婚約者の心の声を聴きたくない【改稿版】

ゆい

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王宮魔法具師ノイリス(21)の元に、一つの指輪が届く。
とある貴族から、指輪の鑑定の依頼だった。

プラチナで作られており、宝石いしが付いていない普通の指輪。
アームが細いから、一見して指輪というより、何かの部品のリングに見える。
デザインは、波のような、蔦のような形の何かが彫られているくらいだ。
鑑定してみると、確かに何かの術式が組み込まれていた。
今まで見たことがない術式だったので、王宮の書庫で術式の本をくまなく漁る。しかし、どの本にもこの術式自体も、似たような術式も載っていなかった。

危険はなさそうなので、ノイリスは自分の指に嵌めてみる。
それは無意識の行動だった。指輪と聞いてみて、自分の指にはまるかの試しに近かった。
どの指にも合わず、唯一すっぽり嵌ったのが左手の薬指だった。
男性にしては、指が細い方のノイリスだけど、まさか左手の薬指にすっぽりと嵌るとは思わなかった。
嵌めてもとくに術が発動するわけでもなく、体のどこかが痛むとかそんなことはなかった。鑑定をしても、はめる前と変わったところはなかった。
更に詳しく調べるために、最新の鑑定具を使おうかと思い、指輪を外そうとするが、指輪は1mmも指の根元から動かなかった。
指輪はくるくると回るが、外そうとして引っ張ると動かなくなる。

「…もしかしたら、指から外れないようにする術式だったのかな?」

どんな指輪かもきちんと調べず、安易に危険はないと、嵌めてしまった自分の浅はかな行動に後悔をする。
嵌めた時には気付かなかったけど、ほんの少しずつ、普通なら気が付かない程度に、自分の魔力が指輪に吸収されていることに気付いた。
少量の魔力により、【指から外れないようにする術式】が発動しているのかと思ったけど、術式自体、発動している様子もなかった。

ノイリスは、もう一度依頼書を読むことにした。

【祖母の形見らしいのですが、家族の誰の指にも嵌まらない指輪です。まるで指輪が意思を持っているかのようで、指に入れようとすると、指輪が勝手に抜けてしまいます。とても気持ちが悪いので、鑑定をお願い致します】と書かれてあった。

……今、私の指に嵌まっていますけど?
そんな言われ付きだったの?
依頼書はきちんと読もうと、ノイリスは心に誓った。






「君さ、ホント何やってんの?」

と、この事を報告した上司、魔法具部の部長が呆れたように言ってくる。

「危なくないとわかっていても、普通、薬指に嵌めないよね?」

「……まぁ、そうですね」

「君がその指輪の解析の為に、嵌めていることは許可できるけど、婚約者との仲とかまで、こちらは関知しないよ?破談になっても、うちに文句言ってこないでよ?」

「…言いませんよ。それにもう、…破談一歩手前ですし」

「…君さ、ほんとおぉぉに何やってんの??」

と、更に呆れて言われた。

「本当に何やっているんでしょうね?」

と、私は部長に聞き返す。

「僕に聞かないでよ。やめて。巻き込まないで。結婚式のスピーチはしても、破談式のスピーチはしたくないから!」

「……破談式ってあるんですか?」

「僕だって聞いたことないよ!!」

部長がパニックに陥っている。
そんな部長を見て、俺は心の中で笑ってしまう。
部長自身が言った言葉だけど、何を言っているのか、部長自身がわかってないところが面白い。

「では、許可証にサインをお願いします」

混乱している部長に、指輪の持ち出しの許可証を渡す。

「……ホント、こういうことの仕事は早いね?」

許可証を見て、落ち着いた部長は文言を読み、サインをしてくれる。
あとで気が変わったなんて言われるのが嫌だから、許可証は真っ先に作ってから、部長のところに伺いを立てるようにしている。
この部署で許可証をきちんと用意するものなんて僕ぐらいなんだろうけど。

「ありがとうございます。……では、お先に失礼します」

と、私は帰り支度をして、さっさと帰る。
部長はそんな僕を見て、ただ呆れた顔をするだけだった。



カイエン王国魔法具部は、魔法具をこよなく愛してやまない者、もしくは新たな魔法具を作ろうとする者が集まった部署である。
所謂、魔法具オタクの巣窟である。
その中では、ノイリスは異質だった。
寝食を忘れて製作に熱中したり、帰る時間がもったいないと、部署で寝泊まりをすることはなく、定時に王宮に来て、その日のうちに仕事をこなし、定時に帰宅するという、普通の勤め人だった。
王宮勤めにしては普通のことだったけど、魔法具部では異質なだけだった。


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