婚約者の心の声を聴きたくない【改稿版】

ゆい

文字の大きさ
6 / 6

6

しおりを挟む
数日後に、フェリックス様から謝罪の手紙と贈り物が届いた。
手紙には、形見を安易に捨てようと言ってしまったことの謝罪の後に、贈り物を使って欲しい旨と、エミールから形見の経緯を聞いたと書かれてあった。

なぜ、エミールに聞いたのかわからない。
でも、私に直接聞くより、エミールの方が話しやすいから、エミールに聞いたんだろう。
そう、自分の中で完結する。

贈り物の箱を開けると、腕時計が入っていた。
腕時計は、懐中時計より小さい為、高価な品物だった。
懐中時計も高価だが、腕時計はもっと高価だった。


私は思わずため息を吐く。

腕時計が欲しいのではなく、祖父の残した懐中時計を直したいのだから。

なんとも言えないノイリスの胸のモヤモヤは、いつまでも消えることはなかった。



次の交流会の日、いつもの喫茶店に行けば、何故かエミールが来ていて、また3人でお茶をする時間になってしまった。
上司と部下のような会話すらなくなってしまったのだ。











「ノイリスは、それでいいの?」

魔法具師仲間のリストに聞かれる。
今は昼休憩で、王宮の役人用の食堂で昼食を食べている。

「…良くないとは思うけど。でも、向こうが許可したなら、私からは文句が言えないよ」

「けどさ、婚約者の仲を深める交流だろ?なんで、いつまでも、お前の弟くんと3人で交流会してんの?ミレイスター様、本当にそれを許しているんだったら、ミレイスター様の常識を疑うよ」

「フェリックス様が何を考えているのか、エミールがなんで来るのか、どれも理由が明確に分からないから、困っているんだ」

「……弟くん、学園卒業しているのに、定職も就かず、婚約者もいないんでしょ?明らかにお前の婚約者、狙っているじゃん。それに気付いているのかどうかわからないけど、一応婚約者の家族だから無碍にできないミレイスター様ってとこかな?」

「……やっぱり、そうなの、かな」

「多分ね。ご両親も知らされていないと思うよ、交流会に弟くんが来ていること」

「…やっぱり、知らされていないと思うよね。……いや、母は知っていそうだけど」

「子爵に伝えたら?彼もいい加減、他に結婚相手探さないとマズいでしょ?」

「まぁ、父に伝えたところでエミールを止められないとは思うけど。それに相手が見つからないというか、兄の話では、まだ選り好みしているらしいよ」

「……どんだけワガママに育てられたの。歳を重ねれば、見合い相手もいなくなるのに」

「…本当に困ったものだよね」

「…すっげぇ、他人行儀な言い方だな」

「まぁ、血は繋がっていても、母とエミールは、あまり『家族』とは思えないからなぁ」

「相変わらず、殺伐としてんなぁ」

「父と兄なら、『家族』だと胸を張って言えるんだけどね」

「………」

学園時代からの友人であるリストは、時折こうして私の心配をしてくれている。
リストは伯爵家の嫡男だが、魔法具師になる為に、家督は弟に譲り、家を出た猛者である。
そして、学園時代のエミールの素行もそれなりに知っている。
エミールの交際のだらしなさは、少しだけ有名だった。
エミールは、より条件のよい方に靡いてしまう傾向があった。
恋人がいても、自分好みの人がいたら、猛アタックをして、恋人に振られる、ということを繰り返していた。
そのせいか、いまだに結婚相手も決まらないでいる。

「でもさ、次の交流会までに、その指輪、外せないとヤバくない?」

「あの方は、私の指まで見ていないと思うよ?」

「…一応、手袋の準備したら?」

「…必要かな?」

「…いくら、関心がないと言われても、指輪は目に入るから。しかも、婚約者が左手の薬指に指輪をはめていたら、気にはするでしょ?…」

「そういうものかな」

「そういうものだよ」

リストがそういうのなら、今日の帰りに、服屋か小物屋に寄ろうかと考える。
できるならリストに買い物を付き合ってもらいたいところだけど、多分、今日も部署に泊まり込むから、付き合ってもらえないだろう。
他に買い物を付き合ってくれる友達がいない。自分の人間関係の希薄さに、こういう時に少し泣けてくる。







カチッ






何か歯車が噛み合ったような音が聞こえた。
周りを見渡すが、誰も気にした風ではなかった。

「ノイリス、どうしたの?」

と、リストに聞かれる。
食事をしていた私が、急に辺りをキョロキョロし出せば、挙動不審にしか見えない。

「いや、なんか今、歯車が噛み合ったような音が聞こえた」

「ん?何も聞こえなかったよ?っていうか、何百人も話しているこんなところで、そんな小さな音、聞こえるわけないじゃん」

「…気のせいかな?」

「…案外、職業病かもね?」

リストはニャハハと笑いながら言う。
リストは私が退勤後に時計屋に通っていることを知っているから、そんな言い方をした。
ちなみに時計屋から給料はもらっていない。技術を習いに行っているだけだ。
だから、『職業』という言葉が当てはまるかはわからない。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

長年の恋に終止符を

mahiro
BL
あの人が大の女好きであることは有名です。 そんな人に恋をしてしまった私は何と哀れなことでしょうか。 男性など眼中になく、女性がいればすぐにでも口説く。 それがあの人のモットーというやつでしょう。 どれだけあの人を思っても、無駄だと分かっていながらなかなか終止符を打てない私についにチャンスがやってきました。 これで終らせることが出来る、そう思っていました。

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

《一時完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ

MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 続編執筆中

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

美澄の顔には抗えない。

米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け 高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。 ※なろう、カクヨムでも掲載中です。

処理中です...