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3 (姉視点)

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「ハーフアップにしたら、この白い花の髪飾りをつけてもらえるかしら?」
 私は専属侍女のイレーヌに、リボンで作った髪飾りを渡した。

「まぁ、とても可愛いですねぇーー。ハンドメイド感が素敵です」
 イレーヌは褒めてくれて編み込んだ髪に飾ってくれたけれど、エイミーは首を傾げていた。

「それ、花っていうよりゴミに見えます。こっちのちゃんとしたほうをつけたらどうですか?」
 そのエイミーの言葉に私は首を振った。

「これはね、カエラが作って私にプレゼントしてくれたのよ。一生懸命作ってくれたものだから、とても嬉しいのよ」

「えぇーー! カエラ様がですか? ……そ、そうですね。よく見たらかわいいかな? このくしゃくしゃが花に見えるとしたらだけど……」
 と、エイミーは引きつった笑みを浮かべた。

「カエラ様は元から本当は優しいんですねぇ。 姉妹で仲良くするのはとても良いことですね」
 優しい口調でそう言ったイレーヌは、私の姉のような存在だ。

 イレーヌは幼い頃からの私の専属侍女でエイミーは去年、私の馬車に飛び出してきた孤児だ。可哀想に思って私の侍女見習いとして置いているが口が悪いのはなおりそうもない。

「最近、ずいぶんと仲良しになったんですね? びっくり!」
エイミーの言葉に私はにっこりとする。 

「お勉強も少しはやる気になったみたいなのよ。最近は慕ってくれて、とても嬉しいわ」



❦ஐ*:.٭ ٭:.*ஐೄ❦ஐ*:.٭ ٭:.*ஐೄ



「私は委員会の仕事があるから、カエラは先に帰っていてね。御者に2時間ほどあとに、迎えにくるように言って」
 カエラと連れだって馬車で登校し帰宅するのが常だけれど、この日の私は学年の委員会の仕事で遅くなってしまうのでカエラにそう伝えた。

 ところが委員会の仕事が終わって帰ろうとしても、キーホ伯爵家の馬車はどこにもいないのだった。

「お困りのようなら、良かったら一緒に帰りませんか? ちょうど、カボン家はキーホ伯爵家の前を通りますから」
途方に暮れていると、アーサックから声をかけられた。

「まぁ、貴方もこんな時間まで学園にいたのね? いいのかしら?申し訳ないわねぇ」

「いいですよ。あのハンカチ、ありがとうございました」
 いつだったか、そういえばハンカチを貸してあげたっけ? 返してもらってないけれど、まぁいいわ。
 
 馬車に乗り込みしばらく無言でいたけれど、おずおずと愛の告白をしてきたのには驚いた。

「実は、ずっと憧れていたんです。付き合ってくれませんか? 貴女にふさわしい男になれるように……死ぬ気でがんばりますから……」 

「えっ!! あの……ごめんなさい……その気持ちは受け取れないというか……あの、この手をどけてもらえないかしら」
 私の腰に回してくるその湿った手に、思わず身震いした。馬車はどんどん走って、キーホ伯爵家を通り過ぎようとしている。

 私は馬車の窓から、あたりを見回して……ちょうど追い抜こうとする豪奢な馬車の主と目が合った。私は口だけで咄嗟に伝えた。「た・す・け・て!」

 その男性はすぐに気づいてくれて、その直後馬車が大きく揺れた。私が乗っていた馬車は進行を塞がれ、謝罪のためにその男性が降りてくる。

「これは……申し訳ない……御者がよそ見をしていたようで接触してしまった。ん? これはキャンディス・キーホ伯爵令嬢ではありませんか! 子のような時間に、どちらに行かれるのですか?」

「まぁ、ケーシー様! アーサック様に送っていただいたのですけれど、どうやら御者がキーホ伯爵家を誤って通り過ぎたようですわ」

「それなら、私が送りましょう。私はカエラ様の婚約者なので、キャンディス様は私の義理の姉にあたりますからね。身内を送るのは当然だ」

 あぁ、助かったわ。私はケーシー様の馬車に乗り換えて無事に帰宅することができた。

「迂闊に男の馬車に乗ってはいけませんよ。世の中には、いい人ばかりではないのですから」
ケーシー様はそう言って私をたしなめた。この方の目の下はクマだらけで、とても痩せ細っていた。もっと食べて眠るべきなのに……


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屋敷に戻った私にカエラが駆け寄ってきた。

「ごめんなさい、お姉様。御者に伝えるのをうっかり忘れていました。誰に送ってもらったのですか?」

「ケーシー様よ。そういえばアーサック様は、カエラと同じクラスよね? あの人には気をつけたほうがいいわ」

「え? なぜですか? なにかあったんですか?」

「いいえ、なにも」
 私の言葉に急に興味をなくしたかのようなカエラは、なぜか重いため息をついて自室に戻ってしまったのだった。

 そうして、その数日後にカエラは爆弾発言をした。

「お姉様。婚約者を取り替えて! 私はあんなガリガリの幽霊みたいなケーシー様は嫌いです!」
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