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ルーダス視点
7.疑いは晴れずに、罰則栄転
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「ルーダス、お前一体何した?」
ダンが拘束されてから二日たち、ルーダスは騎士隊長室に呼び出された。
入室早々の言葉に、ルーダスは感情を出さずに事の経緯を説明した。なるべく客観的に。
「じゃあ、つまりお前は暴れるダンを力で捻じ伏せてただけだって言いたいのか?」
「そもそも隊長は、なぜ私がダンに何かしたと思うのですか? 私は規則に則り、市民を守るべく対処しただけですが」
「へー、なるほど。じゃあなんで、取り調べの最中に殺さないでくれとか、死にたくないとか意味不明なことをダンが叫んでいるんだろうな?」
意味深な隊長にルーダスはそれでも顔色一つ変えずに淡々と答える。
「彼は私が捕らえた時にはすでに常軌を逸していたように思えます。そのような人物の精神状況など、私が分かるはずもありません」
そう、ルーダスには分かるはずもない。
あれだけ素晴らしい女性であるシェリーを簡単に捨てるような男の精神など。
もちろん、知りたくもない。
全く納得していなさそうな隊長の目を逸らさずに見ていると、諦めたように相手の方が先に目を閉じた。
「まあ、いいわ。むしろ、真面目でお人好し、と思われていたお前も意外とやんちゃだという事が分かっただけでもよしとする」
ルーダスはその評価に思うところがあったが、何も言わずに目を伏せた。
「そこでだ! 実は今回の件でなぜかお前の評価が急上昇してだな、ある部署からお誘いが来た。喜べ、第一騎士隊だ。エリート中のエリートだぞ。良かったな、お前の実力が認められて。俺も上司として鼻が高い」
上司が嬉しそうに語っているが、ルーダスは全く喜べなかった。
むしろ、絶対に移動したくないと思ってしまった。
そのため――
「それ、断れるんですか?」
などと、思わず口にしてしまう。
隊長はルーダスの反応に、驚いたように目を見開いた。
「お前、それ本気で言ってるのか? お前が騎士になるときに、この部隊に所属することを希望してたじゃないか!」
「人は成長すると、考えが変わるものです」
第一騎士隊とは、実力のあるメンバーだけで構成されているエリート中のエリート。
その任務は多岐に渡り、王室の近衛もこの騎士隊の一部。
ただし、その任務は恐ろしいほど忙しい。
それこそ休暇、なにそれおいしいの? 状態だという。
言い過ぎかもしれないが、一定以上の実力がないければ所属できないので、常に人手不足と言うのもまた事実。
確かに独り身の時は、それを目標としていた。
しかし、今はそんな死ぬほど忙しい部署に全く魅力を感じていなかった。
むしろ――……
「もし断って角が立つのなら、市中警備の騎士隊に喜んで転属します」
「おいおいおい、何言ってんだ! あそこの配属はどういう意味か知ってるだろ?」
もちろん、とルーダスは頷く。
市中警備の騎士隊は、つまり閑職部署。
基本的に準騎士と衛兵が中心となっているが、一人くらいはまとめるような中枢に近い人物を配属することになっている。
それが、正騎士だ。
ただし、その正騎士は本当にやることがない。
むしろ、口や手を出すと、現場の連携に支障が生じるので、ただ黙ってやることを受け入れるだけだ。
そして、もし不祥事でも起きるものなら、その正騎士は懲戒処分を受ける。
つまり、その為だけに配属されるので、騎士として不要な人間が配属される場所。
誰も行きたがらない場所だが、今のルーダスには魅力的な場所だった。
なにせ、始終暇なのだ。
多少の書類仕事はあるかも知れないが、それさえ終われば自由。
市中ではシェリーが働いていて、こっそり見守ることが出来る。
素晴らしい。
結婚が決まって、ますます魅力に磨きがかかっているシェリーは、隣にルーダスがいるのに道行く男の視線をよく集めている。
もちろん、睨めばすぐに視線を逸らせるが、気持ちがいいものではない。
「言っておくが、角が立ってもこの隊からは離さないからな」
「そうですか。それは有難い事です」
本心では残念と思っていても、感情を表に出さずに口先だけで感謝の言葉を伝えると、隊長は胡乱な眼差しだった。
「……面倒な男だ」
真面目だお人好しからやんちゃになり、最終的には面倒と評価されたルーダスは、光栄ですと最後にこたえて、隊長室から退室した。何やら考えていそうな隊長を横目で見ながら。
*** ***
その後、なぜか隊長とシェリーが知り合いになっていて、エリート部隊の話をシェリーにうっかり話された結果、すごいすごいとキラキラした目でシェリーに見られたルーダスは、その期待に背くことが出来ずに第一騎士隊に転属することになるのだが、それは少し先の話。
