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6.マリアサイド1
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マリアは、平民で愛人の母と上級貴族の父親の間に生まれた。
産まれた時から伯爵邸の離れで暮らしていたし、父親にとって娘はマリア一人だったせいか、それなりに可愛がられていた。
幼いながらも、自分の容姿が優れていることを知っていたので、それを最大源に利用し父親に取り入っていた。
離れにはそれなりの人数が仕えていたが、マリアにとって全員マリア以下の使用人。
父親に可愛がられているマリアは、離れでは絶大な権力を持っていた。
小さな世界でも、それがマリアのすべてだった。
しかし、大きくなるに連れ次第に事情を知るようになる。
――母は愛人、わたしは認知されていない愛人の子供……
意味はすぐに分かった。
それが事実であっても、たかがメイドに笑われて、マリアは気分が悪かった。
だから陰でこそこそあざ笑うメイドたちを悲し気に父に報告すれば、すぐにいなくなった。
そして気付く。
愛人の母親はいつでも切り捨てられるが、自分は違うと。
なにせ、きちんと貴族の血を引いているのだ。
ただの平民ではない。
父親はマリアを可愛がっているし、なにより自分は可愛い。
意地の悪い正妻がマリアに意地悪しているのだと信じていた。
それなら自分から直談判するしかない。
だって、父親は正妻の言いなりだから。
かわいいマリアを見ればきっと、貴族にしてくれる。
小さな世界で王女様のマリアは、誰からも愛される特別な存在なのだと思っていた。
いつもマリアの住む離れとその周辺しか自由がないが、子供のマリアは時々こっそり探検をしていた。
だから、この住まいの先にお城のような建物がある事を知っている。
そして、そこに父親と正妻が住んでいて、いずれマリアも住むのだと思っていた。
それなのになかなか、迎えが来ないからマリアの方から来てあげたのだ。
マリアは伯爵の娘。
使用人は、みんなマリアの下。
だから堂々とお城に入って行く。
それなのに、無礼な使用人に追い出され、マリアがここに相応しい人間ではないとはっきりと言った。
「お父様に言いつけてやるわ! だってここはわたしの家なんだから!」
憤慨し怒鳴るマリア。
父親を出せといっても取り合ってくれない。
すぐに、騒ぎはこの家の正妻にまで届き、マリアに意地悪している女の登場に、マリアは怒りで何をしに来たのか忘れて言った。
「わざわざわたしの方から来てやったのだから、ちゃんと歓迎しなさいよ! 気が利ないんだから」
正妻である彼女の方は、明らかに蔑んだ見下した目でマリアを見ていたが、マリアはどうせこんな意地悪い女はすぐに父親がどっかにやってくれると信じていた。
マリアに意地悪する奴はみんなマリアの側からいなくなるのだから。
「お父様に言いつけてやる。いい? あんたみたいな意地悪おばさんなんか、お父様だってきっと好きじゃないのよ。だから、マリアとお母様を大事にしてくれているんだから」
どちらが上なのか分からせるようにマリアが言うと、マリアの中で意地の悪いおばさんが、周りの使用人に命じた。
「さっさとこの礼儀知らずを叩き出しなさい。目に入れるのも煩わしい。二度とこのようなことが起きないように管理するように。この邸宅の一角にいられるだけましなのをどうやら旦那様はきちんとご説明していないようだわ」
ふんっと鼻で笑いながら、踵を返しまるでマリアをいないものの用に扱う女に、マリアは知る限りに罵詈雑言を放つ。
それを見ていた、正妻の息子たちはあまりに酷い言いざまに、母親の盾になるように姿を現した。
二人いる息子は、母親が父親の浮気性に頭を悩ませながらも、子供まで成したマリアの母親を保護してやった。
いい暮らしをさせてやってるのに、何も分かろうとしない子供に苛立ちを隠さない。
「お前は母親そっくりだな。こんなバカと半分も血が繋がっているなど虫唾が走る」
「高貴な血ではない女に似たのだから仕方ないよ、兄上。ほかにも色んな男とまぐわって、たまたま父の血を引き当てたのは、強運だけど」
「愛人の娘の分際で、この家の人間になれたと思っていたら大間違いだ、大人しくわきまえていろ。見た目だけはいいのだから、お前もそのうちいいところに売ってやる」
そんな事を散々言われ、その日の夜はいつも怒らない父さえもマリアを叱った。
そして、母親のことも。
お前がきちんと躾けないから、こんな礼儀知らずに育っただの、恩知らずだのと。
扉の陰から、その様子を眺めていると、母親はそっと父親の腕に寄り添い、宥めながら服を脱いでいく。
「今度きちんと言い聞かせますわ……、ね? ですから今は怒りを抑えて下さい」
困ったように、どこか儚げに強請るように父をベッドに誘う。
怒りを解いた父親は、そのままベッドに誘われて、ご機嫌になっていた。
美しい母をマリアを自慢に思っていた。
そして、怒りを簡単に沈めた母の手腕こそが正しいのだと思った。
――そうか、怒るのではなくおねだりするのか。
おねだりするのは嫌いじゃない。
だから、男の前では弱弱しく可愛く囀ればいい。
