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本編
Ⅲ
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夏に差し掛かり、ある週の放課後は学園裏の畑に水撒きをしていた。薬学で使用する薬草を育てている。
薬学は3年の必須科目で、水撒きは当番制である。
今週は僕の当番だ。
今日は水撒きのあと、級長のギルフォードと侯爵令息のアランと街に行く予定だ。早く終わらせよう。
と、思っていたら、誰かいた。
建物と林の陰になっていて、向こうは僕に気づいていないようだった。ちょっと近づくと、あまり聴きたくない水音と声が聞こえてきた。
学園で盛るなんて、どこのバカだ。
と、ちらっと見えたら、1年生の話題になっていたピンクの子と、3年生の他クラスの伯爵令息だった。
ピンクの子が一生懸命令息のモノを咥えていた。
気持ち悪くなった。
吐きそうになり、その場から足を引き摺るように離れた。
校舎に向かおうとするが、足が言うことを聞かない。もうダメだというところで、ギルフォードとアランが僕を見て、急いで駆け寄ってくれた。
2人の顔を見た安堵からか、プツリと意識がなくなった。
『何やっているんだ!!』
彼女は、男のモノを咥え、更に後ろからもう1人に犯されていた。
結婚しようと約束までしたのに、僕ではモノ足らず、複数人とそんな行為をしていた。
同棲していた部屋で。2人のベッドで。
相手は僕の会社の同僚2人。
『あんたは金さえ稼いでくればいいのよ。顔だっていい訳でないのに、私があんたに惚れるわけないじゃない。』
安定した職業で、上司の覚えもいい僕は、確かに出世コースを進んでいた。
彼女のATMとして選ばれてしまった。
大学からの付き合いだったけど、彼女の本性に気づけなかった。
僕がマヌケなのか、彼女の演技が完璧なのか。
でも、もうそんなことはどうでもいいくらいに、人が信じられなくなった。
あの場面をみてから、EDになった。
医者からは心因性と診断された。
AVでなくても、雑誌やテレビで水着姿の女性を見ただけで吐き気に襲われる。
化粧の香りで嘔吐しそうになる。
それからは、ただ毎日死んだように生きていた。
怒りや喜びも全く感じなくなった。
目を開けるといつもの天井。
いつのまにか家に帰ってきたらしい。
「アル?気がついた?」
「かあ、さま?」
「アルは学園で倒れたのよ。覚えている?」
「なんと、なく。」
「ギルフォード君とアラン君が家まではこんでくれたの。後でアルから御礼を言ってね。」
「うん、もちろん。」
「さぁ、まだ顔色は悪いから、寝ていなさい。」
「…母様。」
「なに?」
「手を繋いでいて欲しいんだけど。あっ、でも、母様も忙しいなら、大丈夫だから。」
「ふふっ、寝るまで繋いでいるわよ。もう大きいから、一緒に寝れないのが残念ね。」
「それは父様とだけにして。」
繋いでいない手で頭を撫でてくれる。
母様のぬくもりで前世の嫌な記憶の夢を見ることなく、ぐっすり寝た。
翌日は大事を取り、学園を休んだ。
夕方にみんなお見舞いに来てくれた。
今日の授業ノートとお見舞いの花を持って来てくれた。
御礼に収納魔法から作り溜めておいたケーキを出し、母様に頼んでみんなに振る舞ってもらった。
「やっぱり、アルサスを嫁に欲しい!」
「俺、養子に立候補する!」
「くっ、嫁ぎ先に連れて行きたい!」
「いや、本当にお菓子のための求婚やめて!?」
母様はクスクス笑っているし、みんなは一家に1人アルサスが欲しいと言い出す。
途中から父様が参戦して、嫁に出さん発言をして、収拾がつかなくなった。
寮の門限時間が近づいたことで、強制終了となった。
翌日にはきちんと学園に行った。普通に授業を受けた。
ただ当番の水撒きに行く時に少し怖くて、アランについてきてもらいたいと頼んだ。
アランは快諾してくれた。
