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「この懐中時計って、やっぱり父さんに残すの?」
俺が小学5年生になった頃、祖父は床に臥せるようになった。
学校から帰ってきたら『ただいま』と言いながら、祖父の部屋に行って顔を出すようにしていた。
秋も深まり、もうすぐ寒さ厳しい冬の季節に入ろうとしていた。
そんなある日、いつも通り帰宅して、祖父の部屋にいく。
最近ではずっと布団で寝ているだけだった祖父が、上半身を起こして、大事そうに、愛おしいように懐中時計を見つめていた。
祖父の優し気な眼差しを向けられる懐中時計が羨ましくなった。
だから、いずれ父さんに遺品として残すくらいなら、俺に残して欲しかった。
俺がもらったら、大事にするつもりはある。
しかし、羨望やら、嫉妬やらで、祖父に嫌な聞き方をしてしまった。
『残す』なんて言い方、祖父がもうすぐ死んでしまうような言い方だった。
「いや、これは、元の持ち主に返すよ」
祖父は、俺の言い方を気にせずに答えてくれた。
「元の持ち主?おじいちゃんの時計じゃ、なかったの?」
あれだけ大事にしていたのに、本当の持ち主は別の人だったらしい。
「これは、大事な親友の時計なんだ。修理を頼まれたから預かっていたんだ。中々会う機会がなくて、渡せずじまいだった。送れば済む話なんだかな、何故か、まだ手元に置いて置きたくて」
祖父は懐かしいような、照れているような、少しはにかんで言う。
まだまだ子どもだった俺は、そんな祖父の表情から祖父の心情を読み取ることはできなかった。
「…でも、もし、もしだよ、おじいちゃんに何かあったら、懐中時計、その親友さんに返せないよ?俺が預かろうか?」
「それは、大丈夫だ。親友が魔法使いでな、ちゃんと渡せるようになっているんだよ」
「…おじいちゃん、いくら俺が子どもだからって、魔法使いなんて信じる年齢じゃないよ?サンタクロースは父さんだって、幼稚園の時から知っているんだから」
「はははっ!!そうかそうか。」
俺は、祖父に揶揄われたと思った。
でも、懐中時計は親友の物だからと、代わりに柱時計のねじ巻きをくれた。床に臥せっても、ねじ巻きだけは毎日欠かさず自分でしていたのに。
この日より、祖父に言われた通りに1日1回優しくゆっくりねじを巻くのが、俺の仕事になった。
この時はまだ元気だった祖父は、春前に老衰で亡くなった。
俺は葬儀が始まるまで知らなかったけど、『じいちゃん』と呼んでいたし、祖父だと思っていたけど、実は曽祖父だった。祖父は、父の幼い頃に他界して、曽祖父母と祖母で父を育て上げたらしい。祖母達は俺が生まれる前に亡くっていた。
曽祖父が亡くなった時は、100歳に近かった。みんなは『大往生だな』と、悲しみながらも、和やかな雰囲気の葬儀となった。
その後、みんなで曽祖父の遺品整理をしたけど、あの懐中時計はついぞ見つからなかった。
柱時計は、時計愛好家に引き取られていった。父の話では、未だ現役で動いているそうだ。
私が意識を取り戻した時には、室内は明るかった。
窓を見れば、かなり日が高くなっている。真上に近いくらいだった。
「…っ、仕事!!」
と、起き上がろうとしたけど、身体が動かなかった。
何かに抑えられているように、手足を動かせない。
辛うじて首は動かせられたので、自分の身体の状況を確認する。
そして自分の体を確認してみれば、思わず天を仰いだ。
自由を奪っていた正体は、両脇に私を覆いかぶさるように、椅子に座りながら寝ていた父と兄だった。
私の右腕は父の身体の下に敷かれ、左足は兄の大きな身体に挟まれていたので、身動きが取れなかった。
父と兄の穏やかな寝息が耳元でリズミカルに聞こえる。
心地よさそうに寝ているから、なるべくなら起こしたくないけど、とにかく成人男性2人に被さられていて、重いことこの上なかった。
「ち、ちち、うえ、あ、にうえ、お、お、もいっ!」
幸い、肺まで父と兄に潰されていなかったので、声はなんとか出せた。しかし、口の中が乾いていてカスカスの声であったけど。
「んっ、……ノ、イリス?ノイリス!目が覚めたんだね!父上!起きて!」
私の声で起きたのは、兄だった。
私が起きただけで大騒ぎをする兄。一体何だというのだろう?
「あ、にう、え?」
「ノイリス、無事で良かった、本当に良かったよ。」
と、兄の瞳は涙で濡れている。
「?あにうえ?」
私は訳が分からないので説明を求めるが、兄は泣き出して、話をするどころではない。
ちなみに父はまだ夢の中だ。早く起きて、どいてほしい。重い!
その後、私の寝ている部屋が騒がしくなったので、誰かが部屋に来た。なんと、その人は看護士の方で、私が目が覚めたのに驚き、医師を呼んでくると慌てて部屋を出て行った。
それより、父を起こして行ってくれ!!
ってか、私、なんで入院してんの?
