[完結]見殺しにされた私が助けるわけがないでしょう?

青空一夏

文字の大きさ
33 / 40

33 顔面崩壊

 リリアーナの顔が見る間に赤く腫れ上がり、その赤みは頬から首元へと広がっていき――やがて皮膚は黒ずみ、焼けただれたように崩れ始めた。

 ルシアン様の行動は素早かった。リリアーナがそうなった瞬間に、大きく後ろに飛びのき、 さらにそのまま距離を取る。その眼差しは、到底 リリアーナを心配しているようには見えなかった。

「わ、私は何もしていませんよ。 本当です! ただ、このベールをリリアーナにかけただけです。こんなことになるなんて……思ってもいませんでした。私はなにも悪くない!」

「落ち着け、ルシアン! 誰もおまえのことは疑っていない!」
 王太子様がルシアン様をなだめる。王様は、ルシアン様のあまりに露骨な態度に、顔をしかめていた。

「一応、夫なのですから、 リリアーナの心配をしたらいかがですか?」
 私は思わずため息をついた。 ルシアン様はあまりにも情けなさすぎる。

「セシリアの言う通りですわ。夫のくせに 妻の心配もしないなど……ありえませんわね」
  王妃様はこめかみを軽く押さえた。 

「ルシアン様の性根がわかる、というものですわ。セシリアはルシアン様とは婚約者だったでしょう? このような方と結婚しなくて、本当に良かったわ」
 エルファ公爵夫人は眉間に皺を寄せ、エルファ公爵は深く頷く。

   周囲から責められたルシアン様は、恐る恐るリリアーナに近づいた。
「リリアーナ…… 大丈夫かい?」

 うつむいていたリリアーナが顔を上げると、さらに肌は見るに堪えない状態になっていた。その様子を見てルシアン様は、また弾かれたように後ずさった。
「ひっ! ば、化け物……」

 私と王妃様、エルファ公爵夫人はそんなルシアン様の反応に、開いた口が塞がらない。

「ルシアン! おまえの妻だろう? 恐がっていないで、介抱してやれ!」
 王太子様も、ルシアン様へ失望したような目を向けた。

 ところが、ルシアン様はすぐさま即答した。 
「え……嫌です。だって……感染する病気かもしれないじゃないですか? いったい何が原因なのか、わからないのですよ? 触ったりしたら危険です!」
  ルシアン様はリリアーナに近づこうともしなかった。

 王様はルシアン様に向け、小さく舌打ちをした。
「見下げ果てた男だ」

 「病気ではありませんわ。これは毒のせいです。ベールの内側に塗ってあったのでしょう。リリアーナが私の肌を痛めつけようと仕組んだのですわ」 

「ベールに毒? 王様、私は本当に知りませんでした。このベールがそんなに危険なものだとは……リリアーナからは、何も聞かされていません」
 今度は自分が 巻き添えになりたくないので、必死になって弁解しだす。

( 本当に自分のことしか考えられないのね……まあ、そんな人だとはわかっていたけど……ここまでとは)

「痛い……痛い……お姉様、助けてよ……。お願い、お姉様」

 リリアーナが呼びかける声を聞きながら、 私は静かに目を細めた。
「こんなことをしておいて、 なぜ私に助けてもらえると思うの?」
 心からの疑問だった。

 すると、またいつもの声が聞こえた。 私の調合室からだ。
「はぁーい、私よ、私! 痛みを和らげることができるわ」
「僕は傷が悪化するのを防げるよ」
(……そうね。応急処置は必要ね)

 私は王様の許しを得て、リリアーナに必要最低限の処置を施した。命を落とすことがないよう薬を飲ませ、痛み止めも与えた。

 リリアーナが落ち着くと、王様は皆を裁きの間へ移した。 
「 リリアーナよ。よくも、こんな不届きな真似ができたものだ。王太子の婚約者を害そうなどと……痴れ者め」
  王様の裁きが始まった。

「何のことでしょう? 私には分かりませんわ。ベールに毒がついていたなんて、私は知りませんでした」
 リリアーナは平然と首を振った。

「 実は王家の影にずっとリリアーナを見張らせていたのさ。証人よ、出てきてくれ」
 王太子様が呼びかける。

 一人の商人が裁きの間へ入ってきた。
「間違いなく、 毒を買ったのはこの令嬢です! ……取引の時と同じ指輪をしていますから。あの時は黒いベールを被っておりました。高貴な方は顔を隠して取引なさることが多いので、不審には思いませんでした」
 リリアーナを指さして、はっきりと断言した。

「それはヴァレンティア公爵家の紋章入り指輪ですわ。次期当主しかつけることができませんのよ」
 私は思わず口を挟んだ。

「いい加減なこと言わないでよ! こんな商人の言うことなんて信じないで!」
 リリアーナは取り乱したように泣き叫ぶ。
「そうだわ…… お父様とお母様が悪いのよ! お父様たちが、闇市に毒が売っていることを教えたのよ! だから悪いのは私じゃない!」

(……やはり前と同じ。両親も絡んでいたのね)

  「ならば、ヴァレンティア公爵夫妻にも来てもらおう。父上、私はセシリアを害する者は決して許せません! 二度と同じことができぬよう、ヴァレンティア公爵夫妻にも相応の罰を!」

「ふむ、もっともだ。ところで、セシリア。そなたは、大変な被害に遭うところだった。しかも、加害者は自分の身内だ。だからこそ、問おう。そなたは両親と妹にどのような罰を望む?」
  その場にいた人たちの視線が、一斉に私に集まった。 
感想 98

あなたにおすすめの小説

幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。

たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。 彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。 『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』 「……『愛している』、ですか」 いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです

唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。 すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。 「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて―― 一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。 今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った

冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。 「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。 ※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

嘘つきな貴方を捨てさせていただきます

梨丸
恋愛
断頭台に上がった公爵令嬢フレイアが最期に聞いた言葉は最愛の婚約者の残忍な言葉だった。 「さっさと死んでくれ」 フレイアを断頭台へと導いたのは最愛の婚約者だった。 愛していると言ってくれたのは嘘だったのね。 嘘つきな貴方なんて、要らない。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 11/27HOTランキング5位ありがとうございます。 ※短編と長編の狭間のような長さになりそうなので、短編にするかもしれません。 1/2累計ポイント100万突破、ありがとうございます。 完結小説ランキング恋愛部門8位ありがとうございます。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。