今日は薬草畑には誰もいなかった。
ほっとして、水撒きをした。
アランも手伝ってくれた。
帰り道に聞かれた。何があったのか。
僕は詳しくは言わなかったが、ピンクの子と伯爵令息の濡れ場を見て、気持ち悪くなったと伝えた。
アランは物凄くイヤな顔をしていた。
「それは気持ち悪いモノを見てしまったね。神聖なる学舎ですることではないよ。」
「うん。」
「アルサスは、そういう全てが気持ち悪いと思っているのかい?」
「…わからない。結婚式で誓いのキスをしているのを見ても、気持ち悪いと思ったことはない。」
「うん、私もそう思う。寧ろ幸せそうな姿を見て、心がほっこりする。多分、性欲だけの行為を気持ち悪いと感じたのだろう。アルサスは人より敏感に感じてしまったから、倒れてしまったのかもしれない。」
「うん。」
「人と人との触れ合いは、心を温かくしてくれる。」
「うん。」
「だから、今回のことは忘れた方がいい。もらい事故にあっただけだ。」
「そうだね。」
「そうだよ。」
「聞いてくれてありがとう。一人でずっと気持ち悪いの意味がわからないままだったよ。」
「お役に立ててなにより。」
そのあとは他愛もない話をした。アランの婚約者の話とか、寮の夕飯メニューの少なさとか。
少しずつ、普通の日常にと戻っていった。
ピンクの子を見かけても、特に気にならなくなった。テレビで見る芸能人的感覚で、住む世界が違うという線引きのような感覚だ。
あの場面もドラマの作品の一つの情景だったのを見たと思えば、徐々に不快感もなくなってくる。
夏の長期休み前の試験も終わり、談話室の一室を借りて、みんなで休みの予定を話していた。
寮暮らしの伯爵令息ジークは、領地に戻って休み中は家の後継ぎの勉強をするとのこと。
もう一人の伯爵令息ダミアンは、文官試験の勉強をしつつ遊ぶ予定。
ギルフォードも、騎士試験の修行をしつつダミアンと遊ぶ予定だそうだ。
アランと子爵令息ローランドは、婚約者の家で花嫁修業の予定とのことだ。
「アルサスは?」
「畑をしたり、魔獣狩ったり、陛下と父様と農産科の人達と砂糖を作ったりする予定。」
「「「「「は?」」」」」
「だって、陛下が魔法師団に入れってうるさいから、砂糖の元になる作物と砂糖の作り方を教える代わりに免除してくれってお願いしたら、いいよって言ってくれたから。」
「「「「「はぁ?」」」」」
ということで、今までの経緯を話した。
第2王子とお見合いをして、怒った僕が陛下の前で転移魔法を使って帰ったことから、僕が転移魔法を使えるのがわかって、しつこく父様経由で嫁か魔法師団入団かを勧誘された。
第2王子から話が出たのか、嫁の話はなくなったが、魔法師団入団の勧誘はなくならない。
で、父様に頼んで、砂糖を献上した。案の定陛下は食いついてきたので、僕の勧誘を辞めることを条件に作物の育て方と砂糖の作り方を教えた。
夏には、城の農園で育てた作物が収穫できそうな頃なので、長期休みに作ってみようとなったのだ。
「な、中々すごいことになっていたね。」
「王子妃か、魔法師か。」
「どっちもなりたくてなれない人気職。」
「…転移魔法。」
「アルサスは、魔法学の成績は真ん中くらいだよね?」
「目立ちたくないだけだよ。転移も収納も二重魔法も使えるよ。ギルフォードに誘われていなかったら、ずっと人嫌いのままだったし。」
「ギルフォード!よくやった!」
「ギルフォードのお手柄だ!」
「ギルフォード、早くアルサスを嫁にもらえ!」
「俺、養子入りするよ。」
「王都に飽きたら、うちの領地にくればいい。」
「なんで、僕はギルフォードに嫁入りが確定してんの?」
みんな、はぁとため息を吐いて、ギルフォードに『頑張れ』と言って、談話室から出て行った。
「なんで、みんな帰るの?僕も帰るよ。ギルフォードも帰ろう?」
「アルサス。少し話を聞いてくれ。」
「うん。いいけど。」