誰か!説明を、プリーズ!!
俺が小学5年生になった頃、祖父は床に臥せるようになった。
学校から帰ってきたら『ただいま』と言いながら、祖父の部屋に行って顔を出すようにしていた。
秋も深まり、もうすぐ寒さ厳しい冬の季節に入ろうとしていた。
そんなある日、いつも通り帰宅して、祖父の部屋にいく。
最近ではずっと布団で寝ているだけだった祖父が、上半身を起こして、大事そうに、愛おしいように懐中時計を見つめていた。
祖父の優し気な眼差しを向けられる懐中時計が羨ましくなった。
だから、いずれ父さんに遺品として残すくらいなら、俺に残して欲しかった。
俺がもらったら、大事にするつもりはある。
しかし、羨望やら、嫉妬やらで、祖父に嫌な聞き方をしてしまった。
『残す』なんて言い方、祖父がもうすぐ死んでしまうような言い方だった。
「いや、これは、元の持ち主に返すよ」
祖父は、俺の言い方を気にせずに答えてくれた。
「元の持ち主?おじいちゃんの時計じゃ、なかったの?」
あれだけ大事にしていたのに、本当の持ち主は別の人だったらしい。
「これは、大事な親友の時計なんだ。修理を頼まれたから預かっていたんだ。中々会う機会がなくて、渡せずじまいだった。送れば済む話なんだかな、何故か、まだ手元に置いて置きたくて」
祖父は懐かしいような、照れているような、少しはにかんで言う。
まだまだ子どもだった俺は、そんな祖父の表情から祖父の心情を読み取ることはできなかった。
「…でも、もし、もしだよ、おじいちゃんに何かあったら、懐中時計、その親友さんに返せないよ?俺が預かろうか?」
「それは、大丈夫だ。親友が魔法使いでな、ちゃんと渡せるようになっているんだよ」
「…おじいちゃん、いくら俺が子どもだからって、魔法使いなんて信じる年齢じゃないよ?サンタクロースは父さんだって、幼稚園の時から知っているんだから」
「はははっ!!そうかそうか。」
俺は、祖父に揶揄われたと思った。
でも、懐中時計は親友の物だからと、代わりに柱時計のねじ巻きをくれた。床に臥せっても、ねじ巻きだけは毎日欠かさず自分でしていたのに。
この日より、祖父に言われた通りに1日1回優しくゆっくりねじを巻くのが、俺の仕事になった。
この時はまだ元気だった祖父は、春前に老衰で亡くなった。
俺は葬儀が始まるまで知らなかったけど、『じいちゃん』と呼んでいたし、祖父だと思っていたけど、実は曽祖父だった。祖父は、父の幼い頃に他界して、曽祖父母と祖母で父を育て上げたらしい。祖母達は俺が生まれる前に亡くっていた。
曽祖父が亡くなった時は、100歳に近かった。みんなは『大往生だな』と、悲しみながらも、和やかな雰囲気の葬儀となった。
その後、みんなで曽祖父の遺品整理をしたけど、あの懐中時計はついぞ見つからなかった。
柱時計は、時計愛好家に引き取られていった。父の話では、未だ現役で動いているそうだ。
私が意識を取り戻した時には、室内は明るかった。
窓を見れば、かなり日が高くなっている。真上に近いくらいだった。
「…っ、仕事!!」
と、起き上がろうとしたけど、身体が動かなかった。
何かに抑えられているように、手足を動かせない。
辛うじて首は動かせられたので、自分の身体の状況を確認する。
そして自分の体を確認してみれば、思わず天を仰いだ。
自由を奪っていた正体は、両脇に私を覆いかぶさるように、椅子に座りながら寝ていた父と兄だった。
私の右腕は父の身体の下に敷かれ、左足は兄の大きな身体に挟まれていたので、身動きが取れなかった。
父と兄の穏やかな寝息が耳元でリズミカルに聞こえる。
心地よさそうに寝ているから、なるべくなら起こしたくないけど、とにかく成人男性2人に被さられていて、重いことこの上なかった。
「ち、ちち、うえ、あ、にうえ、お、お、もいっ!」
幸い、肺まで父と兄に潰されていなかったので、声はなんとか出せた。しかし、口の中が乾いていてカスカスの声であったけど。
「んっ、……ノ、イリス?ノイリス!目が覚めたんだね!父上!起きて!」
私の声で起きたのは、兄だった。
私が起きただけで大騒ぎをする兄。一体何だというのだろう?
「あ、にう、え?」
「ノイリス、無事で良かった、本当に良かったよ。」
と、兄の瞳は涙で濡れている。
「?あにうえ?」
私は訳が分からないので説明を求めるが、兄は泣き出して、話をするどころではない。
ちなみに父はまだ夢の中だ。早く起きて、どいてほしい。重い!
その後、私の寝ている部屋が騒がしくなったので、誰かが部屋に来た。なんと、その人は看護士の方で、私が目が覚めたのに驚き、医師を呼んでくると慌てて部屋を出て行った。
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ってか、私、なんで入院してんの?
誰か!説明を、プリーズ!!
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