侯爵ロベルトーー妻は美女悪役令嬢、親友はドラゴン王

青空一夏

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ゲームの悪役令嬢エリーゼとロベルトの出会い。

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トリスタン王国、フェルナンド公爵家は黒豹とドラゴンが並び立つ紋章の由緒ある家柄だ。
この紋章は大昔の予言者によってフェルナンド家に与えられたものらしい。
そして、俺はこの公爵家に次期当主として引き取られたロベルト、15歳だ。


風をこじらせ、高熱がでて、ここが前世の姪が夢中だったゲームの世界と知ったのが三日前。
前世の俺は小さな町の薬局の薬剤師だった。
漢方も扱うかたわら、お茶や薬草にも詳しく、近所のお年寄りが集うような憩いの場所でもあった。

それが、どうして、ゲームの世界にいるのかは不明ではある。
コンビニでビールを買って横断歩道を渡るとき、大型バイクが突っ込んできたのは覚えている。
死んでゲームの中に転生したということなのか?





この世界では貴族の後継者は男性しかなれない。
いなければ、親戚筋で一番優秀な男子を養子に迎えるか娘に婿をとって継がせる。

俺は、過去見の魔法と移動魔法と風魔法が使える。
過去見は、相手の体を触ることによって見ることが出来る。
相手の記憶が手を通して俺に伝わってくるという表現でほぼあってると思う。


移動魔法は物体を手を使わずに移動させること。
ただ、自分がテレポートすることはできない。
風魔法は山ひとつを吹き飛ばすくらいはできる。

俺はそんな能力をかわれて分家から5歳の頃に引き取られた。
俺と2歳年上のマリーベルは婚約者同士だ。


しかし、マリーベルはゲームの設定だと、今まさに妊娠中のはずだ。
相手はハインリッヒ・レトロ男爵、銀髪に神秘的なマリンブルーの瞳の色男だった気がする。

男爵には別に愛し合う婚約者がいて、そっちも妊娠してて、そっちの子がヒロインだったか。
この男爵っていうのも、優柔不断な気がするなぁ。

ヒロインを殺そうとするのがマリーベルの娘のエリーゼ。
絶世の美女だが、父親を毒殺し、継母とヒロインを水魔法で溺れ死にさせようとして、処刑されたんだったよなぁー
エリーゼは、上級水魔法が使えるチートな存在でラスボスなのだ。
争いの発端は貴公子たちを巡る女同士の戦いみたいなやつだった気がするけど細かな設定は忘れたわ。
昔で言うところの大奥っぽいどろっつとした話は女子の好きな定番だろうが、おっさんの俺には生理的に無理な設定だ。







あぁ、ついにはじまった。悪役令嬢の母親の妊娠騒動&勘当事件が!!
ゲームのエピローグは、ここからだった。

「なんたる恥知らずな!妊娠だと!しかも相手はレトロ男爵だと!あんな顔だけが取り柄の男と!!
ロベルトの婚約者のお前が‥‥お、お前は勘当だ!もう私の娘ではない。持参金は持たすが、以後一切、当家とは無縁のものと思うがいい。」

フェルナンド公爵の怒声が執務室に響きわたる。
同席していた俺は無表情でマリーベルを見つめた。

5歳からの婚約者に裏切られたショックと
ゲームの設定を思い出してからの、この世界に対するどこか冷めた感情が入り交じった複雑な気持ちだった。

マリーベルは泣くこともなく、ひっそりとフェルナンド家を出ていった。


◆◆



「公爵家は譲った。譲ったからには、何をしようとお前の自由だ。全権限をお前に与える。私は田舎にこもり絵を描きたい。」
フェルナンド公爵は、公爵家の当主の印鑑類を全部俺に渡すと、さっさと田舎に引きこもってしまった。
代を譲っても権力を保持しようとする貴族が多い中で珍しいが、若い頃から画家になりたかったらしいから、なんの未練も無いらしい。

ここでは貴族は10歳までは自分の屋敷に家庭教師を呼んで学ぶ。
11歳から16歳まで寄宿学校で、友人を作り、社交界に向けて人脈と結婚相手を見つける。

俺にも家庭教師はいたが、みな3日も経たずにやめてしまっていた。
教えることはありません、だそうだ。

寄宿舎にも、はいっていなかった。
この世界の勉強は元いた世界よりだいぶレベルが低いから行かなくとも困ることはなかった。
それでも、俺は週に二回ほど学校に行き、高位貴族の息子達とは交流を深めていた。
やっぱ、人脈は大事だからな。




それから10年の月日が経った。
俺は25歳になり、当主として気ままに暮らしている。


公爵家の庭は広大で、その半分に薬草やら季節の花を植えさせた。
薬草は俺の前世からの趣味だ。この世界の花や薬草は元の世界と変わらない。
所詮、ゲームの世界だから作者もそのあたりの設定は考えるのが面倒だったのだろう。
でも、これは俺には都合がいいことだった。
庭にはこの時期、ボタン、シャクヤク、カミツレ、シラン、フジが咲き誇っている。
どれも、薬草代わりになるし花が綺麗だ。
そろそろ水をまこうかと思っていたら執事が困ったようにこちらに歩いてくる。

「マリーベルお嬢様を覚えておいでですか?」

「ああ、覚えているとも。何年か前に亡くなっただろう?」

「マリーベル様のお嬢様がおじいさまに会いたいと来ているのですが、どうされますか?」

祖父はここにはいないし、第一、いても会うことはないだろうな、と俺は思う。
勘当されたら、その子供も普通は縁を切られるのがこの世界の貴族だ。
一族の恥さらしとよばれることをした元婚約者もその子供も、この家の敷居はまたげない。

ゲームの設定どおり「追い返しますか?」と、執事は当然のように言ってくる。
ゲームだと、ここで俺は追い返せと指示するのだが、前世の記憶がある今ではそれもどうかと思う。
幼い子を追い返すなんて、ちょっとできないな。お茶とケーキでもだしてやろう。せっかく、来たのだから。

「ボタンが咲いている場所にテーブルと椅子を用意してくれ。
ケーキもあればだすように。紅茶にはミルクと砂糖もたっぷり添えろ」
俺と血はつながっていないとはいえ、公爵家の血筋の姫だし元婚約者の娘だ。
そのぐらいは甘やかせてやりたかった。

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