【完結】魔王を倒す前に俺が倒れます!

ゆい

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番外編

俺に弟子ができる話

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「お願いします!弟子にしてください!」

俺は八百屋で買い物をしていたら、いきなり若い男にそう言われた。
周りは何事かと騒つく。

「良かったね、おっちゃん。最近重いのを持つと腰が痛いって言っていたから、若いのが入ってきたら、少しは楽になるね。」

「えっ、いや、違います。八百屋でなく、」

「はい、お金。じゃ、あとよろしく!」

「ユーリちゃん?!」

と、俺はダッシュでその場から立ち去った。三十六計逃げるに如かずだ。
市場から出て馬停めまで走り、魔馬に跨がりすぐに家に帰った。


今日の買い物は八百屋だけだったから良かった。他の店もあったら付き纏われただろう。
弟子志願者は結構な人数がきていた。
大体がエルとジーク狙い。料理を真剣に教えて欲しいと来たのは数人。その数人はまず公爵邸にお願いして、下っ端から始めさせている。料理長が人格等を判断して大丈夫とお墨付きをもらってから、俺のところに来れる。まだいないけど。
いきなり俺の城に知らない奴を入れたくない。俺専用魔道具もあるし。盗まれはしないけど、気持ちがいいものではないしな。



皇都に来て3年が経つ。
俺は21歳。エル達は…そう言えば年齢聞いたことがなかった。25、6くらい?もっと上?気にしたことなかったよ。
リリーはもうすぐ14歳。綺麗な女性に変身中だ。
13歳の時に学園に入学したが、色々あって1ヶ月で辞めた。あの後エルパパは、貴族には平民の有り難みを学園で教えるように指導していた。俺はリリーの意思に従うだけ。でもすぐに相談はして欲しかった。
今はエルと共に魔法士団で働いている。女性初だそうで、一時は騒がれた。
まだ男性を苦手にしているが、エルの助手として入ったから、エルが牽制してくれるだろう。
エルパパもリリーを大事にしてくれているから、リリーに嫌がらせしたら即クビになってしまうだろうし。
ジークもそれなりに昇進はしている。ただ協調性の無さが心配だ。
エルは特別枠だから、…昇進も何もないけど、仕事をしてくれればいいや。
俺は相変わらず一人で店をしている。
アルス達に子供が出来たので、今は別の人が給仕係に来てくれている。なんと公爵邸の執事長サイラスとメイド長イリシャのご夫婦だ。
50も過ぎたし後継も育ったので、若手に譲ったけど、身体はまだまだ元気だからって、アルス達に子供が出来たのを機に、こっちで働きたいと言ってくれた。
俺としては有り難い。ジークパパもうちの店なら良いと言ってくれて、夕方から夜の短時間だけ働いてもらっている。
夜の通いも大変だろうからと、近所の空き家を買い取り、そこで2人は住んでいる。
子供達も独立しているから、余生はここで過ごすと言っていた。
たまにジークやレオの子供の時の話をしてくれるので、俺の楽しみが一つ増えた。



翌日八百屋に買い出しに行けば、昨日の人が働いていた。なんだ、やっぱり八百屋志望だったみたいだ。

「おっちゃんおはよう。」

「ユーリちゃん、おはよう。昨日はよくも逃げたね。」

あらおっちゃんおこ?

「いやぁ、この歳で弟子ってまだ早いよ。」

「まだ早いかも知れんが、話だけでも聞いてやって欲しいな。彼、南の国からわざわざユーリちゃんを訪ねて来たんだよ。話を聞いてあげなよ。」

「ふぇ?」

南の国?ラインハルトの国?

「ユーリさん、おはようございます。お久しぶりです。」

「…誰?」

「宿で働いていたリュークです。タハル料理長の。」

「タハルのところ?……あっ、レシピを書いてくれていたリューか?」

「そうです!」

「うわあ、全然変わってわからなかったよ。」

「だから昨日逃げたんですね。」

リュークはガクッと肩を落とす。
レシピを一生懸命書いて、俺の後をちょこちょこ付いてきて、母さんにスープを飲ませたいって言っていたリューク。
身長も伸び、精悍な顔立ちに変わったら、もう別人にしか見えなかった。

「ごめんね。こんないい男になったなんて思わなかったよ。…で、弟子になりたいの?」

「はい。タハル料理長から推薦状を書いてもらいました。ユーリさんから教わった料理は作れます。」

「…じゃ、試験をしよう。今日は店も丁度休みでスープを作るから。おっちゃん、野菜は今日は多めで。」

「あいよ。にいちゃん良かったな。ユーリちゃん厳しいから、頑張れよ!」

「はい、ありがとうございます。あの宿代払います。」

「いいよ。店手伝ってくれたし、昨夜と今朝、ごはんを作ってくれたんだ。それで十分だ。かみさんのごはんより美味かったしな。」

おっちゃんはおかみさんに頭をバシっと叩かれた。

「料理下手で悪かったね。でも本当に美味しかったよ。ユーリちゃんの料理は食べたことないけど、あれ以上に美味しいなら、平民の手には届かないのも納得だわ。」

「いや、俺がやる気がないだけ。他に就職したら、エルパパが怒りそうだし。」

「でも一度くらいは食べてみたいわねぇ。」

「食べてみたいなぁ。」

「…ん~、考えておくよ。」

と、八百屋を後にする。買い物を次々に済ませて、八百屋に戻り、リュークを引き取り家に帰る。
リュークを魔馬に乗せられないので、帰りは2人と1頭で歩いて帰った。


「でっかい店ですね。」

「いや、自宅だよ。」

「ふぇ?!」

「店はあっちの建物。」

「えっ?お客様がそんなに入らないんじゃないですか?」

「1日1組限定、要予約。一人でやるから、これが精一杯なの。」

厨房に直接外と出入りするドアから入る。ここは主に給仕係用に作ったドアだ。

「ここが俺の厨房だ。あっちに更衣室があるから、コックコートに着替えてこい。試験をしよう。」

「はい!」


着替えてきたリュークから、推薦状を受け取り、まずはオムレツを作ってもらった。
手順も完璧で流れるように作った。
何十回、何百回と練習したのだろう。
出来たのを試食する。
形も良く、色も綺麗だ。ナイフを入れれば、中はトロトロだが、じゅわぁと卵液が出てくることはない。
一口食べれば、俺の作るのと遜色はなかった。

