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2.年下の婚約者と雲行き怪しい結婚2
――今日はどれほど待たされるのかしら……
日差しが強い中待つだけでも苦行だ。
できれば店の中がいいと言ったが、向こうは了承しなかった。
女が集まるような店に一人で入るなんてできない、というのが相手の主張。
分からなくもない。今日予定しているカフェは、完全に女性向きだ。
しかし、よくデートに使われる店でもあるから、男性一人で待っていても不思議ではない。
――年上だからと譲ってばかりだけど、これでいいのかしら? 夫婦ってお互い譲っていくものだと思っているのに。
少なくとも、ヴィクトリアの両親はそういう関係だ。
もともと同格の結婚であったし幼馴染という関係もあるが、意見がぶつかると喧嘩して、――まあ、大体が父親が謝る事になるのだが――譲るところはお互い譲りあいながら、今も仲良く二人で出かけたりしている。
そういう両親を見ていると、自分もそんな夫婦になりたいと夢見るわけで。
ただ、両親が貴族の中では珍しい部類の結婚だったというのは分かっている。
自分はおそらく政略結婚だろうなという事もなんとなく分かっていたし、両親と同じような夫婦関係というのは難しいだろうなとも分かっていた。
でも、両親のようにはなれなくても、お互い尊重できる夫婦にはなれると漠然と考えていた。
最近ではロザリーの言う通り、婚約者やその実家はヴィクトリアの家を金づるとしか見ていない。
何かあるとお金をせびりに来るのだ。
確かにヴィクトリアの家は裕福ではあるけど、お金は無限に湧き出るものではない。
貴族として汗水たらして働いているわけではないけど、苦労してはいる。その苦労して稼いだお金の二割ほどをただむしり取られているのだから、思う事はたくさんあった。
しかも未だに職にも就かずにふらふらしている。
噂では、賭け事にはまってよく借金しているとも聞こえてきていた。
正式に婚約を交わしているので、婚約破棄するには双方の同意か不誠実な行いとその証拠がなければ婚約破棄は出来ない。
両親、特に父は最近よく向こうに掛け合ってくれている。
しかし、上手い事交渉の席に着くことも出来ないようだった。のらりくらりと躱されて、まだ若いからとか、これから王宮文官試験の大事な時だからとか……。
――何年、同じ言い訳しているのか呆れて何も言えないわ。
適齢期から足が出てしまっている、ヴィクトリア。
婚約解消しても、この先婚約者ができるかどうかは疑わしいところだ。特に、格上との婚約解消は、実際がどうであってもヴィクトリアの方が分が悪くなってしまう。
そんなところに来る縁談がどんなものか考えたくない。
雲一つない青空に反して、雲行きの怪しい結婚に良い未来が見えず、久しぶりの婚約者の誘いであっても、気持ちが上向かない。
――お父様の部下の方と結婚した方がましかもしれない。
そんな事まで考えていると、足元にふっと影が差した。
雲が出て来たかと上を見上げると、その正面には人の姿。逆光となっていたので男性の顔をはっきりと見る事ができなかった。
「あの――……」
「申し訳ありませんが、隣によろしいですか?」
低い落ち着いた声。
どこか色気の含んだ声音は、大人の男性を彷彿とさせる。
ヴィクトリアが返事をする前に、男性はすっと素早く隣に座った。
「失礼ながら――」
ロザリーが抗議しようと男性に声をかけたが、それを遮るように男性がヴィクトリアとロザリーに少し説教臭く注意した。
「女性二人で男の多い場所で人を待つものではありません。せめて御者ぐらいは側に控えさせた方が良いいでしょう。どんな事情があるにしても、このような場所で令嬢が人待つのはふさわしいとは思いませんが」
ロザリーがいきなり許可なく隣に座った相手を非難するように口を開きかけた。それをヴィクトリアが軽く手を上げて制す。
若干ムッとしながらもヴィクトリアの指示でロザリーは口を噤んだ。
説教臭く二人に注意しながらも、彼自身は明らかにマナー違反な事をしている。
ただし、相手の顔を見た瞬間、ヴィクトリアは男性が不振人物ではなく、自分たちのために強引に隣に座ったのだと理解した。
「どこのどなたか存じませんが、ご親切にありがとうございます。確かにおっしゃる通りですね。以後気を付けようと思います」
ヴィクトリアは丁寧に礼を言う。
この男性の言う事は事実だ。どんな事情があるにしても、他人からすればその事情など分からない。
そして、その事情が分からなければ、男性の中で女性が人を持つのはあまり好ましいものではないという事も良く分かる。
いつもの事だからと思ってしまったが、ふしだらな女として名を馳せたいわけではない。
ロザリーも言われて気づいたようだ。
そして主従揃って頭を下げた。
すると、男性が少し困ったように言う。
「……申し訳ありません。事情も知らずに勝手なことを言いました。しかし、若い女性が二人でこのような場所で人を持つのは良くないと思ってしまい……」
「いえ、親切にもわたくしたちの名誉を守ろうとしてくださったのだという事はすぐに分かりました。感謝いたします――ミルドレット様」
微笑んで彼をしっかりと見返すと、相手は少し驚いた様子ながらもすぐに口元に笑みを浮かべた。
