地をどうだい? ダイヤモンドに埋もれる快感を味わってもらっているかな? 最高の気分だろう? 私の妻になれて光栄だと思ってほしい」
サミーが微笑んでアリッサに言ったとき、アリッサは吐き気がするほどの嫌悪感を抱いた。サミーの笑顔が薄っぺらすぎて、誠実さの欠片もないことを知っているからだ。
結婚の誓いの言葉を交わす時も、アリッサの声は震えていた。誓いの言葉を口にするたびに、まるで自分がもう一人の他人のように感じられた。国王から祝福の言葉をいただいた時も、アリッサはただ黙って頭を下げただけだ。
(私は何を祝福されているの? 平気で私を裏切った男性と無理やり結婚させられて、いったい何を喜べばいいのか、わからないのよ……)
サミーが令嬢たちに笑顔を向けるたびに、アリッサはラインと比べずにはいられなかった。ラインがアリッサに向けてくれた真摯な眼差しは本物だった。サミーの水色の瞳は美しいだけで心がない偽物だ。
(ライン様・・・・・・助けて。私はあなたと結婚したかったのに・・・・・・)
声に出せない思いがどんどん胸に沈んでいき、窒息しそうなくらい息ができない。なんとか結婚式が終わるまで持ちこたえたアリッサは、王宮の大広間での祝宴の席に力なく座っていた。精神的苦痛で、体力を消耗してしまったのだ。
「これで、私たちは正式に夫婦だ。両家の繁栄のために、二人で力を合わせていこう」
アリッサの体調が悪いことに少しも気がつかないサミーは上機嫌だ。
「はい、承知しました。それより、あちらの令嬢たちがサミー卿をじっと見つめています。なにかお話しがあるみたいですね」
「あぁ、そう言えば私に相談したいことがあると言っていた令嬢たちだ。なにしろ、私は女性の悩み相談には、いつも的確な答えを導き出す天才だからね」
サミーは令嬢たちの席に向かいながらも、話を続けた。
「それにしても、アリッサ。夫をサミー卿と呼ぶなんて、みずくさいぞ。サミーと呼び捨てにしてもいいし、ダーリンでも構わないよ☆」
軽薄なウィンクをするサミーを、アリッサは無言で見送った。
サミーは少し離れたところで、令嬢たちとの話に盛り上がっている。夫婦として一緒に座るはずの席には、アリッサだけが座っていた。
それは異様な光景ではあったが、サミーが令嬢たちと親しく話をする様子は、出席している貴族たちにとっては見慣れたものだ。誰も不思議には思わなかったが、アリッサに同情の眼差しを向ける者たちも少なくなかった。
結婚式のその日に、花嫁を放って他の女性の相談に乗ることなど、通常であればありえないことなのだ。しかし、アリッサはサミーが隣にいないことでホッとしていた。
(このまま、ずっと他の女性と話していればいいのよ。どうか私のそばに来ないで……できるなら、今夜もこの先も、ずっとひとりでいたいわ)
アリッサは、心の底ではラインを愛している。だからこそ、サミーとの初夜を考えると恐ろしくてたまらなかった。
アリッサがやるせないため息をついた瞬間、突如大広間の大きな扉が勢いよく開かれた。人々の視線が一斉にその方向へ向けられると、ラインが堂々と入場してくる。その背後には先王と王太后の姿も見えた。彼らが一緒に現れたことで場内はざわめき立ち、空気が一気に張り詰める。
「ライン卿・・・・・・」
国王は彼の姿を見て一瞬驚きを隠せなかったが、すぐに冷静さを取り戻す。
「母上、父上、なぜここにいらっしゃったのですか? ライン卿も途中から姿を現すのなら、最初から式の参列者として出席するべきだったであろう?」
ラインはその言葉を無視するように進み出ると、広間にいる全ての者に向けて声をあげた。
「サミー卿とアリッサ嬢の結婚には断固、反対します。この結婚は無効であると主張したい。もし私の意見が通らない場合は、爵位を返上しこの国を去ることを宣言します」
その瞬間、祝宴の雰囲気は一変した。列席していた貴族たちは会話をやめ、緊張感があたりに漂い始める。次の瞬間、王太后がラインの言葉に続き、冷静だが力強い声で国王に話しかけたのだった。
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