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7 いつの間にか弟が婚約者
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あの舞踏会で全てが変わった。私は王女として王宮に住むようになった。お母様の王妃殿下は私を抱きしめて「今まで本当のことをあかせずにいてごめんなさいね。でもこうしなければあなたは生きてはいられなかったの。悪しき慣習、言い伝えは昔から信じられていてこのせいで罪もない赤ちゃんが殺されていた歴史があるの。アメリアを救うためにはこれしか方法がなかったのよ」
「はい、ありがとうございます。少しも国王陛下や王妃殿下のことを恨む気持ちはありません。むしろハーバート公爵家に預けてくださり感謝しております。あちらではとても可愛がっていただきました。本当に我が子のように慈しんで育てていただいたのです」
私は王妃殿下にそのように申し上げた。いきなりこの方をお母様とお呼びするのは難しいけれど、その温かい雰囲気に安心感を覚えたのだった。
「結婚は2、3年先で良いだろう。やっと娘と暮らせるのだからマックスには少し待ってもらおう」
国王陛下はそうおっしゃって私を抱きしめた。
お二人は終始うれしそうで確かに私はこのお二人の子供なんだと感じることができた。
「かわいそうに……王女でありながら宮殿に住むこともできず、ハーバード公爵家に引き取られ平民の子などと蔑まれ、あのような愚か者に婚約破棄されるとは……あのジョージは私がきっと懲らしめてあげるからね」
お兄様のウィリアム王子殿下は私の髪を撫でておっしゃった。
「それほど懲らしめてもらわなくても大丈夫です。ジョージは確かにいい婚約者ではなかったけれど私のことを客観視していろいろ注意してくれたんですから」
私はにっこりと微笑んだ。
「ちょっと待て注意とはなんだ?」
国王陛下がびっくりするようなこわばった声で私に尋ねる。
「そうですね、例えば私が髪型を気にして鏡を見ていると『君のような冴えない女なんて誰も見ていないから気にしなくていいよ』と教えてくださったりとか。主に容姿のことで私が勘違いをしないように戒めてくれました。自分を美人だと勘違いして天狗にならないようにいつも謙虚で、と言われておりました。それが女性の美徳だと教えてくれたんです」
私はにっこり微笑んでそう申し上げた。そう、だから私は自分の容姿があまり綺麗じゃないことを知っていた。
「それはいいことを教えてくれたね。ジョージは最高のご褒美をもらう必要があるな。ところでここにいる王妃は美しいか? 美しくないか? どっちだと思う?」
国王陛下の問いかけに私は即座に、
「もちろんとても美しいと思います」
と、答えた。
「ではこの王妃にそっくりなアメリアが美しくないわけがないだろう? アメリアはとても美しい。これは真実であり、誰もが認める事実だ。まったくなんて事だ! なんでそんなことを思い込んだんだろうなぁ。ところでマックスはアメリアが美しいとは言わなかったのかい?」
「弟のマックスはいつも私のことを綺麗だと言ってくれました。でも弟ですからきっと慰めてくれているのだと思っていました。それに弟はいつも私を褒めるからあてにならないと思って……ハーバート公爵家のお父様もお母様も私のことをとても美しいと言ってくれました。でもこれもきっと娘だから親の欲目だろうと思っていたんです」
「いやはやなんとも……ジョージはこのアメリアをそのように思い込ませて、優位に立とうとしたのだろう。なんと下劣な男よ! あいつにはしっかりとすばらしい褒美をやらないといけない」
国王陛下は烈火のごとく怒り、王妃殿下は深く頷き、ウィリアム王子はニヤリと唇を歪めた。
それからディッシュ侯爵家はアッと言う間に没落し、ジョージの姿を二度と見る事はなかった。私もいつの間にか彼を忘れてしまい、社交界もジョージの存在をすっかり忘れていったのだった。
私はマックスと1日おきにデートを重ねる。弟が恋人になるなんて夢みたい。私がなんでジョージを好きになったかが今更ながらわかった。私もずっと弟に恋をしていたんだ。このちょっぴり意地悪なとても美しい弟が好きなあまり、目元が少しだけ似ているジョージを身代わりにしていたことに気がついたのだった。
私の恋人はいつも私だけを見つめていてくれる。私だけに微笑みかけて私だけにささやく言葉はいつも決まっている。
「僕の大事な姉さん。一生あなたを守るからね。何があってもずっと愛していますよ」
まだ弟は私に姉さんと呼ぶのをやめないんだけれど、最近はちょっとずつ私のことをアメリアと呼ぶようになった。あのちょっぴりセクシーな眼差しと深みのある声で囁かれる私の名前は特別な響きを帯びる。私は心の底からとろけるようになり、顔がにやけてしまうのよ!
