家族から冷遇されていた過去を持つ家政ギルドの令嬢は、旦那様に人のぬくもりを教えたい~自分に自信のない旦那様は、とても素敵な男性でした~

チカフジ ユキ

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四章:過去の亡霊

5.サマードレス

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 とりあえず、と店員が持ってきてくれたサマードレスに目を向けた。

 どれも素材が良く、着心地がよさそうだった。
 しかし、これはちょっと外出着として目立ちすぎるのではないかとも心配になる。
 
 貴族ならともかく、平民が着るには少し豪華すぎるのではないかと。

「あ、支払いは大丈夫ですよ。店主からも言われていますが、かなり割引されますので。さすがにただでと言われたときは、辞退しました」

 そんなに感謝されているのかと感心した。
 確かにデザイナーとして指が動かなくなったらデザインを描き起こせないし、死んでしまったら元も子もない。

「シアさんは普段どんな色の物を買うんですか?」
「そうですね……使い勝手がいいように濃い紺色か黒ですね」

 訪問するときに華やかにするより、落ち着いた色の方が相手方には好まれる。
 仲の良いギルド員と出かけるときは、色華やかだが、今回の目的は遊びに行くためのものではない。

「これ……とかでしょうか?」

 七分丈の落ち着いたデザインのものだ。
 上に上着羽織ったり、ブローチをつけたりスカーフを巻いたりすれば印象はいくらでも変えられる。

 しかし、バンフォードには不評そうだった。

「確かに肌の白いシアさんなら、こういう濃い色も似合いますが……、お若いですから、こちらの色の方が似合いそうです」

 そういって手に取ったのは、白いサマードレス。
 裾模様に花柄の刺繍があしらってあって、一目で吸い寄せられる。
 袖には涼やかなレース。

 少し意外だった。
 バンフォードは流行に疎いが、どうやらセンスはいいらしい。
 今着ているのはエルリック辺りが無理矢理作らせたのかと思ったが、実際は自分で選んだのかもしれない。
 もしくは仕立て屋に言われたまま作ったかだが。

 ただ、今回ほしいものはこういうものではないのだ。

「外出着としか言いませんでしたが、目的は仕事のためです。これだと少し……」
「では、二つ買えばいいですし、なんならもっと――」
「それはちょっと!」

 遠慮したい。
 店の格式と値段を考えると、一着買ってもらうのも気が引けるのだ。

 すると、バンフォードは顎に手を当てて何かを考えだした。
 そしてすぐに、にっこりと笑って言った。

「それでは、一着を特別報酬ということにして、もう一着は誕生日プレゼントにしましょう。確か、もうすぐだと言っていたような気がします」
「それも、ちょっと……」
「一着くらいは、こういうものがあってもいいと思います。成人すれば、どこかに招待されることが多くなりますし、白だったらコーディネートもしやすいですから」

 なんだか突然押しが強くなった気がした。
 ぐいぐいと。

 しかし、バンフォードの言っている事はもっともだ。
 一着くらいはちゃんとしたものを持っていた方が、いざという時に役立つ。
 それに、割引もきくと言っていたし……。

 悩んだ末に、バンフォードの言葉に甘えて二着買ってもらうことにする。

「あ、せっかくですから、きちんとサイズも計ってもらった方がいいと思います。今後、服を買う時に参考になるでしょうし」
「え……、そこまでは――」
「すみませんがお願いします」

 遠慮しようとする前に、バンフォードが素早く店員に頼む。
 お嬢様、どうぞこちらに――と促され、シルヴィアは結構です、とは言えなかった。

 カーテンの中に入ると、そこにはまた別空間があった。
 広い試着室で、パウダールームも併設されている。

 そこに、背の高い女性が構えていた。
 
 首からメジャーをかけて、手首には針刺しを付けている。
 黒いドレスの上から、汚れてもいいようにエプロンをつけていた。

「あら、可愛らしいお嬢様だこと。バンフォード様も隅に置けないわねぇ」

 真っ赤な髪はしっかりと上でまとめて、緑の瞳がシルヴィアを見て輝いる。

「え、っと……」
「怯えないで頂戴。はじめましてよね? わたくし、この店の店主ローレンよ。よろしくね」
「え!? あ、あの……シアと申します」
「シアさんね、さあ早速やりましょうね」