「私は公爵家に生まれたけど、三男で継ぐ家も爵位もない。婚約者もいない。身体を動かすのが好きだったから、騎士を目指した。この先、騎士になって、兄が家を継いだら家を出なければいけない。余計な諍いを起こさないように結婚もする気はなかった。でも、アルサスと出会って、アルサスの人柄を知っていくうちに、アルサスに惹かれた。アルサスが人嫌いなのも知っている。でも、アルサスが許してくれるなら、ずっと隣にいたい。結婚を前提として付き合ってほしい。」
「…僕は、信じている人に裏切られた。人を信じられない。」
「わかっている。みんなもわかっているから、アルサスに無理に聞いたりしないだろ。目が悪くないのにメガネかけていることや、顔を隠すような長い前髪の理由を。」
「うん、そうだね。みんな優しいね。」
「みんなアルサスの為人を見て、付き合っているんだよ。」
「みんなは信じられる。それに、踏み込む機会をくれたギルフォードには感謝をしている。でも、その先はまだ怖いんだ。」
「返事は今すぐでなくていい。ただ、私をよく知ってもらいたいから、遠出とかに誘ってもいいか?」
「う、うん。」
「…良かった。直ぐに断られるかと思っていたから。」
「無理だったら、きちんと言うよ。でも、ギルフォードが真剣に言ってくれたから、僕も真剣に考えて答えを出すよ。」
「ありがとう。」
「…真剣に考えての結果、お断りの返事だったら、ごめん。」
「いや、それはアルサスが真剣に出した答えなら、受け入れるよ。まぁ、未練は残るけどね。」
忙しい長期休みになった。朝の日課となっている魔の森の畑の手入れ。収穫した野菜は、今は調理する暇がないから、収納魔法の中にしまうだけ。
日中は城で砂糖作り。農産科の方々は早々に作り方を覚えた。あとは甜菜をいかに生産出来るかが勝負だ。
あとは、ギルフォードとダミアンでお茶会したり、ギルフォードと買い物したり、と去年、一昨年と魔の森に引き篭もっていたのが嘘のようだ。
夜は両親と他愛もないおしゃべりをする。
もちろん、ギルフォードのことは両親に伝えた。
両親共に僕の出した答えに賛同すると言ってくれた。
そして、前から不思議だったことを両親に聞いた。
「子供ってどうやったらできるの?」
「「ぶっっ!!」」
2人ともお茶を吹き出してしまったのは仕方ないことだった。
「いきなり、何を言い出すのか?」
「ま、まさか、ギルフォード君からもうそんなお誘いが?」
「違うよ。ただ知らないから、知りたいだけだよ。その、そういう行為をすることはわかっているけど、それでどうしたら、子供が出来るのかがわからなくて。」
前世であれば、小学生高学年に習った保健の授業。卵子と精子。受精卵を育てる子宮。
男しかいない世界で、女性体になるわけもないのに、子供ができるのが不思議だった。
母様が部屋から出て行き、一冊の本を持って戻ってきた。
「これは結婚した時に、教会から貰うものなの。」
と、本を渡してくれた。
さっと読むと、教会で素となる核を受け取る。産む側が核を胎内に入れて、2~3時間位体に馴染ませる。馴染んでくると子供が育つ部屋が体の中にできてくる。できてから性行為をすると、子供ができて、約半年後に生まれるらしい。陣痛がきたら、教会にて出産をする。
ファンタジー小説のようで理解が追いつかないが、凡そは把握した。
「教会には、この本と夫婦2人揃って行かないと核はもらえないの。何百年か前に親のいない子供が増え過ぎたこともあって、きちんと結婚した夫婦、子供が育てられる経済状況、環境の精査をされるようになったの。それでも、親のいない子供はいるんだけど。」
「この本の最初に教会と司祭名と私達の名前が書いてあるだろ。次のページに核をもらった日が書いてある。これは夫婦の証の本なんだよ。」
「あれ?核をもらった日が3回あるね?」
「必ず子供が出来るわけでないんだよ。」
「なるほど。教えてくれてありがとう。疑問が解決したよ。」
「やっぱりきちんと家庭教師をつけてやれば。」
「今更言っても栓のないことよ。」
