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28.ライヒラとのお茶会
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「本当に、何を考えているのがぜひ頭の中を除きたいものだわ」
リディアたちをノイマン家から追い出し、ライヒラと約束のお茶の際に、彼女は一口お茶を飲みながら言った。
リディアとディリスの突然の訪問は、滞在するにしても用意ができていないという話で、あっさりとリディアが引いた。
不便なところに住みたくない、そういうことだ。
だが、部屋を整えるのなら不手際なく整えるように、アメルに命じていった。
しかも、自らが着る服などもアメルに事細かく注文していく始末。
その支払いを自らするのならともかく、全ては滞在先に押し付けようとしていた。
正確には、“押し付ける”ではなく、“それが当然”と思っているのだが。
「取引先でお互い旧知の中であるリンデルス伯爵家のアメルさんのお世話は、わたくしどもがきっちり行うと伯爵約束しているからともかく、厄介なお客様の準備など絶対にごめんですよ」
ライヒラはリディアがやって来た時にすぐに見抜いていた。
リディアがどういう人間かを。
話に聞くだけでは分からなかった人間性は、デリックが嫌悪している通りの我儘娘だった。
ただのかわいい我儘ならともかく、他人のものは自分のものと思っているような言動は、身分社会にどっぷりとつかった傲慢さがある。
一度許せば、次から次に要求は拡大していくことだろう。
「全く、第一皇子殿下も何を考えているのかしら?」
「何も考えてないんだろう。あの女の要求を全て叶える事こそが使命だとでも、思っているんじゃないか?」
「好きな女性を年頃の男児の家に預けようとしている時点で、本当に好きなのか疑問ね」
「わたしが見た限りでは、唯一自分を肯定してくれているリディアに傾倒しているようには見えました」
「見る目がないのは、どっちだか」
デリックはリディアに言われた“見る目がない”という言葉を根に持っていた。
ディリスを擁護している相手こそ、見る目がないというのに。
しかも、明らかにすべてにおいて劣っているような人間に言われると、腹がたつ。
「でも、多少は見る目が合ったからあなたに乗り換えようとしているともとれるわよ。見る目がないなりに、認められたみたいでよかったわね?」
ライヒラがにっこりとデリックを煽ると、デリックが顔をしかめた。
「母上、楽しんでいらっしゃいますね」
「あの子、あからさま過ぎよ。アメルさんを便利に使いたいという事も本音でしょうけど、最終的にはあなたをかしずかせたいってところね」
リディアはあれでも公爵家の令嬢で、質の良いものに囲まれて育ってきた。
それなりに、良いもの悪いものの見分けがつく。
その点も厄介だった。
少しでも質の悪いもので誤魔化そうとしても、すぐに嘲笑される。
デリックに目を付けたのは、始めは見た目がよくアメルと親しいから奪えばアメルがどんな顔をするのか見たい、という気持ちだったと思う。
しかしその後、デリックの出自を聞き、アーバント帝国での金づる扱いにしようとしたはずだ。
そして、今。
ノイマン公爵家に赴き、その格の高さを改めて感じたことだろう。
リディアの生家もかなりの豪邸ではあったが、ノイマン公爵家はそれ以上だ。
なにせ同格の公爵家とはいえ、アーバント帝国とルングレム王国ではその国力が違う。
そのため、財産が圧倒的な差で負けていた。
その裏には、ディール公爵家が無駄な出費や派手な買い物、かけ事などで身を持ち崩していたということもあるが、ノイマン公爵家は貴族という身分に胡坐をかくことなく、自らの力で稼いでいるということもある。
「もし万が一にも、あの子に魅了されて結婚したといいだしたら、間違いなく廃嫡するわよ」
「はぁ? 俺がそんな事言うわけないだろう! 俺は――」
デリックははっとしたように口を閉じた。
ライヒラはその様子に頬に手をあて、困ったようにため息を深々と吐き出す。
「あなた、一体何年ぐるぐる同じところ回っているの? そろそろ先に進まないのかしらね?」
「なんのお話ですか?」
「なんでもないのよ。アメルさんはこのままノイマン家できちんとお世話するから心配しないで、って話」
嫡子としてノイマン公爵に何か言われた仕事の話か何かか、と思ったアメルだが渋いデリックの顔つきに、違うようだと判断した。
