婚約者の心の声を聴きたくない【改稿版】

ゆい

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翌日、父と兄が迎えに来てくれ、私は実家で療養となった。
父に馬車の中で、祖父の懐中時計を渡して欲しいと頼んだ。
懐中時計を覚えていた私に、父と兄は少し安堵した様子だった。
昨日、職業を聞かれた時に魔法具師と答えなかったのは、まずかったらしい。指輪の記憶の補填で、ノイリスが祖父の懐中時計を直すことを切望していたことを知った。
リューめ、中途半端に記憶を消しやがって!
私は心の中で悪態をついた。



久しぶりの実家は、少し様変わりをしていた。少し調度品が派手なものに変わっていた。
出迎えてくれた執事に聞いてみる。

「あんな壺なんて、なかったよね?あっちの花瓶も」

執事は、『失礼します』と言って、こそりと耳打ちで教えてくれた。

「奥様とエミール様です。今、王都で人気の歌劇の人気俳優のファンクラブで売られている会員限定の、俳優をイメージした調度品、だそうです」

「……マジか」

「?…『マジカ』とは何でしょうか?」

「あ、……気にしないで。」

ノイリスの母と弟は、俳優のオッカケをしているらしい。
別に悪いとは言わないけど、でも明らかに散財しているのがわかる。度を超えた課金は、自分の首を絞める行為だと気付かないから、しているのだろう。

「…趣味が悪いな」

私がぼそっと言えば、父と兄が苦笑する。
私はそんな顔を見て、父達も何か考えがあるんだろうと察する。
私は迷うことなく自分の部屋に荷物を置きに行った時は、『実家の間取りを覚えていたんだな』と兄が嬉しそうに言ってくれた。父もなんだか、嬉しそうな顔をしていた。





荷物を部屋に置いた後、父の執務室に行き、今後の話をする。
私は、母と弟、フェリックス様についてはまだ記憶が戻らないことにした。
父も兄も使用人も、家のことは覚えている。職業も魔法具師だったことも思い出したと伝えた。

「そうか。なら、仕事は続けられそうか。」

と、父はどこか安心したように言う。
親だった経験からいけば、20歳過ぎて親の脛齧りなんて、不安しかないからな。
息子が無事に就職が決まった時は、アキと2人でお祝いしたし。

5日も意識が戻らなかったからか、職場からは約1ヶ月の療養期間をいただけたと、兄が教えてくれた。
そんなに時間があるのなら、やることは1つしかない。

「…それより、お祖父様の懐中時計は?


「ああ、借りたままだったな。父の日記には、術式については書かれてなかった。ただ、一つわかったことがある」

「…それはなんでしょうか」

「あの懐中時計は、父が学園時代に恋仲になった方から、いただいたそうだ」

「…マ、んっ、そうなんですね」

また『マジか』と言いそうになった。
本当に気をつけないと。

「その恋仲になった方は、どうやら、身分が上の方のようで。その先は詳しく書かれていなかった」

「……もしかして、王族、ですか?」

「…先代陛下の末の弟君が、一番有力だ。」

「その方は、今はどちらに?」

「公爵家に嫁がれて、つい最近、亡くなられたと聞いている」

「……ガドヴィン公爵家ですか?」

「…何か知っているのか?」

「いえ、先日、前公爵夫人の訃報を耳にしましたので」

「…王家に、時計は返した方がいいと思うか?」

「…とりあえず、私が術式を解いてからにしましょう。壊れた状態で返されても、迷惑でしょうし。それにその方と決まったわけではありません」

「…そうだな。時計についてはノイリスに任せよう」

「ありがとうございます」

父は金庫から懐中時計を取り出し、私に渡してくれた。
久しぶりにノイリスの手元に戻って来た時計をマジマジと見る。

ああ、私の作った時計だ。
蔦と風。2羽の小鳥。裏の花は桜。
どれも隆と過ごした青春の思い出。
ノイリスは波と表現したけど、実は風を表現していた。私にデザインの才能はなかったみたいだ。
しかし、こんな溝はなかった。アイツが後から細工したのか?
ジッと溝を見つめる。

「直せそうか?」

と、父に問われる。

「ええ、術式もじきにわかるでしょう」

「そうか。ノイリスは時計を直したくて魔法具師になったからな。努力が実を結ぶな」

「時計が直ったら、魔法具師を辞めて、本格的に時計職人になるのかい?」

兄が今後どうするかを聞いてくる。

「…考え中ですね。王宮で働いていた方が安定した生活を送れますけど、時計を趣味で作るには時間が足りませんし」

「それで、結婚のことだけど、ノイリスはどうしたい?」

「…どうしましょうか?私、相手を覚えていないんですよ?」

「…そうか。フェリックス様から結婚式を来年春には予定していると連絡をもらっていた。多分、この前のホテルで、その話が出たと思う」

「しかし、ノイリスは、記憶をなくしてしまいました。どうしますか、父上」

「きちんと全てを伝えるしかないだろう。相手は侯爵家だ。下手な隠し立てはできん」

「もし、そのフェリックス様とやらが記憶がない私とは破談にすると言えば、私は気が楽なんですけど」

流石に今の私で男性と結婚するのかと思うと気が重い。異性愛者だったから、結婚生活は難しいと思う。アキと結婚してからはアキ一筋だったし。

「~~っ、ノイリス!」

「ノイリス頼むから、簡単に平民になると言わないでくれ。ただでさえ、華奢で良いカモに見えるんだから、悪いヤツラの餌食にされてしまうよ。本当は、護衛騎士を付けたいくらいなんだから!」

「……私はそう見えるんですか?心外だな。それに、剣術はそんなに成績は悪くありませんでしたけど」

成績上位ではなかったけど、筋は良いと褒められた記憶がある。

「でも、父上の心配も考えてあげてくれ」

チラッ。

「…たしかに。…わかりました。侯爵家に伝えて、その返答次第で今後を決めましょう」

父と兄は、私の出した答えに頷いてくれた。





たしかに父の薄くなった毛髪と剥き出しの頭皮が、色々と物語っていた。

「私の頭を見るんでない!!」

と、後から父に叱られたけど。



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