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僕は今日、謳う
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山々の彩とりどりな紅葉の中の道を、車で走らせている。
運転は彼で、僕は助手席に座るだけ。だから、紅葉の風景を楽しむ事ができている。
「今日、晴れて良かったな。」
「うん。久しぶりの海、楽しみだね。」
「冬になったら、寒すぎて観に来れないしな。」
「…イカ焼き、食べたいな。」
「…半分こな?蟹汁も飲みたいだろ?」
「へへっ、ありがとう。」
彼はあまり食べれない僕に気を遣ってくれた。目に入るものは食べたいと思うが、何せ今の僕には、食べる力さえないのだから。
「イカは、みみの部分が好きだな。」
「……お前、端っこがわりかし好きだよな?フランスパンとか。」
「美味いじゃん。ずっとカリカリしていられるんだよ。」
「そう言えば、この前スーパーでガーリックバターを見つけて。」
「チューブ?」
「それがタッパーのやつ。マーガリンのあの容器に入っているタイプ。」
「マジか!買った?買ったよね?!」
「ああ、買った。」
「ガーリックトースト、ガーリックライス、パスタ、何して食べるの?」
「…帰りにはバケット買って帰ろう。魚を買う予定だから、食べやすいようにアクアパッツァでもしようか。夕飯作ってやるよ。」
「やった!うわぁ、オシャレだねぇ。磯汁でもいいのに。」
「ガーリックトースト、食べたいんだろ?」
「うん!楽しみにしているよ!」
車が山を登り切ったところで海が見えてきた。
冬になる前の海。青と灰色の中間くらいの色で、紅葉とのコントラストがいい。
白い雲も標高が高いから、近くに感じる。
「もう少し行くと展望台があるから、トイレ休憩しようか?」
「わかった。お土産屋さんあるかな?」
「土産はまだ早いよ。」
彼は笑いながら言う。
「やっぱり定番の饅頭がいいかな?」
「ホント食い気だけはあるんだから。」
彼はクスクス笑いながら、山道のカーブをなんのそのと、華麗な運転さばきで車を走らせる。
僕は、ハンドルを握る彼の大きな手が好きだ。太陽光が眩しくて、今はサングラスを掛けながら運転をしている。その横顔も好きだ。
……だから、僕は。
「海だぁ!」
と、僕は海に向かって砂浜を駆け出す。
海浜公園の駐車場に車を停めて、潮風に当たってから、イカ焼きを食べようとなった。
「あ、転ぶぞ!」
「あはは!大丈夫!って、うわぁ!」
案の定、僕は砂に足を取られて転んでしまった。
「だから、言ったのに。」
彼は、俺の両脇の下に両腕を入れて、抱えるように立たせてくれた。
「…お前、また、痩せてないか?」
「ってかさ、この起こし方、子供扱いじゃん!もうハタチ過ぎてんだけど!」
「ふはっ、子供だろ?転ぶと注意された時点で、お・こ・さ・ま。」
「ムキィ~~!!」
「『ムキィ』って古くない?見た目は子供、中身はおっさんか?」
「ひど!子供でもおっさんでもないよ!」
と言って、僕はまた砂浜を駆け出す。
彼も僕に付き合ってくれて、一緒に走ってくれた。
イカ焼きのみみだけを食べて、彼に渡す。
「本体も食べろよ。」
「下の薄い部分なら。」
「ホントに端っこが好きで、我儘だな。」
「知ってる~。」
笑いながら、僕は蟹汁を飲む。
蟹汁は蟹肉はものすごく少ないけど、大量の殻で出汁を取っているから、汁だけでも充分に美味しい。
潮風で冷えた身体を温めてくれる。
「そう言えば、俺の結婚式、出れんの?」
「…ごめん。出張の日に重なっていて。こっちに帰れそうもないんだ。」
「忙しそうだな。お前、痩せたみたいだし。しっかり食べろよ。元々食が細いんだから。」
「食べているんだけど、太らないんだよね。筋肉もないし。」
「それ、女性の前で禁句なヤツな。」
「もう妹の前で言って怒られた。」
「すでに遅かったか。……でも、出席して、親友代表して、スピーチして欲しかったな。」
「…ごめんね。」
「仕事なら、しゃあないって。親族でもないと、難しい時もあるしな。」
本当にごめんね。
僕も結婚式に出席したかった。
彼の晴れ姿を観たかった。
他の友人達と祝いたかった。
……でも、もう、時間が……。
帰りのラジオから、好きな曲が流れてくる。
♪
あなたのしあわせ
見つけてほしかった
君が微笑んで
おやすみを言って
眠ってほしかった
「僕、この曲好きだな。」
「ふーん。俺はあまり好きじゃないな。」
「なんで?」
「だって、結ばれたくても結ばれない恋人同士の歌なんだろ?悲恋は好きじゃない。」
「でも潔いじゃん。」
♪
あきらめるときは
足あと消して行く
わたしを忘れて
かけらさえ何も 残らないように