婚約破棄されたら弟が恋人になりました。これにておしまい。
おしまい
「はい、ありがとうございます。少しも国王陛下や王妃殿下のことを恨む気持ちはありません。むしろハーバート公爵家に預けてくださり感謝しております。あちらではとても可愛がっていただきました。本当に我が子のように慈しんで育てていただいたのです」
私は王妃殿下にそのように申し上げた。いきなりこの方をお母様とお呼びするのは難しいけれど、その温かい雰囲気に安心感を覚えたのだった。
「結婚は2、3年先で良いだろう。やっと娘と暮らせるのだからマックスには少し待ってもらおう」
国王陛下はそうおっしゃって私を抱きしめた。
お二人は終始うれしそうで確かに私はこのお二人の子供なんだと感じることができた。
「かわいそうに……王女でありながら宮殿に住むこともできず、ハーバード公爵家に引き取られ平民の子などと蔑まれ、あのような愚か者に婚約破棄されるとは……あのジョージは私がきっと懲らしめてあげるからね」
お兄様のウィリアム王子殿下は私の髪を撫でておっしゃった。
「それほど懲らしめてもらわなくても大丈夫です。ジョージは確かにいい婚約者ではなかったけれど私のことを客観視していろいろ注意してくれたんですから」
私はにっこりと微笑んだ。
「ちょっと待て注意とはなんだ?」
国王陛下がびっくりするようなこわばった声で私に尋ねる。
「そうですね、例えば私が髪型を気にして鏡を見ていると『君のような冴えない女なんて誰も見ていないから気にしなくていいよ』と教えてくださったりとか。主に容姿のことで私が勘違いをしないように戒めてくれました。自分を美人だと勘違いして天狗にならないようにいつも謙虚で、と言われておりました。それが女性の美徳だと教えてくれたんです」
私はにっこり微笑んでそう申し上げた。そう、だから私は自分の容姿があまり綺麗じゃないことを知っていた。
「それはいいことを教えてくれたね。ジョージは最高のご褒美をもらう必要があるな。ところでここにいる王妃は美しいか? 美しくないか? どっちだと思う?」
国王陛下の問いかけに私は即座に、
「もちろんとても美しいと思います」
と、答えた。
「ではこの王妃にそっくりなアメリアが美しくないわけがないだろう? アメリアはとても美しい。これは真実であり、誰もが認める事実だ。まったくなんて事だ! なんでそんなことを思い込んだんだろうなぁ。ところでマックスはアメリアが美しいとは言わなかったのかい?」
「弟のマックスはいつも私のことを綺麗だと言ってくれました。でも弟ですからきっと慰めてくれているのだと思っていました。それに弟はいつも私を褒めるからあてにならないと思って……ハーバート公爵家のお父様もお母様も私のことをとても美しいと言ってくれました。でもこれもきっと娘だから親の欲目だろうと思っていたんです」
「いやはやなんとも……ジョージはこのアメリアをそのように思い込ませて、優位に立とうとしたのだろう。なんと下劣な男よ! あいつにはしっかりとすばらしい褒美をやらないといけない」
国王陛下は烈火のごとく怒り、王妃殿下は深く頷き、ウィリアム王子はニヤリと唇を歪めた。
それからディッシュ侯爵家はアッと言う間に没落し、ジョージの姿を二度と見る事はなかった。私もいつの間にか彼を忘れてしまい、社交界もジョージの存在をすっかり忘れていったのだった。
私はマックスと1日おきにデートを重ねる。弟が恋人になるなんて夢みたい。私がなんでジョージを好きになったかが今更ながらわかった。私もずっと弟に恋をしていたんだ。このちょっぴり意地悪なとても美しい弟が好きなあまり、目元が少しだけ似ているジョージを身代わりにしていたことに気がついたのだった。
私の恋人はいつも私だけを見つめていてくれる。私だけに微笑みかけて私だけにささやく言葉はいつも決まっている。
「僕の大事な姉さん。一生あなたを守るからね。何があってもずっと愛していますよ」
まだ弟は私に姉さんと呼ぶのをやめないんだけれど、最近はちょっとずつ私のことをアメリアと呼ぶようになった。あのちょっぴりセクシーな眼差しと深みのある声で囁かれる私の名前は特別な響きを帯びる。私は心の底からとろけるようになり、顔がにやけてしまうのよ!
婚約破棄されたら弟が恋人になりました。これにておしまい。
おしまい
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良いお話でした!!!
素晴らしい公爵家族!
弟(笑)
🌉☆¸.•*¨¨*•.¸¸⋆¸¸.•*¨¨*•.¸☆🌉
(\ /) ''(\ /)
( . .)こんばんわぁ🌟. (. . )
c(")(") (")(")э
感想ありがとうございまぁす
弟(♡ˊ艸ˋ)♬*
良いよねぇ
こちらもお読みくださり
ありがとうございます(❛ᗜ❛*ૢ)ʾʾ。.*・
一気に読了❗
両想いハッピーエンド🎉
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で、裏切り者な元親友はどうなったんでしょう❓
主人公の双子な王子様は、主人公とは違って父親(王様)似なのかな😃
だとすると、主人公と並ぶと 若かりし頃の国王夫妻そっくり とか❓😆
ありがとうございます😊
一気に読んでくださり感謝です
はいマックスはあれでちょうどいいかなと思います💦
裏切り者な元親友は多分不幸になっていると思います🤭
ですね
主人公の双子の王子様は父親似なのかもしれません😆
おっしゃる通りだと思います🎵
感想をお寄せくださりありがとうございます💐💓
青空様〜💖
完結おめでとうございます
(⁎❛ᴗ˂ノノ✧💐🎉
青空様の書くヒーローはいつも素敵ですね
(*˘ᵕ˘*).¸¸♬•*¨*•.♫♬*☆
とことん甘やかしてくれるヒーロー、いいなぁ🌟(•'-'•)🌟
ありがとぅ*.+゚嬉(๓´͈ ˘ `͈๓)嬉.*♡ございますーー♫w
褒めていただきありがとうございます
∧_∧ テク
(・ω・* ) テク
⊂( ⊃
⊂ーJ...
∧_∧≡=-
(ーωー* )-=-
⊂、⊂ヽ≡=-
⊂ー、_)≡=-
シュタタタタ…
∧_∧_∧
(๑・ω・)ω<๑)
/⌒ づ⊂⌒ヽ ぎゅ❤