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sideレオン
一斉に僕の元に視線が集まる。学園時代の友人たちもそこにいて、胡乱な目をこちらへ向けていた。胸がざわつく。うまい言葉を探しながら、僕はゆっくりと口を開いた。
「……生きていたのか? てっきり亡くなったと思っていたんだよ。川で君の靴やショールも見つかったしね。それより、生きていたなら、なぜ帰ってこなかったんだい? 酷いじゃないか……心配したんだよ」
そう言葉を吐きながら、自分でも無理のあるセリフだと分かっていた。それでも、何とかその場を取り繕おうとして、リリアを責めるような口調になってしまう。
「なぜ帰らなかったか? それをレオンが言うの? また監禁されて、挙句の果てには保険金目当てに殺されたら嫌ですもの」
僕の名前を呼び捨てにし、敬語も使わないリリア。まぁ、あれだけのことをされたなら、僕の名に“様”などつける気にもならないだろう。
リリアの言葉が響いた瞬間、場の空気が一変した。
貴族たちがざわめき、誰もが息を呑む。
冷たい沈黙の中、その場にいた王太子殿下が氷のような声で告げた。
「カイルを通して、リリア嬢がどんな目にあったかは、だいたい聞いている。私はカイルの上司だったからね。大切な部下だった男の婚約者を、ずいぶんひどい目に遭わせたそうじゃないか」
「……へっ? あ、あのぉ……王太子殿下には関係ないことだと思うのですが……これは夫婦の問題でして」
「関係あるとも。だって、君はリディア嬢を騙して領地に連れ帰り、金を取り上げた上で使用人部屋に監禁していたんだろう? これは結婚詐欺という犯罪だし、貴族同士のトラブルは父上が裁くことになっている」
一方的に殿下に責められて動揺しているうちに、国王陛下の入場を告げるラッパの音が高らかに響いた。
扉が開かれ、陛下が入場する。貴族たちは一斉に頭を垂れ、厳かな沈黙が広がった。
慣例の挨拶を終えた陛下は、玉座の前から威厳に満ちた声を張り上げた。
「レオン・バルネス伯爵よ、前へ出よ! お前を重婚の罪に問う!」
予想もしなかった言葉に、息が止まった。
「へ、陛下……リリアは何者かに攫われ、川には靴とショールが落ちていたのです。それからしばらく領内を捜索し、帰ってくるのを待ってもいましたが……てっきり亡くなったと思い、そのように書類上も処理して、エレナと再婚しました。重婚など、何かの間違いでしょう……」
「お前は王都の戸籍管理局に、リリアの死亡届を提出していない! 記録の上では、いまだリリア嬢と婚姻関係にある。そして婚姻とは、教会における誓約によって成立するもの。すなわち、エレナとの結びつきも同時に有効だ。ゆえに、お前は二契の罪を犯しているのだ!」
(あっ、失念していた……。莫大なリリアの財が自由になるのが嬉しくて、そんな基本的な届出の規則さえ頭から抜け落ちていた)
この国では、貴族の死は王国の政治構造に直結する重大事とされていた。ゆえに、死亡の報告は最優先の義務であり、怠れば違法。場合によっては重罪にもなる。虚偽の死亡届などもってのほかで、それは王家に対する反逆にも等しいとされていた。
僕の場合、リリアの死亡届そのものを王都に出していなかった。この場合、どれほどの罪に問われるのか……。
一方で、婚姻は教会での誓いによって成立する――宗教的意味合いが強く、形式上の届出は後からでもよいとされていた。ただし、半年以内に王都の戸籍管理局へ報告する義務がある。
その期限を過ぎれば、婚姻の権利は一時的に凍結され、罰金が科されるという仕組みだった。
……確かに、このままでは重婚の罪を問われても仕方がない。
胸の奥が冷たくなる。
リリアは冷めた目で、まるで見下すように僕を見つめていた。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※更新に間が開いてしまい、すみません。明日か、明後日には完結します。
