24 / 26
24
しおりを挟む
「やっぱりさ、1度はエルミタージュ美術館には行ってみたいんだよな」
「そうか」
「哲は相変わらず反応が薄いな」
「ソ連に行くには大変なのを知っているから、行きたいとは思わん」
「でもさ、大変さ以上に観たいものってあるじゃん。もし行けば、【ブレゲ クラシック トゥールビヨン】がタダで手に入るっていう場所があったら、何としてでも行きたくない?」
「何をしても行く!絶対に行く!庶民には一生手に入らない時計だからな!」
「俺も庶民には手に入らないお宝を観に行きたいだけなんだけどな」
「……観れるといいな」
「いつか観れるさ」
なんて学生の時は叶わぬ夢を言っていたけど、まさかソ連からロシアに変わるとは思わなかった。
社会主義国から民主主義国に変わるだけで、全然行きやすさが違うらしい。
ドイツが統一した時も、今まで行けなかった東側に真っ先に行ったらしい。
隆の美術館巡りは、創作意欲を沸き立てるものだと知っているけど、それだけではなかったらしい。
赤字続きの美術館の立て直しにも一役買っていたと知ったのは、隆がいなくなってからのことだった。
『頼むから、紛争地帯にだけは行かないでくれ』と、何度も説得はしてみたものの、隆は行きやがった。
反対に『戦争で失われるくらいだったら、俺があのお宝たちを保護してやるぜ!』なんて、阿呆なこと言いながら。
案の定消息不明になった。マスコミにちょっと報道されたけど、隆の姿かたちは見つからなかった。
遺体すら見つからなかったから、私だけは隆が何処かで生きていると信じていた。
それから数年後、世間が隆を忘れ去った頃、隆から手紙が来た。本当に生きていたよ!しかも、異世界!
私の涙を返せと言いたかったけど、アイツのために泣いたと知られるのも癪だから、口に出さないでおいた。
地獄耳のアイツが魔法使いになったのなら、私の言葉を絶対に聞いていそうな気がしたから。
「いつか、アレを作るんだ!哲も手伝ってな!!」
目を輝かせてアレを作りたいと言っていた。
……アレって、なんだっけ?
なんか、思い出しそうなんだけど、思い出せない。
私は写真でしか観たことはなかったけど美しかった。
写真の画像も思い出せないのに、確かに美しいと感じた。
その美しさの虜となった隆が、それでも日本に戻って来ていたのは、俺に会うためだったとそう思いたかった。
ガンガンと頭の痛みで私は気がついた。
目を開ければ、今まで見たことがない天井。実家や寮の天井とは違い、綺麗な細工加工がしてある天井だった。
考えると痛む頭を押さえる。
なんでこんなに頭が痛いんだ?
ここはどこだ?
『此処は王宮です』
?何故、王宮?
『説明は、今から此処に来る者達がします。寝たフリをしてください』
私はリューに言われるまま、痛む頭から手を離し、瞼を閉じた。
瞼を閉じてから数分後、この部屋に近づく足音が聞こえる。1人ではなく、数人の足音だ。
ガチャッ、とドアが開き、その者たちが入ってくる。
「ノイリスは大丈夫なのか?」
この声、父の声?
「ええ、警邏中の兵士たちが拉致中に発見できたので、すぐに保護をすることができました。医務官にも診てもらいましたけど、怪我はありませんでした」
重低音の声は、ノイリスの記憶にないな。
しかし、警邏中の兵士たちが近くにいるの気が付かなかったの?え?計画が杜撰すぎない?
「そうか、良かった」
「グレンダ子爵、それで捕縛された者たちを尋問しましたら、どうやらグレンダ子爵夫人と子息のエミールの依頼と言っています。どうか御二人の捕縛の許可をお願いします」
「……あれらは一線を越えてしまった。国の法に則って、騎士団に任せる。こちらこそ、お願い致します」
「…ご理解いただきありがとうございます。では、私はこれで失礼します」
重低音の声の人は、部屋から立ち去って行った。
私の拉致の黒幕は、母上とエミールのようだった。私の中のノイリスから、やっぱりかという諦めの感情を感じた。
そう言えば、母という人に会ってないな、と今更ながらに気が付く。
父(目を閉じているからわからないけど、多分父)は私の右手を取り、両手でぎゅっと握る。
「なぜ、ノイリスばかり、…こんな目に合うんだ」
父の悲しい声が聞こえる。やっぱり、父だった。
「子爵、申し訳ございません」
この声は、フェリックス様?…なんで、この男が謝るんだ?てか、此処にいたんだ。
「いつもでしたら、王宮と寮の行き帰りには影で護衛をつけていましたが、現在実家で過ごされているので、護衛をつけておりませんでした。私の油断でこのようなことになり、申し訳ございませんでした」
は?護衛をつけていたの?内緒で?言ってよ。下手したらストーカー案件だったよ?
「私もまさか、ノイリスが徒歩で外出するとは思わなかったから。…本当に突然何をしでかすかわからない子だよ」
ちょっと、父上?!ノイリスをアホな子扱いしないでくれる?今回は完全に私の落ち度だから、ノイリスは悪くないよ!!