ダンが拘束されてから二日たち、ルーダスは騎士隊長室に呼び出された。
入室早々の言葉に、ルーダスは感情を出さずに事の経緯を説明した。なるべく客観的に。
「じゃあ、つまりお前は暴れるダンを力で捻じ伏せてただけだって言いたいのか?」
「そもそも隊長は、なぜ私がダンに何かしたと思うのですか? 私は規則に則り、市民を守るべく対処しただけですが」
「へー、なるほど。じゃあなんで、取り調べの最中に殺さないでくれとか、死にたくないとか意味不明なことをダンが叫んでいるんだろうな?」
意味深な隊長にルーダスはそれでも顔色一つ変えずに淡々と答える。
「彼は私が捕らえた時にはすでに常軌を逸していたように思えます。そのような人物の精神状況など、私が分かるはずもありません」
そう、ルーダスには分かるはずもない。
あれだけ素晴らしい女性であるシェリーを簡単に捨てるような男の精神など。
もちろん、知りたくもない。
全く納得していなさそうな隊長の目を逸らさずに見ていると、諦めたように相手の方が先に目を閉じた。
「まあ、いいわ。むしろ、真面目でお人好し、と思われていたお前も意外とやんちゃだという事が分かっただけでもよしとする」
ルーダスはその評価に思うところがあったが、何も言わずに目を伏せた。
「そこでだ! 実は今回の件でなぜかお前の評価が急上昇してだな、ある部署からお誘いが来た。喜べ、第一騎士隊だ。エリート中のエリートだぞ。良かったな、お前の実力が認められて。俺も上司として鼻が高い」
上司が嬉しそうに語っているが、ルーダスは全く喜べなかった。
むしろ、絶対に移動したくないと思ってしまった。
そのため――
「それ、断れるんですか?」
などと、思わず口にしてしまう。
隊長はルーダスの反応に、驚いたように目を見開いた。
「お前、それ本気で言ってるのか? お前が騎士になるときに、この部隊に所属することを希望してたじゃないか!」
「人は成長すると、考えが変わるものです」
第一騎士隊とは、実力のあるメンバーだけで構成されているエリート中のエリート。
その任務は多岐に渡り、王室の近衛もこの騎士隊の一部。
ただし、その任務は恐ろしいほど忙しい。
それこそ休暇、なにそれおいしいの? 状態だという。
言い過ぎかもしれないが、一定以上の実力がないければ所属できないので、常に人手不足と言うのもまた事実。
確かに独り身の時は、それを目標としていた。
しかし、今はそんな死ぬほど忙しい部署に全く魅力を感じていなかった。
むしろ――……
「もし断って角が立つのなら、市中警備の騎士隊に喜んで転属します」
「おいおいおい、何言ってんだ! あそこの配属はどういう意味か知ってるだろ?」
もちろん、とルーダスは頷く。
市中警備の騎士隊は、つまり閑職部署。
基本的に準騎士と衛兵が中心となっているが、一人くらいはまとめるような中枢に近い人物を配属することになっている。
それが、正騎士だ。
ただし、その正騎士は本当にやることがない。
むしろ、口や手を出すと、現場の連携に支障が生じるので、ただ黙ってやることを受け入れるだけだ。
そして、もし不祥事でも起きるものなら、その正騎士は懲戒処分を受ける。
つまり、その為だけに配属されるので、騎士として不要な人間が配属される場所。
誰も行きたがらない場所だが、今のルーダスには魅力的な場所だった。
なにせ、始終暇なのだ。
多少の書類仕事はあるかも知れないが、それさえ終われば自由。
市中ではシェリーが働いていて、こっそり見守ることが出来る。
素晴らしい。
結婚が決まって、ますます魅力に磨きがかかっているシェリーは、隣にルーダスがいるのに道行く男の視線をよく集めている。
もちろん、睨めばすぐに視線を逸らせるが、気持ちがいいものではない。
「言っておくが、角が立ってもこの隊からは離さないからな」
「そうですか。それは有難い事です」
本心では残念と思っていても、感情を表に出さずに口先だけで感謝の言葉を伝えると、隊長は胡乱な眼差しだった。
「……面倒な男だ」
真面目だお人好しからやんちゃになり、最終的には面倒と評価されたルーダスは、光栄ですと最後にこたえて、隊長室から退室した。何やら考えていそうな隊長を横目で見ながら。
*** ***
その後、なぜか隊長とシェリーが知り合いになっていて、エリート部隊の話をシェリーにうっかり話された結果、すごいすごいとキラキラした目でシェリーに見られたルーダスは、その期待に背くことが出来ずに第一騎士隊に転属することになるのだが、それは少し先の話。
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