5 / 9
5.楽しい事は共有する事。これ絶対。
しおりを挟む
「冷たいのでしたら、やはりアメリア様から歩み寄ってはいかがですか? お相手は侯爵家。身分の低い子爵令嬢でお金のない、見た目だけに価値があるアメリア様なら、微笑んで甘えればきっと可愛がってくださいますよ」
にこりと笑って助言すると、一瞬アメリアの顔が歪み彼女はついにさめざめと泣きだした。
「ひどいわ……そんな下品な事をおっしゃるなんて。やっぱり貴族でないからね。フランが可哀そうだわ。こんな優しくない人と結婚しなくちゃいけないなんて」
「お嬢様、もうよろしいではないですか。これ以上はお身体に触ります。行きましょう」
「ええ、カタリナ夫人。わたくし、少し具合が悪くなってきたわ。でも、ヴィオレッタ、わたくし、本当にあなたの事が心配なのよ。だから、少しでも貴族のお友達を作れるように、せめてそれだけでも手伝わせて? これ、わたくしの誕生日パーティーの招待状よ。よかったら来てね。お友達を誘ってもいいわよ?」
「お嬢様、なんてお優しいのでしょう、それに比べて――!」
キッと再び目じりを吊り上げるカタリナ夫人の姿を見ていると、どうしてフランツやアメリアがこんなどうしようもない人間性になったのか分かる気がした。
「ありがとうございます。時間がありましたら、伺いますわ」
全く行く気はないが、ここまで言われれば逃げるのも癪だ。
お友達を誘ってもいいと言ったのだから、ぜひわたしのお友達を誘おう。
きっと喜んできてくれるはずだ。
「ルーナ、手紙を書くから準備して頂戴。ああ、最高級の紙でよろしくね」
「かしこまりました」
退室していくアメリアをおざなりに見送り、わたしは一つの手紙を書いた。
楽しいイベント事は一人で楽しむものではないのだから。
口元が緩んで、相手がどんな顔をするのか今から楽しみだった。
「ところで、ヴィオレッタ様はアメリア令嬢のご婚約者様をご存じなのですか?」
「ええ、あの偏屈侯爵はそれなりに有名だから」
偏屈侯爵とは、アメリアの婚約者の通称だ。
偏屈、もしくは堅物、根暗、地味男、まあ、色々言われているけど、わたしは出来ればご遠慮したい類の男である事は間違いない。
商才に関しては才能がある。
それゆえ手広く商売を行ったり投資したりと、ルー商会ほどではないが、かなり商売では稼いでいるのは兄弟から聞いて知っていた。
さらには、領地も広大なので、領地収入もあるおかげで、財産は莫大。
しかもまだ二十代となれば、その奥方の座は引く手あまたで殺到するはずだった。
だけど、かの侯爵は人嫌いで女嫌いときた。
そんな人嫌い女嫌いの侯爵が婚約したのだから、普通はどんな人か気になる。
しかし、実際は全く噂にもならなかった。
実は、ここで聞くまでわたしも知らなかった。
むしろ、何かの妄想かと思うほど信じられなかったけど、調べてみるとどうやらそれは本当らしく、多額の資金援助をしていることが分かった。
というか、それがかなりの額だから、真実味を帯びた。
ぶっちゃけ、それだけ資金援助してもらっているのにほかの男にうつつを抜かす方がどうかしていると本気で思う。
感謝して尽くすくらいの事しなさいよと説教したい。
しないけど。
「アメリア嬢からしてみたら、気に食わないでしょうね。なにせ、侯爵様は世間一般的に容姿が優れているとは言い難いから」
前髪が長く、目が隠れている。
そのせいでどこか陰鬱な姿は、あまり女性陣から好まれるとは言えない。
ただし、現実的なら容姿は二の次三の次、甲斐性があるほうが貧乏よりましだと女性は考える。意外と打算的なのだ、女子は。
だけど、時にはアメリアのような存在もいる。
「それじゃあ、ルーナ。これ出してきて頂戴。ルー商会を経由してね」
「かしこまりました」
ルーナが出て行くと、わたしはふふっと口元が緩む。
カンだけど、なんかとっても楽しいことが起こりそうな予感がする。
きっと招待した友人も楽しんでくれると思う。
「いい日になりそう」
わたしはソファから立ち上がって、フランツのせいで中断した書類を手に取った。
にこりと笑って助言すると、一瞬アメリアの顔が歪み彼女はついにさめざめと泣きだした。
「ひどいわ……そんな下品な事をおっしゃるなんて。やっぱり貴族でないからね。フランが可哀そうだわ。こんな優しくない人と結婚しなくちゃいけないなんて」
「お嬢様、もうよろしいではないですか。これ以上はお身体に触ります。行きましょう」
「ええ、カタリナ夫人。わたくし、少し具合が悪くなってきたわ。でも、ヴィオレッタ、わたくし、本当にあなたの事が心配なのよ。だから、少しでも貴族のお友達を作れるように、せめてそれだけでも手伝わせて? これ、わたくしの誕生日パーティーの招待状よ。よかったら来てね。お友達を誘ってもいいわよ?」
「お嬢様、なんてお優しいのでしょう、それに比べて――!」
キッと再び目じりを吊り上げるカタリナ夫人の姿を見ていると、どうしてフランツやアメリアがこんなどうしようもない人間性になったのか分かる気がした。
「ありがとうございます。時間がありましたら、伺いますわ」
全く行く気はないが、ここまで言われれば逃げるのも癪だ。
お友達を誘ってもいいと言ったのだから、ぜひわたしのお友達を誘おう。
きっと喜んできてくれるはずだ。
「ルーナ、手紙を書くから準備して頂戴。ああ、最高級の紙でよろしくね」
「かしこまりました」
