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小話
2.邪魔者
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「え? ベイロック家から慰謝料?」
なにそれ? とアデリーンがギルベルトに聞き返す。
「おそらくだけど、口止め料も含まれているんじゃないかなって。ベイロックが意図して実家の邪魔をしていたことは内密にしたいみたい。貴族の権力で相手を貶めるやり方は、最近では政治の世界で攻撃される対象みたいだね。子飼いの商会もベイロックから見放されたみたいだし」
口止め料と言う割には、アデリーンに話しているが大丈夫かと眉をひそめた。
アデリーンの顔つきで何が言いたいのか、ギルベルトはすぐに察して説明した。
「本当は言わない方がいいんだけど、貴族学校の人はほとんどが知ってる話だから正直今更って感じかな。今回の事を、今後商人の界隈で積極的の吹聴しない程度だよ。今回支払った慰謝料は、もしもの時に誠意ある対応をしたって見せることも含まれている。もし敵対派閥に何か言われても、言い訳がたつし」
政治の世界は難しい。
だけど、昔ながらのやり方は通用しなくなってきていると、父親も言っていたと朧気ながらに思い出した。
「ふーん、それで今はご実家は大丈夫なのね?」
「まあ、なんとか。アデリーンのおかげでもあるけど……」
アデリーンは卒業パーティー以来、ギルベルトの実家の商品を買い込んで、色々試していた。
そして、自分が気に入った商品は約束通り、貴族令嬢に勧め回った。
その結果、客が増え収入も倍増。
さらになんと、ギルベルトは劇団の化粧品仲介業みたいなことまでやるらしい。
化粧品に対して極めて優れた見極めの目を持っているから、ぜひ頼みたいとの事だった。
「上手くいくときは上手くいくのよね」
アデリーンが満足そうに笑う。
ギルベルトも嬉しそうだが、アデリーンの目には緊張しているように見えた。
原因は自分だという自覚があるので、ただ静かに見守るだけだ。
追い詰めるような事をして、逃げられたくない。
でも緊張しているということは、自分を意識しているということでもある。そこは少しうれしい。
「ところで、バンフォード様はお忙しいかな?」
「……なんでここでお兄様が?」
突然出てきた名前に、アデリーンがつい嫌そうな声が出てしまった。
二人きりの時に、他人を気にしないでほしい。
アデリーンの反応に、ギルベルトの方が困惑していた。
「あの、アデリーンは聞いてない? 年明けに新しく出す美容用品の事だけど……」
「どうして教えてくれなかったのよ!?」
「アデリーン、少し遠慮を覚えないのか?」
バンフォードは、シルヴィアと二人でいるときに再び乱入してきたアデリーンに、今度は苦言を呈した。
しかし、そんな苦言をばっさり無視した。
「今度出す美容用品がお兄様が開発したものだって知ってたら、もっと勉強して色々話ができたのに!! 詳しく知ってたら、見直されるかもしれないでしょう!?」
用件だけを叫ぶアデリーンに、苦笑しながらシルヴィアがお茶を勧めた。
叫んで喉が渇いていたアデリーンは、一気に飲み干す。その姿は侯爵令嬢の姿ではない。
用件しか口にしていなかったが、バンフォードは何が言いたいのか良くわかっていた。
ようは、今度リンツ商会で販売する予定の品物に関してだ。
「僕も彼がリンツ商会のご子息だと、あの時初めて知ったんだ。そのあと、言う機会もなかったし」
「分かってるわよ、ただの八つ当たりなの!」
「八つ当たり……ですか? 確か今日はギルベルト様と――」
「そう、会ってたの。その時お兄様の事を聞かれてちょっとしたやきもちよ」
どういうことなのかさっぱり分からない二人に、アデリーンがふんと鼻を鳴らす。
「一緒にいるのに、わたしじゃなくて他の人を気にするなんて酷くない? もっとあるでしょう? 会えなかった時何してたとか、もうすぐ進学するからその準備の事とかさぁ!」
愚痴を言うアデリーンは、とにかく誰かに話を聞いてほしかっただけのようだ。
忙しい両親にこんな話はできず、最近ではほとんどシルヴィアがこの話に付き合っていた。
今日はたまたまバンフォードがいただけの事。
しかし、もちろんバンフォードとしてはせっかくの時間を邪魔されて少し不機嫌だ。
「こんなところで愚痴を言ってる暇があれば、僕の商品と他の商品を試して違いを研究した方がいいんじゃないか? その方が喜ばれると思うけど?」
早く退室させたくてバンフォードが何気なく言うと、アデリーンは言葉につられて立ち上がった。
「そうね、そうするわ! 使用人のみんなにも手伝ってもらおう!」
一人より大勢の意見があった方がきっとうれしいはずだ。
「お兄様もたまにはいい事言うのね! そうだ、邪魔してごめんなさい、シア!」
アデリーンはシルヴィアにだけ謝罪し、バタバタと出かけて行った。
「お二人の仲は順調のようですね」
「僕は邪魔されなければなんでもいいです……」
ここ最近、二人きりになる機会が減ったバンフォードがポロリと本音を零した。
なにそれ? とアデリーンがギルベルトに聞き返す。
「おそらくだけど、口止め料も含まれているんじゃないかなって。ベイロックが意図して実家の邪魔をしていたことは内密にしたいみたい。貴族の権力で相手を貶めるやり方は、最近では政治の世界で攻撃される対象みたいだね。子飼いの商会もベイロックから見放されたみたいだし」
口止め料と言う割には、アデリーンに話しているが大丈夫かと眉をひそめた。
アデリーンの顔つきで何が言いたいのか、ギルベルトはすぐに察して説明した。
「本当は言わない方がいいんだけど、貴族学校の人はほとんどが知ってる話だから正直今更って感じかな。今回の事を、今後商人の界隈で積極的の吹聴しない程度だよ。今回支払った慰謝料は、もしもの時に誠意ある対応をしたって見せることも含まれている。もし敵対派閥に何か言われても、言い訳がたつし」
政治の世界は難しい。
だけど、昔ながらのやり方は通用しなくなってきていると、父親も言っていたと朧気ながらに思い出した。
「ふーん、それで今はご実家は大丈夫なのね?」
「まあ、なんとか。アデリーンのおかげでもあるけど……」
アデリーンは卒業パーティー以来、ギルベルトの実家の商品を買い込んで、色々試していた。
そして、自分が気に入った商品は約束通り、貴族令嬢に勧め回った。
その結果、客が増え収入も倍増。
さらになんと、ギルベルトは劇団の化粧品仲介業みたいなことまでやるらしい。
化粧品に対して極めて優れた見極めの目を持っているから、ぜひ頼みたいとの事だった。
「上手くいくときは上手くいくのよね」
アデリーンが満足そうに笑う。
ギルベルトも嬉しそうだが、アデリーンの目には緊張しているように見えた。
原因は自分だという自覚があるので、ただ静かに見守るだけだ。
追い詰めるような事をして、逃げられたくない。
でも緊張しているということは、自分を意識しているということでもある。そこは少しうれしい。
「ところで、バンフォード様はお忙しいかな?」
「……なんでここでお兄様が?」
突然出てきた名前に、アデリーンがつい嫌そうな声が出てしまった。
二人きりの時に、他人を気にしないでほしい。
アデリーンの反応に、ギルベルトの方が困惑していた。
「あの、アデリーンは聞いてない? 年明けに新しく出す美容用品の事だけど……」
「どうして教えてくれなかったのよ!?」
「アデリーン、少し遠慮を覚えないのか?」
バンフォードは、シルヴィアと二人でいるときに再び乱入してきたアデリーンに、今度は苦言を呈した。
しかし、そんな苦言をばっさり無視した。
「今度出す美容用品がお兄様が開発したものだって知ってたら、もっと勉強して色々話ができたのに!! 詳しく知ってたら、見直されるかもしれないでしょう!?」
用件だけを叫ぶアデリーンに、苦笑しながらシルヴィアがお茶を勧めた。
叫んで喉が渇いていたアデリーンは、一気に飲み干す。その姿は侯爵令嬢の姿ではない。
用件しか口にしていなかったが、バンフォードは何が言いたいのか良くわかっていた。
ようは、今度リンツ商会で販売する予定の品物に関してだ。
「僕も彼がリンツ商会のご子息だと、あの時初めて知ったんだ。そのあと、言う機会もなかったし」
「分かってるわよ、ただの八つ当たりなの!」
「八つ当たり……ですか? 確か今日はギルベルト様と――」
「そう、会ってたの。その時お兄様の事を聞かれてちょっとしたやきもちよ」
どういうことなのかさっぱり分からない二人に、アデリーンがふんと鼻を鳴らす。
「一緒にいるのに、わたしじゃなくて他の人を気にするなんて酷くない? もっとあるでしょう? 会えなかった時何してたとか、もうすぐ進学するからその準備の事とかさぁ!」
愚痴を言うアデリーンは、とにかく誰かに話を聞いてほしかっただけのようだ。
忙しい両親にこんな話はできず、最近ではほとんどシルヴィアがこの話に付き合っていた。
今日はたまたまバンフォードがいただけの事。
しかし、もちろんバンフォードとしてはせっかくの時間を邪魔されて少し不機嫌だ。
「こんなところで愚痴を言ってる暇があれば、僕の商品と他の商品を試して違いを研究した方がいいんじゃないか? その方が喜ばれると思うけど?」
早く退室させたくてバンフォードが何気なく言うと、アデリーンは言葉につられて立ち上がった。
「そうね、そうするわ! 使用人のみんなにも手伝ってもらおう!」
一人より大勢の意見があった方がきっとうれしいはずだ。
「お兄様もたまにはいい事言うのね! そうだ、邪魔してごめんなさい、シア!」
アデリーンはシルヴィアにだけ謝罪し、バタバタと出かけて行った。
「お二人の仲は順調のようですね」
「僕は邪魔されなければなんでもいいです……」
ここ最近、二人きりになる機会が減ったバンフォードがポロリと本音を零した。
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