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ズルイーヨ王子はずるいよ。

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フェルナンド公爵家では小さな雨雲が庭園にだけ浮かんでいる。
子ドラゴンのノアの上にも小さな雲が浮かんでいて、虹色に雫を光らせて、雨を降らす。
ロベルトが隣国に浮かんでいた雨雲を小さくちぎって風魔法で屋敷の庭園まで飛ばしたのだ。

「暑いから気持ちいいだろ?水遊びが終わったら人型になって、ちゃんとお風呂にはいるのだよ?」
ロベルトが言うと巨大な池でパシャパシャしながらピーチボールで遊んでいた子ドラゴンのノアは大きく頷いた。

一方、親ドラゴンのベルセビュートは黄色い花を茎の根元から食いちぎるとモシャモシャ食べている。
「これを食べるとなにやら胃がすっきりするのでな」

「だろうな。その種には消化促進の働きがあるからな。」
ウイキョウは別名フェンネルとも呼ばれ、種は生薬やスパイスとして、葉は香付けに実はオイルになる重宝な薬草なのだ。
愛らしい花は黄色く傘のように広がって咲く。

「全く、ビュート、庭園の花をむしって食べるなど失礼ですわよ!ごめんなさいね、ロベルト様」
ベルセビュートの妻のドラゴン、アシャは緑の髪の大柄な女性の人型になっている。
アマゾネスというかんじの女性でエリーゼを娘のようにかわいがっていた。

「そう言えば、エリーゼ様はまだお帰りにならないのですか?」

「はい、ソフィア様とお茶をして今日は宮殿に泊まる、と王家から使者が来ましたよ。王女はファッションセンスが抜群なので、僕たちの結婚式のドレスの相談をしているのでしょう」

「まぁー、独身最後の半年ですものねぇーふふっ、ガールズトークも盛り上がりますわねぇー」


一方、エリーゼとズルイーヨ第一王子が乗っている馬車の中では‥‥

「エリーゼ嬢、ルアンド帝国に着いても、余計なことはしゃべらないでくださいね。最初からソフィアのことを持ち出しては不利です。
まずは友好的に振る舞ってください。向こうの出方を待ちましょう。細かなことは僕に任せてください。どうか、僕の言うとおりに。」

「はい。わかりました。にこやかに振る舞えばいいのですね?」

「そうです!国同士の交渉の駆け引きとはそういうものです。」
もっともらしいことをズルイーヨ王子は言うのだった。




「エリーゼ様、歓迎!」
ルアンド帝国の黄金の宮殿に大きな垂れ幕がかかっている。
「この国は金塊が採れるので有名なのですよ。すばらしい!」
ズルイーヨ王子は興奮している。

(王女を誘拐しておいて、お祭り騒ぎのようなこの垂れ幕はなに?ふざけているわ!)
エリーゼはルアンド帝国のマリオはバカなのじゃないかと憤慨していた。

「もうすぐ着きますねぇ。あーいけません!エリーゼ嬢、そのような怒ったお顔ではスマイル、スマイルですよ」


◆◆☆



マリオ王子とルル王女が宮殿の前で出迎えていた。

赤い髪と目の兄妹だ。
屈強な体躯は王子というより戦士に見える。
妹のルルは大きな目と少しツンと上を向いた鼻が愛らしくて子リスを思わせる。

(それにしても、なぜ、こんなにニコニコしているのだろう?ソフィア様を誘拐しておいて恥知らずな!)

エリーゼは微笑もうとしてもつい難しい顔つきになってしまうのだった。


トリスタン王家の馬車から降り立った美女にマリオ王子とルル王女は圧倒されていた。
銀の髪は光を含み、キラキラと輝き、アメジストの瞳は深く澄んで国宝級の宝石でもかなわない。
しみひとつない白磁のような肌と鼻筋のスッと通った完璧な美貌。
唇はほのかにピンクで真珠のような歯が微笑む時に煌めく。
たおやかな肢体は腰が驚異的に細く胸は豊か。女性の魅力をあますところなく誇示している。
「まさに傾国の美女だ‥‥」出迎えに控えていたマリオの近衛兵達がざわつく。

「エリーゼ嬢は少し馬車酔いしたようですよ」
ズルイーヨ王子がエリーゼの横で心配顔で言う。

「エリーゼ嬢、歓迎する。おぉ、馬車酔いか?まずは少し休まれよ。顔色が悪いぞ。夜に歓迎の宴を開くのでそれまでゆっくりするといい」
マリオは熱っぽいまなざしを向けながら、エリーゼの手をとった。

エリーゼは曖昧にうなずき、微笑んだ。


◆◆☆



宴の席は多数の料理が用意され、酒が振る舞われみな嬉しそうに目を輝かせていた。
エリーゼは用意されたこの国の衣装を着ている。
背中と胸元が大きくあいたドレスで金糸銀糸で施された刺繍が美しい。
「すごくお似合いですわ。エリーゼ様はスタイルが完璧ですわね」ルルはうらやましがる。
他愛のない会話から国の特産物の話などが和やかにされた。

(うーん、これは多分ロベルト様が商談のときにする、ほぐしのテクニック?交渉の入る前のアレよね?なら、にこやかに話をはずませたほうがいいわね?)
エリーゼはソフィアのことが気がかりだったけれども、努めて朗らかに対応していた。

余興の踊り子が踊るなか、一人の巨大な男が火を吐き小柄な女が水を手のひらで操っている。
剣をもち、男がそこに火を吹き替え、音楽にあわせて踊り、小柄な女がちょびちょびと水をだす。

「ルアンド帝国では魔法ができる者がいないのですが、彼らは遠い異国の血を引く者なので、ああやって火や水が操れるのですよ。
トリスタン王国では魔法は廃れたと聞いています」

「魔法は今やどこでも伝説になっています」ズルイーヨ王子は酒をのみつつ、あいづちをうつ。

そのとき、踊り子の一人がつまずき、巨漢の男におおいかぶさり、男の火がそれてエリーゼ達のいる方角に向かってきた。
かなりの火の勢いで、一直線にふきかかろうとする火。
エリーゼは瞬時に勢いよく手の先から水を放出した。
火だけを上手に消して、水そのものは霧化させ、何事もなかったように肩をすくめた。

「私は、ちょっとだけ、使えますのよ」

あれは、ちょっとのレベルではない。上級者の腕だ。
その場にいた者はみなそう思い、恐れおののいたのだった。


◆◆☆


宴が終わると同時に異常なほど眠気を感じたエリーゼは部屋に戻った途端、ベッドに倒れ込んだ。
ズルイーヨ王子がエリーゼの酒に微量の眠り薬を混ぜたためだった。

宴のあと、ズルイーヨ王子は薔薇のカードを侍女に渡す。
「エリーゼ嬢からだと言って、マリオ王に渡してくれ」

侍女が渡したカードには
「部屋にいらしてください。二人だけで会いたいです」と書いてあった。



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