「そうそう。」
「逃げ回っていたアルサスが悪いのよ?」
「それは、ごめんなさい。」
ここは素直に謝りました。
薬学は3年の必須科目で、水撒きは当番制である。
今週は僕の当番だ。
今日は水撒きのあと、級長のギルフォードと侯爵令息のアランと街に行く予定だ。早く終わらせよう。
と、思っていたら、誰かいた。
建物と林の陰になっていて、向こうは僕に気づいていないようだった。ちょっと近づくと、あまり聴きたくない水音と声が聞こえてきた。
学園で盛るなんて、どこのバカだ。
と、ちらっと見えたら、1年生の話題になっていたピンクの子と、3年生の他クラスの伯爵令息だった。
ピンクの子が一生懸命令息のモノを咥えていた。
気持ち悪くなった。
吐きそうになり、その場から足を引き摺るように離れた。
校舎に向かおうとするが、足が言うことを聞かない。もうダメだというところで、ギルフォードとアランが僕を見て、急いで駆け寄ってくれた。
2人の顔を見た安堵からか、プツリと意識がなくなった。
『何やっているんだ!!』
彼女は、男のモノを咥え、更に後ろからもう1人に犯されていた。
結婚しようと約束までしたのに、僕ではモノ足らず、複数人とそんな行為をしていた。
同棲していた部屋で。2人のベッドで。
相手は僕の会社の同僚2人。
『あんたは金さえ稼いでくればいいのよ。顔だっていい訳でないのに、私があんたに惚れるわけないじゃない。』
安定した職業で、上司の覚えもいい僕は、確かに出世コースを進んでいた。
彼女のATMとして選ばれてしまった。
大学からの付き合いだったけど、彼女の本性に気づけなかった。
僕がマヌケなのか、彼女の演技が完璧なのか。
でも、もうそんなことはどうでもいいくらいに、人が信じられなくなった。
あの場面をみてから、EDになった。
医者からは心因性と診断された。
AVでなくても、雑誌やテレビで水着姿の女性を見ただけで吐き気に襲われる。
化粧の香りで嘔吐しそうになる。
それからは、ただ毎日死んだように生きていた。
怒りや喜びも全く感じなくなった。
目を開けるといつもの天井。
いつのまにか家に帰ってきたらしい。
「アル?気がついた?」
「かあ、さま?」
「アルは学園で倒れたのよ。覚えている?」
「なんと、なく。」
「ギルフォード君とアラン君が家まではこんでくれたの。後でアルから御礼を言ってね。」
「うん、もちろん。」
「さぁ、まだ顔色は悪いから、寝ていなさい。」
「…母様。」
「なに?」
「手を繋いでいて欲しいんだけど。あっ、でも、母様も忙しいなら、大丈夫だから。」
「ふふっ、寝るまで繋いでいるわよ。もう大きいから、一緒に寝れないのが残念ね。」
「それは父様とだけにして。」
繋いでいない手で頭を撫でてくれる。
母様のぬくもりで前世の嫌な記憶の夢を見ることなく、ぐっすり寝た。
翌日は大事を取り、学園を休んだ。
夕方にみんなお見舞いに来てくれた。
今日の授業ノートとお見舞いの花を持って来てくれた。
御礼に収納魔法から作り溜めておいたケーキを出し、母様に頼んでみんなに振る舞ってもらった。
「やっぱり、アルサスを嫁に欲しい!」
「俺、養子に立候補する!」
「くっ、嫁ぎ先に連れて行きたい!」
「いや、本当にお菓子のための求婚やめて!?」
母様はクスクス笑っているし、みんなは一家に1人アルサスが欲しいと言い出す。
途中から父様が参戦して、嫁に出さん発言をして、収拾がつかなくなった。
寮の門限時間が近づいたことで、強制終了となった。
翌日にはきちんと学園に行った。普通に授業を受けた。
ただ当番の水撒きに行く時に少し怖くて、アランについてきてもらいたいと頼んだ。
アランは快諾してくれた。
今日は薬草畑には誰もいなかった。
ほっとして、水撒きをした。
アランも手伝ってくれた。
帰り道に聞かれた。何があったのか。
僕は詳しくは言わなかったが、ピンクの子と伯爵令息の濡れ場を見て、気持ち悪くなったと伝えた。
