23 / 43
23.
しおりを挟む
「どうやら、自分の誤診のようでした……。しばらくは絶対安静でお願いします」
一体どうなっているのかアリーシアには良く分からなかった。
あの日、ローレンツがアリーシアに言ったことを発端に、様々なことが覆された。
だいぶ良くなってきていると言った医師の言葉が覆され、アリスもアンドレもローレンツの言葉に従いアリーシアを監禁同然に部屋に押しとどめた。
何が何やら分からないまま、それでもローレンツは毎日アリーシアを訪ねてきて、その話をしようとすると、するりと交わされるかもしくは時間がないと言って席を立つ。
そして今も、忙しいと言いながら適当な言い訳で席を立った。
周りの人間は事情を分かっているようだが、決してアリーシアには情報を与えてくれなかった。
もちろん、アリーシアへの扱いは変わらない。
客人として大事に扱われている。
食事だってきちんと三食出されるし、暇つぶしの本なども与えられる。
ただし、外の情報に直結するようなものは何一つ与えられなかった。
さすがにこの状態にアリーシアの方が参ってくる。
毎日毎日、身体が動かないのならまだ仕方がないと諦めがつくが、すでに歩けてそれなりに日常生活も送れるようになっていた。
そんな状態だったのに、いきなり誤診とは。
自分の身体の事は自分が一番分かっているつもりだ。
「アリス……申し訳ないけど、アンドレを呼んできてほしいのだけど……」
普段アリーシアからはアンドレを呼び出すことはない。
そんなアリーシアがアンドレを呼ぶのだから何かあるとすぐにアリスは感じたが、アリーシアの本気も感じ取ったのか、何も言わずにすぐに部屋を出た。
時間をおかずに、すぐにアンドレがアリーシアの部屋にやってきた。
おかしなことに、なんとローレンツ付きで。
「……ローレンツ様はお忙しいと言って先ほど部屋を出て行かれたと記憶しておりますが?」
「忙しい? 確かにお忙しいかもしれません。色々裏工作が」
最後のアンドレの言葉はつぶやくような声で、よく聞き取れなかった。
「ところで、私をお呼びとの事でしたが、私は少々忙しいのでぜひ旦那様に用事をいいつけてやってください。もちろん、話し相手でもなんでも。ああ、忙しいでしたか? 大丈夫です。旦那様が一人抜けたところでどうにかなるようなことは何一つありませんので。ですよね?」
脅すような勢いで、アンドレがローレンツに迫る。
その迫力に、圧倒的に体格で勝っていようとローレンツの方が押し負けた。
「い、いや……私も――……」
「さて、アリス。仕事は山積みです。手伝ってください」
「はい、かしこまりました!」
この空気の中にいたくないのか、即座にアリスはアンドレの手伝いを了承した。
そして、アンドレがアリスを連れて部屋を出ていくと、どこか気まずそうにしながらも、先ほどまで座っていた椅子にローレンツは再び腰を下ろす。
いきなり、本題となる人物が目の前にいて、アリーシアは一瞬戸惑うも、アンドレはアリーシアが聞きたがっていることを正確に理解し、そして自分ではなく本人に聞けと言わんばかりに主人を連行しきた。
いつも逃げられていたが、どうやら今回は逃げられないローレンツは、軽く息を吐き、アリーシアに向かいいすまいを正した。
「……こちらが悪かった事は分かってはいる。だが、世間の噂話は怪我を負っている君には負担になると思い、わざと話していなかった。そこは、本当だ」
アリーシアは頷いた。
おそらくそれは本当なのだろうと思う。
それほどひどい話なのかもしれないとも。
「しかし、確かにいつまでも隠しておけることではない……不愉快かも知れないが、話しておこうと思う。俺の事も、これからの事も」
「わたくしも、きちんとお話ししたいのです。わたくしの事も、今までの事も」
「そうだな……お互いきちんと知らねばなるまい」
きっとアリーシアの話よりもローレンツの方が色々隠している。
でも、それもきっとアリーシアのためなのだとどこかで分かっていた。
「そうだな……まずは俺の出自について少し詳しく話したいと思う。シア、君は俺の事をどこまで聞いた?」
はじめにローレンツが自己紹介したときに、元平民で伯爵。そして侯爵へとなる人。
それ以外は、基本的にはアリスが話してくれた。
傭兵で、戦争に多大な貢献をした人。
市民の間では英雄とも呼ばれているという事。
なんでも、王太子殿下の命を救って、敵将軍の首をとったとか、とにかくすごい人なのだと知った。
それはアリーシアが話すと、どこか気恥ずかしそうにしていたが、おおむねただしいようだ。
「アリスからの情報だとその程度だろう。まあ、町に出ればそれくらいすぐに情報が入ってくる。これから話すことは、君にとっても不愉快だと思う、聞きたくなければ、聞かない方がいいが、これを話さないことにはすべてを話すことができないんだ。それが俺の行動理由だから」
それほど重大な事をアリーシアに話していいのか心配になる。
「できれば、ずっと話したくはなかった。これを聞いたら、シア、君は俺を憎むかもしれないから」
「もしかして、実家か婚家にゆかりの方?」
アリーシアに関わりがあって、アリーシアが憎しみの感情を持つとなるとこの二つしか思い浮かばない。
ローレンツは力なく頷く。
「まあ、そうとも言える……俺は、君の婚家である伯爵家の執事、ローデンの息子なんだよ」
アリーシアは瞬間身体が固まった。
「ロー……デン?」
思いがけない告白に、途切れ途切れでローデンの名をつぶやく。
