婚約者の心の声を聴きたくない【改稿版】

ゆい

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「ノイリス」

と、後ろから声をかけられる。
振り返れば、フェリックス様だった。
周りはフェリックス様が騎士仲間以外に声をかけることは稀だから、周囲の人たちは静かになり、聞き耳を立てている。

「フェリックス様」

私が名前呼びをしたら、一瞬ざわっとした。

「食事中にすまないが、今少し時間をもらえないか?」
『ノイたん、今日も綺麗だな!』

「ふぇっ?!」

フェリックス様の声が、突然二重に聞こえた。しかも普段の口調と、初めて聞くテンション高めの口調。
思わず私は変な声を上げてしまった。

「どうした?」

「あっ、いえ、なんでもないです。時間は大丈夫です」

少し訝しんでいるフェリックス様。

『ノイたんどうしたんだろ?どこか具合が悪いかな?心配だな。また痩せてないか?早く結婚して一緒に暮らせば、少しはラクできるかな?やっぱり寮生活は心配だな』

今、フェリックス様の口は閉じているのに、声が聞こえてくる。
新たな腹話術かな?無口なフェリックス様が腹話術?でも、人形は持ち歩いていないし。…いや、フェリックス様は人形なんて持ってなさそうだし。
しかも、リストが、周りの人たちが、こんなに喋り方をするフェリックス様を見て驚いていないって、どういうことだ?!

ノイリスは完全に混乱してしまった。

「すまないが、次の交流会、遠征の日程とぶつかってしまった。せっかく予定を組んでもらっていたのに申し訳ない。休みの日程がわかったら、連絡をする」
『ノイたん、怒るかな?いや、悲しむかな?副団長が急にやるなんて言い出しやがって!ノイたんとの貴重な時間を奪いやがって!闇討ちしようかな?そうしよう!!』

「わ、わかりました。お、け、…んっ、お怪我のないように、気をつけて、いってらっしゃいませ」

やっぱり二重に聞こえるフェリックス様の声。
私は驚きつつも定型文をなんとか言いながら、軽く会釈をする。

「ありがとう。では、また」
『ノイたん、やっさしぃ~!もう、本当にだいちゅき!』

フェリックス様が立ち去った後も、私は何がおきたのか、理解できず、呆然と立ち尽くしてしまった。
周りの人たちは、フェリックス様の婚約者が私なのに驚き、約束が守れなくて謝る姿に感動したり、急な遠征で交流会がなくなってしまったことに同情したりだった。

でも、そんなことより、

あれぇ?今の人、本当に私の婚約者だった??『ノイたん』てなに??あと、副団長闇討ちされるよぉぉ!!逃げてぇぇ!!

と、心の中で私は叫ぶ。口に出せないから、心の中だけでも叫ばさせてくれ!

「……何がおこったんだろ?」

私は、ぽつりと呟いたまま立ち尽くした。



その後、呆然と立ち尽くした私を、リストが食堂から引っ張って、魔法具部の私の席に座らせてくれた。
リストは『交流会が延期になってしまったのが、そんなにショックだったのか』と、呆然としていた私の世話をしてくれた。

その日は、時計屋にも服屋などにも寄らず、真っ直ぐ寮に帰った。
寮に戻って来た今も、私は呆然としていた。
突然聞こえてきたフェリックス様の二重音声には、本当に驚いた。
『ノイたん』もだけど、『だいちゅき』は衝撃的だった。……一番の衝撃は、『闇討ち』だったけど。
品行方正なフェリックス様が、そんなことを口に出すとは思えなかった。

考えても何もわからないままなので、紙に書いて整理してみることにした。





 ・〇/● 昼  食堂 フェリックス様と会う
                   声が二重に聞こえた
                   普段通りとテンション高めの2通り
                   テンション高めの方は、リストが気付いていなかったので、誰にも聞こえていない様子
                   普段無口なフェリックス様があの口調で話しだしたら、周りは大騒ぎするのは必至なはず
                   大騒ぎになっていないということは、私にしか聞こえていないようだ  
         原因は何か?

 ・〇/▲ 夕方 時計店  懐中時計の修理を任された
                     半分まで分解済 
                       曜日・時間の歯車は異常なし 
                       秒針の方に問題があるかも 
                       明日は必ず店に行きたい

 ・〇/● 午後 魔法具部  呆然として仕事にならなかった  
                       魔法具の修理が半分のできなかった 
                       リストや部長が心配して、代わりに何件かの仕事を受け持ってくれた 
                       今度差し入れをしよう

 ・〇/▲ 午後 魔法具部  依頼品指輪の鑑定 術式有り 
                       指輪に組み込まれた術式解析できず 
                       薬指に嵌めたら取れなくてなった





覚えている範囲だけど、箇条書きで書いていく。
書いていけば、何かいつもと違うことがわかるかもしれない。
……って、やっぱり指輪だよね。うん、わかっていた。

でも、昨日から身に付けているけど、他の人はそうじゃないのに、何故フェリックス様の声だけが、二重音声で聞こえるのだろうか。
それに、あのテンション高めの口調は、他の人には聞こえていない。
声はフェリックス様だけど、実は指輪が勝手に私の頭の中で喋っているとか?
それとも指輪に憑いている何かとか?……怖いことは考えないようにしよう。夜中トイレに行けなくなる。

やっぱりあの術式を解析しないと、わからないよな。

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