「次、自分の得意な料理を作ってみろ。材料はあっちに入っている。ないものがあったら教えて。」

「はい!」

俺はブイヨンを作る。煮込んでいる合間に推薦状を読む。
『リュークはユーリを目指して毎日努力をしていた。腕も若手の中では一番だ。このまま宿で修行するよりは、ユーリのところで修行させた方が、もっと伸びるから頼みたい』と書かれてあった。
タハルは俺から見ても、料理には真摯な料理長だ。そのタハルがここまで言うから、リュークは相当努力したんだろう。
オムレツの時点で合格だよ。でも、自分だけの得意料理ってあるじゃない。料理人なら、リュークの得意な料理がどんなか食べてみたい。


ブイヨンが出来上がる頃に、リュークの料理ができた。慣れない厨房だから、調理器具に手間取ったが、包丁使いも上達していた。
出てきたのは、鳥肉のバロティーヌだった。多分名前は知らないだろうと思う。
鳥肉で野菜、チーズを包み、油紙で水が入らないようにしっかり包み、20分ほど茹でた後に、フライパンで表面をカリカリに焼く。ソースはトリュフソースを使いたいところだけど、この世界にトリュフなんて見たことがないから、どんなソースか気になる。
一口大に切り食べる。肉はしっとりしているが、表面のカリカリで食感を二通り楽しめる。味もしっかりついているが、ソースには生クリーム、チーズ、香りが強いきのこを使っている。皇国にはないきのこだ。
中の野菜もしっとりした肉と合っていて美味い。

「はぁ、すごいな。ここまで自分で考えたのか。」

「はい。タハル料理長に相談しながらですけど。」

「いや、相談できる相手がいるのはいいことだよ。じゃあ、今日からよろしくね。」

「っ、はい!よろしくお願いします!」

と、リュークは涙ぐんで頭を下げた。
よっぽど嬉しかったのか、その後は泣いちゃったけど。
さて、今後の下宿先とかを考えないといけない。
うちでもいいんだけど、リリーがいるし、エルとジークが絶対許さないだろう。リュークがそんな子ではなくても、一日中一緒にいることになるから、面白くないだろうし。
なら、執事長達に相談しようか。
と、コックコートを脱ぎ、2人で執事長達の家を訪ねる。



「サイラスさん、イリシャさん、いますか?」

声を掛けながら玄関の扉をノックする。
ガチャと扉が開き、サイラスさんが出てきた。

「ユーリ様どうしましたか?」

「実は相談がありまして。」

と、中に入れてもらい、2人にリュークの下宿先の相談をする。

「なるほど。でしたら一緒に住みませんか?この通り2人暮らしですし。」

「でも、折角の夫婦水入らずなのに。」

「いえいえ、2人して仕事をしていないと落ち着かないタチで。家で磨くところはもうないくらいですよ。」

「誰かのお世話をするって、やりがいがありますし。」

「リューは?」

「お邪魔でなければ、お世話になりたいです。」

「決まりだね。」

「では、旦那様にも連絡をしておきます。」

「ありがとう。夕食は2人もこっちに来て。リューの歓迎会をやろう。」

「「はい、ありがとうございます。」」



夕方、帰って来たエル達にリュークを紹介した。エルとジークは、リュークを覚えていたらしく『大きくなったなぁ』とか親戚のおじさんが言うセリフを言っていたので笑えた。
リュークには事前にリリーのことを伝えておいたから、紹介の時はなるべく優しく接しようと頑張っていた。
でも、リリーは怖がることがなかった。
年齢も近いのもあり、すぐに打ち解けていった。

サイラス達が来たところで歓迎会を開始した。和気藹々と食べる。今日は人数が多いからビュッフェ形式にした。
ジーク、野菜もきちんと食べろ。
リュークの作った料理は好評だった。
ジークは何回もおかわりをしていた。

で、相変わらずエルパパが突撃してくる。
みんなが溜息を吐くなか、リュークだけはびっくりしていた。
エルの父で、夕食には突撃してくる迷惑なおじさんと紹介した。
リュークがエルパパと会話する。

「そうか、南の国から来たのか。ラインハルトは元気か?」

「ラインハルトさん?」

「南の国の王様だ。」

「えっ?」

「ちなみに儂はこの国で皇帝をしている。ここでの扱いは迷惑なおじさんらしいがな。」

こっちに聞こえるように言う辺り、自覚はしているがやめる気はないということか。

「ええ!…え、エルさんて皇子様?ジークさんは?」

「伯爵だな。元は公爵子息で、サイラス達は公爵邸の執事長とメイド長だったぞ。」

「ええ!!!情報が多すぎる!!」

困惑したリューク。その後は自分でも何を喋っていたのか思い返せないほど、緊張したらしい。

「ユーリ様、伝えてなかったのですか?」

とサイラスに言われる。

「いや、忘れていた。そう言えば俺、伯爵夫人だったね。」

と笑って誤魔化す。
本当に忘れていたんだよ。
俺もエルの言えないなと、少し反省をした。


この日、店に新しい仲間が増えた。






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