――ふふ、簡単じゃない。
マリアは、軽やかに笑って享楽にふける二人から離れていった。
産まれた時から伯爵邸の離れで暮らしていたし、父親にとって娘はマリア一人だったせいか、それなりに可愛がられていた。
幼いながらも、自分の容姿が優れていることを知っていたので、それを最大源に利用し父親に取り入っていた。
離れにはそれなりの人数が仕えていたが、マリアにとって全員マリア以下の使用人。
父親に可愛がられているマリアは、離れでは絶大な権力を持っていた。
小さな世界でも、それがマリアのすべてだった。
しかし、大きくなるに連れ次第に事情を知るようになる。
――母は愛人、わたしは認知されていない愛人の子供……
意味はすぐに分かった。
それが事実であっても、たかがメイドに笑われて、マリアは気分が悪かった。
だから陰でこそこそあざ笑うメイドたちを悲し気に父に報告すれば、すぐにいなくなった。
そして気付く。
愛人の母親はいつでも切り捨てられるが、自分は違うと。
なにせ、きちんと貴族の血を引いているのだ。
ただの平民ではない。
父親はマリアを可愛がっているし、なにより自分は可愛い。
意地の悪い正妻がマリアに意地悪しているのだと信じていた。
それなら自分から直談判するしかない。
だって、父親は正妻の言いなりだから。
かわいいマリアを見ればきっと、貴族にしてくれる。
小さな世界で王女様のマリアは、誰からも愛される特別な存在なのだと思っていた。
いつもマリアの住む離れとその周辺しか自由がないが、子供のマリアは時々こっそり探検をしていた。
だから、この住まいの先にお城のような建物がある事を知っている。
そして、そこに父親と正妻が住んでいて、いずれマリアも住むのだと思っていた。
それなのになかなか、迎えが来ないからマリアの方から来てあげたのだ。
マリアは伯爵の娘。
使用人は、みんなマリアの下。
だから堂々とお城に入って行く。
それなのに、無礼な使用人に追い出され、マリアがここに相応しい人間ではないとはっきりと言った。
「お父様に言いつけてやるわ! だってここはわたしの家なんだから!」
憤慨し怒鳴るマリア。
父親を出せといっても取り合ってくれない。
すぐに、騒ぎはこの家の正妻にまで届き、マリアに意地悪している女の登場に、マリアは怒りで何をしに来たのか忘れて言った。
「わざわざわたしの方から来てやったのだから、ちゃんと歓迎しなさいよ! 気が利ないんだから」
正妻である彼女の方は、明らかに蔑んだ見下した目でマリアを見ていたが、マリアはどうせこんな意地悪い女はすぐに父親がどっかにやってくれると信じていた。
マリアに意地悪する奴はみんなマリアの側からいなくなるのだから。
「お父様に言いつけてやる。いい? あんたみたいな意地悪おばさんなんか、お父様だってきっと好きじゃないのよ。だから、マリアとお母様を大事にしてくれているんだから」
どちらが上なのか分からせるようにマリアが言うと、マリアの中で意地の悪いおばさんが、周りの使用人に命じた。
「さっさとこの礼儀知らずを叩き出しなさい。目に入れるのも煩わしい。二度とこのようなことが起きないように管理するように。この邸宅の一角にいられるだけましなのをどうやら旦那様はきちんとご説明していないようだわ」
ふんっと鼻で笑いながら、踵を返しまるでマリアをいないものの用に扱う女に、マリアは知る限りに罵詈雑言を放つ。
それを見ていた、正妻の息子たちはあまりに酷い言いざまに、母親の盾になるように姿を現した。
二人いる息子は、母親が父親の浮気性に頭を悩ませながらも、子供まで成したマリアの母親を保護してやった。
いい暮らしをさせてやってるのに、何も分かろうとしない子供に苛立ちを隠さない。
「お前は母親そっくりだな。こんなバカと半分も血が繋がっているなど虫唾が走る」
「高貴な血ではない女に似たのだから仕方ないよ、兄上。ほかにも色んな男とまぐわって、たまたま父の血を引き当てたのは、強運だけど」
「愛人の娘の分際で、この家の人間になれたと思っていたら大間違いだ、大人しくわきまえていろ。見た目だけはいいのだから、お前もそのうちいいところに売ってやる」
そんな事を散々言われ、その日の夜はいつも怒らない父さえもマリアを叱った。
そして、母親のことも。
お前がきちんと躾けないから、こんな礼儀知らずに育っただの、恩知らずだのと。
扉の陰から、その様子を眺めていると、母親はそっと父親の腕に寄り添い、宥めながら服を脱いでいく。
「今度きちんと言い聞かせますわ……、ね? ですから今は怒りを抑えて下さい」
困ったように、どこか儚げに強請るように父をベッドに誘う。
怒りを解いた父親は、そのままベッドに誘われて、ご機嫌になっていた。
美しい母をマリアを自慢に思っていた。
そして、怒りを簡単に沈めた母の手腕こそが正しいのだと思った。
――そうか、怒るのではなくおねだりするのか。
おねだりするのは嫌いじゃない。
だから、男の前では弱弱しく可愛く囀ればいい。
――ふふ、簡単じゃない。
マリアは、軽やかに笑って享楽にふける二人から離れていった。
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