一斉に僕の元に視線が集まる。学園時代の友人たちもそこにいて、胡乱な目をこちらへ向けていた。胸がざわつく。うまい言葉を探しながら、僕はゆっくりと口を開いた。
「……生きていたのか? てっきり亡くなったと思っていたんだよ。川で君の靴やショールも見つかったしね。それより、生きていたなら、なぜ帰ってこなかったんだい? 酷いじゃないか……心配したんだよ」
そう言葉を吐きながら、自分でも無理のあるセリフだと分かっていた。それでも、何とかその場を取り繕おうとして、リリアを責めるような口調になってしまう。
「なぜ帰らなかったか? それをレオンが言うの? また監禁されて、挙句の果てには保険金目当てに殺されたら嫌ですもの」
僕の名前を呼び捨てにし、敬語も使わないリリア。まぁ、あれだけのことをされたなら、僕の名に“様”などつける気にもならないだろう。
リリアの言葉が響いた瞬間、場の空気が一変した。
貴族たちがざわめき、誰もが息を呑む。
冷たい沈黙の中、その場にいた王太子殿下が氷のような声で告げた。
「カイルを通して、リリア嬢がどんな目にあったかは、だいたい聞いている。私はカイルの上司だったからね。大切な部下だった男の婚約者を、ずいぶんひどい目に遭わせたそうじゃないか」
「……へっ? あ、あのぉ……王太子殿下には関係ないことだと思うのですが……これは夫婦の問題でして」
「関係あるとも。だって、君はリディア嬢を騙して領地に連れ帰り、金を取り上げた上で使用人部屋に監禁していたんだろう? これは結婚詐欺という犯罪だし、貴族同士のトラブルは父上が裁くことになっている」
一方的に殿下に責められて動揺しているうちに、国王陛下の入場を告げるラッパの音が高らかに響いた。
扉が開かれ、陛下が入場する。貴族たちは一斉に頭を垂れ、厳かな沈黙が広がった。
慣例の挨拶を終えた陛下は、玉座の前から威厳に満ちた声を張り上げた。
「レオン・バルネス伯爵よ、前へ出よ! お前を重婚の罪に問う!」
予想もしなかった言葉に、息が止まった。
「へ、陛下……リリアは何者かに攫われ、川には靴とショールが落ちていたのです。それからしばらく領内を捜索し、帰ってくるのを待ってもいましたが……てっきり亡くなったと思い、そのように書類上も処理して、エレナと再婚しました。重婚など、何かの間違いでしょう……」
「お前は王都の戸籍管理局に、リリアの死亡届を提出していない! 記録の上では、いまだリリア嬢と婚姻関係にある。そして婚姻とは、教会における誓約によって成立するもの。すなわち、エレナとの結びつきも同時に有効だ。ゆえに、お前は二契の罪を犯しているのだ!」
(あっ、失念していた……。莫大なリリアの財が自由になるのが嬉しくて、そんな基本的な届出の規則さえ頭から抜け落ちていた)
この国では、貴族の死は王国の政治構造に直結する重大事とされていた。ゆえに、死亡の報告は最優先の義務であり、怠れば違法。場合によっては重罪にもなる。虚偽の死亡届などもってのほかで、それは王家に対する反逆にも等しいとされていた。
僕の場合、リリアの死亡届そのものを王都に出していなかった。この場合、どれほどの罪に問われるのか……。
一方で、婚姻は教会での誓いによって成立する――宗教的意味合いが強く、形式上の届出は後からでもよいとされていた。ただし、半年以内に王都の戸籍管理局へ報告する義務がある。
その期限を過ぎれば、婚姻の権利は一時的に凍結され、罰金が科されるという仕組みだった。
……確かに、このままでは重婚の罪を問われても仕方がない。
胸の奥が冷たくなる。
リリアは冷めた目で、まるで見下すように僕を見つめていた。
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※更新に間が開いてしまい、すみません。明日か、明後日には完結します。
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