 こっちに来てと言われ、シルヴィアは言われた場所に立つ。

「ちょっと服脱いでちょうだい。サイズ図るけど、その服だと生地が厚いわ」

 有無をいわさずシルヴィアの外出着をはぎとる。
 下は肌着に下着だ。

 貴族令嬢は使用人に世話を焼かれているので、こういう事はなれているだろうが、シルヴィアは恥ずかしくて手で身体を隠したくなった。

「そのまま、そのまま!」
 
 しゅるしゅると手際よく、色々なところを計っていく。
 普通、店主がこういうことをするのはよっぽどのお得意様ぐらいだ。

「細いわね、ちゃんと食べてる?」
「はい、むしろ太ったくらいで」
「そうなの? もう少し太ってもいいと思うわ。この腰、うらやましいくらい細いわよ」
「きゃ!」

 手ぐっと腰を掴まれて、思わず短い悲鳴が出た。
 バンフォードの屋敷での仕事はそこまで大変じゃない。
 一番気をかけているのは食事だが、バンフォードに付き合って食べているうちに、シルヴィアも量が多くなってきていた。
 運動量が減って、食べる量が増えれば、太るのは当然と言うわけで。

「バンフォード様は良くしてくださっている?」
「え? はい、良くして頂いております。お給金も高いですし」

 ローレンはうふふふ、と笑う。

「わたくしはね、バンフォード様のおかげで助かったのよ。もう少し治療薬の開発が遅れていたら、命は助かっても指は動かなくなるところだった。命の恩人よ……あ、腕上げて」
 
 先ほどバンフォードからも聞いた話だ。

「だから、バンフォード様が連れてきた女性の世話は絶対にわたくしがするんだって決めてたの。命の恩人が連れてきた女性なら、きっと素敵な人だと思ったから。思った通りだったわ。屋敷からほとんど出ないバンフォード様がこの店に来るくらいには、変わったのはきっとあなたのおかげね」
「そんな事は……ただ側にいるだけです」
「それが難しいのよ、とてもね」

 ローレンが苦笑した。
 
「はい、終わったわ」

 ぽんと背中を叩かれて、シルヴィアはほっとした。
 そして脱いだ服を着ようとしたら、ずいっと服を渡された。

「これは、試作品なの。新しい布が入ったから試しに作ったんだけど、あなたには似合いそうだから、あげるわ」

 ローレンが服をシルヴィアに充てる。
 濃い黄色の布を使用したサマードレスだ。
 上半身は濃く、スカート部分に使用されているのは白に近いクリーム色で、腰回りの大きめのリボンが目を引いた。

「少し大きいから、ちょっと調整するわね」
「そんな! こんな素敵なものいただけません」
「試作品は売り物にもならないのよ。捨てるしかないから、もらってちょうだい。それに、デートなのにダサい服着てないで、若いんだから着飾りなさい。それに、お化粧もやりなおしてあげるわ。あ、髪もね」

 さすがブティックを経営している女性だ。
 美へのこだわりはすごい。

「別にデートと言うわけでは……、たまたまご一緒してる感じで」
「それを俗にデートと言うのよ。いいから、大人の言う事に従って、バンフォード様を驚かせてやりなさい。それとも、着飾った姿を見られるのはいや?」

 そんな事はない。
 シルヴィアだって女の子だ。
 綺麗な服を着て、可愛いって褒められたい気持ちはある。

 それは誰に――……。

 そう聞かれると、自然とバンフォードの顔が浮かび、自然と頬が赤くなる。

 なんだかいけない事を考えているようで、恥ずかしくなった。



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