侯爵ロベルトーー妻は美女悪役令嬢、親友はドラゴン王

青空一夏

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和解

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ルアンド帝国の宮殿の食堂ではエリーゼとズルイーヨ王子、マリオ王、ルル姫が朝食をとっていた。

エリーゼがそろそろソフィア王女のことを切り出したいと思い口を開きかけたそのとき、大地にまで振動を与えるかのようなバサバサとした大音響が鳴り響いた。
エリーゼたちが窓から外を見ると空いっぱいにドラゴンが飛んでおり、次々と宮殿の前に降り立つ。
エリーゼ達は慌てて外に駆け出す。
ひときわ大きいドラゴンの背から飛び降りたのはロベルトだった。

宮殿を守っていた兵士達は、気絶するか、神に祈りを捧げるか、武器をおいて逃げ出すかだった。
数人の命知らずな兵士たちだけが向かって行こうとしたが、ドラゴンの咆哮だけで体ごと吹き飛ばされるしまつ。

「エリーゼ!遅くなった。すまない」ロベルトがエリーゼを見つけ抱きしめる。
次の瞬間、マリオ王に向かいすさまじい勢いの風魔法を発動させた。
マリオ王が大地に勢いよくたたきつけられ、王子を守っている近衛兵はロベルトに向かって行くが、すべて風魔法で吹き飛ばされてしまう。
マリオ王がなんとか立ち上げり剣を構えても、右に左にたたきつけられる。
余興にときに火を吐いていた男も現れたが、そんな炎もロベルトの上級魔法を極めた風魔法の前では吹き飛ばされるだけだった。

「お兄様が死んでしまうわ!やめさせて!止めてよ!エリーゼ様!お願い!なぜ、こんなことを?」
エリーゼに向かって懇願するルル。
「あなた方が王女を誘拐したからよ?」エリーゼが言うとルルは驚愕する。
「誘拐?してない!私達はなにもしてないわ!」
ルルは泣きながら叫んだ。

エリーゼが首をかしげて、周りを見渡しズルイーヨ王子を探すが、どこにもいない。
(もしかしたら、‥‥?)
「ロベルト様!やめて!」烈火のごとく怒り制御のきかないロベルトにエリーゼは叫ぶ。

「エリーゼを誘拐する奴は万死に値する。ひといきに殺しはしない。さんざんなぶって‥‥」

「だから、待ってって!ロベルト様!」
聞こうとしないロベルトにエリーゼは勢いよく水魔法を放出させた。

◆◆☆

エリーゼから勢いよく水が放出されたのをまともに受けたロベルトは正気に返ったようにパチパチと目をしばたきながらエリーゼを振り返った。

「私は誘拐されていませんわ!私を強引に連れてきたのはズルイーヨ王子です」

その言葉と同時にベルサビュートが巨大な足の爪でひっかけていたズルイーヨ王子をロベルトの前に放り投げた。

「この男が、こっそり馬に乗って逃げるところが見えたので、つかまえておいたのだ」

ロベルトはズルイーヨ王子の手に一瞬触れると、過去見の魔法を発動させる。

空間にズルイーヨ王子の過去の画像を映し出した。



「父上!それならば、マリオ王と天才魔法使いを正面から戦わせるように仕向ければいいのです。どちらも強いが、真っ向から戦えば両者も無傷ではすまないでしょう。
うまくいけば、フェルナンド公爵家の莫大な資産も利権も、ルアンド帝国の広大な領土も全て手中の納められるかも‥」

王の執務室での会話が流れ二人がほくえんでいる姿が映し出される。

続いて、王女を幽閉させるところ、エリーゼを騙して馬車に無理に連れ込むところ、全てが確かな証拠としてそこに映し出されたのだ。

「ほぉーー、こんな愚かな男が第一王子とは!トリスタン王国も墜ちたものよ。もうこの王と王子は廃棄しよう。ロベルト!そなたが王になれ!」
ベルセビュートは当然のことのように言いながら、ロベルトの風魔法でなぜか飛んできたバナナをつまんでいる。

「断る!面倒なことは嫌だ!」

「じゃぁ、ドラゴンの国の王になれ!」

「はぁーー?王はお前だろ?ベルセビュート!俺は人間で寿命も短い」
ロベルトはマリオにぺたぺたと絆創膏を貼りながら、下らんことを言うなとばかりにため息をついた。

「申し訳なかった、マリオ王!移転魔法でよく効く絆創膏を屋敷から持ってきた。しばらくすれば、良くなるだろう」

「いや、俺も迂闊だった。こんな恐ろしい男がこの世にいるなど思ってもいなかった。君のエリーゼにはやましいことはひとつもしていないぞ」

◆◆☆

ルルとエリーゼ。ロベルトとマリオ。ともに、誤解をときあい、和やかに話をしているところに
人型になったベルセビュートが来て、また同じことを言う。

「俺はドラゴンの国をトリスタン王国に作ることに決めた!そなたがいる場所がドラゴンの王の居城となり、お前が人間の王になれ」

「いや、前にも言ったが、俺はドラゴンより早く死ぬんだぞ?なんで俺のいる場所がお前の居城なんだ?」

「ふふっ。そなたはなぁーー簡単には死なない。そなたが毎晩飲んでいたワインにはいつも俺の血を1滴いれていたのだ」

「え?」

「ドラゴンの血1滴で人間は100年寿命がのびる。」

「なんてことをしてくれたんだ!エリーゼが死んでも俺だけ生きるなんて‥‥」

「あらぁー大丈夫よ!エリーゼには紅茶にいれて私の血をいつも飲ませているわ。」
アシャがそこで得意げに微笑む。

「えっと、じゃぁー私とロベルト様って死なないの?」

「あぁー物理的に体が燃えるとか、ばらばらになってしまったら死ぬのよ?ただ人間のように老衰で死ぬことはないわ。
永遠に近い時間を生きて若さも調節できるようになるだけよー」アシャは一瞬、赤ちゃんに変身してまた元に戻る。

「なんていうか、ありがた迷惑なような?」エリーゼはつぶやくと
ロベルトも同意してため息をついた。

「ふん!欲のないやつめ!人間の究極の望みは不老不死だと聞いたことがあるぞ!叶えてやったのにため息をつくとはなにごとだ!」
ベルセビュートはプンプンしながらロベルトにデコピンしている。

マリオはこの二人をみてもうどこから突っ込んでいいかわからない。
(俺は井の中の蛙だったのか‥‥ルアンド帝国の虎剣士などともてはやされて図に乗っていた‥‥)
こんな最強の男2人を見てしまっては、自分はちっぽけな存在だと思わざるを得ないのだった。

「まぁさ、永遠に生きることに嫌になったら、解放の実をとってきてあげるわ。すべての呪縛から逃れて天に召されることができる実」
アシャがウインクして言うとベルセビュートは

「いや、解放の実がほしくなるのは退屈だからだ!我らは退屈はしないだろう?エリーゼはたくさん子供を産むぞ。アシャもだ。そして、みんなで永遠に近い時間、長生きする。実に楽しいじゃないか!」
「はぁーもうすでに死にたいわよ?」エリーゼはそう言いながらも、たくさんの子供に囲まれている自分を想像してにっこりしてしまう。
(侍女長のアンヌさんが絶対喜ぶわ。私とロベルト様の子供を3人以上はつくってください!と毎日のように懇願されているのですもの)

ロベルトはにっこり微笑んだエリーゼを見て、それもいいか、と思ってしまう。

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