『貴方もノイリスですよ?』
……そうだった。忘れていたよ。
「……そうですね」
『この前子爵家から追い出された時は、本当に驚いたよ。冷徹な目をしたノイたんも素敵だったけど』
【何をしでかすかわからない】は同意するなよ!………リュー、いい加減、この男との回線を切れ!今、背筋がゾクッとした!
『無理です。心の声なので、解放度1000%の声です』
この男、本当に、もうやだ!この男の心の声は私の精神衛生上本当に良くない!リューさん、ちなみに解放度1000%ってなに?!
『開放度とは何物にも縛られていないという意味で使いました。あと、回線の切断は無理です。めんどくさいです。下手したら、精神を壊してしまい、廃人になる可能性が高いです。保証のできない行為はしたくありません』
その前に、私の精神の安定を要求したいんだけど。
『…犠牲は最小限に留めておくべきです』
……どっちにしろ、犠牲者は私だけじゃん!!泣きてぇぇ!!
『……そろっと起きてもいいと思います。今起きた風でお願いします。変な演技はいりません』
するか!大根役者と言われて、地味に傷ついたんだぞ!
変な演技をしないようにと思ってみたけど、普段どのように起きている動きかが分からなくて、やっぱり変な動きをしながら起きた。
ノイリスが今までしたことがない動きだったようで、父もあの男も一瞬フリーズしてしまった。失礼な奴らめ!
ノイリスが目を覚ました。まだ寝ぼけ眼で周りを見渡し、父とフェリックスがいることを確認したら、『おはよ』と言った。ふにゃっと笑いかけながら。
哲彌は知らなかったけど、ノイリスの普段の表情は無表情に近い。フェリックスのことを言えないくらいに無表情に近い。それがふにゃっと笑いかけてくれたのだ。
父は、ノイリスが幼少期にしか見たことがない笑顔で、フェリックスにはとっては初めて見る笑顔であった。
ふにゃっとしたノイリスの笑顔で少しの間2人は天に召されていた。
「「目の前に女神が!!」」
そんな2人の様子を知らないノイリスとリュー。
『大根役者にも程があります』
うるせぇわい!!
と、またしても私の演技について、リューからダメ出しをされていた。
「そうか」
「哲は相変わらず反応が薄いな」
「ソ連に行くには大変なのを知っているから、行きたいとは思わん」
「でもさ、大変さ以上に観たいものってあるじゃん。もし行けば、【ブレゲ クラシック トゥールビヨン】がタダで手に入るっていう場所があったら、何としてでも行きたくない?」
「何をしても行く!絶対に行く!庶民には一生手に入らない時計だからな!」
「俺も庶民には手に入らないお宝を観に行きたいだけなんだけどな」
「……観れるといいな」
「いつか観れるさ」
なんて学生の時は叶わぬ夢を言っていたけど、まさかソ連からロシアに変わるとは思わなかった。
社会主義国から民主主義国に変わるだけで、全然行きやすさが違うらしい。
ドイツが統一した時も、今まで行けなかった東側に真っ先に行ったらしい。
隆の美術館巡りは、創作意欲を沸き立てるものだと知っているけど、それだけではなかったらしい。
赤字続きの美術館の立て直しにも一役買っていたと知ったのは、隆がいなくなってからのことだった。
『頼むから、紛争地帯にだけは行かないでくれ』と、何度も説得はしてみたものの、隆は行きやがった。
反対に『戦争で失われるくらいだったら、俺があのお宝たちを保護してやるぜ!』なんて、阿呆なこと言いながら。
案の定消息不明になった。マスコミにちょっと報道されたけど、隆の姿かたちは見つからなかった。
遺体すら見つからなかったから、私だけは隆が何処かで生きていると信じていた。
それから数年後、世間が隆を忘れ去った頃、隆から手紙が来た。本当に生きていたよ!しかも、異世界!
私の涙を返せと言いたかったけど、アイツのために泣いたと知られるのも癪だから、口に出さないでおいた。
地獄耳のアイツが魔法使いになったのなら、私の言葉を絶対に聞いていそうな気がしたから。
「いつか、アレを作るんだ!哲も手伝ってな!!」
目を輝かせてアレを作りたいと言っていた。
……アレって、なんだっけ?
なんか、思い出しそうなんだけど、思い出せない。
私は写真でしか観たことはなかったけど美しかった。
写真の画像も思い出せないのに、確かに美しいと感じた。
その美しさの虜となった隆が、それでも日本に戻って来ていたのは、俺に会うためだったとそう思いたかった。
ガンガンと頭の痛みで私は気がついた。
目を開ければ、今まで見たことがない天井。実家や寮の天井とは違い、綺麗な細工加工がしてある天井だった。
考えると痛む頭を押さえる。
なんでこんなに頭が痛いんだ?
ここはどこだ?
『此処は王宮です』
?何故、王宮?