あからさまに話を終わらせたライヒラとデリックに深く聞くこともなく、アメルはお茶を一口含んだ。
リディアたちをノイマン家から追い出し、ライヒラと約束のお茶の際に、彼女は一口お茶を飲みながら言った。
リディアとディリスの突然の訪問は、滞在するにしても用意ができていないという話で、あっさりとリディアが引いた。
不便なところに住みたくない、そういうことだ。
だが、部屋を整えるのなら不手際なく整えるように、アメルに命じていった。
しかも、自らが着る服などもアメルに事細かく注文していく始末。
その支払いを自らするのならともかく、全ては滞在先に押し付けようとしていた。
正確には、“押し付ける”ではなく、“それが当然”と思っているのだが。
「取引先でお互い旧知の中であるリンデルス伯爵家のアメルさんのお世話は、わたくしどもがきっちり行うと伯爵約束しているからともかく、厄介なお客様の準備など絶対にごめんですよ」
ライヒラはリディアがやって来た時にすぐに見抜いていた。
リディアがどういう人間かを。
話に聞くだけでは分からなかった人間性は、デリックが嫌悪している通りの我儘娘だった。
ただのかわいい我儘ならともかく、他人のものは自分のものと思っているような言動は、身分社会にどっぷりとつかった傲慢さがある。
一度許せば、次から次に要求は拡大していくことだろう。
「全く、第一皇子殿下も何を考えているのかしら?」
「何も考えてないんだろう。あの女の要求を全て叶える事こそが使命だとでも、思っているんじゃないか?」
「好きな女性を年頃の男児の家に預けようとしている時点で、本当に好きなのか疑問ね」
「わたしが見た限りでは、唯一自分を肯定してくれているリディアに傾倒しているようには見えました」
「見る目がないのは、どっちだか」
デリックはリディアに言われた“見る目がない”という言葉を根に持っていた。
ディリスを擁護している相手こそ、見る目がないというのに。
しかも、明らかにすべてにおいて劣っているような人間に言われると、腹がたつ。
「でも、多少は見る目が合ったからあなたに乗り換えようとしているともとれるわよ。見る目がないなりに、認められたみたいでよかったわね?」
ライヒラがにっこりとデリックを煽ると、デリックが顔をしかめた。
「母上、楽しんでいらっしゃいますね」
「あの子、あからさま過ぎよ。アメルさんを便利に使いたいという事も本音でしょうけど、最終的にはあなたをかしずかせたいってところね」
リディアはあれでも公爵家の令嬢で、質の良いものに囲まれて育ってきた。
それなりに、良いもの悪いものの見分けがつく。
その点も厄介だった。
少しでも質の悪いもので誤魔化そうとしても、すぐに嘲笑される。
デリックに目を付けたのは、始めは見た目がよくアメルと親しいから奪えばアメルがどんな顔をするのか見たい、という気持ちだったと思う。
しかしその後、デリックの出自を聞き、アーバント帝国での金づる扱いにしようとしたはずだ。
そして、今。
ノイマン公爵家に赴き、その格の高さを改めて感じたことだろう。
リディアの生家もかなりの豪邸ではあったが、ノイマン公爵家はそれ以上だ。
なにせ同格の公爵家とはいえ、アーバント帝国とルングレム王国ではその国力が違う。
そのため、財産が圧倒的な差で負けていた。
その裏には、ディール公爵家が無駄な出費や派手な買い物、かけ事などで身を持ち崩していたということもあるが、ノイマン公爵家は貴族という身分に胡坐をかくことなく、自らの力で稼いでいるということもある。
「もし万が一にも、あの子に魅了されて結婚したといいだしたら、間違いなく廃嫡するわよ」
「はぁ? 俺がそんな事言うわけないだろう! 俺は――」
デリックははっとしたように口を閉じた。
ライヒラはその様子に頬に手をあて、困ったようにため息を深々と吐き出す。
「あなた、一体何年ぐるぐる同じところ回っているの? そろそろ先に進まないのかしらね?」
「なんのお話ですか?」
「なんでもないのよ。アメルさんはこのままノイマン家できちんとお世話するから心配しないで、って話」
嫡子としてノイマン公爵に何か言われた仕事の話か何かか、と思ったアメルだが渋いデリックの顔つきに、違うようだと判断した。
あからさまに話を終わらせたライヒラとデリックに深く聞くこともなく、アメルはお茶を一口含んだ。
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