従姉と結婚するとおっしゃるけれど、彼女にも婚約者はいるんですよ? まあ、いいですけど。

チカフジ ユキ

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4.自分の立場を理解していただきたい

 心の中で留めて、上手い断り方を考えるべきところだったけど、止められず本心がポロリと姿を現した。

 でも、言ってしまった言葉は取り消せないし、そもそも、誰がアメリアの手先の侍女を迎え入れたいと思うのか不思議でならない。
 それとも、そんな裏の事情さえも読み取れないほどの女とでも侮っているのだろうか。
 もうこの際だ。
 今まで言いたいことを言えなかった分だけ、言ってやろうと冷たくアメリアを見返した。

「え? 今、なんておっしゃったの?」
「ですから、別に結構ですと言ったんです。わたしにも侍女はおりますので。わたしの事を第一に考えて、わたしの事をなんでも分かってくれている侍女がいますので、不自由はありません」
「でも、それでは侯爵家に馴染むことが出来ないではありませんか!」
「そもそも、なぜわたしの方から歩み寄らねばならないのですか? わたしはこの家の婚約者として、現侯爵様が頭を下げて来たので、哀れに思って同情して婚約して差し上げたんですよ? むしろ、侯爵家の人間がわたしに歩み寄るのが当然ではないですか」

 実際はそこまで思っていないけど、右も左も分からないわたしに多少の親切心は見せるべきだった。
 それなのに、貴族でないからとぞんざいな扱いをされれば、この家の人間の低度も知れる。
 むしろ、それを筆頭で煽っているのはお前だろ、と言ってやりたいが、そこは我慢した。

「なんて事おっしゃるの? あなたは庶民なのに! 貴族の家に対してあまりにも不敬です!」
「あなたこそ、わたしに対して不敬では? わたしは婚約の契約時にこの侯爵家のほとんどの権限をいただいたんです。つまり、この屋敷の女主人は公的には侯爵夫人ではありますが、現在不在のため、わたしが勤め上げる権利があります。あなたは、ただの居候。女主人であるわたしにそんな事を言っていい立場ではないことをご理解下さい」

 即座に家に追い返してもいいんだぞ、と脅すと、アメリアは目をぱちぱちさせながら、困ったように微笑んだ。

「まあ、それではお金のために結婚したのではないの? 侯爵家の財産をあなたが自由にできるなんて、おかしいわ。 ここ最近フランツが自由にお金を使えないって言っていたのは、あなたのせいだったの? フランは侯爵家のお金が目減りしているようだって言ってたわ。ヴィオレッタ、あなた貴族になるために下品に宝石でも買いあさっているの? そういうのを横領というのよ?」
「権限をいただいたのだから、お金をどう使おうがわたしの勝手だと分かっていらっしゃいますか?」
「あなたは貴族じゃないから貴族のやり方というのをご存じないのね。宝石やドレスで飾っても、貴族には慣れないのよ? 本物の貴族はその存在感が違うの。わたくしを見て? わたくしがここに居るのはあなたのお手本になればと思ったからなのよ。それなのに……」

 わたしにとってみれば、アメリアから学ぶことは何もない。
 お手本と言っているけど、礼儀作法だって全くできていないのは見て分かる。
 わたしは庶民で貴族ではないけど、それなりの商家の出身なので、礼儀作法だって貴族並みに教育を受けているので、そのひどさは貴族としていかがなものかと逆に心配してしまうほどだ。

「でも安心してちょうだい! これから学んでいけばいいのだから。そうそう、フランが言っていたわ。自分の横に立つと貧相に見えるから、せめてもっと着飾ってほしいって。まずはそこから変えていったらどうかしら? もちろんわたくしも協力するわ」

 宝石を買いあさっていると言ったり、着飾ってほしいと言ったり、矛盾だらけだけど、確実に言えることは、わたしのためと言いながら、自分も一緒に支払わせようという魂胆なのは見え透いていた。
 最近、アメリアが欲しいと頼んだものは全て買ってもらえていないからだ。

 確かにわたしは、あまり着飾ることはしない。
 パーティーに出るわけでもないのに、飾りは邪魔でしかないからだ。
 でも、着ているモノはどれも質がいい。
 むしろ、アメリアが着飾っているそのドレスよりも値段は上だ。
 そんなことも分からない生粋の貴族様は、ドレスを見せつけてくる。

「アメリア様、全部余計なおせっかいと言うものです。でも、もしアメリア様がわたしに歩み寄ってほしいと思っているのなら、アメリア様も努力された方がよろしいのでは? 世間ではまるでフランツ様があなたの婚約者のように言われていますが、あなたは別にいますよね? 正式に書面にした婚約者が。そちらとの仲を深めてはいかが? わたくしに構うよりも先に」
「そ、そんな――余計なおせっかいなんて……わたくしはただ好意で……」
「ヴィオレッタ様! 言っていい事と悪い事がござます! アメリアお嬢様は、ヴィオレッタ様を心配しておっしゃってくださっているのに、なんて意地が悪い事をおっしゃっているのですか!? お嬢様は望んだ婚約ではないのに……本当ならフランツ坊ちゃまが――……」
「やめて、カタリナ夫人。その事はわたくしの中ではちゃんと整理がついているの。ヴィオレッタ、誤解しているようだから言っておくわ。フランとはなんでもないの。本当よ? ただ、昔の約束を守ろうとしている子供なの。それに、わたくしの婚約者が冷たい方だから、慰めてくれているだけなのよ」

 涙ながらに言い募る彼女に対し、わたしは完全に悪役だ。
 カタリナ夫人の目が吊り上がり、まるで我が子を守るがごとくにらみつけている。
 わたしは、心配してくれているアメリアに、親切で返した。


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