日差しが強い中待つだけでも苦行だ。
できれば店の中がいいと言ったが、向こうは了承しなかった。
女が集まるような店に一人で入るなんてできない、というのが相手の主張。
分からなくもない。今日予定しているカフェは、完全に女性向きだ。
しかし、よくデートに使われる店でもあるから、男性一人で待っていても不思議ではない。
――年上だからと譲ってばかりだけど、これでいいのかしら? 夫婦ってお互い譲っていくものだと思っているのに。
少なくとも、ヴィクトリアの両親はそういう関係だ。
もともと同格の結婚であったし幼馴染という関係もあるが、意見がぶつかると喧嘩して、――まあ、大体が父親が謝る事になるのだが――譲るところはお互い譲りあいながら、今も仲良く二人で出かけたりしている。
そういう両親を見ていると、自分もそんな夫婦になりたいと夢見るわけで。
ただ、両親が貴族の中では珍しい部類の結婚だったというのは分かっている。
自分はおそらく政略結婚だろうなという事もなんとなく分かっていたし、両親と同じような夫婦関係というのは難しいだろうなとも分かっていた。
でも、両親のようにはなれなくても、お互い尊重できる夫婦にはなれると漠然と考えていた。
最近ではロザリーの言う通り、婚約者やその実家はヴィクトリアの家を金づるとしか見ていない。
何かあるとお金をせびりに来るのだ。
確かにヴィクトリアの家は裕福ではあるけど、お金は無限に湧き出るものではない。
貴族として汗水たらして働いているわけではないけど、苦労してはいる。その苦労して稼いだお金の二割ほどをただむしり取られているのだから、思う事はたくさんあった。
しかも未だに職にも就かずにふらふらしている。
噂では、賭け事にはまってよく借金しているとも聞こえてきていた。
正式に婚約を交わしているので、婚約破棄するには双方の同意か不誠実な行いとその証拠がなければ婚約破棄は出来ない。
両親、特に父は最近よく向こうに掛け合ってくれている。
しかし、上手い事交渉の席に着くことも出来ないようだった。のらりくらりと躱されて、まだ若いからとか、これから王宮文官試験の大事な時だからとか……。
――何年、同じ言い訳しているのか呆れて何も言えないわ。
適齢期から足が出てしまっている、ヴィクトリア。
婚約解消しても、この先婚約者ができるかどうかは疑わしいところだ。特に、格上との婚約解消は、実際がどうであってもヴィクトリアの方が分が悪くなってしまう。
そんなところに来る縁談がどんなものか考えたくない。
雲一つない青空に反して、雲行きの怪しい結婚に良い未来が見えず、久しぶりの婚約者の誘いであっても、気持ちが上向かない。
――お父様の部下の方と結婚した方がましかもしれない。
そんな事まで考えていると、足元にふっと影が差した。
雲が出て来たかと上を見上げると、その正面には人の姿。逆光となっていたので男性の顔をはっきりと見る事ができなかった。
「あの――……」
「申し訳ありませんが、隣によろしいですか?」
低い落ち着いた声。
どこか色気の含んだ声音は、大人の男性を彷彿とさせる。
ヴィクトリアが返事をする前に、男性はすっと素早く隣に座った。
「失礼ながら――」
ロザリーが抗議しようと男性に声をかけたが、それを遮るように男性がヴィクトリアとロザリーに少し説教臭く注意した。
「女性二人で男の多い場所で人を待つものではありません。せめて御者ぐらいは側に控えさせた方が良いいでしょう。どんな事情があるにしても、このような場所で令嬢が人待つのはふさわしいとは思いませんが」
ロザリーがいきなり許可なく隣に座った相手を非難するように口を開きかけた。それをヴィクトリアが軽く手を上げて制す。
若干ムッとしながらもヴィクトリアの指示でロザリーは口を噤んだ。
説教臭く二人に注意しながらも、彼自身は明らかにマナー違反な事をしている。
ただし、相手の顔を見た瞬間、ヴィクトリアは男性が不振人物ではなく、自分たちのために強引に隣に座ったのだと理解した。
「どこのどなたか存じませんが、ご親切にありがとうございます。確かにおっしゃる通りですね。以後気を付けようと思います」
ヴィクトリアは丁寧に礼を言う。
この男性の言う事は事実だ。どんな事情があるにしても、他人からすればその事情など分からない。
そして、その事情が分からなければ、男性の中で女性が人を持つのはあまり好ましいものではないという事も良く分かる。
いつもの事だからと思ってしまったが、ふしだらな女として名を馳せたいわけではない。
ロザリーも言われて気づいたようだ。
そして主従揃って頭を下げた。
すると、男性が少し困ったように言う。
「……申し訳ありません。事情も知らずに勝手なことを言いました。しかし、若い女性が二人でこのような場所で人を持つのは良くないと思ってしまい……」
「いえ、親切にもわたくしたちの名誉を守ろうとしてくださったのだという事はすぐに分かりました。感謝いたします――ミルドレット様」
微笑んで彼をしっかりと見返すと、相手は少し驚いた様子ながらもすぐに口元に笑みを浮かべた。
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