[完結]見殺しにされた私が助けるわけがないでしょう?

青空一夏

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12 王太子視点

王太子視点

 ここは母上のサロン。私は、セシリアがヴァレンティア公爵から受けた仕打ちについて報告していた。ルシアンが、セシリアを少しも守ろうとしなかったことも忘れず報告する。セシリアが王宮へ戻ってきた、その日の昼下がりのことだ。
「母上、ヴァレンティア公爵を、二度とセシリアに関わらせたくありません。仮病を使って娘をおびき寄せ、部屋に閉じ込め、金儲けのために無理やり薬を作らせようとしたなど……到底、許されることではありません」
「そうね。アレクシスの言う通りだわ。親であっても、手出しができない形にしなければ……セシリアを守れるように」

 私はしばらく考えた後、おもむろに口を開いた。
「いいことを思いつきましたよ。新しく『宮廷薬師』という官職をつくるのです。今までは医者が薬も作っていましたが、それを切り分け、薬師という役目を独立させるのです。セシリアだけの特例として」
「それは良い案ですわ。わかりました。国王陛下には、私から報告しましょう」
「母上、どうせなら父上に官職の授与式をしていただけませんか? 主だった貴族や、ヴァレンティア公爵家の人々も招き、広く知らしめるのです」
「そうね。官職の授与式は大切な儀式ですもの。その地位の重みが、まるで違ってきます。陛下には、私からお願いしておきましょう。私は大賛成ですわ」
 母上がそこまで言ってくれたのなら、これはもう決まりも同然だ。私は満足し、その場を後にした。

 執務室に戻ると、私はセシリアを呼び、ソファに座らせた。セシリアはにこにこと私の前に座っているが、手はまだ赤いままだし、心もきっと傷ついているに違いない。
(ヴァレンティア公爵夫妻めっ! リリアーナは甘やかすくせに、セシリアには驚くほど冷たい。かわいそうに……私が守ってやらねば)
「セシリアは、私や母上のために日々よく仕えてくれている。礼を言うよ、ありがとう。それで君にぴったりの官職を用意した。君は『宮廷薬師』という官職に任じられる。授与式も行うから、楽しみにしてくれ」
 セシリアは目を丸くした。
「そ、そんな恐れ多いことですわ。官職のような立派なものをいただきたくて、ここにいるのではありません。私は今まで通り、王妃様や王太子様のお役に立てばいいのです」
(この謙虚な心根も素晴らしい……だからこそ私は、セシリアにきちんとした身分と立場を与えてやりたい)
「これは君を守るためでもあるんだよ。官職があれば、ヴァレンティア公爵家の介入を防げる。セシリアは王族直属の官職につき、公的に保護される立場になる。もう、公爵に呼びつけられて監禁される危険はない」
 そう言うと、セシリアはほっとしたように微笑み、「そのお気持ちが嬉しいです」と小さく呟いた。彼女のその表情を見て、胸の奥がじんわりと温かくなる。こうして守れたことも、喜んでもらえたことも、素直に嬉しかった。

 数日後、王宮の広間にて、正式な任命の儀が執り行われた。セシリアは母上が贈った宮廷薬師の白いローブを纏い、父上の前へと呼び出される。
「本日より『宮廷薬師』という官職を設ける。身分は『宮廷医』と同列である。セシリア・ヴァレンティア公爵令嬢。そなたを、本日より宮廷薬師に任ずる」
 その場に集められた貴族たちは、ざわめきを隠せなかった。医者が担ってきた役割を切り分け、しかもセシリア一人のために、新たな官職が設けられたのだ。ヴァレンティア公爵夫妻は動揺を隠せない様子で、もう自分たちには手出しができないのだという不満が、表情に滲んでいる。だが、知ったことではない。リリアーナは悔しげに顔を歪めていた。
(本当に性格が悪い。リリアーナとセシリアでは大違いだ。セシリアは、人の成功をあんな妬ましい顔で眺めたりはしない)

 私はふと、背後に控えるルシアンに目をやった。視線の先を追えば、そこにいるのはセシリアではなくリリアーナだった。
(……守るべき相手を、最初から間違えている……ルシアン、お前にはがっかりだよ)

 私は次の決断をする時だと思った。
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