「そうだ、まぎれもなく奴の血を引いている」
ローレンツは苦々しく吐き捨てた。
まるで、その血が汚らわしいとでも言わんばかりに。
そして、ローレンツはそのまま自分の過去を語り出した。
一体どうなっているのかアリーシアには良く分からなかった。
あの日、ローレンツがアリーシアに言ったことを発端に、様々なことが覆された。
だいぶ良くなってきていると言った医師の言葉が覆され、アリスもアンドレもローレンツの言葉に従いアリーシアを監禁同然に部屋に押しとどめた。
何が何やら分からないまま、それでもローレンツは毎日アリーシアを訪ねてきて、その話をしようとすると、するりと交わされるかもしくは時間がないと言って席を立つ。
そして今も、忙しいと言いながら適当な言い訳で席を立った。
周りの人間は事情を分かっているようだが、決してアリーシアには情報を与えてくれなかった。
もちろん、アリーシアへの扱いは変わらない。
客人として大事に扱われている。
食事だってきちんと三食出されるし、暇つぶしの本なども与えられる。
ただし、外の情報に直結するようなものは何一つ与えられなかった。
さすがにこの状態にアリーシアの方が参ってくる。
毎日毎日、身体が動かないのならまだ仕方がないと諦めがつくが、すでに歩けてそれなりに日常生活も送れるようになっていた。
そんな状態だったのに、いきなり誤診とは。
自分の身体の事は自分が一番分かっているつもりだ。
「アリス……申し訳ないけど、アンドレを呼んできてほしいのだけど……」
普段アリーシアからはアンドレを呼び出すことはない。
そんなアリーシアがアンドレを呼ぶのだから何かあるとすぐにアリスは感じたが、アリーシアの本気も感じ取ったのか、何も言わずにすぐに部屋を出た。
時間をおかずに、すぐにアンドレがアリーシアの部屋にやってきた。
おかしなことに、なんとローレンツ付きで。
「……ローレンツ様はお忙しいと言って先ほど部屋を出て行かれたと記憶しておりますが?」
「忙しい? 確かにお忙しいかもしれません。色々裏工作が」
最後のアンドレの言葉はつぶやくような声で、よく聞き取れなかった。
「ところで、私をお呼びとの事でしたが、私は少々忙しいのでぜひ旦那様に用事をいいつけてやってください。もちろん、話し相手でもなんでも。ああ、忙しいでしたか? 大丈夫です。旦那様が一人抜けたところでどうにかなるようなことは何一つありませんので。ですよね?」
脅すような勢いで、アンドレがローレンツに迫る。
その迫力に、圧倒的に体格で勝っていようとローレンツの方が押し負けた。
「い、いや……私も――……」
「さて、アリス。仕事は山積みです。手伝ってください」
「はい、かしこまりました!」
この空気の中にいたくないのか、即座にアリスはアンドレの手伝いを了承した。
そして、アンドレがアリスを連れて部屋を出ていくと、どこか気まずそうにしながらも、先ほどまで座っていた椅子にローレンツは再び腰を下ろす。
いきなり、本題となる人物が目の前にいて、アリーシアは一瞬戸惑うも、アンドレはアリーシアが聞きたがっていることを正確に理解し、そして自分ではなく本人に聞けと言わんばかりに主人を連行しきた。
いつも逃げられていたが、どうやら今回は逃げられないローレンツは、軽く息を吐き、アリーシアに向かいいすまいを正した。
「……こちらが悪かった事は分かってはいる。だが、世間の噂話は怪我を負っている君には負担になると思い、わざと話していなかった。そこは、本当だ」
アリーシアは頷いた。
おそらくそれは本当なのだろうと思う。
それほどひどい話なのかもしれないとも。
「しかし、確かにいつまでも隠しておけることではない……不愉快かも知れないが、話しておこうと思う。俺の事も、これからの事も」
「わたくしも、きちんとお話ししたいのです。わたくしの事も、今までの事も」
「そうだな……お互いきちんと知らねばなるまい」
きっとアリーシアの話よりもローレンツの方が色々隠している。
でも、それもきっとアリーシアのためなのだとどこかで分かっていた。
「そうだな……まずは俺の出自について少し詳しく話したいと思う。シア、君は俺の事をどこまで聞いた?」
はじめにローレンツが自己紹介したときに、元平民で伯爵。そして侯爵へとなる人。
それ以外は、基本的にはアリスが話してくれた。
傭兵で、戦争に多大な貢献をした人。
市民の間では英雄とも呼ばれているという事。
なんでも、王太子殿下の命を救って、敵将軍の首をとったとか、とにかくすごい人なのだと知った。
それはアリーシアが話すと、どこか気恥ずかしそうにしていたが、おおむねただしいようだ。
「アリスからの情報だとその程度だろう。まあ、町に出ればそれくらいすぐに情報が入ってくる。これから話すことは、君にとっても不愉快だと思う、聞きたくなければ、聞かない方がいいが、これを話さないことにはすべてを話すことができないんだ。それが俺の行動理由だから」
それほど重大な事をアリーシアに話していいのか心配になる。
「できれば、ずっと話したくはなかった。これを聞いたら、シア、君は俺を憎むかもしれないから」
「もしかして、実家か婚家にゆかりの方?」
アリーシアに関わりがあって、アリーシアが憎しみの感情を持つとなるとこの二つしか思い浮かばない。
ローレンツは力なく頷く。
「まあ、そうとも言える……俺は、君の婚家である伯爵家の執事、ローデンの息子なんだよ」
アリーシアは瞬間身体が固まった。
