婚約者の心の声を聴きたくない【改稿版】

ゆい

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婚約者候補として、フェリックス様に初めて会ったのは、12歳の時。

この頃の私はもう、時計の虜になっていて、毎日、時計に関する本を読んでいた。
グレンダ子爵という貴族家に生まれながら、時計に夢中で、貴族らしくない私は、家では異質だった。
勉強も剣術もそれなりにできるが、とにかく時計に関する機械いじりが好きだった。
家には兄、弟がいるから、幸いにも後継には困らない。

父にも母にも、将来は籍を抜き、平民になって、時計技師になりたいと話をしていた。
父と兄は、特に何に言わず、変わらずに接してくれた。
母と弟は、私を残念な目で見るようになった。弟に至っては、私を下の者扱いをするようになった。
祖父は賛成をしてくれたけど、そんな祖父が亡くなってしまってからは、私の理解者はいなくなった。

貴族らしからぬ私だけれども、息子として心配をした父が、縁談を持ってきた。
『貴族に生まれた以上は、役目を果たしなさい』と言いながら。
私が平民になり、無事に一人前の職人になれず、悪い奴らから食い物にされ、そこら辺で野垂れ死ぬかもと、最悪な想像をした父は、私に婚約者をあてがい、守ってもらおうと考えた末の話だった。

父の言い方はアレだが、私を心配してのことだったので、無碍にはできず、お見合いをすることにした。
婚約者となる相手も、将来は騎士になり、騎士爵をいただいたら、家から独立する予定らしい。
騎士爵の妻なら、ほぼ平民だし、家政の一助に仕事をしていてもおかしくはない。
しかし、貴族でなくなるかもしれないことへの不安感からか、彼の婚約者になろうという人はいなかったらしい。



お見合いで紹介されたフェリックス様だった。私より2歳上。間近で黒髪に紫色の瞳、整った顔立ちを見てしまって、心の中では驚きでずっと『うっひゃぁぁ!』と叫んでいた。
フェリックス様は私を知らなくても、私はフェリックス様を知っていた。
フェリックス=ミレイスターは、学園ではとても有名だったから。
ミレイスター侯爵の三男で、騎士科では座学、実技とも入学以来トップを独走中。
それに加えて容姿端麗で、学園内外に非公式ファンクラブまであるとか。
人数の少ない魔法具科に在籍している私にまで、噂は流れてくるほどの人である。
それに引き換え、くすんだ茶色の髪に、褪せた黄緑色の瞳、平均値というくらいの良くも悪くもない顔立ちの私。
向こうから断られるだろうと思った。
これほどの人なのに、下位貴族のこんな私にまで話が来るほど、お見合い相手には恵まれなかったようだ。
でも、そんな事情を明けっ広げに聞くわけにもいかず、私はただ黙って、見合いの時間を過ごした。
ミレイスター侯爵と私の父が話で盛り上がるなか、私達は終始無言だった。

彼もあまり話をする方ではないようで、その後、2人きりの交流のお茶会でも、沈黙だけの時間となった。
こんな時間を過ごすなら、私は時計の本を、術式の本を読んでいる方が有意義だなんて思ってしまった。

私がつまらなそうな顔をしていたのが分かったのか、フェリックス様から話しかけてきた。

「……君は何故、私に話しかけてこないのだ?」

「…申し訳ございませんが、質問の意図がわかりません」

「…今までお見合いをした方たちは、私に必死にアピールをしてきた。婚約はしなくても、家の繋がりが欲しいみたいだったが。…だから私は、君も今までの人達と同じように、勝手に話すものだと思っていた」

私達はお互い、相手が話し出すのをずっと待っている状態だった、ということだった。

「私は、おしゃべりなほうでないですし、世間の話題に疎いことも自覚しております。私は聞く側しかしたことがございません。それに、身分が上の方に、下の者からお声掛けすることは、マナー違反にあたります」

「……そうか」

と、聞く側しかしたことがないので、話をするキッカケすら、私は知らなかった。
フェリックス様も同じようで、そんな2人だから会話が盛り上がる以前に、会話をしようとする気概さえ2人にはなかった。
沈黙のお茶会は、フェリックス様が帰る時間まで続いた。
お茶会に付いていた侍従たちの、何とも言えぬ空気すら気にする人でないことはわかった。
まぁ、私もそんな空気を気にせず、一人時計の図解を頭の中で描いていたのだから、あまり人のことは言えない。





その後、正式にフェリックス様との婚約が決まった。

どこが決め手になったのか、これも未だにわからないままであった。


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