「0か100かって話だろ?結ばれないなら、完全に忘れろ、って。なら、最初から付き合うなって言いたくなる。」
「でも人間って忘れる動物だよ?たまにこんな恋愛したな、ってくらいにしか思い出されないなら、完全に忘れてもらいたいな。」
「…何々、今、ツラい恋でもしてんの?お前の恋バナ、聞いたの初めてなんだけど。」
「恋バナじゃないよ。一つの感情論。」
「なんだ。でも、お前もそろっと結婚考えたら?俺ら、もうアラサーじゃん。家のローンとか子供の学資金、老後の蓄えを考えると、上司とかも早めの結婚がいいって言っていたし。」
「アラサーって。25になったばかりなのに、ね。」
「でも、将来を考えると、準備は大事だよな。」
「……だね。」
僕は静かに目を閉じる。
『将来』はもう僕は考えてないんだよ。
なんて、言えるはずはない。
前途洋々な彼には、残酷な話だから。
家族にお願いしたことは、年明けに僕の訃報を年賀欠礼ハガキで伝えてと言った。
夏前の健康診断で引っかかり、再検査したら胃癌とわかった。
若さからか進行が早く、もう手がつけられないと診断された。
この冬は、年は越せないと言われた。
家族はみんな泣いてくれた。僕も家族を思って泣いた。
引き継ぎやらで会社を退職するのに時間がかかり、秋が深まった頃、ホスピスに行く前に彼との思い出が欲しくなった。
高校からの付き合いで、お互いを親友と呼び合う彼。
でも、彼に彼女ができ、結婚をすると聞いた時に、自分の恋心に気がついた。
恋を知ったと同時に失恋をした。
それでも親友の立ち位置は変わらないのならと、自分を言い聞かせた矢先の病気発覚だった。
昭和のドラマみたいに一緒に海辺を走ったり、一緒に夕食を作ったり、擬似デートもできた。
思い残すことなんて何もない。
あるとしたら、一度くらいキスをしたかった。
僕がいなくなったら、僕の全てを忘れて。
思い出さない欲しい。
未来だけを向いて、歩いて。
僕はあの日、謳えたよ。
♪
あなたを 信じたら
あなたと 死ねたら
あなたと 静かな
運命の絆 永遠の愛情
あなたと感じたら
あなたと誓えたら
静かに始まる
運命の絆 永遠の友情
ーーーーーーーーーー
お読みいただきありがとうございます。
【謳う】は、謳歌するという意味でつかいました。
運転は彼で、僕は助手席に座るだけ。だから、紅葉の風景を楽しむ事ができている。
「今日、晴れて良かったな。」
「うん。久しぶりの海、楽しみだね。」
「冬になったら、寒すぎて観に来れないしな。」
「…イカ焼き、食べたいな。」
「…半分こな?蟹汁も飲みたいだろ?」
「へへっ、ありがとう。」
彼はあまり食べれない僕に気を遣ってくれた。目に入るものは食べたいと思うが、何せ今の僕には、食べる力さえないのだから。
「イカは、みみの部分が好きだな。」
「……お前、端っこがわりかし好きだよな?フランスパンとか。」
「美味いじゃん。ずっとカリカリしていられるんだよ。」
「そう言えば、この前スーパーでガーリックバターを見つけて。」
「チューブ?」
「それがタッパーのやつ。マーガリンのあの容器に入っているタイプ。」
「マジか!買った?買ったよね?!」
「ああ、買った。」
「ガーリックトースト、ガーリックライス、パスタ、何して食べるの?」
「…帰りにはバケット買って帰ろう。魚を買う予定だから、食べやすいようにアクアパッツァでもしようか。夕飯作ってやるよ。」
「やった!うわぁ、オシャレだねぇ。磯汁でもいいのに。」
「ガーリックトースト、食べたいんだろ?」
「うん!楽しみにしているよ!」
車が山を登り切ったところで海が見えてきた。
冬になる前の海。青と灰色の中間くらいの色で、紅葉とのコントラストがいい。
白い雲も標高が高いから、近くに感じる。
「もう少し行くと展望台があるから、トイレ休憩しようか?」
「わかった。お土産屋さんあるかな?」
「土産はまだ早いよ。」
彼は笑いながら言う。
「やっぱり定番の饅頭がいいかな?」
「ホント食い気だけはあるんだから。」
彼はクスクス笑いながら、山道のカーブをなんのそのと、華麗な運転さばきで車を走らせる。
僕は、ハンドルを握る彼の大きな手が好きだ。太陽光が眩しくて、今はサングラスを掛けながら運転をしている。その横顔も好きだ。
……だから、僕は。
「海だぁ!」
と、僕は海に向かって砂浜を駆け出す。
海浜公園の駐車場に車を停めて、潮風に当たってから、イカ焼きを食べようとなった。
「あ、転ぶぞ!」
「あはは!大丈夫!って、うわぁ!」
案の定、僕は砂に足を取られて転んでしまった。
「だから、言ったのに。」
彼は、俺の両脇の下に両腕を入れて、抱えるように立たせてくれた。
「…お前、また、痩せてないか?」
「ってかさ、この起こし方、子供扱いじゃん!もうハタチ過ぎてんだけど!」
