婚約者の心の声を聴きたくない【改稿版】

ゆい

文字の大きさ
15 / 26

15

しおりを挟む
「この懐中時計って、やっぱり父さんに残すの?」

俺が小学5年生になった頃、祖父は床に臥せるようになった。
学校から帰ってきたら『ただいま』と言いながら、祖父の部屋に行って顔を出すようにしていた。

秋も深まり、もうすぐ寒さ厳しい冬の季節に入ろうとしていた。

そんなある日、いつも通り帰宅して、祖父の部屋にいく。
最近ではずっと布団で寝ているだけだった祖父が、上半身を起こして、大事そうに、愛おしいように懐中時計を見つめていた。
祖父の優し気な眼差しを向けられる懐中時計が羨ましくなった。
だから、いずれ父さんに遺品として残すくらいなら、俺に残して欲しかった。
俺がもらったら、大事にするつもりはある。
しかし、羨望やら、嫉妬やらで、祖父に嫌な聞き方をしてしまった。
『残す』なんて言い方、祖父がもうすぐ死んでしまうような言い方だった。

「いや、これは、元の持ち主に返すよ」

祖父は、俺の言い方を気にせずに答えてくれた。

「元の持ち主?おじいちゃんの時計じゃ、なかったの?」

あれだけ大事にしていたのに、本当の持ち主は別の人だったらしい。

「これは、大事な親友の時計なんだ。修理を頼まれたから預かっていたんだ。中々会う機会がなくて、渡せずじまいだった。送れば済む話なんだかな、何故か、まだ手元に置いて置きたくて」

祖父は懐かしいような、照れているような、少しはにかんで言う。
まだまだ子どもだった俺は、そんな祖父の表情から祖父の心情を読み取ることはできなかった。

「…でも、もし、もしだよ、おじいちゃんに何かあったら、懐中時計、その親友さんに返せないよ?俺が預かろうか?」

「それは、大丈夫だ。親友が魔法使いでな、ちゃんと渡せるようになっているんだよ」

「…おじいちゃん、いくら俺が子どもだからって、魔法使いなんて信じる年齢としじゃないよ?サンタクロースは父さんだって、幼稚園の時から知っているんだから」

「はははっ!!そうかそうか。」

俺は、祖父に揶揄われたと思った。
でも、懐中時計は親友の物だからと、代わりに柱時計のねじ巻きをくれた。床に臥せっても、ねじ巻きだけは毎日欠かさず自分でしていたのに。
この日より、祖父に言われた通りに1日1回優しくゆっくりねじを巻くのが、俺の仕事になった。
この時はまだ元気だった祖父は、春前に老衰で亡くなった。

俺は葬儀が始まるまで知らなかったけど、『じいちゃん』と呼んでいたし、祖父だと思っていたけど、実は曽祖父だった。祖父は、父の幼い頃に他界して、曽祖父母と祖母で父を育て上げたらしい。祖母達は俺が生まれる前に亡くっていた。
曽祖父が亡くなった時は、100歳に近かった。みんなは『大往生だな』と、悲しみながらも、和やかな雰囲気の葬儀となった。
その後、みんなで曽祖父の遺品整理をしたけど、あの懐中時計はついぞ見つからなかった。

柱時計は、時計愛好家に引き取られていった。父の話では、未だ現役で動いているそうだ。














私が意識を取り戻した時には、室内は明るかった。
窓を見れば、かなり日が高くなっている。真上に近いくらいだった。

「…っ、仕事!!」

と、起き上がろうとしたけど、身体が動かなかった。
何かに抑えられているように、手足を動かせない。
辛うじて首は動かせられたので、自分の身体の状況を確認する。
そして自分の体を確認してみれば、思わず天を仰いだ。
自由を奪っていた正体は、両脇に私を覆いかぶさるように、椅子に座りながら寝ていた父と兄だった。
私の右腕は父の身体の下に敷かれ、左足は兄の大きな身体に挟まれていたので、身動きが取れなかった。
父と兄の穏やかな寝息が耳元でリズミカルに聞こえる。
心地よさそうに寝ているから、なるべくなら起こしたくないけど、とにかく成人男性2人に被さられていて、重いことこの上なかった。

「ち、ちち、うえ、あ、にうえ、お、お、もいっ!」

幸い、肺まで父と兄に潰されていなかったので、声はなんとか出せた。しかし、口の中が乾いていてカスカスの声であったけど。

「んっ、……ノ、イリス?ノイリス!目が覚めたんだね!父上!起きて!」

私の声で起きたのは、兄だった。
私が起きただけで大騒ぎをする兄。一体何だというのだろう?

「あ、にう、え?」

「ノイリス、無事で良かった、本当に良かったよ。」

と、兄の瞳は涙で濡れている。

「?あにうえ?」

私は訳が分からないので説明を求めるが、兄は泣き出して、話をするどころではない。
ちなみに父はまだ夢の中だ。早く起きて、どいてほしい。重い!

その後、私の寝ている部屋が騒がしくなったので、誰かが部屋に来た。なんと、その人は看護士の方で、私が目が覚めたのに驚き、医師を呼んでくると慌てて部屋を出て行った。
それより、父を起こして行ってくれ!!


ってか、私、なんで入院してんの?
誰か!説明を、プリーズ!!


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

好きで好きで苦しいので、出ていこうと思います

ooo
BL
君に愛されたくて苦しかった。目が合うと、そっぽを向かれて辛かった。 結婚した2人がすれ違う話。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

ラストダンスは僕と

中屋沙鳥
BL
ブランシャール公爵令息エティエンヌは三男坊の気楽さから、領地で植物の品種改良をして生きるつもりだった。しかし、第二王子パトリックに気に入られて婚約者候補になってしまう。側近候補と一緒にそれなりに仲良く学院に通っていたが、ある日聖女候補の男爵令嬢アンヌが転入してきて……/王子×公爵令息/異世界転生を匂わせていますが、作品中では明らかになりません。完結しました。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

処理中です...