婚約者の心の声を聴きたくない【改稿版】

ゆい

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そんなやり取りをしながら、AIらしく、素晴らしい例文を教えてくれたので、私流に書き直して報告書として提出した。
そのまま書くと、『誰が書いた?』と絶対に聞かれるヤツだ。私にこんな素晴らしい文章は書けない。



その報告書を読んだ部長は難しい顔をする。

「その指輪は鍵で、人を選ぶ術式が組み込まれているってことかぁ。…お前、買い取れって言われたら、買える?」

「……プラチナだし、奮発すれば、なんとか買えますね」

「…そうではなく、その指輪が鍵なんだろ?鍵の本体、宝箱の価値が、どのくらいかわからないから、鍵自体にも価値が上がる。宝箱があっても開かないし、鍵だけあっても何の役にも立たない。…でも、人間、欲の塊だから、勝手に金銀財宝と思い込み、鍵の価値を上げてくる。実際の宝は、ただの石っころかもしれないのに、想像だけは膨らましてくるんだ。」

やっぱり、【作ってはいけないモノ】と書かなくて良かった。

「……正直に伝えて、返せと言われても、私の指に嵌ったままで、抜けないのであれば、それ相応の対価か、私の指切断か、ということになりますね」

「そういうことだ。……まだ鑑定中としておくから、引き伸ばしても、1ヶ月だろうな。だから、なるべく早くケリをつけてくれ。」

「……承知しました。」



だよね。持ち主、貴族だもん。しかも高位貴族。怖いことを平気でやるよね。
私は、心の中で涙する。

『私を切ると、鍵の意味がなくなりますよ?』

……知っていた。

やけに喉が渇くので、お茶を飲む。
指輪が嵌まってから、心が平穏からどんどんと離れていっている気がする。

『ちなみにどんなモノでも、私を切ることは不可能です。本体はアダマンタイトで、できています』

「ぶっ!!」

私は思わずお茶を吹いてしまった。そのあとはお約束の通り、咳き込んでしまった。
周りは『どうした?』『大丈夫か?』と聞いてくる。
私は、『飲み物が変なところに入った』と伝えたら、またみんなは作業へと戻っていった。


アダマンタイトだって?!マジですか?!

『マジです』

それって伝説の素材で、現存してないんじゃないの?ミスリルの上位素材って言われているヤツだよね?!

『現存しています。ただ、採掘が大変なだけです。地表になかなか出てきません』

……ちゃんと現実にあったんだぁ。オリハルコンより実物が少なすぎる、と言うか書物にしか記載されていないから、都市伝説だと思っていたよ。
でも、プラチナにしか見えないよな?

『アダマンタイトに術式を彫り上げた後、周りをプラチナでコーティングしました。一目でアダマンタイトと判別しないための措置です。』

……この世界で、プラチナでコーティングって、そんなこと出来たっけ?

『正解です。現段階では出来ません』

だよね、出来ないよね。
アダマンタイトを見つけて、指輪のほっそいアームに術式を彫り、プラチナをコーティングするって、どんだけチートだったの、その製作者とやらは?!

『周囲から【賢者】と呼ばれていました』

そっか、なら納得だわ。……【賢者】?歴史で習った【賢者】??

『正解です』

……もう驚き過ぎて、頭痛が痛い。

『不正解です。この場合は【頭が痛い】が正解です』

本当に頭痛が痛いわ!!




と、くだらないボケとツッコミをしつつ、仕事をしていく。




魔法具部は、開発チームと修理チームに分かれていて、私は修理チームに所属している。
開発チームは、アレな人が多いせいか、同じ部署にいながら、その奇行にドン引くことが多い。
開発チームでなくて良かった、と切実に思う。

修理の品は、王宮に使われている魔法具、民間で使われている魔法具部開発の品を修理する。
あとは指輪のように、貴族からの依頼品だったりもする。


今日私の手元に来たのは、王子殿下が使用されているランタンだった。
先日、スイッチを入れたが、起動しなくなったので、魔法具部に持ち込まれた。

これは何十年か前に、魔法具部が開発したランタンで、スイッチを入れると、暗闇に夜空の星々が浮かび上がる。
ロマンティックな人が製作したんだろう。

今の陛下が幼少期に御使用されていたモノを、王子殿下へと渡したらしい。
長年愛用してもらえる魔法具を見ると、なんだか嬉しい気持ちになるのは、私だけではないはずだ。


内部の基盤を確認するべく、蓋を開ける。
基盤を見る限り、異常は見当たらない。
基盤から光る元の透明な水晶への導線も、損傷は見当たらない。
鑑定を使って、再度確認するけど、おかしなところが見当たらない。
見当たらないのに、スイッチを入れても起動しない。
何がダメなんだ?

『水晶にヒビが入っています』

と、指輪が言う。

私は、水晶まで確認していなかったと思い、水晶の確認をする。
ガラスの円筒を外して、台座から取り出して見れば、確かにヒビが入っていた。

代わりの水晶を探しに、材料庫に行く。
ここら辺に置いてあるような、と思いながら探す。

『右棚の上から三段目にあります』

と、またまた指輪が言う。

本当に万能だな!カメラ付きなのかな?!


同じくらいの水晶を持ち出して、元の水晶と同じ形になるように削ったら、磨いていく。
水晶を台座に嵌めて、スイッチを入れれば無事に起動した。

「ノイリス、仕事が早いな」

と、先輩から声を掛けられる。
『指輪のおかげです』なんて言えるはずもなく。

「たまたまですよ。」

「そうか?ま、再度確認をすることは怠るなよ?」

「はい、ありがとうございます」

先輩からの有り難い指導に礼を言う。
もう一度、基盤や導線の劣化具合を確認して、ガラスの円筒を丁寧に拭き、組み立て直し、起動の確認をした。
報告書を書き上げて、部長に提出して終わりだ。



仕事が終わり、今日はきちんと時計屋に行った。
昨日来なかったことを心配した親父さんから、質問攻めにあった。本当のことは言えないので、適当に濁しておいた。
まだ分解途中の懐中時計の続きをしていく。急ぎではないって言っていたけど、頼まれた仕事だから、早く直してあげたい気持ちもあるし、曜日付きはめったに御目にかかれないから、じっくり観察したい気持ちもある。
歯車は、直径や歯の数など1つずつ違っていて、それなのに、違う者同士を組み立てると、全てが綺麗に合わさり時を刻みだす。しかも時計はパズルのようでもあるけど、解けたら終わりでないことが魅力の1つかもしれない。


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