『説明は、今から此処に来る者達がします。寝たフリをしてください』
私はリューに言われるまま、痛む頭から手を離し、瞼を閉じた。
瞼を閉じてから数分後、この部屋に近づく足音が聞こえる。1人ではなく、数人の足音だ。
ガチャッ、とドアが開き、その者たちが入ってくる。
「ノイリスは大丈夫なのか?」
この声、父の声?
「ええ、警邏中の兵士たちが拉致中に発見できたので、すぐに保護をすることができました。医務官にも診てもらいましたけど、怪我はありませんでした」
重低音の声は、ノイリスの記憶にないな。
しかし、警邏中の兵士たちが近くにいるの気が付かなかったの?え?計画が杜撰すぎない?
「そうか、良かった」
「グレンダ子爵、それで捕縛された者たちを尋問しましたら、どうやらグレンダ子爵夫人と子息のエミールの依頼と言っています。どうか御二人の捕縛の許可をお願いします」
「……あれらは一線を越えてしまった。国の法に則って、騎士団に任せる。こちらこそ、お願い致します」
「…ご理解いただきありがとうございます。では、私はこれで失礼します」
重低音の声の人は、部屋から立ち去って行った。
私の拉致の黒幕は、母上とエミールのようだった。私の中のノイリスから、やっぱりかという諦めの感情を感じた。
そう言えば、母という人に会ってないな、と今更ながらに気が付く。
父(目を閉じているからわからないけど、多分父)は私の右手を取り、両手でぎゅっと握る。
「なぜ、ノイリスばかり、…こんな目に合うんだ」
父の悲しい声が聞こえる。やっぱり、父だった。
「子爵、申し訳ございません」
この声は、フェリックス様?…なんで、この男が謝るんだ?てか、此処にいたんだ。
「いつもでしたら、王宮と寮の行き帰りには影で護衛をつけていましたが、現在実家で過ごされているので、護衛をつけておりませんでした。私の油断でこのようなことになり、申し訳ございませんでした」
は?護衛をつけていたの?内緒で?言ってよ。下手したらストーカー案件だったよ?
「私もまさか、ノイリスが徒歩で外出するとは思わなかったから。…本当に突然何をしでかすかわからない子だよ」
ちょっと、父上?!ノイリスをアホな子扱いしないでくれる?今回は完全に私の落ち度だから、ノイリスは悪くないよ!!
『貴方もノイリスですよ?』
……そうだった。忘れていたよ。
「……そうですね」
『この前子爵家から追い出された時は、本当に驚いたよ。冷徹な目をしたノイたんも素敵だったけど』
【何をしでかすかわからない】は同意するなよ!………リュー、いい加減、この男との回線を切れ!今、背筋がゾクッとした!
『無理です。心の声なので、解放度1000%の声です』
この男、本当に、もうやだ!この男の心の声は私の精神衛生上本当に良くない!リューさん、ちなみに解放度1000%ってなに?!
『開放度とは何物にも縛られていないという意味で使いました。あと、回線の切断は無理です。めんどくさいです。下手したら、精神を壊してしまい、廃人になる可能性が高いです。保証のできない行為はしたくありません』
その前に、私の精神の安定を要求したいんだけど。
『…犠牲は最小限に留めておくべきです』
……どっちにしろ、犠牲者は私だけじゃん!!泣きてぇぇ!!
『……そろっと起きてもいいと思います。今起きた風でお願いします。変な演技はいりません』
するか!大根役者と言われて、地味に傷ついたんだぞ!
変な演技をしないようにと思ってみたけど、普段どのように起きている動きかが分からなくて、やっぱり変な動きをしながら起きた。
ノイリスが今までしたことがない動きだったようで、父もあの男も一瞬フリーズしてしまった。失礼な奴らめ!
ノイリスが目を覚ました。まだ寝ぼけ眼で周りを見渡し、父とフェリックスがいることを確認したら、『おはよ』と言った。ふにゃっと笑いかけながら。
哲彌は知らなかったけど、ノイリスの普段の表情は無表情に近い。フェリックスのことを言えないくらいに無表情に近い。それがふにゃっと笑いかけてくれたのだ。
父は、ノイリスが幼少期にしか見たことがない笑顔で、フェリックスにはとっては初めて見る笑顔であった。
ふにゃっとしたノイリスの笑顔で少しの間2人は天に召されていた。
「「目の前に女神が!!」」
そんな2人の様子を知らないノイリスとリュー。
『大根役者にも程があります』
うるせぇわい!!
と、またしても私の演技について、リューからダメ出しをされていた。
71
あなたにおすすめの小説
君の恋人
risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。
伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。
もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。
不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
ラストダンスは僕と
中屋沙鳥
BL
ブランシャール公爵令息エティエンヌは三男坊の気楽さから、領地で植物の品種改良をして生きるつもりだった。しかし、第二王子パトリックに気に入られて婚約者候補になってしまう。側近候補と一緒にそれなりに仲良く学院に通っていたが、ある日聖女候補の男爵令嬢アンヌが転入してきて……/王子×公爵令息/異世界転生を匂わせていますが、作品中では明らかになりません。完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる