婚約者の心の声を聴きたくない【改稿版】

ゆい

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ノイリスは、王宮近くにある役人の独身寮に入っている。
定時に上がったノイリスは、真っ直ぐに寮に帰る……ことはなく、寄り道をして帰る。
行き先は、大通りから外れた、とある店。

「こんちわっす」

と言いながら、店に入る。

「来たか小童こわっぱ

と、この店の60歳手前の店主が言う。

「20過ぎたのに、…って毎日、このやり取り、飽きないねぇ、親父おやっさん」

「全く飽きんぞ」

カカッと大声で笑う。

「急ぎでないけど、ちょっと難しい修理を持ち込まれた。小童、やってみるか?」

「っ!やりたい!」

私はすぐに返事をした。

「…目を輝かせおって。奥の部屋のテーブルに置いてある。頼んだぞ」

「了解!」

店の奥の部屋に移動して、テーブルに置いてある修理品が入っているだろう箱を開ける。
中には懐中時計が入っていた。
懐中時計はハンターケース(時計の表と裏の両側が蓋で覆われたスタイルの懐中時計)で、長針と短針、秒針と曜日がわかるものだった。
なるほど、曜日まで機能がある時計は、今の私にはまだ難しいのかもしれない。
でも、親父さんが許可をくれたのなら、絶対に直したい。

空いている、小さな仕切りが多くある箱を1つ持って、自分の机に座り、備え付けのライトを付ける。
懐中時計の裏蓋、ダストカバーを丁寧に外し、ムーブメントを丁寧に分解していく。ムーブメントの部品を箱に入れながら、どこの部品かわかるように、小さな紙に書いて箱に入れていく。
1つの部品でもなくしたら、時計としてもう動かないから、1つ1つ丁寧に扱う。



とある時計店にて、私は今日も時計を修理して、時計についての知識、製作、修理の腕を磨いていた。





「小童、もう帰る時間だぞ」

親父さんに声をかけられたのは、私が店に入って4時間が経った頃だった。
寮の門限は夜10時まで、あと30分足らず。

「えっ!もうこんな時間?お疲れ様でした!」

私は慌ててカバンを持ち、帰ろうとするが、

「小童、飯食ってないだろ」

と、親父さんが弁当を差し出した。
私は弁当を受け取り、

「ありがとうございます。おかみさんによろしく伝えてください!」

と言って、店を出たノイリスは、寮まで走ることになった。




時計店は、ノイリスの祖父の代からの付き合いだ。
学園入学前の7歳の時に、祖父に連れられて店を訪れて以来、ノイリスは時計に夢中になった。
祖父が愛用していたハーフハンターケース(ハンターケースの表蓋の中央に小窓があるスタイルの懐中時計)は、ノイリスが受け継いだ。
精緻なデザインの蓋で、表蓋には、文字盤を囲むように蔦が彫られており、よく見ると、小さな鳥2羽も彫られている。
裏蓋には、中心に何かの花が彫られていた。この国の花ではないのだろう。ノイリスは見たことがない花だった。
そして、花を囲むように丸い溝が彫られている。花を際立たせるためのデザインなのだろう。

ただ、祖父が亡くなると、時計も動かなくなった。
時計を直したいと、親父さんの店を訪れたが、懐中時計の蓋には術式が組み込まれていて、裏蓋を開けることが叶わなかった。
ノイリスは、その術式を知りたくて、裏蓋を開けたくて、王宮魔法具部で働いているようなものだった。
学園を卒業した17歳から働きだして王宮の書庫で合間を見つけては調べていたけど、いまだ、時計の術式がわからないでいた。
それに今は、ノイリスの手元に懐中時計はない。






ギリギリ門限前に寮に戻れたノイリスは、自室に入り、ライトを付け、カバンを机に置く。
カバンから、術式についての本と、弁当を出して、行儀は悪いが、食べながら本を読む。
学園でも魔法具部でも基礎・応用と術式について学んだけど、祖父の時計の術式はまだ解けない。
左手で、本のページをめくった時に、薬指にはまった指輪が目に入る。

「この指輪の術式も調べないと、だな」

俺は指輪を見ながら、独り言ひとりごちてしまう。


本来なら、今頃は別の方から贈られた指輪をはめて、結婚をしていただろうか。
それとも、婚約者もいなくて、平民になり、時計技師として働いていただろうか?
……案外、学園を卒業後、すぐに結婚して、すぐに離縁していたかも。そしたら、私は完全に平民になり、好きなことができるんだし。
………それに私の相手は、別にフェリックス様でなくても、……いいし。


なんて考えてしまう私は、悪くないと思う。

だって、婚約者フェリックス様との仲は良くも悪くもない。それは、婚約した時から変わっていない。


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