アランは物凄くイヤな顔をしていた。
「それは気持ち悪いモノを見てしまったね。神聖なる学舎ですることではないよ。」
「うん。」
「アルサスは、そういう全てが気持ち悪いと思っているのかい?」
「…わからない。結婚式で誓いのキスをしているのを見ても、気持ち悪いと思ったことはない。」
「うん、私もそう思う。寧ろ幸せそうな姿を見て、心がほっこりする。多分、性欲だけの行為を気持ち悪いと感じたのだろう。アルサスは人より敏感に感じてしまったから、倒れてしまったのかもしれない。」
「うん。」
「人と人との触れ合いは、心を温かくしてくれる。」
「うん。」
「だから、今回のことは忘れた方がいい。もらい事故にあっただけだ。」
「そうだね。」
「そうだよ。」
「聞いてくれてありがとう。一人でずっと気持ち悪いの意味がわからないままだったよ。」
「お役に立ててなにより。」
そのあとは他愛もない話をした。アランの婚約者の話とか、寮の夕飯メニューの少なさとか。
少しずつ、普通の日常にと戻っていった。
ピンクの子を見かけても、特に気にならなくなった。テレビで見る芸能人的感覚で、住む世界が違うという線引きのような感覚だ。
あの場面もドラマの作品の一つの情景だったのを見たと思えば、徐々に不快感もなくなってくる。
夏の長期休み前の試験も終わり、談話室の一室を借りて、みんなで休みの予定を話していた。
寮暮らしの伯爵令息ジークは、領地に戻って休み中は家の後継ぎの勉強をするとのこと。
もう一人の伯爵令息ダミアンは、文官試験の勉強をしつつ遊ぶ予定。
ギルフォードも、騎士試験の修行をしつつダミアンと遊ぶ予定だそうだ。
アランと子爵令息ローランドは、婚約者の家で花嫁修業の予定とのことだ。
「アルサスは?」
「畑をしたり、魔獣狩ったり、陛下と父様と農産科の人達と砂糖を作ったりする予定。」
「「「「「は?」」」」」
「だって、陛下が魔法師団に入れってうるさいから、砂糖の元になる作物と砂糖の作り方を教える代わりに免除してくれってお願いしたら、いいよって言ってくれたから。」
「「「「「はぁ?」」」」」
ということで、今までの経緯を話した。
第2王子とお見合いをして、怒った僕が陛下の前で転移魔法を使って帰ったことから、僕が転移魔法を使えるのがわかって、しつこく父様経由で嫁か魔法師団入団かを勧誘された。
第2王子から話が出たのか、嫁の話はなくなったが、魔法師団入団の勧誘はなくならない。
で、父様に頼んで、砂糖を献上した。案の定陛下は食いついてきたので、僕の勧誘を辞めることを条件に作物の育て方と砂糖の作り方を教えた。
夏には、城の農園で育てた作物が収穫できそうな頃なので、長期休みに作ってみようとなったのだ。
「な、中々すごいことになっていたね。」
「王子妃か、魔法師か。」
「どっちもなりたくてなれない人気職。」
「…転移魔法。」
「アルサスは、魔法学の成績は真ん中くらいだよね?」
「目立ちたくないだけだよ。転移も収納も二重魔法も使えるよ。ギルフォードに誘われていなかったら、ずっと人嫌いのままだったし。」
「ギルフォード!よくやった!」
「ギルフォードのお手柄だ!」
「ギルフォード、早くアルサスを嫁にもらえ!」
「俺、養子入りするよ。」
「王都に飽きたら、うちの領地にくればいい。」
「なんで、僕はギルフォードに嫁入りが確定してんの?」
みんな、はぁとため息を吐いて、ギルフォードに『頑張れ』と言って、談話室から出て行った。
「なんで、みんな帰るの?僕も帰るよ。ギルフォードも帰ろう?」
「アルサス。少し話を聞いてくれ。」
「うん。いいけど。」
「私は公爵家に生まれたけど、三男で継ぐ家も爵位もない。婚約者もいない。身体を動かすのが好きだったから、騎士を目指した。この先、騎士になって、兄が家を継いだら家を出なければいけない。余計な諍いを起こさないように結婚もする気はなかった。でも、アルサスと出会って、アルサスの人柄を知っていくうちに、アルサスに惹かれた。アルサスが人嫌いなのも知っている。でも、アルサスが許してくれるなら、ずっと隣にいたい。結婚を前提として付き合ってほしい。」