退室していくアメリアをおざなりに見送り、わたしは一つの手紙を書いた。
楽しいイベント事は一人で楽しむものではないのだから。
口元が緩んで、相手がどんな顔をするのか今から楽しみだった。
「ところで、ヴィオレッタ様はアメリア令嬢のご婚約者様をご存じなのですか?」
「ええ、あの偏屈侯爵はそれなりに有名だから」
偏屈侯爵とは、アメリアの婚約者の通称だ。
偏屈、もしくは堅物、根暗、地味男、まあ、色々言われているけど、わたしは出来ればご遠慮したい類の男である事は間違いない。
商才に関しては才能がある。
それゆえ手広く商売を行ったり投資したりと、ルー商会ほどではないが、かなり商売では稼いでいるのは兄弟から聞いて知っていた。
さらには、領地も広大なので、領地収入もあるおかげで、財産は莫大。
しかもまだ二十代となれば、その奥方の座は引く手あまたで殺到するはずだった。
だけど、かの侯爵は人嫌いで女嫌いときた。
そんな人嫌い女嫌いの侯爵が婚約したのだから、普通はどんな人か気になる。
しかし、実際は全く噂にもならなかった。
実は、ここで聞くまでわたしも知らなかった。
むしろ、何かの妄想かと思うほど信じられなかったけど、調べてみるとどうやらそれは本当らしく、多額の資金援助をしていることが分かった。
というか、それがかなりの額だから、真実味を帯びた。
ぶっちゃけ、それだけ資金援助してもらっているのにほかの男にうつつを抜かす方がどうかしていると本気で思う。
感謝して尽くすくらいの事しなさいよと説教したい。
しないけど。
「アメリア嬢からしてみたら、気に食わないでしょうね。なにせ、侯爵様は世間一般的に容姿が優れているとは言い難いから」
前髪が長く、目が隠れている。
そのせいでどこか陰鬱な姿は、あまり女性陣から好まれるとは言えない。
ただし、現実的なら容姿は二の次三の次、甲斐性があるほうが貧乏よりましだと女性は考える。意外と打算的なのだ、女子は。
だけど、時にはアメリアのような存在もいる。
「それじゃあ、ルーナ。これ出してきて頂戴。ルー商会を経由してね」
「かしこまりました」
ルーナが出て行くと、わたしはふふっと口元が緩む。
カンだけど、なんかとっても楽しいことが起こりそうな予感がする。
きっと招待した友人も楽しんでくれると思う。
「いい日になりそう」
わたしはソファから立ち上がって、フランツのせいで中断した書類を手に取った。
251
あなたにおすすめの小説
好きな人と結婚出来ない俺に、姉が言った
しがついつか
恋愛
グレイキャット伯爵家の嫡男ジョージには、平民の恋人がいた。
彼女を妻にしたいと訴えるも、身分の差を理由に両親から反対される。
両親は彼の婚約者を選定中であった。
伯爵家を継ぐのだ。
伴侶が貴族の作法を知らない者では話にならない。
平民は諦めろ。
貴族らしく政略結婚を受け入れろ。
好きな人と結ばれない現実に憤る彼に、姉は言った。
「――で、彼女と結婚するために貴方はこれから何をするつもりなの?」
待ってるだけでは何も手に入らないのだから。
悪役令嬢の私が転校生をイジメたといわれて断罪されそうです
白雨あめ
恋愛
「君との婚約を破棄する! この学園から去れ!」
国の第一王子であるシルヴァの婚約者である伯爵令嬢アリン。彼女は転校生をイジメたという理由から、突然王子に婚約破棄を告げられてしまう。
目の前が真っ暗になり、立ち尽くす彼女の傍に歩み寄ってきたのは王子の側近、公爵令息クリスだった。
※2話完結。
信じてくれてありがとうと感謝されたが、ただ信じていたわけではない
しがついつか
恋愛
「これからしばらくの間、私はあなたに不誠実な行いをせねばなりません」
茶会で婚約者にそう言われた翌月、とある女性が見目麗しい男性を数名を侍らしているという噂話を耳にした
。
男性達の中には、婚約者もいるのだとか…。
王子が婚約破棄なんてするから
しがついつか
恋愛
婚約破棄をした王子は、苛烈な元婚約者の公爵令嬢を断罪した。
これで想い人と結ばれると思ったところ、王子には新たな婚約者が決まってしまう。
王子は婚約破棄をするため、新しい婚約者と交渉することにした。
その令嬢は、実家との縁を切ってもらいたい
キョウキョウ
恋愛
シャルダン公爵家の令嬢アメリは、学園の卒業記念パーティーの最中にバルトロメ王子から一方的に婚約破棄を宣告される。
妹のアーレラをイジメたと、覚えのない罪を着せられて。
そして、婚約破棄だけでなく公爵家からも追放されてしまう。
だけどそれは、彼女の求めた展開だった。
そしてヒロインは売れ残った
しがついつか
恋愛
マーズ王国の住民は、貴賤に関係なく15歳になる歳から3年間、王立学園に通うこととなっている。
校舎は別れているものの、貴族と平民の若者が一か所に集う場所だ。
そのため時々、貴族に対してとんでもないことをやらかす平民が出てきてしまうのであった。
リーリエが入学した年がまさにそれだった。
入学早々、平民の女子生徒が男子生徒に次々とアプローチをかけていったのだ。
伯爵様は、私と婚約破棄して妹と添い遂げたいそうです。――どうぞお好きに。ああ、後悔は今更、もう遅いですよ?
銀灰
恋愛
婚約者の伯爵ダニエルは、私と婚約破棄し、下心の見え透いた愛嬌を振り撒く私の妹と添い遂げたいそうです。
どうぞ、お好きに。
――その結果は……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる