婚約者の心の声を聴きたくない【改稿版】

ゆい

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朝食を食べながら、今日は何をしようかと考えていたら、執事が私の元に手紙を持って来た。

「ノイリス様、王宮より信書が届いております」

魔法具部からの療養の報告の返信かなと思い、手紙を受け取る。
裏に相手の名前は書かれていなかった。
家紋みたいなシーリングスタンプが押されていたので、古風だなと思った。

『王族からですね』

と、リューが教えてくれた。家紋は王家の紋章だったようだ。

「王族から?」

なんで私に?と思い、封筒を破いて開けようとしたら、執事が空かさずにペーパーナイフを差し出してきた。
王族からの信書を破くな!ってことで、執事の動きは素早かった。
そんな執事の動きを見て、私は丁寧に封を開けたよ。いちいちペーパーナイフは使うのはめんどくさいんだけど、ここはグッと我慢したよ。

手紙は王子殿下からで、【父から下賜されたランタンを修理をしたノイリスに、直接お礼を言いたい。でもノイリスは療養中なので手紙で申し訳ないけど、感謝を述べたいので一筆取った】とそんな感じで書かれてあった。
手紙を読み進めると、【他にも直してもらいたい物があるのだけれども、秘密の場所にあって持ち出せないから、その場所に来てもらい直してもらいたい】という相談も書かれてあった。
そんな場所に私を連れて行っても大丈夫?って思ったけど、隆のこともあるし、ここで王族とパイプを繋げておくのも悪くないよな、と軽いノリで、【日時を指定してもらえれば伺う】と、字の書けない私は執事に頼んで、私の代わりに王子殿下に返信を出してもらった。執事は終始『畏れ多い』と言っていたけど、返信出さないほうが失礼だと思うので、頑張って書いてもらった。




結局午前中は、ノイリスの蔵書を読んで過ごしてしまったけど、午後からは親父さんの店に行くことにした。
店に行けば、『おまえ、身体は大丈夫なのか?!』と私の心配をしてくれた。
『何で知っているの?』と聞けば、『新聞に出ていた』って。
本を読んでも、手書きの写本ばかりで、印刷技術はあまり発達していないと思っていたから、新聞があることには驚いてしまった。

ノイリスが行っていた時計の修復を私が代わりに行う。
ノイリスが四苦八苦しながら、まだ分解も途中までしかできていなかったみたいだけど、私は心の奥にいるノイリスに語り掛けるように、丁寧に迅速に精密に解説をしながら分解した。
全部を分解する前に、歯が欠けている歯車を見つけることができた。
前の世界ならメーカーに頼めば部品が届いたけど、この世界にメーカーなんてないので、修復は自分達で新しく作り直さないといけない。
歯車を作るのは久しぶりで私は気持ちが高揚していく。
一から時計を作った時の楽しさが私の中に蘇る。設計から部品作り、組み立てと楽しかった。
初めて製作した時計は、分針が1時間に5分は遅れるし、途中から時針が動かなくなったしで、失敗に終わったけど。素人が歯車を作っても、均等の歯でないから、歯車として機能しないとわかった。その時の教訓は、歯車は買うべきものであると学んだのである。

しかし今はノイリスの魔法の力で歯車を作ることができる。
ノイリスの記憶を覗けば、修復はもちろん、製作もできる。ただ、製作には大量の魔力を必要とするので、結局手作業の方が早い場合もあった。
今はこの小さな歯車。歯の欠けた部分を作るくらいなら、そんなに魔力も消費しない。
ノイリスがしていたように、指先から歯車に魔力を少しずつ放ちながら、歯車を直していく。
歯が欠けた歯車は、じわじわと元の形に戻ろうと再生しているように見えた。

「ほぉ、上手いものじゃねぇか。流石、王宮魔法具師だな」

と、親父さんに褒めてもらった。この時、心の奥のノイリスから私へ微かな嫉妬心を感じられた。
その嫉妬心は、私がノイリスの代わりに時計の修理をしたことなのか、親父さんに褒められたことなのかはわからない。けれど、私は思わず『悔しかったら、お前が組み立ててみろ!』なんて、挑発するようなことを言ってみた。
そしたら、ノイリスはまた沈黙をしてしまった。
挑発に乗るような性格ではないのは知っていた。でも時計が好きなら出てくるかな?と思ったけど、やっぱりダメだったようだ。

他にも異常箇所がないか確認をして、歯車を元の位置へと戻していく。
部品を全て納めて、魔石を嵌め込み、時間、曜日を合わせる。裏蓋で閉める前に、親父さんに最終確認をして持ってから、裏蓋を閉じた。これで修理は終わりだ。


「はい、修理終わったよ」

と、親父さんに懐中時計を渡した。

「ここに来ない間に、偉く手際が良くなったな?練習したのか?」

「んん、まぁ、そんなところです」

今はノイリスでなく私になったのだから、とは言えない。

「今日は、夕飯食っていくか?」

「いや、今実家で療養中となっているから帰るわ。それに父上も兄上も心配性だし」

「ははっ、そうかそうか。子爵たちも相変わらずだなぁ」

と、親父さんは笑うけど、私は苦笑しか出てこない。
私がこの店に時計の知識と経験を習いに来た頃に、父と兄はそれぞれ平民である親父さんに『ノイリスをお願いします』と頭を下げてお願いしたそうだ。親父さんはびっくりした。その話を聞いたノイリスもびっくりした後、泣いてしまった。
親父さんは『良い父親と兄だな』と言ってくれた。ノイリスも私もそう思うよ。
だからって、20歳過ぎてまで過保護にすることはないと思うんだけどなぁ、と少し愚痴ってしまう。



夕方、親父さんの店から、実家まで歩く。馬車は断っておいた。
歩けば30分程度だから、良い運動にはなる。
5日間寝ていただけで筋肉とは衰えるものであると知ってから、とにかく身体を動かすようにしていた。
やっぱり若いからか、運動した分だけ筋肉になってくれるので、今は筋肉を育てることが楽しかった。
その時、香ばしい匂いがしてきた。
筋肉には肉だよな、なんて、自分に謎の言い訳をしながら、匂いのする方向に向かってしまったよ。



完全に陽が落ちる前に帰ろうと、今は走っている。
匂いに誘われ、お腹が空いたからと買い食いをしてしまい、時間配分を間違えてしまった。
心配性の父達が私を捜索する前に帰らなくてはと、気持ちが逸ってしまう。
肉は美味かったけどさ!
あの角を曲がれば家が見えてくると、少し安堵したら、走るのをやめて歩くことにした。
疲れたぁ、と、あがった息を整えながら、家まであと数百メートルを歩いた。



この時、自分の心臓の音が煩くて、私の後ろに誰かが近づいていたことには気が付かなかった。
気が付いた時には、後ろから眠り薬を染みこませた布で口元を覆われて、私は気を失ってしまった。

そして、家の手前で私は何処かに連れ去られてしまった。

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