「…僕は、信じている人に裏切られた。人を信じられない。」
「わかっている。みんなもわかっているから、アルサスに無理に聞いたりしないだろ。目が悪くないのにメガネかけていることや、顔を隠すような長い前髪の理由を。」
「うん、そうだね。みんな優しいね。」
「みんなアルサスの為人を見て、付き合っているんだよ。」
「みんなは信じられる。それに、踏み込む機会をくれたギルフォードには感謝をしている。でも、その先はまだ怖いんだ。」
「返事は今すぐでなくていい。ただ、私をよく知ってもらいたいから、遠出とかに誘ってもいいか?」
「う、うん。」
「…良かった。直ぐに断られるかと思っていたから。」
「無理だったら、きちんと言うよ。でも、ギルフォードが真剣に言ってくれたから、僕も真剣に考えて答えを出すよ。」
「ありがとう。」
「…真剣に考えての結果、お断りの返事だったら、ごめん。」
「いや、それはアルサスが真剣に出した答えなら、受け入れるよ。まぁ、未練は残るけどね。」
忙しい長期休みになった。朝の日課となっている魔の森の畑の手入れ。収穫した野菜は、今は調理する暇がないから、収納魔法の中にしまうだけ。
日中は城で砂糖作り。農産科の方々は早々に作り方を覚えた。あとは甜菜をいかに生産出来るかが勝負だ。
あとは、ギルフォードとダミアンでお茶会したり、ギルフォードと買い物したり、と去年、一昨年と魔の森に引き篭もっていたのが嘘のようだ。
夜は両親と他愛もないおしゃべりをする。
もちろん、ギルフォードのことは両親に伝えた。
両親共に僕の出した答えに賛同すると言ってくれた。
そして、前から不思議だったことを両親に聞いた。
「子供ってどうやったらできるの?」
「「ぶっっ!!」」
2人ともお茶を吹き出してしまったのは仕方ないことだった。
「いきなり、何を言い出すのか?」
「ま、まさか、ギルフォード君からもうそんなお誘いが?」
「違うよ。ただ知らないから、知りたいだけだよ。その、そういう行為をすることはわかっているけど、それでどうしたら、子供が出来るのかがわからなくて。」
前世であれば、小学生高学年に習った保健の授業。卵子と精子。受精卵を育てる子宮。
男しかいない世界で、女性体になるわけもないのに、子供ができるのが不思議だった。
母様が部屋から出て行き、一冊の本を持って戻ってきた。
「これは結婚した時に、教会から貰うものなの。」
と、本を渡してくれた。
さっと読むと、教会で素となる核を受け取る。産む側が核を胎内に入れて、2~3時間位体に馴染ませる。馴染んでくると子供が育つ部屋が体の中にできてくる。できてから性行為をすると、子供ができて、約半年後に生まれるらしい。陣痛がきたら、教会にて出産をする。
ファンタジー小説のようで理解が追いつかないが、凡そは把握した。
「教会には、この本と夫婦2人揃って行かないと核はもらえないの。何百年か前に親のいない子供が増え過ぎたこともあって、きちんと結婚した夫婦、子供が育てられる経済状況、環境の精査をされるようになったの。それでも、親のいない子供はいるんだけど。」
「この本の最初に教会と司祭名と私達の名前が書いてあるだろ。次のページに核をもらった日が書いてある。これは夫婦の証の本なんだよ。」
「あれ?核をもらった日が3回あるね?」
「必ず子供が出来るわけでないんだよ。」
「なるほど。教えてくれてありがとう。疑問が解決したよ。」
「やっぱりきちんと家庭教師をつけてやれば。」
「今更言っても栓のないことよ。」
「そうそう。」
「逃げ回っていたアルサスが悪いのよ?」
「それは、ごめんなさい。」
ここは素直に謝りました。
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