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5 やはりお母様の血が流れているようです
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「うわっ。なんでエレアノールがいきなりやって来るのだ? そんなことは君に関係のないことだよ」
「あるわよ。私はこの国の筆頭公爵家ブルジェ家の娘だわ。正妃は私がなるはずだもの」
「そんなことを承諾した覚えはない。わたしはこのムーアクラフト王国の正当な跡継ぎだ。故に妃は自分で選ぶ権利がある」
「ふふん、そうかしら? お父様は正妃には家柄の確かな高貴な血筋の女性がならなければいけない、とおっしゃっていたわ。だから、王女ではないこの女は絶対なれないのよ。ねぇ、偽物王女! なんとか言いなさいよ。話せないの?」
「いいえ、話せますわ」
「王女でないならメイドの部屋にでも引っ込んでいなさいよ。明日から使用人に混じって働くといいわ。だってこんな汚い髪色の貴族なんて見たことないもの。まさか奴隷の娘じゃないわよね? きったなぁーーい。さっきからどうも臭いと思ったわ」
鼻をつまんでまるで動物を追い払うような仕草をした。低俗なその行動はホイットニーにそっくりだ。またきっと私は言い返すことができないと思っていたのに、今回はすぐに言葉が出てきた。
人間を差別する奴隷制度をとても嫌っていたお母様の思想を受け継いだ私もその言葉が嫌いだったのだ。
「幼稚な嫌がらせをするのがブルジェ公爵家のやり方ですか? そのような真似をして恥ずかしいとは思わないのですか? 筆頭公爵家のご令嬢なら恥を知りなさい」
まさか自分がお母様の口調を真似るとは思わなかった。お母様がよくしていた仕草も自然としてしまう。幼い頃から王妃の間でお母様のおっしゃることをいつも見ていた私だから。
すっと背筋を伸ばし、エレアノールに冷ややかな眼差しを向ける。口調は穏やかだが静かな怒りを思いっきり言葉に含めて最後に口角を上げた。優雅に微笑んで言葉を締めくくるのは王妃に求められた品格。
(しまった。こんな表情をするべきではなかった)
後悔しても、もう遅い。周りに控えていた侍女達の背筋がスッと伸びた。メイドも息を呑み頭をあげようとしない。
お母様は言葉だけで威嚇することがとてもお上手だった。私は絶対真似できないと思っていたけれど、きっとすごくそっくりだったんだ。
エレアノールは「ひっ」と、言葉を発するとそそくさと退散した。
「あっはははは。あいつをやり込めるなんてたいしたものだよ。見直したよ。まるで女王の風格だ」
「すみません。私のような者が言い過ぎました」
「いいえ、全く言い過ぎではありません。あのエレアノール様にはちょうどいいです」
そばに控えていた侍女長と名乗るアニタが朗らかに笑った。
お部屋に戻ると、アニタはガラティを伴いやって来て私にひざまずいた。
「やめてください。どうしたのですか?」
「あなた様は第一王女殿下に違いないからです。私は昔デスティニー様にお会いしたことがあります。先ほどのエレアノール様に言い放った言い方や仕草はデスティニー様にそっくりでした。グラディス王女殿下ですね?」
私に最大限の敬意を払うアニタに私は首を振った。
「お願い、ここではリリィでいさせてください」
私はここでも自分の正体を明らかにする勇気がなかった。
「かしこまりました。ですが、侍女はもう2人増やします。ガラティだけでは少ないです。なんなりとお申し付けくださいませ。私はグラディス様の味方です」
思いがけず身分が侍女長にバレたけれど、今はシルヴェスター様に言いたくなかった。
(あの方は正妃に虐待されていた。正妃という言葉にきっとトラウマも抱えていそうだ。もっと打ち解けて、タイミングを見てからでいいわよね?)
子猫を抱えてその晩は寝た。温かい小さな身体を抱いているととても気持ちが落ち着いて、異国に来た初めての夜でも眠ることができた。
「あるわよ。私はこの国の筆頭公爵家ブルジェ家の娘だわ。正妃は私がなるはずだもの」
「そんなことを承諾した覚えはない。わたしはこのムーアクラフト王国の正当な跡継ぎだ。故に妃は自分で選ぶ権利がある」
「ふふん、そうかしら? お父様は正妃には家柄の確かな高貴な血筋の女性がならなければいけない、とおっしゃっていたわ。だから、王女ではないこの女は絶対なれないのよ。ねぇ、偽物王女! なんとか言いなさいよ。話せないの?」
「いいえ、話せますわ」
「王女でないならメイドの部屋にでも引っ込んでいなさいよ。明日から使用人に混じって働くといいわ。だってこんな汚い髪色の貴族なんて見たことないもの。まさか奴隷の娘じゃないわよね? きったなぁーーい。さっきからどうも臭いと思ったわ」
鼻をつまんでまるで動物を追い払うような仕草をした。低俗なその行動はホイットニーにそっくりだ。またきっと私は言い返すことができないと思っていたのに、今回はすぐに言葉が出てきた。
人間を差別する奴隷制度をとても嫌っていたお母様の思想を受け継いだ私もその言葉が嫌いだったのだ。
「幼稚な嫌がらせをするのがブルジェ公爵家のやり方ですか? そのような真似をして恥ずかしいとは思わないのですか? 筆頭公爵家のご令嬢なら恥を知りなさい」
まさか自分がお母様の口調を真似るとは思わなかった。お母様がよくしていた仕草も自然としてしまう。幼い頃から王妃の間でお母様のおっしゃることをいつも見ていた私だから。
すっと背筋を伸ばし、エレアノールに冷ややかな眼差しを向ける。口調は穏やかだが静かな怒りを思いっきり言葉に含めて最後に口角を上げた。優雅に微笑んで言葉を締めくくるのは王妃に求められた品格。
(しまった。こんな表情をするべきではなかった)
後悔しても、もう遅い。周りに控えていた侍女達の背筋がスッと伸びた。メイドも息を呑み頭をあげようとしない。
お母様は言葉だけで威嚇することがとてもお上手だった。私は絶対真似できないと思っていたけれど、きっとすごくそっくりだったんだ。
エレアノールは「ひっ」と、言葉を発するとそそくさと退散した。
「あっはははは。あいつをやり込めるなんてたいしたものだよ。見直したよ。まるで女王の風格だ」
「すみません。私のような者が言い過ぎました」
「いいえ、全く言い過ぎではありません。あのエレアノール様にはちょうどいいです」
そばに控えていた侍女長と名乗るアニタが朗らかに笑った。
お部屋に戻ると、アニタはガラティを伴いやって来て私にひざまずいた。
「やめてください。どうしたのですか?」
「あなた様は第一王女殿下に違いないからです。私は昔デスティニー様にお会いしたことがあります。先ほどのエレアノール様に言い放った言い方や仕草はデスティニー様にそっくりでした。グラディス王女殿下ですね?」
私に最大限の敬意を払うアニタに私は首を振った。
「お願い、ここではリリィでいさせてください」
私はここでも自分の正体を明らかにする勇気がなかった。
「かしこまりました。ですが、侍女はもう2人増やします。ガラティだけでは少ないです。なんなりとお申し付けくださいませ。私はグラディス様の味方です」
思いがけず身分が侍女長にバレたけれど、今はシルヴェスター様に言いたくなかった。
(あの方は正妃に虐待されていた。正妃という言葉にきっとトラウマも抱えていそうだ。もっと打ち解けて、タイミングを見てからでいいわよね?)
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