「ロー……デン?」
思いがけない告白に、途切れ途切れでローデンの名をつぶやく。
「そうだ、まぎれもなく奴の血を引いている」
ローレンツは苦々しく吐き捨てた。
まるで、その血が汚らわしいとでも言わんばかりに。
そして、ローレンツはそのまま自分の過去を語り出した。
46
あなたにおすすめの小説
能力持ちの若き夫人は、冷遇夫から去る
基本二度寝
恋愛
「婚姻は王命だ。私に愛されようなんて思うな」
若き宰相次官のボルスターは、薄い夜着を纏って寝台に腰掛けている今日妻になったばかりのクエッカに向かって言い放った。
実力でその立場までのし上がったボルスターには敵が多かった。
一目惚れをしたクエッカに想いを伝えたかったが、政敵から彼女がボルスターの弱点になる事を悟られるわけには行かない。
巻き込みたくない気持ちとそれでも一緒にいたいという欲望が鬩ぎ合っていた。
ボルスターは国王陛下に願い、その令嬢との婚姻を王命という形にしてもらうことで、彼女との婚姻はあくまで命令で、本意ではないという態度を取ることで、ボルスターはめでたく彼女を手中に収めた。
けれど。
「旦那様。お久しぶりです。離縁してください」
結婚から半年後に、ボルスターは離縁を突きつけられたのだった。
※復縁、元サヤ無しです。
※時系列と視点がコロコロゴロゴロ変わるのでタイトル入れました
※えろありです
※ボルスター主人公のつもりが、端役になってます(どうしてだ)
※タイトル変更→旧題:黒い結婚
殿下、今回も遠慮申し上げます
cyaru
恋愛
結婚目前で婚約を解消されてしまった侯爵令嬢ヴィオレッタ。
相手は平民で既に子もいると言われ、その上「側妃となって公務をしてくれ」と微笑まれる。
静かに怒り沈黙をするヴィオレッタ。反対に日を追うごとに窮地に追い込まれる王子レオン。
側近も去り、資金も尽き、事も有ろうか恋人の教育をヴィオレッタに命令をするのだった。
前半は一度目の人生です。
※作品の都合上、うわぁと思うようなシーンがございます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【4話完結】 君を愛することはないと、こっちから言ってみた
紬あおい
恋愛
皇女にべったりな護衛騎士の夫。
流行りの「君を愛することはない」と先に言ってやった。
ザマアミロ!はあ、スッキリした。
と思っていたら、夫が溺愛されたがってる…何で!?
傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う
ノルジャン
恋愛
「堕ろせ。子どもはまた出来る」夫ランドルフに不貞を疑われたジュリア。誤解を解こうとランドルフを追いかけたところ、階段から転げ落ちてしまった。流産したと勘違いしたランドルフは「よかったじゃないか」と言い放った。ショックを受けたジュリアは、ランドルフの子どもを身籠ったまま彼の元を去ることに。昔お世話になった学校の先生、ケビンの元を訪ね、彼の支えの下で無事に子どもが生まれた。だがそんな中、夫ランドルフが現れて――?
エブリスタ、ムーンライトノベルズにて投稿したものを加筆改稿しております。
すれ違いのその先に
ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。
彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。
ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。
*愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話
大人になったオフェーリア。
ぽんぽこ狸
恋愛
婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。
生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。
けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。
それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。
その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。
その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。
どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。
無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。
彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。
ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。
居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。
こんな旦那様、いりません!
誰か、私の旦那様を貰って下さい……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる