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数日後に、フェリックス様から謝罪の手紙と贈り物が届いた。
手紙には、形見を安易に捨てようと言ってしまったことの謝罪の後に、贈り物を使って欲しい旨と、エミールから形見の経緯を聞いたと書かれてあった。
なぜ、エミールに聞いたのかわからない。
でも、私に直接聞くより、エミールの方が話しやすいから、エミールに聞いたんだろう。
そう、自分の中で完結する。
贈り物の箱を開けると、腕時計が入っていた。
腕時計は、懐中時計より小さい為、高価な品物だった。
懐中時計も高価だが、腕時計はもっと高価だった。
私は思わずため息を吐く。
腕時計が欲しいのではなく、祖父の残した懐中時計を直したいのだから。
なんとも言えないノイリスの胸のモヤモヤは、いつまでも消えることはなかった。
次の交流会の日、いつもの喫茶店に行けば、何故かエミールが来ていて、また3人でお茶をする時間になってしまった。
上司と部下のような会話すらなくなってしまったのだ。
「ノイリスは、それでいいの?」
魔法具師仲間のリストに聞かれる。
今は昼休憩で、王宮の役人用の食堂で昼食を食べている。
「…良くないとは思うけど。でも、向こうが許可したなら、私からは文句が言えないよ」
「けどさ、婚約者の仲を深める交流だろ?なんで、いつまでも、お前の弟くんと3人で交流会してんの?ミレイスター様、本当にそれを許しているんだったら、ミレイスター様の常識を疑うよ」
「フェリックス様が何を考えているのか、エミールがなんで来るのか、どれも理由が明確に分からないから、困っているんだ」
「……弟くん、学園卒業しているのに、定職も就かず、婚約者もいないんでしょ?明らかにお前の婚約者、狙っているじゃん。それに気付いているのかどうかわからないけど、一応婚約者の家族だから無碍にできないミレイスター様ってとこかな?」
「……やっぱり、そうなの、かな」
「多分ね。ご両親も知らされていないと思うよ、交流会に弟くんが来ていること」
「…やっぱり、知らされていないと思うよね。……いや、母は知っていそうだけど」
「子爵に伝えたら?彼もいい加減、他に結婚相手探さないとマズいでしょ?」
「まぁ、父に伝えたところでエミールを止められないとは思うけど。それに相手が見つからないというか、兄の話では、まだ選り好みしているらしいよ」
「……どんだけワガママに育てられたの。歳を重ねれば、見合い相手もいなくなるのに」
「…本当に困ったものだよね」
「…すっげぇ、他人行儀な言い方だな」
「まぁ、血は繋がっていても、母とエミールは、あまり『家族』とは思えないからなぁ」
「相変わらず、殺伐としてんなぁ」
「父と兄なら、『家族』だと胸を張って言えるんだけどね」
「………」
学園時代からの友人であるリストは、時折こうして私の心配をしてくれている。
リストは伯爵家の嫡男だが、魔法具師になる為に、家督は弟に譲り、家を出た猛者である。
そして、学園時代のエミールの素行もそれなりに知っている。
エミールの交際のだらしなさは、少しだけ有名だった。
エミールは、より条件のよい方に靡いてしまう傾向があった。
恋人がいても、自分好みの人がいたら、猛アタックをして、恋人に振られる、ということを繰り返していた。
そのせいか、いまだに結婚相手も決まらないでいる。
「でもさ、次の交流会までに、その指輪、外せないとヤバくない?」
「あの方は、私の指まで見ていないと思うよ?」
「…一応、手袋の準備したら?」
「…必要かな?」
「…いくら、関心がないと言われても、指輪は目に入るから。しかも、婚約者が左手の薬指に指輪をはめていたら、気にはするでしょ?…」
「そういうものかな」
「そういうものだよ」
リストがそういうのなら、今日の帰りに、服屋か小物屋に寄ろうかと考える。
できるならリストに買い物を付き合ってもらいたいところだけど、多分、今日も部署に泊まり込むから、付き合ってもらえないだろう。
他に買い物を付き合ってくれる友達がいない。自分の人間関係の希薄さに、こういう時に少し泣けてくる。
カチッ
何か歯車が噛み合ったような音が聞こえた。
周りを見渡すが、誰も気にした風ではなかった。
「ノイリス、どうしたの?」
と、リストに聞かれる。
食事をしていた私が、急に辺りをキョロキョロし出せば、挙動不審にしか見えない。
「いや、なんか今、歯車が噛み合ったような音が聞こえた」
「ん?何も聞こえなかったよ?っていうか、何百人も話しているこんなところで、そんな小さな音、聞こえるわけないじゃん」
「…気のせいかな?」
「…案外、職業病かもね?」
リストはニャハハと笑いながら言う。
リストは私が退勤後に時計屋に通っていることを知っているから、そんな言い方をした。
ちなみに時計屋から給料はもらっていない。技術を習いに行っているだけだ。
だから、『職業』という言葉が当てはまるかはわからない。
手紙には、形見を安易に捨てようと言ってしまったことの謝罪の後に、贈り物を使って欲しい旨と、エミールから形見の経緯を聞いたと書かれてあった。
なぜ、エミールに聞いたのかわからない。
でも、私に直接聞くより、エミールの方が話しやすいから、エミールに聞いたんだろう。
そう、自分の中で完結する。
贈り物の箱を開けると、腕時計が入っていた。
腕時計は、懐中時計より小さい為、高価な品物だった。
懐中時計も高価だが、腕時計はもっと高価だった。
私は思わずため息を吐く。
腕時計が欲しいのではなく、祖父の残した懐中時計を直したいのだから。
なんとも言えないノイリスの胸のモヤモヤは、いつまでも消えることはなかった。
次の交流会の日、いつもの喫茶店に行けば、何故かエミールが来ていて、また3人でお茶をする時間になってしまった。
上司と部下のような会話すらなくなってしまったのだ。
「ノイリスは、それでいいの?」
魔法具師仲間のリストに聞かれる。
今は昼休憩で、王宮の役人用の食堂で昼食を食べている。
「…良くないとは思うけど。でも、向こうが許可したなら、私からは文句が言えないよ」
「けどさ、婚約者の仲を深める交流だろ?なんで、いつまでも、お前の弟くんと3人で交流会してんの?ミレイスター様、本当にそれを許しているんだったら、ミレイスター様の常識を疑うよ」
「フェリックス様が何を考えているのか、エミールがなんで来るのか、どれも理由が明確に分からないから、困っているんだ」
「……弟くん、学園卒業しているのに、定職も就かず、婚約者もいないんでしょ?明らかにお前の婚約者、狙っているじゃん。それに気付いているのかどうかわからないけど、一応婚約者の家族だから無碍にできないミレイスター様ってとこかな?」
「……やっぱり、そうなの、かな」
「多分ね。ご両親も知らされていないと思うよ、交流会に弟くんが来ていること」
「…やっぱり、知らされていないと思うよね。……いや、母は知っていそうだけど」
「子爵に伝えたら?彼もいい加減、他に結婚相手探さないとマズいでしょ?」
「まぁ、父に伝えたところでエミールを止められないとは思うけど。それに相手が見つからないというか、兄の話では、まだ選り好みしているらしいよ」
「……どんだけワガママに育てられたの。歳を重ねれば、見合い相手もいなくなるのに」
「…本当に困ったものだよね」
「…すっげぇ、他人行儀な言い方だな」
「まぁ、血は繋がっていても、母とエミールは、あまり『家族』とは思えないからなぁ」
「相変わらず、殺伐としてんなぁ」
「父と兄なら、『家族』だと胸を張って言えるんだけどね」
「………」
学園時代からの友人であるリストは、時折こうして私の心配をしてくれている。
リストは伯爵家の嫡男だが、魔法具師になる為に、家督は弟に譲り、家を出た猛者である。
そして、学園時代のエミールの素行もそれなりに知っている。
エミールの交際のだらしなさは、少しだけ有名だった。
エミールは、より条件のよい方に靡いてしまう傾向があった。
恋人がいても、自分好みの人がいたら、猛アタックをして、恋人に振られる、ということを繰り返していた。
そのせいか、いまだに結婚相手も決まらないでいる。
「でもさ、次の交流会までに、その指輪、外せないとヤバくない?」
「あの方は、私の指まで見ていないと思うよ?」
「…一応、手袋の準備したら?」
「…必要かな?」
「…いくら、関心がないと言われても、指輪は目に入るから。しかも、婚約者が左手の薬指に指輪をはめていたら、気にはするでしょ?…」
「そういうものかな」
「そういうものだよ」
リストがそういうのなら、今日の帰りに、服屋か小物屋に寄ろうかと考える。
できるならリストに買い物を付き合ってもらいたいところだけど、多分、今日も部署に泊まり込むから、付き合ってもらえないだろう。
他に買い物を付き合ってくれる友達がいない。自分の人間関係の希薄さに、こういう時に少し泣けてくる。
カチッ
何か歯車が噛み合ったような音が聞こえた。
周りを見渡すが、誰も気にした風ではなかった。
「ノイリス、どうしたの?」
と、リストに聞かれる。
食事をしていた私が、急に辺りをキョロキョロし出せば、挙動不審にしか見えない。
「いや、なんか今、歯車が噛み合ったような音が聞こえた」
「ん?何も聞こえなかったよ?っていうか、何百人も話しているこんなところで、そんな小さな音、聞こえるわけないじゃん」
「…気のせいかな?」
「…案外、職業病かもね?」
リストはニャハハと笑いながら言う。
リストは私が退勤後に時計屋に通っていることを知っているから、そんな言い方をした。
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だから、『職業』という言葉が当てはまるかはわからない。
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