「ふはっ、子供だろ?転ぶと注意された時点で、お・こ・さ・ま。」
「ムキィ~~!!」
「『ムキィ』って古くない?見た目は子供、中身はおっさんか?」
「ひど!子供でもおっさんでもないよ!」
と言って、僕はまた砂浜を駆け出す。
彼も僕に付き合ってくれて、一緒に走ってくれた。
イカ焼きのみみだけを食べて、彼に渡す。
「本体も食べろよ。」
「下の薄い部分なら。」
「ホントに端っこが好きで、我儘だな。」
「知ってる~。」
笑いながら、僕は蟹汁を飲む。
蟹汁は蟹肉はものすごく少ないけど、大量の殻で出汁を取っているから、汁だけでも充分に美味しい。
潮風で冷えた身体を温めてくれる。
「そう言えば、俺の結婚式、出れんの?」
「…ごめん。出張の日に重なっていて。こっちに帰れそうもないんだ。」
「忙しそうだな。お前、痩せたみたいだし。しっかり食べろよ。元々食が細いんだから。」
「食べているんだけど、太らないんだよね。筋肉もないし。」
「それ、女性の前で禁句なヤツな。」
「もう妹の前で言って怒られた。」
「すでに遅かったか。……でも、出席して、親友代表して、スピーチして欲しかったな。」
「…ごめんね。」
「仕事なら、しゃあないって。親族でもないと、難しい時もあるしな。」
本当にごめんね。
僕も結婚式に出席したかった。
彼の晴れ姿を観たかった。
他の友人達と祝いたかった。
……でも、もう、時間が……。
帰りのラジオから、好きな曲が流れてくる。
♪
あなたのしあわせ
見つけてほしかった
君が微笑んで
おやすみを言って
眠ってほしかった
「僕、この曲好きだな。」
「ふーん。俺はあまり好きじゃないな。」
「なんで?」
「だって、結ばれたくても結ばれない恋人同士の歌なんだろ?悲恋は好きじゃない。」
「でも潔いじゃん。」
♪
あきらめるときは
足あと消して行く
わたしを忘れて
かけらさえ何も 残らないように
「0か100かって話だろ?結ばれないなら、完全に忘れろ、って。なら、最初から付き合うなって言いたくなる。」
「でも人間って忘れる動物だよ?たまにこんな恋愛したな、ってくらいにしか思い出されないなら、完全に忘れてもらいたいな。」
「…何々、今、ツラい恋でもしてんの?お前の恋バナ、聞いたの初めてなんだけど。」
「恋バナじゃないよ。一つの感情論。」
「なんだ。でも、お前もそろっと結婚考えたら?俺ら、もうアラサーじゃん。家のローンとか子供の学資金、老後の蓄えを考えると、上司とかも早めの結婚がいいって言っていたし。」
「アラサーって。25になったばかりなのに、ね。」
「でも、将来を考えると、準備は大事だよな。」
「……だね。」
僕は静かに目を閉じる。
『将来』はもう僕は考えてないんだよ。
なんて、言えるはずはない。
前途洋々な彼には、残酷な話だから。
家族にお願いしたことは、年明けに僕の訃報を年賀欠礼ハガキで伝えてと言った。
夏前の健康診断で引っかかり、再検査したら胃癌とわかった。
若さからか進行が早く、もう手がつけられないと診断された。
この冬は、年は越せないと言われた。
家族はみんな泣いてくれた。僕も家族を思って泣いた。
引き継ぎやらで会社を退職するのに時間がかかり、秋が深まった頃、ホスピスに行く前に彼との思い出が欲しくなった。
高校からの付き合いで、お互いを親友と呼び合う彼。
でも、彼に彼女ができ、結婚をすると聞いた時に、自分の恋心に気がついた。
恋を知ったと同時に失恋をした。
それでも親友の立ち位置は変わらないのならと、自分を言い聞かせた矢先の病気発覚だった。
昭和のドラマみたいに一緒に海辺を走ったり、一緒に夕食を作ったり、擬似デートもできた。
思い残すことなんて何もない。
あるとしたら、一度くらいキスをしたかった。
僕がいなくなったら、僕の全てを忘れて。
思い出さない欲しい。
未来だけを向いて、歩いて。
僕はあの日、謳えたよ。
♪
あなたを 信じたら
あなたと 死ねたら
あなたと 静かな
運命の絆 永遠の愛情
あなたと感じたら
あなたと誓えたら
静かに始まる
運命の絆 永遠の友情
ーーーーーーーーーー
お読みいただきありがとうございます。
【謳う】は、謳歌するという意味でつかいました。
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年賀欠礼の葉書を見て、静かな楔を親友の心に打ち込みましたね…
忘れられない一曲になったでしょうね(様々な意味で)
Madame gray-01 様
いつもお読みいただきありがとうございます。
今思うと、昔は狂気じみた歌が流行ってましたね。しっかりと感化されているし。
恋情と友情の狭間を書いたつもりが、結構重い話になっていましたね。
私の自己満にお付き合いくださり、ありがとうございます。