従姉と結婚するとおっしゃるけれど、彼女にも婚約者はいるんですよ? まあ、いいですけど。

チカフジ ユキ

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7.二つの婚約破棄

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「婚約者のフランがかわいそうよ! なぜもっとフランの事を考えてあげないの? これではフランが恥をかくじゃない……わたくしなら、もっとフランの事を分かってあげられるのに」

 勢いよくフランツに抱き着き、アメリアはその胸に縋りつく。

「フラン! わたくし気付いたの! どんなにお金があってもやっぱり、愛がないとだめなんだって。愛があれば、どんな苦労だって乗り越えられるって!」
「アメリア! やっとわかってくれたのか! 僕の気持ちを」

 一体何が始まったのか困惑気味の招待客、遠くでこの家の主が慌てているのが見える。
 そして、隣のお友達は、至極真面目な顔をしていた。
 肩が震えそうになっているのは、見なかったことにする。

「アメリア、僕も君を愛している! こんな女と結婚なんてしたくなかったんだ!」

 はっきり言えば、わたしだっていやだ。
 こんなシスコン男。
 だけど、決定的な事はわたしからは言わない。

「ヴィオレッタ、今までさんざんアメリアの好意を無碍にし、貴族であるアメリアに暴言を吐いた不敬罪で、お前との婚約は破棄させてもらう! しかも浮気相手を連れてくるなど、慰謝料はしっかりもらうからな!!」

 しっかりと抱き合っている二人はまるで悲劇の恋人のようで、わたしは完全に悪役令嬢。
 まあ、間違っていないか。
 
 というか、肩の震えが大きくなっていますよ、伯爵様。
 
 楽しい事を共有するために招いたけど、存分に楽しんでいただけたようで何よりだ。
 でも、自分の役割忘れないでいただきたいんですけどね?

 無表情を保っていなければ、きっと今頃大笑いであろう、隣の顔だけ男の脇を肘で突く。

「僕は、アメリアのためならばどんな困難な道であろうと乗り越えてみせる! アメリア、結婚してくれるか?」
「ええ、もちろん。ずっとその言葉を待っていたのよ、フラン」

 愛を確かめ合う二人に、ついにシドリー伯爵が噴き出した。

「ぶっ!! あはは、ははははは、くくく、ちょ、と、止まらないんだけど――あははは」

 盛大な笑い声は、ホール中に響き、わたしはひーひー肩で呼吸を繰り返す男の姿を呆れて見ていた。

「な、なにがおかしい! 伯爵風情が、不敬で――「決闘をお望みか?」」

 フランツの言葉を遮るように、シドリー伯爵が言った。
 なんとか笑いが収まったのか、姿勢を正し、まっすぐにフランツを見る瞳は、まるで獲物を狙っているかのような目だ。

「今、なんと……」
「決闘を望んでいるのかと聞いているんだ。確かに私は伯爵位も持っているが、正確には持っている爵位の一つでしかない。まさか、一応婚約している相手にも知られていないとは思わなかったな」

 意地の悪い事を言う。
 おおぴらにしていなければ、誰にも分かるわけがない。

「もう、おわかりかと思うが、私の名前はレイフォード・ツェルナー、爵位は侯爵だ。今君が愛を確かめ合ったアメリア嬢は、契約上は私の婚約者なんだけど……まさか、婚約者の誕生日パーティーをほかの人から誘われて、目の前でこんなことが起こるとは夢にも思っていなかった。で、人の婚約者を奪おうとしているのだから、決闘くらいはお望みなんだよね?」

 驚愕の眼差しで二人は目の前の存在を見ていた。

 まあ、驚くのも無理はない。
 むしろ、今この場を目撃している人たち全員が驚いていることだろう。

 なにせ侯爵様は黒髪黒目と世間では言われている。
 それなのに、彼は金髪金目なのだ。
 本人かどうか疑われてもおかしくない。

「一応言っておくけど、本物だよ。ほら、これは当主の指輪。まあ、そんな事はどうでもいいか。で、決闘はともかく、アメリア嬢も私との婚約は破棄したいという事なんだね。嫌われているのは知っていたけど、散々家に援助してあげたのに、とんだ恥をかいた」
「そ、そんな! わたくしは侯爵様の事を思っております。だから、幸せになってほしくて――」
「いいよ、別に。婚約破棄を受け入れる。ただし、君の父上と交わした契約違約金についてはしっかりと貰うつもりだ。ああ、そうだ。君はそのうち貴族でさえなくなるから、そのつもりで。私の噂は知っているだろう? 敵対した相手は許さないことにしているんだ。男女関係なくね」

 これだから、この男とだけは敵に回したくないし、結婚したくもない。
 無慈悲な魔王。
 子供にはまだ甘いが、成人したら甘えを許すことはない。
 こんな男と結婚したら、一生家で緊張を強いられる生活を送る事になる。

「そういえば、慰謝料だっけ? それを支払うのはそちらの方だよ。ここにいる全員が目撃者だ」

 そう言って、彼はぐるりと室内を一周見回す。
 次第に状況を理解した招待客が騒ぎ出した。

「これ以上は無意味だな。今度会うときは裁判所かも知れないな。私は不愉快だからもう帰るが、ヴィオレッタ・・・・・・、君はどうする?」
「わたしもフランツ様に裏切られ、傷心なので実家に帰ろうと思います」

 しらじらしい言い訳だったが、目的は達成できたので、あとはさっさと退場するに限る。

「では行こうか、ヴィオレッタ?」
「できれば、ルーとお呼びください。侯爵閣下」

 面倒な噂は必要以上にはいらないんですよ、侯爵様。

 
 
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